Short Story

犬は怜悧な男に囚われる

 なんだか気持ちいい。敏感な場所へと触れるたび、うっとりとため息をつく。
 強い相手に拳を一発入れたときのような、しびれる感覚だ。
 一体、誰と戦っているのだろう。暗くてよく見えない。
(そうか、目を閉じているから見えないのか)
 それに気が付いて目を開くと、マウントをとる沢城の姿がある。
「え、あ、さわき、さん?」
 どうして沢城と戦っているのだろう、そう目を瞬かせてあることに気が付く。
「なんで、はだか?」
 沢城は見慣れたスーツ姿ではなく裸であった。
 程よく引き締まっていていい体をしている。
「へぇ、沢城さんって、力が強いと思ってましたが、いい体ですね」
 腕を撫で胸を撫でると、体に快感というしびれが走る。
「んふ……」
「お褒め頂きありがとうございます」
 ところでなぜ裸なのだろう。
 ぼーとしていた頭がクリアになっていくと同時に恐ろしいことが頭をよぎる。
「一体何をする気で?」
「貴方が風俗でしてきたことですよ」
 舌先でころがして口にくわえて吸い込む。
 執拗にいじられ、熱をもってじんじんとするし、下半身に熱がたまる。
「んぁっ」
「真っ赤にそまりましたね」
「沢城さんがここばっかり弄るからぁ」
 手で胸を覆い隠すと、沢城はくすっと笑い足を掴んで持ち上げた。
「それでは今度はこちらを触ることにしましょうか」
「え、まさか」
 辰のモノをしゃぶるつもりだろうか。
「待ってください、そこは、あっ」
 たちあがったものを舐めたり咥えたりされ、簡単にイってしまった。
「随分早いな。女に笑われたんじゃないのか?」
「そんなことは、ないです」
 そんなことはない。女に口でされてもこんなに早くはいかなかった。
 沢城の口淫は比べ物にならないほどよかった。
「まぁ、早くても遅くてもいいですよ。私が満足するまでつき合わせるだけです」
 と、後孔の入口を沢城の舌が撫でる。
「ひゃ、そんな所をなめるなんて」
 汚いからと後孔を手で隠した。
「まぁ、出すところですからね。ですが、かまいませんよ」
 指の付け根。そこを舌がうごめき、割り込んで弄ろうとしている。
「やっ、だめですって」
「邪魔しないでください」
 指をかまれて、その痛みで手をどけてしまった。これでは沢城の思い通りだ。
「舐めるのだけは勘弁してください」
「わかりました」
 後孔に指がはいってくる。
「ひっ」
 今まで中にいれたことなどない。不快だし痛い。
「やだ、これは」
 蹴飛ばしてやろうと足を動かすがそれを抑え込まれてしまう。
「辰、すぐによくしてあげますから」
 そしてある個所を指がかすめ、その瞬間、快感が体をつらぬいた。
「あっ、あぁぁ」
「ここが良いのですか?」
 辰の弱いところを弄り始める。
「んっ、そんなふうに触られたら、あぁッ」
 指が二本、三本と増やされ辰の中を乱していく。
「あぁっ、んっっ、さわきさん、あぁん……」
 更に襲う快楽に、意識が沈み溺れ始める。
 もっと。
 もっと沢城が欲しいと、欲が辰を支配し、荒い息を吐きながら見つめれば。
 その手の動きがピタリと止まり、中から指が抜きとられる。
「もうよさそうですね」
 と、辰に囁く沢城の声に。
 自分の中に沢城が、と思うと高揚し体が疼いて仕方がない。
 ゆっくりと辰の中に沢城のモノが挿入されていく。
「辰」
 比べものにならないモノを中で感じ。それが奥を何度も貫く。
「ひゃぁっ……! ふぅ、ん、んんッ」
 腰を支える様に手を添えていた沢城の手が胸を撫で乳首を掴み指で擦る。
「……あぁぁぁ、ソコも触られたら、んっ、もう、おかしくなる」
 上からの刺激もプラスされ、たまらなく腰を振る。
 頭の中が真っ白になり、ほどなくして達するが、まだ揺らぐ腰に体が反応してしまう。
「あっ、ん……、沢城さん」
 と後ろを撫でられたら、もっと咥えたいとひくひくとしてしまう。
 それから何度も貫かれて熱を放ち、足に力が入らなくなってそのまま崩れを散るように足を折れば、やっと中から抜き取られ解放された。
 女のように扱われて悦に入る自分が情けない。だが、沢城とのセックスは女としたよりも気持ちよかった。
 身を起こしてベッドから出ようとしたとき、沢城に手をつかまれて引き留められる。
「もう少し休んでいなさい」
「いえ。俺、帰ります」
「シャワー、一緒に浴びましょう」
 と抱きしめられて、辰は沢城を拒否するように身をよじる。
「こういうことは二度としないでください。俺は女じゃありません」
 また沢城と寝てしまったら、自分はもう受ける側しかできなくなりそうだ。
 ただ、性欲を吐き捨てるためだけなら女とした方がいい。男となんてごめんだ。
「女扱いなんてしていませんよ。本気ですから」
「……は?」
 何を言っているのだろう。やはり沢城のことはよくわからない。
 聞かなかったことにしようと辰はベッドから降りて床に散らばった自分の服を拾う。
 だが、次の瞬間、再びベッドの上に縛り付けられていた。
「めんどくせぇな、お前は。わからない振りなんざするなよ」
 上品ぶっていた仮面が外れ、ぎらぎらとした雄の顔をしている。
「あんた、猫かぶってたのかよ」
「まぁな。インテリ風を装ったほうがおめぇらみたいのには効果あるだろう?」
 たしかに敬語の時の沢城は嫌味なやつだし近寄りがたい。
 だが、目の前の沢城は、周りが柄が悪い者ばかりなので慣れてはいるが、辰の知らない男だった。
「俺はお前を手放す気はねぇからな。俺がこういう男だってこと覚えておきな」
 本当の姿を見せてまで辰をベッドに縛りつける。
「え、何、お前、こっちの俺の方が好きなのかよ」
「へ?」
「顔が真っ赤だぞ」
 そういうと、頬へと手が触れた。
「はぁ!? べ、別に、好きじゃ……」
 本人が一番わかっている。ぶっわっと熱がこみ上げたことを。
「そうか、両想いならもう一回していいよな」
「え、両想いって」
「は、お前のアレはそう言ってんぞ」
 と下半身のモノをゆるりと撫でた。
 なんと素直なやつなのだろう。
「あぁ、バカ息子っ」
「イイコじゃねぇの。親と違って素直で可愛い」
 こっちもな、と、柔らかな場所に沢城のかたくあついものが入っていく。
 それだけで感じてしまう。そこの良さを知ってしまったから。
「沢城さん、あ、あぁっ」
 気持ちよさに意識が飛ぶ。その時、耳元で、
「辰、俺のモンになれよ」
 と沢城の囁きが聞こえた気がした。

 テーブルの上に置かれているのは食パンと調理されていない卵が二つ。
「えっと……」
 これを食せよというのだろうか。
 珈琲を飲みながら新聞を読んでいる沢城にそれを差し出した。
「あぁ。料理なんてしたことがないんですよ」
 それはいわゆる辰に作れということなのだろう。
 組に入って覚えたのは掃除と料理だ。喜久田に美味いと食べてもらえるのが嬉しくて料理は頑張っている。
「これ、買ってきたんですか?」
「何がいいとかわからないので適当に買ってきました。冷蔵庫に入ってますよ」
 冷蔵庫を開けて中を覗き込むとハムとサラダ、牛乳にプリンが入っていた。
「プリン!」
 沢城がそれを買ってきたのを想像して吹き出す。
「それ、貴方のために買ってきたんですよ」
 さらっとそんなことを言われてプリンを手にしたままかたまった。
「ふ、そういうのに弱いんですね。真っ赤です」
 いつの間に傍に来たのか、頬をツンと指で突かれる。
「うるせぇっ!」
 その手を払いのけようとするが掴まれてしまい、文句を言おうと開きかけた唇は沢城にふさがれてしまう。
「ふ、あ」
 ゆるりと口内をいじる舌に甘くしびれる。
 沢城との行為は体中が覚えている。だから簡単にとろけてしまう。
「辰、いつか……いってくださいね」
 ちゅっと音をたてて唇が離れ、とろとろだった辰が夢から覚める。
「何を、ですか?」
 何のことだと沢城を見るが、口元に笑みを浮かべて答えてくれない。
「さ、カシラが自慢するほどに美味い朝ごはんをよろしくお願いしますね」
 とパンと卵を渡される。
「いや、これってただ焼くだけですから」
 先ほどまでの甘い雰囲気は消えて、嫌味かよとカチンとくる。
 わざと焦げたやつを食わせてやろうと辰はフライパンを手にした。