生涯の伴侶

ランデブー

 空は快晴。馬で遠出をするのにはもってこいだ。
 はじめはゆっくりと馬を走らせていたが、途中から競争になった。
 楽しそうに馬を走らせた後、草原で休憩をとる。
 弁当はなじみの店に頼んでおいた、焼いたグリスの肉とパリナが挟まったパンだ。
 グリスとは一般的な成人男性の二倍近くある大きさのある獣で、凶暴故に捕獲が難しい。
 だが、その肉は大変美味く、他の部位は服や薬にも使えて大変重宝する。
 パリナは緑の葉っぱで、少し癖があるが肉との相性が良く、大抵、一緒に出される。
「お、美味そうだな」
 宗は肉と酒があれば良いという男だ。
 周はそんな父親に対してもっとバランスよく食事を摂れと小言を口にする。
「周を連れてちょいと森に入って狩ってきた」
「なんだよ、そういう楽しそうな事をするときは俺も誘え」
(ほら、やっぱり。ソウはこういうのが喜ぶんだよね)
 心の中でそう呟きつつ、今度は誘うよとこたえる。
「おう」
 葡萄酒を手渡してパンを齧りながら飲む。
「でも、たまにはこういうのも良いな。天気は良いし、飯はうまいし。お前と競争も出来た」
「だな」
 食事を終えて二人並んで横になる。
 腹も満たされし朝もはやかったからか、つい、うとうととしそうになる。
 いつもならこのまま昼寝をしてしまう所だが、今日はそういう訳にはいかない。なので頬を叩いて眠気をとばす。
「なぁ、これはデートの誘いだって言ったよな? ならばそれっぽい会話でもしろよ」
「そうだな」
 これではいつもと変わらない。
「だろう? このままじゃ、デートのお別れにキス、なんて展開にはならんぞ」
「わぉ、キスしていいんだ」
 そういうのはナシなんだろうなと思っていたので、つい、下心いっぱいに笑みを浮かべてしまう。
「うわ、いやらしい顔。だが、キスするかどうかはお前次第だぞ?」
「なんだよ、またソレか」
 ならば、と、アルバンに言われたことを話そうと口を開く。
「あ……、なんだ、俺がお前の惚れた理由なんだが」
「ほう、興味深いな」
 聞かせてくれと、話を促される。
「お前の戦う姿が美しくてな、目が離せなくなった」
「俺の戦う姿を美しいって、そんな事を言うのはお前位だな」
「そんな事はないだろう?」
「いや。強さに憧れる奴はいたが、怖がられる方が多いかな」
「あんなに色っぽいのに!? 強い相手と戦っている時なんて、すごくエロい顔をしてるって……、て、ちょっとお前、危ないじゃねぇか」
 今日はいつもの得物ではなく剣を腰にぶら下げており、それを突き付けられて寸前でよける。
「この変態がっ」
 さらにもう一度、鋭い突きに、腰の剣を抜いて弾く。
 こちらもいつもの剣ではなく、中型の剣を腰にぶら下げている。
「だってよ、高揚した頬とか、たまんねーべ」
 まるでイった後のようだぜ、と、口角を上げる。
「お前にイき顔を見せた覚えはない!!」
「あぁ、そりゃそうだ。俺の妄想だし」
「引くわ」
 素早い剣の動きを防ぎつつ、こちらから仕掛ける為に隙が出来るのを待つ。
 宗が大技をくりだそうとした所で、それを真正面から受けて力で押す。
「この、馬鹿力が」
 力勝負に持ち込めば分はクレイグにある。
 剣を弾き飛ばし、さらに唇を奪う。
「なっ」
 驚いた表情を浮かべる宗に、クレイグは舌を強引にねじ込む。
「ん、んっ」
 少し乱暴なキスだが、宗にはそれくらいが良かったようで、満足そうに眼をとろんとさせて首に腕を回してきた。
「お前のキスは想像通りな」
「ははっ、優しいのも出来るぞ?」
「ほう、やってみろよ」
 できるのかというような顔をされて、心外だなとぼやく。
 再び唇を重ねて歯列をなぞる。
「ん……、わるく、ない」
 キスに応えてくれるのが嬉しい。絡み合う舌がいやらしく水音をたてる。
 それから存分とキスを味わい、唇が離れる。
「やっぱ、好きな人とするキスは良いな!」
 なんという夢心地。
 何度でも味わいたいと、クレイグを酔わせた。
 宗はどう思っているのだろうと様子を窺えば、ジト目を向けていた。
「え?」
「俺以外の相手は誰だ、ん?」
 聞かせて貰おうかと顔を近づけてくる。
「そ、それは……」
 怒っているのかと尋ねれば、ニッコリと笑みを浮かべる。ただし、目は鋭く細められている。
「べつに。相手がいるのなら遠慮せずにそいつとすればいい」
「え、そんな、俺はお前一筋なのにぃ」
「ほぅ、その口が言うか」
 頬を掴まれてヒヨコ口にされる。
「うぐっ、やめ」
「ははっ、良い歳をしたオッサンがヒヨコ口! 可愛くないな」
 その唇に宗の唇が重なり、今度は彼の舌に翻弄される。
「むっ」
「は、ふ」
 目元を赤く染めてクレイグの口内を乱す彼に、下半身がじくじくをしはじめる。
 このまま押し倒して、その肌に食らいつきたい。
 腰を抱き尻に触れた瞬間、ビクッと宗の身体は跳ね、驚いて身を離す。
「お前、どこ触ってんだよ」
「うん?」
 とぼけてみたが宗に腕を抓られて手を離す。
「はっ、顔は老けたが、ここはまだ若いな」
 下半身へと視線を向ける宗に、クレイグはあははと笑って誤魔化す。
「水浴びでもしに行くか。この先にある」
「何、一緒に?」
 多分、一緒に入ったら、そのまま襲ってしまうだろう。
 エッチな妄想をしかけたクレイグに、
「馬鹿。俺は昼寝をして待つ」
 入るのはお前だけだと言われ、馬にまたがる。
 今はあまり馬には乗りたくないが待ってくれる様子もなく、仕方なくついていく。
 暫く馬を走らせると湖が見えてきて、木に馬の手綱を括り付けてクレイグは上着を脱いで中へと入る。
「うへぇ、冷たい」
 水浴びをするには少し早い季節だ。
 冷たい水は気持ちを引き締める。
 宗が目を細めながらこちらを見ている。口元には笑みを浮かべており、楽しそうで良かった。
「お、魚がいるぞ。ソウ、木の枝の先を尖らせてくれ」
「わかった」
 モリの代りに良さそうな枝を探し、先端を尖らせる。
「ほら」
「よっしゃ、ソウの為に大物をとってやるからな」
 そう口にしたのは良いが、結局、とらえることが出来たのは小さな魚が一匹。
 それを見て、宗が腹を抱えて笑う。
「下手だな、お前」
「煩いわっ。俺はこういうのは苦手なんだよ」
 お前がやれと木の枝を渡し水から上がる。
「よし、俺の腕前を良く見ておけ」
 そういうと上着を脱いだ。
 年をとっても美しい身体をしている。目が離せず、彼をじっと見つめていれば、顔に水をかけられた。
「うわっ」
「見過ぎだ」
 ふっと笑い、そして水の中へと飛び込む。
 それからすぐにクレイグより大きな魚を捕って見せた。
「どうよ」
「やっぱ、魚を捕るのは敵わねぇわ」
 宗が突いて捕った魚を陸へと置いていく。
 大物が二匹と中くらいが三匹。
 もうおしまいと陸の上へと戻ってきた。
「それにしても、まだ水浴びをするには寒いな」
 と、クレイグの身体に抱きついた。
 宗の身体はひんやりとしていたが、クレイグの身体は一気に熱が上がる。
「なっ、ソ、ソウ!!」
「お前も水浴びをしていたというのに、もう温かいのな」
 胸板に頬をくつけて腕を腰に回してくる。
 互いに下穿き姿であり、濡れて張り付いている箇所がくっきりと形を作り厭らしく感じる。
 今すぐこの身を押し倒してしまいたい。
 冷たい頬を撫でて額をくっつけ、切なく息をはきすてる。
 自分の理性を保つことが出来るだろうか。
 我慢しているというのに、
「俺には魅力がないか?」
 なんて聞いてくる。
「そんなことあるか! 俺がどんだけ我慢しているか」
「そうか、ならお前のしたいようにすればいい」
 今なんて言った?
 目を瞬かせて宗を見る。
「ソウ?」
「お前は俺をどうしたいんだ」
 と聞かれて、
「ソウの全てが欲しい。俺の伴侶になってくれ」
 そう素直に答えた。
「なら、良い。お前に全部くれてやるよ」
 キスをしてそのまま誘われるように草原へと絡みながら倒れ込んだ。