秘密のプレゼント
総一さんのばぁちゃんの名は田端美代子(たばたみよこ)さんという。
母方の実家で、旦那さんは勇(いさむ)さんといい、二人は幼馴染で大恋愛の末に結ばれたそうだ。
家にいくということは、美代子さんに会えるんだよな。すげぇ、嬉しい。
そうだ、総一さんにも内緒にして、美代子さんに何かプレゼントを買おうかな。
驚くかな、二人とも。そういうことを考えるだけでもワクワクする。
だけど、美代子さんに何を贈ればいいだろう。
知っているのは、料理上手で孫大好きな美代子さん、というくらい。せめて外見くらいは聞いておけばよかった。
可愛い系、綺麗系、クール系、どれが似合うのかすらわからねぇ。
総一さんに聞いたらプレゼントのことがばれそうだし、冬弥さんはどうだろう。美代子さんに会ったことがあるだろうか。
とにかく、買い物に付き合って貰おう。昨日、冬弥さんが俺のスマホに勝手に入れた連絡先。それが役に立つことになろうとは。
<冬弥さん、買い物付き合って>
メールを送信。すぐに電話の着信音が鳴った。
『総一じゃなくて、俺?』
「そう。美代子さんに贈り物をしたいんだけど、総一さんにも秘密にしたい」
『そういうことね。わかった。あのさ、弟も一緒に良い?』
弟も一緒って、もしかして俺と二人きりが嫌だったのか、それとも何か約束していたのか。
どっちみち、嫌な時はそうはっきり言うし、約束があるなら断るだろう。
「あぁ、かまわねぇよ」
『じゃぁ、彰正に連絡入れとくわ』
と通話が切れる。
俺から言った方が早い気もするが、お願いする身としてはそちらさんの言う通りにするだけ。
暫くすると尾沢が俺の方へと振り向き、指でOKサインをだし、それに応えるように頷き返した。
放課後のホームルームが終わり、尾沢と目配せをし教室を出る。
「兄貴から連絡を貰って驚いた」
と一緒に出掛ける仲になったんだなと言われるが、冬弥さんだけを誘うのははじめてだから。
「総一さんの美代子さんにプレゼントを贈りたくてさ。冬弥さんって色々と知ってそうだし」
「なるほど」
と呟いた後、
「あのさ、俺のことは彰正で良い。同じ尾沢だから、ややこしいだろう?」
確かに。尾沢と呼んだらどっちだよってなるものな。
「わかった。そうさせてもらうわ」
そこは素直に下の名前で呼ばせてもらうことにした。
基本、男の顔をじっとみることはあまりない。だから今更気が付いたんだけど、冬弥さんと彰正って、にてねぇよな。
「近い」
うわ、たしかに。夢中になって見てたんだな。
「わりぃ」
そう顔を引き離した。
「もしかして、義理の兄弟ということは聞いていないのか」
そうだったんだ。似ていない理由は納得した。
「女子なんてすごいよ。兄貴が俺のことを話すものだから、期待して見にきてさ、それでガッカリされる」
それ、地味にくるやつじゃねぇか。
兄貴と比べられて、勝手にガッカリされて、そうされる度に彰正は傷ついているんじゃないのか。
俺が冬弥さんの弟だったら、絶対に口を聞いたりしない。まして、一緒に帰るなんてありえないわ。
彰正は我慢強い奴だな。
「すげぇな、彰正は」
「何がだ?」
「俺だったら耐えられねぇよ」
「しょうがないよ。兄弟だから」
あきらめているよと小さく笑う。
ずっとそう言い聞かせてきたのか。なんか、いじらしいよ。
待ち合わせは校門の前だ。
俺らの方が先について冬弥さんを待っていたら、女子と話をしながらゆっくりとこちらに歩いてくる。
あいかわらずモテるな。まぁ、背が高くてイケメンだし、女子には優しいみたいだしよ。
「兄貴、早く来い!」
痺れを切らせたか、彰正が冬弥さんに向けて大声で言う。
「わかりましたよぉ」
女子に手を振り、小走りで向かってくる。
おお、冬弥さんが言うことを聞くなんて。俺が言ったら余計にゆっくり来るか、後で文句を言われるだろう。
「おまたせ」
「ほら、行くぞ」
彰正が歩きだし、俺と冬弥さんがついていくカタチとなる。
「で、何を書くか決めてある?」
「美代子さんってどんな人なのか解らないから思いつかなくてさ。冬弥さんは会ったことあるか」
「あるよ。総一は図体がデカいだろ。でも、美代子さんは小柄で可愛い人なんだ」
へぇ、小柄で可愛いんだ。
後、好きな色や食べ物を聞いたりしていたら、ショッピングモールについた。
冬弥さんにアドバイスを貰いつつ、何件か店をめぐる。
そして気に入った品が見つかり、これなら大丈夫だろうとOKも貰えた。
買い物につきあわせたお礼にと、コーヒーショップへと入りご馳走することになった。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
「おう」
美代子さんには出かける時に使って貰うようにスカーフ、そして抹茶と小豆のクッキーを選んだ。それは美代子さんの好物なんだって。
「まじで助かったよ」
「まぁな。女性のことならまかせろ」
と得意げに冬弥さんがいう。
年配の女性がつけてもおかしくなく、可愛らしい品なんて俺じゃ選べなかっただろう。
「喜んでくれるといいな」
と彰正が優しい目をしていう。
「あぁ、そうだと嬉しい」
冬弥さんとは出会いは最悪だったが、思ったよりも優しいし、彰正も面倒くさらずに付き合ってくれた。
それに、約束してたんじゃねぇのか、二人とも。
「なぁ、今日ってさ、なんか約束してたんじゃねぇ?」
二人を交互に指さすと、
「もしかして、俺も一緒だからか」
と彰正が返してくる。
「まぁ」
だって、そうだとしたら悪ぃしさ。
「違う。互いに用事がないときは一緒に帰っているだけだから」
気にすることは無いと言われた。
「へぇ、そうだったんだ」
兄弟で仲がいいというのは良い事だわ。
「俺が彰正と離れたくないだけだから」
と冬弥さんが言う。え、冬弥さんってブラコンなのか?
意外だな。彰正に対して俺様な態度をとっているのかとおもっていた。
「兄貴、何を言って……」
どうやらマジでそのようだな。彰正が焦っている。
「冬弥さんは彰正が可愛いんだな」
「あぁ、可愛いよ。宝物だ」
うわ、言い切った。なんか、胸がじんときた。義理でも本当の弟のように思っているんだな。
「やめろ」
そしてデレる彰正。普段は頼られキャラだけに、なんかレアだわ。
「だからこれからも一緒に帰るし、猫かわいがりもするからなっ」
手を高々にあげ、キリッとした表情を見せる。
「黙れ」
と冬弥さんの脇腹に、彰正が遠慮なしにパンチをくらわした。
「ぐふ」
テーブルに倒れ込む冬弥さんに、俺は両手を合わせてご愁傷様と口にした。
駅で別れ、プレゼントを手に家へ帰る。
今日は楽しかったな。
普通に話せたし、ブラコンだということも知った。
二人とも友達になりたいなんて思ったら、さすがに図々しいか。
総一さんだけでも俺にとっては勿体ないひとなのに。さらに求めてしまったら、いつかしっぺ返しがきそうな気がする。