Short Story

意外と上手くいくものだ

 できるだけ家に来てほしい。そう黒斗に頼んだ。
 その頃には榊君と呼んでいたのが黒斗と呼び捨てで呼ぶようになり、遅くまで付き合ってもらった時には食事を作ってあげたり家に泊めるくらいに仲良くなっていた。
 黒斗と一緒だと食事を作るのも楽しくて、いつも以上に力のこもった手料理をテーブルに並べる。
 彼は良く食べるので作りがいもあるし、胃袋に収まっていくざまは見ていて気持ちが良くなるくらいだ。
 風呂に入った後は、浴衣姿でリビングで一緒にテレビを見たり小説の話をしたりするのだが、鷲はまだノートパソコンを睨みつけたままだ。
「鷲さん、どうしたんです?」
 黒斗の方でも鷲に対し、はじめの頃は「鷲庵先生」と呼んでいたが、名を教えて欲しいと言われ、それからは「鷲さん」と呼ぶようになっていた。
 名前で呼ばれる度に嬉しいと感じるのは、この頃は鷲庵の名で呼ばれる事の方が多くなっていたから、か。
 家族や友人に呼ばれるのとは少し違う感情だが、きっと年下のイケメンに呼ばれるからだろうと自分を納得させる。
「いやぁ、どうしてもここから先が進まなくてね」
 主人公の気持ちが溢れだしてしまい、帯を解いてゆっくりとその身を晒していくシーンだ。
「濡れ場は絶対に書くようにと言われていてな」
 衆道モノの話は読んだ事はある。だが、実際に書くとなると手がかたまったまま動かない。
 しかも物語は芳親を視点として書いているから、男を受け入れた時の気持ちが解らなくて困っていた。
「あぁ、成程。じゃぁ、実際に体験してみます?」
「……は?」
 冗談だろうと黒斗を見れば、目は真剣なもので。
 男同士で、しかも鷲の見た目はただの平凡な男であり、流石に抱こうなんて気持ちになれるような見た目じゃない。
「え、黒斗、君は男も平気なのか?」
「いいえ」
 なら、どうしてと困惑する鷲に、黒斗は微笑んで。
「芳親さん」
 と、小説の中の主人公の名を呼ぶ。
「黒斗……」
「俺の名前は保ですよ、芳親さん」
 唇に触れる黒斗の指に、一気に熱が上がり動けなくなる。
 物語の中の芳親のように帯を解いてその身を晒されて。肌蹴た箇所を大きな手がゆっくりと撫でていく。
「ちょっと、くろ」
 その手を止めようと身をよじるが、黒斗の手が触れた箇所がピリッと甘く痺れる。
 黒斗は手を動かしたまま、今は保ですと、鷲の唇を唇でふさいだ。
「ん、ふっ、くろ、と」
 強引に入り込んだ舌が歯列をなぞり、体が熱くゾクゾクとする。
 欲を含んだ口づけは、鷲の理性を蕩けさせ。黒斗の舌に応えるように絡ませ始める。
「……ふぁっ」
 熱があがり、息を吐きながら黒斗を見れば、頬を朱色に染めて欲情した目を鷲に向けていてドキッとする。
「ずっと、こうしたかった」
 切なくそう呟かれて、胸の鼓動が激しく高鳴る。
「くろと」
 物語の中でも保と芳親は互いに欲情し求めあう。
 ふ、と、黒斗に保が重なって見え、鷲の中には芳親の気持ちが入り込んだかのように目の前の男を求めるように見つめる。
「……俺もお前とこうしたかったよ」
 首に腕を回して口づけをすれば、そのまま抱き上げられて寝室へと連れて行かれる。
 くちゅくちゅと水音をたてながら互いの舌を絡ませあい、鷲はベッドに組み敷かれた。

 かなり気持ち良かった。
 覆いかぶさっていた黒斗の身体がどき、横に並ぶように仰向けに寝そべる。
 今は互いに天井を見つめるカタチだ。
「オッサンの尻を掘らすような事になっちゃって、その、すまなかった」
 役の為にとはいえ、ここまでさせてしまうなんて黒斗に甘え過ぎた。
「いえ、俺はすごく気持ち良かったんで。それよりも何度もお付き合いさせてしまって、逆に申し訳ありません」
 体は辛くないですかと、労わるように撫でられて。優しいなと思いながら大丈夫だとこたえる。
「そうですか」
 ホッと息を吐く黒斗は、心から彼の事を心配しているという気持ちが伝わってきて。
 もう少しだけ彼の優しさに甘えていたくなった。
「なぁ、腕枕をして欲しいのだが、良いかな?」
「はい、もちろんです」
 腕を伸ばしてここにどうぞと叩く。
「ありがとう」
 遠慮なく腕に頭をのせると、黒斗が鷲の方へと顔を向けきて、互いの顔が近づく。
「なんか、この距離は照れるな」
 いい男が隣で微笑んでいるんだものと、指で黒斗の頬を撫でれば。
「またまた。俺は貴方が色っぽすぎて照れます」
 と、黒斗にその手を掴まれて、そのまま口元へと持っていった。
 唇の柔らかい感触に、鷲は参ったなと眉尻を下げる。
 あんなに欲をはき出したというのに、また熱がたまりはじめて舐られたり挿入された箇所がジンジンと痺れだす。
 そんな鷲を煽るかのように、黒斗がくちゅくちゅと音をたてて指に舌を這わせている。
「ん……、こら、黒斗」
 ダメだよと指を抜こうとするが、黒斗の指に絡めてとられて離れない。
「ねぇ、今度は鷲さんが欲しい」
 はぁ、と息を吐いて切なげな表情をする黒斗に鷲の喉がごくりと音を立てる。
「こんな、おっさんじゃなくて……」
「鷲さんが良いんです」
 それ以上は言わせないとばかりに、鷲の言葉に言葉を重ねた。たまらず身を起こして黒斗の身体に覆いかぶさる。
「しよう、黒斗」
 そのまま深く口づけをし、今だ柔らかいままの後孔へと黒斗のモノを咥えれば、すんなりと深くまで入り込む。
「ん……」
「鷲さん」
 騎乗位の恰好で恍惚とする鷲に、興奮した黒斗のものが中で大きさを増していく。
「黒斗の、大きくなったね」
 微笑みながら互いをつなぐ箇所をゆるりと撫で、黒斗はたまらず中を激しく突き上げる。
「あぁ、んッ、くろと、くろと」
「鷲さん」
 後ろを突きながら前も弄られて。たまらないとばかりに鷲のモノは蜜を流し続ける。
「あ、あぁァッ、だめだって、くろ」
「しゅう、さん、可愛ィ……」
 うっとりとため息をはく黒斗が色っぽくて、余計に中が感じてしまい。
 張りつめたモノが頂点を迎える。
「ん、くろと、あ、あぁっ」
 ガクガクと震えて欲がはき出される。
「イっちゃいましたね」
 濡れた手を、目を細めて見つめ。
 今だ膨らんだまま、後孔に収まる黒斗のモノが突かれる。
「え、あ、ちょっとまて」
 放った後でぼっとしていた頭が、すぐに我に返る。
 激しく良い所を突かれたらすぐに下半身に熱がたまりだし鷲のモノがたちあがる。
「鷲さんの、元気を取り戻したね」
 濡れたままのモノは黒斗の手に擦られて淫らな音をたてはじめる。
「や、くろと」
 鷲の良い所は知っているとばかりにそこばかり突かれ、黒斗のモノを締め付けて。狂いそうな程の快楽に溺れながら嬌声をあげる。
「ひゃ、ん、あぁぁ、そこ、いぃ……」
「あぁ、鷲さんの締め付け、たまらない」
 ほぅ、と、声をあげてウットリした目で鷲を見る黒斗に、その色気にゾクゾクする。
「くろと」
「しゅうさん」
 一緒に。
 その気持ちはが通じ合ったかのように、溢れた欲は二人を濡らした。