Short Story

闇夜を照らす優しい月光

 思い人とは、恋しく思う人。
 色々なウェブ辞書で調べてみたが同じようなことが書かれている。
『もっと私を意識してください』
 睦月からそういわれたことがある。そして彼女たちに森村はそういう対象なのだと話をしたということだ。
「ぬあぁぁっ」
 我慢しきれずトイレで叫んでしまった。これから一緒に仕事をすることになるのに何故話してしまったのだろう。
 秘書課にきてから一度も顔を見ていない睦月を恨みつつ鏡の中の自分を見つめる。
 特に特徴のない地味な男。惚れる要素がどこにあるのだろう。
 ドアが開く音が聞こえ、誰か来たとうつむいてトイレから出ようとしたが、漂う香水の匂いで相手がわかり顔をあげる。
「社長」
「貴方がトイレから出てこないと土田がいうので見に来ました」
 そんなに長くいてしまったか。まだ仕事中だというのに。
「すみません。すぐに仕事に戻ります」
 今は顔を合わせられない。睦月を意識してしまっているから。
「駄目ですよ。顔が真っ赤じゃないですか。熱があるのでは」
 額に掌を当て自分の額の熱と比べる睦月に、違いますとその手をつかんで離した。
 顔が赤い理由はわかっている。誰のせいだということも。
「恨みますよ」
 顔を隠すように睦月の胸のあたりに額をくっつけた。
「もしかして彼女たちに何か言われましたか?」
 後頭部に掌が触れ、ゆっくりと撫ではじめる。その優しい手つきに甘えるようにすり寄る。
「何でもかんでも話してしまう社長がいけないんです」
「そのことですか。すみません、つい、口からポロリとでてしまいまして」
 そこは我慢してほしかった。顔をおこし睦月を見れば、今まで見たことのない、でれでれとした表情を浮かべていた。
「なんて顔をしているんですか」
「すみません。拗ねる君が可愛くて」
 そういうと額に口づけ、頭を撫でられた。
 なんて甘く、そしてこそばゆいものだろうか。経験がないことだけに握りしめた拳を上下に振って気持ちを落ち着かせる。
「もしかして叫びたい気分ですか?」
「はい」
 先ほど叫んでいたのを聞かれているので気づいたようだ。
 そもそも好かれる要素がないのだから余計に混乱してしまう。
「社長は、俺のどこが、その、す、す……んん、好意を持ってくださったんですか?」
 好きという言葉は思いのほかハードルが高く、なんとか別の言葉で尋ねる。
「貴方はどんな人なのか直接見てみたくて、差し入れという名目で会いに行きました。ですが、はじめのころは素っ気なくて、心を少しでも開いてくれたらと残業をしているのを見かけると会いに行きました」
 出逢ったころはどうして社長が声をかけてくるのかと警戒していたが、こんな自分に声を掛けてくれるのが嬉しく、一緒にいると心が満たされた。
「何度か君のもとへと行くようになり、少しずつ心を開いてくれて。それが嬉しくて、貴方に会うのが待ち遠しくなるようになりました」
 森村だってそうだ。睦月が来るのを楽しみにしていた。だから立花の仕事も引き受けていたのだから。
「差し入れを手渡すと口元が綻んで、それが可愛くてたまりませんでした」
 本当に嬉しかったからだ。
「私は昔から女性よりも男性に惹かれる子でしてね、好きになるまであっという間でしたよ」
 自分は恋愛そのものにあまり興味がなく過ごしてきたが、胸が弾むような感覚を味わったのは睦月がはじめてだった。
「俺なんかで、いいんですか?」
「俺なんかじゃありませんよ。君がいいんです」
 自分を求めてくれる、それがこんなにも嬉しいことだったとは。じわじわと熱が伝わってくる。
「好きになってくれてありがとうございます」
 森村と睦月の思いは同じでないかもしれない。けれどこの先を知りたい。
「私とお付き合いしてくださいますか?」
「はい。よろしくお願いします」
 差し出された手を両手でつかんで頭を下げ、そして睦月を見ると目を細め口元には笑みを浮かべていた。

 仕事が終わるのが待ち遠しいと思うなんて。
 そもそも残業をしていたのは睦月との時間を過ごすためであり、これからは他人の仕事をしてまで手に入れる必要はない。
 睦月は恋愛経験のない男に対しても遠慮はない。部屋に入るなり深く口づけされ、足腰に力が入らなくて倒れそうになる森村の腰へと手を回してベッドまで連れていかれた。
 あっという間に服を脱がされたかと思えばあっちこっちにキスをし、優しい手つきで体を弄られて高まる熱と欲がもっと刺激を求めてる。
「足、開きますよ」
 片足を睦月の肩の上にのせ、大きく股を開いている。体のあっちこっちを触られ、お酒を飲んで酔ったかのようだ。
 何をされてもかまわないとそう思っていた。
「森村君の可愛いところ、丸見えですよ」
 だが後ろを押され、夢から一気に冷めて自分が恥ずかしい格好をしていることに目を見開く。
「や、社長、そんなとこ」
 身を起して睦月を止めようと手をふるう。後ろの穴など見るものじゃない。ましてや指で押すなんて。
「今更、怖いとか嫌だとか言わないでくださいね。私のは臨戦態勢に入っていますからね」
 そういわれて下半身のへ視線を向ければ立派にそり立ったものが目に入る。
「ひぃ」
 まさかあれを後ろへと入れる気か。
「無理無理無理」
 触りあって気持ちよくなるのはいい。だがあれは入らない。絶対に裂ける。
「無理じゃありませんよ。指で広げますから」
 いや、指一本でも無理だろう。
「社長、後生ですから」
 それだけは勘弁してくださいと手を合わせて頭を下げる。
「嫌ですよ。君は快楽に弱い子だからすぐに夢中になれますよ」
 安心してくださいと液体の入ったボトルのふたを開けた。
「それは」
「潤滑剤です。座薬を入れる時に使う方もいるんですよ」
 だから大丈夫です。そう睦月は言うが入れられる方は森村なのだ。
「今は可愛い穴も大きく広がって私のがすっぽりとおさまるようになりますから。ね」
 よしよしという感じにおしりを撫で、穴のあたりに冷たい感触が。
「ひどいですぅぅ」
 くちゅと音と共に尻の穴の中へと指が入り込む。
「ひぅ、や……」
 指が入り込んでいく違和感から逃れるように体を動かすが、睦月が太腿に口づけを落としながら力を抜けと言う。
「ふぅ」
 絶対にやめる気はない。睦月はそういうところがある。それなら言われたとおりにするしかなく、気持ちを落ち着かせるように息を吐いて力を抜いた。
「いい子ですね」
 指がさらに奥へと入り、ある箇所をかすめた途端、体が小さく跳ねた。
 それは睦月に突起した乳首を吸われた時に感じたものよりも、さらに強いものだった。
「んっ、なんで」
「見つけましたよ。森村君のいいところを」
 今度は確実に箇所を弄られて、その度に芯が震えて下半身のモノがズクっとする。
「あぁ、そこは……」
「気持ち、イイですか」
 更に指が増え、気持ちの良い個所を弄られて嬌声をあげる。
 丹念に中を解されて、トロトロな状態の中と森村に、
「そろそろ良さそうですね」
 と指を抜かれて硬く大きなモノが押し付けられる。
「森村君の中にお邪魔しますよ」
 そう言われて、先ほどのように息を吐き力を抜く。
 だが今までよりも明らかに質量の違うモノがミシミシと音を立てながら挿入されていく。
「いっ」
 つい、力んでしまって息が止まる。
「大丈夫ですから」
 睦月の手が優しく髪や背中を撫でながら、ゆっくりと中へと入り込んでくる。
 ぐっと布団を握りしめていれば、睦月のモノが奥の深い所まで入り込んだ。
「つながりあいましたね」
 そう言われてホッとするのもつかの間。
「動きますよ」
 と、先ほどまで指で散々弄られた森村の弱い個所を激しく突かれ、何ともいえぬ快感が一気に襲い掛かる。
「あっ、あぁ、ん、そこはっ」
「ん、そんなにしめつけてきて。私のを搾り取ろうとしているんですか」
 いやらしい子ですねと優しい口調で言うが、中をつく睦月は激しい。
 このままでは壊れてしまいそうなのにやめてほしくない。
「もっと、ほしい」
「おねだり上手ですね」
 入れたまま体制をかえられ向かい合う形となり口づけをされながら突き上げられる。
「ふぅ、ん」
 舌を絡められてくちゅくちゅと上から下からと淫らな水音が聞こえ、更に欲を掻き立てられる。
 高みにのぼり自分から放たれたもので腹を濡らし、睦月の欲は森村の中へと放たれた。
「熱い……」
 今だつながったままの状態で汚してしまった箇所を拭うように手で触れれば、その手を掴まれて押し倒された。
「社長」
「足りません」
 そう、目をギラつかせながら口角をあげる睦月はまるで獲物を狙う雄だ。
 ゾクゾクとする。
「いい、ですよ。俺の、広がっちゃってますし」
 そう言いつつ、愛しい男がくれるあの快感を今一度味わえると思うと体の芯が痺れてくる。
 腕を背中に回して睦月の唇に軽く口づけすれば、そのまま口内を貪られた。

 睦月との時間は森村に充実感を与える。
 幸せオーラが漏れ出ていると彼女たちがいい、土田がよかったと森村の肩を掴む。
 異動は自分にとってはいい方向であったが、前の部署は忙しいようで残業が多いようだ。
 意外だったのは立花だ。営業は彼女に向いていたようで、仕事が楽しいと張り切っているそうだ。
 課長の鞭と飴がいい具合に作用しているらしい。
「変わるものですね」
「そういう君だってかわりましたよ」
 と睦月が森村の頬へと触れた。
「俺が、ですか?」
「ええ。笑顔がでるようになりました」
 それはまわりの人が優しからだ。そして恋人の存在がそうさせるのだろう。
「皆さんのお陰ですよ」
「ふふ、可愛い君を見れるのは嬉しいです」
 頬に触れていた指は唇へと移り怪しい動きになる。
「社長、そういうことはプライベートな時間でお願いします」
 と土田がいい、彼女たちも頷いている。
 ここは職場であり、自分たち以外に人がいる。それを忘れかけるなんてどれだけ睦月に夢中なのだろうか。
 そんな自分が恥ずかしく、顔が熱くなってくる。
「あぁ、そんな顔をして。森村君、社長室にいらっしゃい」
 抱き寄せて連れて行こうとする睦月に、
「社長、仕事中です」
 そういうと体を引き離して仕事へと戻った。