告白
気持ちがソワソワとしていて落ち着かない。
だって、俺のどこが良くて惚れたんだよ。見た目は普通だし、中身は自分で言うのもなんだけど最低だぞ?
一人で抱えていると混乱するだけだし、誰かに相談した。だけど、話せる友達はいねぇし、この手の知り合いもいない。
あ、一人だけ相談できそうなやつが……。
「いや、アイツはないわ」
思い浮かんだ相手に、あり得ないと首を横に振るうが、俺にはアイツしかいない。
でも、連絡しようにも尾沢兄の番号知らねぇしなって、あ、そうだ、連絡先を知っている奴が一人いるんだった。
俺は立ち上がり尾沢の席へと向かう。
「尾沢、ちょっといいか?」
「なんだ」
次の授業の用意をしている所に話しかける。流石、委員長だけあって真面目だな。
「頼みがあるだけどさ、兄貴に俺が会いたがっているとメールをしてくれないか?」
「いいけれど、本当に兄貴と知り合いなんだな。どうりで田中のことを聞かれる訳だ」
葉月のことは女子から聞いたと話していたが、弟にも俺のことを聞いているじゃねぇか。
「何を聞かれた?」
学力は後ろから数えた方が早いし、クラスでは浮いている存在。いい所なんて何もない俺の何を知りたいんだよ、あの人は。
「今まで付き合った女性のことを」
「はぁ?」
それを知ってどうする。まさかそれを総一さんに伝える気か。
そんなことをされたら、嫉妬をして、キスをされるんじゃ……!
唇の感触。とろけそうな気持ち良さを思いだして、頬が熱くなる。俺はそれを隠すようにお頭を抱えてしゃがみこむ。
「田中、どうした」
「尾沢、ごめん。キャンセル」
駄目だ、あの人に話をしたら。面白がるにきまっている。
「別にかまわないが、大丈夫か?」
尾沢の手が俺の肩に触れる。
その時、尾沢のスマホからバイブ音が聞こえ、
「あ、兄貴からだ」
と呟いた。
タイミングがいいなぁ、尾沢兄!
「田中、これ」
スマホの画面を俺の方へと向ける。そこには田中へと書かれた文字と可愛い動物のキャラクターが、ムフフと笑うスタンプが貼りつけてある。
「ムカつく」
総一さんから聞いたんだな。くそ、会ったら、スタンプと同じような顔をするんだろうな。
「兄貴と何かあったのか?」
何か嫌なことをされたかと、俺を心配してくれる。
「あ、うん、色々な」
「そうか。もしもの時は俺に言え。半殺しにしてやるから」
「お、おおぅ」
なんか、心強いわ。
その時は素直に頼るとしよう。ありがとうと言い、俺は席へと戻った。
ポケットからスマホを取り出して、同じような体験をしている人はいないかと検索しようとしたら、無料通話アプリの通知がはいる。
総一さんからで、放課後にデートをしようというお誘いだった。
友達になってほしいと言った時に連絡先を交換した。部活の無い日にどこかに寄ったりとか、休みに遊ぶとか、そういう約束はしたことが無かった。
遠慮していた部分もある。やっぱりさ、俺よりも先に友達になった人がいるわけだし、昼休みを一緒に過ごせるだけでありがたいというか、そんな感じ。
まぁ、総一さんの方も俺を誘うようなことは無く、だからそうしてきたのだが、告ってからはガンガン行くって方向か?
「はぁぁぁ、どうしよう」
それで悩んでいたっていうのに。
頭を抱える俺に、コツンと何かが当たり、机の上に転がった。
「何しやがる」
人が悩んでいる時に。
それが飛んできた方向へとガンを飛ばすと、視線の先に葉月と神野の姿がある。
「さっきから煩い」
と今度は額に何かが当たり、掌に落ちた。飴玉が二つ。いちごとメロン味だ。
「なんだよ、女子から貰ったのか」
相変わらずもてるなと飴を握りしめる。
「そうだ。ありがたく食え」
と神野が俺に言う。謝った時に本当の彼を知った。それからというもの、俺に対してぞんざいな扱いをするようになった。
「ありがたく頂戴いたします」
飴を掌にのせ、高く持ち上げて頭を下げる。
総一さんに貰った時と同じ、優しさがつまった飴だ。乱暴に渡されたが、悩んでいる俺を見かねてくれたのだろう。
口の中に入れれば、甘さが広がっていく。なんだかほっとする。
じたばたしても仕方がねぇよな。
今は同じ好きでなくとも、これから先、どうなるかなんてわからないし、こたえが必要になる時がくるかもしれない。
結果がどうなろうとも、総一さんと一緒にいたい。その気持ちは嘘じゃない。
「落ち着いたか?」
葉月が俺に声を掛ける。その声に気遣うような優しさを感じて驚いた。
謝ったから全てを水に流すなんてできないだろうに、それでも、声を掛けてくれたんだ。
「あぁ、落ち着いた。ありがとうな」
「そうか」
と、再び二人で話を始める。
短いやりとりだが、飴と言葉で心がじわりと暖かくなった。
放課後のホームルームが終わり、ポケットからスマホを取り出す。
総一さんから連絡がきていて、廊下で待つと書かれていた。
まさか、教室まで迎えに来ていたとは思わず、急いで教室を出ると、そこに大柄な目立つ人が立っていた。
しかも総一さんって、知り合いが多いよな。男女問わず声をかけられている。
今も、誰かと話をしていたのだが、俺に気が付いて、
「秀次」
と俺の名を呼ぶと手を振った。
総一さんの周りにいた人たちが俺を一斉に見る。
俺まで目立つじゃんかよ。総一さんの腕を掴み、その場を離れた。
「なんだ、手をつないで帰るのか」
「ふざけんなっ。そんなワケねぇだろ」
昇降口まで引っ張り、そして手を振りほどいた。
「教室まで来るなよ」
「別にいいだろう。俺のだと知らしめておこうかと」
は? 何を言っているんだ。
「ばっかじゃねぇの」
知らしめるとか、訳が分からない。総一さんなら解るけど、だいたいさ、誰も俺になんか興味ないぞ。
「好きな子は独占したいんだ」
あぁ、もうっ、いちいちドキッとくるようなことをいうよな。
意外とたちがわるいんじゃないか。
頬が熱くなってきて、手で扇いで風を送る。
「少しずつ意識させようかと思って」
「その手にはのらねぇよ」
とは言いつつも、総一さんのペースになりつつある。
「流されてしまいなよ。とろとろになるまで甘やかすぞ」
きっと優しく甘やかせてくれる。総一さんの弾力性のある大胸筋に頬を押し付けて抱擁されるんだ。
俺が女だったら、きっと素直に甘やかされているんだろうな。
「流されねーよ」
「本当は甘えたい癖に、強がっちゃって」
とふざけて返してくる。
「やだよ。その後に、スリーパーホールドをかけるつもりだろ」
「いや、ベアハッグかな」
向かい合わせに相手を腕で締め上げて動けなくする技だ。
ちょっと、俺の自由を奪って何する気だ。
「総一さんの助平」
「あははは、助平って、あたりまえだろ」
さらっと認めた。怖っ、隙をみせたら食われちまう。
自分の身を守るように抱きしめる。
「友達のうちはキス以外しないよ」
いや、友達はキスしません。
「信じられねぇ」
「本当に嫌な時は拒否してくれ」
「わかった。そん時はバックドロップを食らわせてやっからな」
俺が流されなければいいだけだしな。
そして、笑って残念だといいながら俺の頭を撫でる。そう、いつもの通りでいられたらいい。