Short Story

お弁当

 大和と動物園に行く約束をしたらしく、休みの日に一緒に行こう誘われた。
 動物園など何十年ぶりだろうか。しかも三人で出かけることは滅多にないので楽しみだ。
 それなら弁当でも作ろうかと思い、浅木の家へ向かう途中でスーパーに寄り買い物をする。
 浅木からは合鍵を受け取っているので外付け階段を使い二階へと向かうと玄関から中へと入った。
 鍵を貰ってからもう何度も使っているので慣れたけれど、はじめのころは鍵を開けるのに緊張したものだ。
 恋人になったんだと実感するから。
 部屋の中には浅木と大和のものしかなかったが、桧山のものも少しずつ増えてきた。
 おそろいの食器類、歯ブラシ、タオル、服、下着、歴史の本……。
 棚を一つ増やしてもらい、そこに荷物が置けるようになっていた。
「こそばゆいよな」
 首に手を当てて息を吐く。嬉しいけれど照れくさい。
「ぼんやりしている場合じゃないか」
 買ってきたものの中には生ものもある。それをしまうとソファーへと腰を下ろした。
 浅木が帰るのは夜中なので学校の仕事をしたり親友のネット配信をみたりと時間をつぶす。
 しばらくすると玄関の鍵を開ける音が聞こえてドアが開いた。
「おかえり」
「ただいま」
 浅木は帰ると桧山の側に来てキスをする。付き合い始めてからそれがあたりまえになっていた。
「明日なんだが、弁当を作ろうと思う」
「環の手作り弁当か。いいねぇ」
 料理は浅木の方が上手いのだが、桧山の作ったものを食べたがる。
 あれを作って渡したら喜んでもらえるだろうか。浅木の反応を見るのが楽しみだ。

 カレーピラフ、卵焼き、コーンしゅうまい、黄色いパプリカのマヨチーズ焼き、黄色いミニトマト、パイナップル。
 浅木のためにお弁当を作ってやろうと考えていたメニューだが、あの事故で二度と作ることはないだろうと思っていた。
「まさか十年越しで作ることになろうとはな」
 あの時はキスのかわりだった。
「ふふ、たくあんは流石に却下してやったぞ」
 黄色い弁当箱につめて完成。
 それを持ち上げて眺めていると、
「黄色い弁当かよ」
 と背後から抱きしめられた。
「なんだ、起きてしまったのか」
「おう。環のエプロン姿好きなんだよ」
 頬にキス、そして唇に。
「京に食べてほしくてな」
 あと二つある弁当は白いご飯に卵焼き、鮭、コーンバターしょうゆ炒め、プチトマトが入ったものだ。
「やばい、俺だけかよ」
「そうだぞ。大変だったんだからな」
 料理が得意な訳ではないので手際の問題で作るのが大変だった。だけど二人のためだと思えば楽しかった。
 大和にはお子様ランチのお弁当版を作り、自分用には二人のおかずを少しずついただいた。
「うわ、大和、喜ぶぞ」
「そうだといいな」
 お弁当は保冷バックにいれて水筒にお茶、大和にはジュースを。
「おい、京」
 弁当を包み終えた後。浅木の手がエプロンの中へともぐりこむ。
「んー、揚げ物の香り」
「油臭いだろう。離れろ」
「エプロン姿の恋人にエッチなことをするのってドキドキするよな」
「朝っぱらから盛るな」
 その気持ちはわかる。桧山だって浅木のエプロン姿は好きだ。
 腰のあたりがたまらなくイイ。
「わかっているよ。大和を迎えに行かないとな」
 口ではそういうものの、残念そうな表情を浮かべている。
「後でな」
 自分だって同じ気持ちだと、キスをすれば目元がほんのりとあかくなる。
「よし、今日は楽しもう」
「そうだな」
「だけど、やっぱ、もう少しだけ」
 浅木の唇が触れチュッと音を立てる。
「ふふっ」
 やっぱり目の前に好きな人がいるのだからこうなってしまうのは同じだ。
「なに、笑ってんの」
 ちゅ。
 今度は桧山からのキス。
「はぁ、えっろい気分になるキスがしたい」
「んー、それだけじゃ済まなくなるから、これでおしまい」
「わかった」
 そう返事をしたくせに、口の端にキスをする。
「京、ずるい」
「エッチなキス、楽しみにしてるからな」
 今度は桧山から、ということか。
「ほう、お前のが立つようなキスをしてやろう」
 挑むような強気に浅木を見て指で胸を押す。
 浅木は口角をあげて目を細める。受けて立とうというところか。
「それでは、大和君を迎えに行こう」
「おう」
 お弁当をカバンに入れてそれを肩にかける。
 浅木の手が桧山の手に触れ、そして握りしめた。