獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク

お弁当を持って

 お休みの日もセドリックは忙しく仕事に出かけていく。しかもこの頃は朝ごはんまで食べる時間すらない。
 食事は騎士宿舎へいけば温かい料理が食べれるので心配はないが、自分の作ったものを食べてほしい。
「そうだ。お弁当を届けようか」
「え、おべんとう? おみせにいくの」
 お店に行くときにお弁当を持っていくのでリュンはそう思ったのだろう。
「ちがうよ。セドに届けようと思って」
「セドに! いこう」
 リュンもセドがいなくて寂しいのだ。うれしそうにしているのをみて頭をなでる。
「皆の分のお弁当を持ってはいくけれど、会えるかわからないよ?」
「あ、うん」
 一気にテンションが落ちてしまう。かわいそうなことをしてしまった。
「ごめんね」
「うん。でも、だいじょうぶ。おべんとうにボクのきもちもつめるから」
 と笑う。
「そうだね。それじゃお手伝いしてね」
「はーい」
 タンスの中からリュン用のエプロンとバンダナを取り出して着せつける。
「これ、いろちがい」
 ブレーズがいつも使っているエプロンは淡い緑色。リュンはオレンジだ。実はセドリックの分もあり淡い青色で作った。
「ウサギにはピンクだよ」
 リュンのお気に入りのウサギにも作ってある。それをつけてあげた。
「わぁ、うれしい。ありがとうブレーズ」
「さて、リュンさん。料理前には?」
「てをあらう!」
「はい。この踏み台にあがって。いつものように手を洗ってね」
 きれいに手を洗い、切る作業はブレーズが、混ぜる、まぶすなどの作業はリュンが担当した。
 家に来て少したったころ、リュンがお手伝いをしてくれるようになった。しかも記憶を失う前からやっていたのだろう、手際がいい。
「リュンが手伝ってくれたから早くできあがったよ。ありがとう」
「えへへ」
 鶏肉をガリクとショウキョウをすりおろして入れたタレにつけて粉をまぶして油で揚げたものは人の国ではお弁当のおかずとして好まれる。ガリクは匂いがきついが入れると食をそそる味となり、ショウキョウを入れることにより匂いが和らぎ旨味が増す。
 それを大きな箱に詰め、もう一つの箱にはミートパイ、そしてリュンのために用意した甘めの卵焼きとフルーツを詰める。
 そこそこの量になったので箱は台車に乗せて運ぶことにした。
「さてと。リュン、行くよ」
「うん」
 今日はリュンのお気に入りの一冊、ヒーローものに登場するレッドが着ている服と似たものを作った。それを見せた時は今までで一番のテンションの高さで跳ね回り、子供らしい反応を見せるようになってきたなと、うれしくそれを眺めていた。
「ピンク、行くぞ」
 ピンクは唯一の女の子で、ブレーズのかみの毛がピンクだからだろう。自分的にはクールなブルーがいいなと思いつつブレーズは小さく笑い、
「いきましょう、レッド」
 と決めのポーズである首を少し傾げて敬礼をしてみせた。

 王宮へ行くには一つ門を抜ける。そこで入出許可をもらい次に騎士団の誰と面会をするかの許可を受けることとなる。
 荷物は検査をするために門番に預けてふたりは待機所へと向かう。その途中、大きな何かが飛んできて驚いて上を見ると自分たちを飛び越えて着地をした。
「えぇっ!」
 獣人だ。身体能力が優れているのは知っているが、さすがにこれには驚いた。
 だがすぐにリュンが心配になり足元を見れば、尻尾がちぎれしまいそうなくらいに勢いよく振られている。
「かぁっこいぃぃ」
 目をキラキラとさせて目の前の背中を見ている。ヒーローものにハマっているのでその登場の仕方に喜んでいた。
「お迎えに来たよ、ふたりとも」
「ルキ」
 リュンとブレーズの声がそろう。
「息ぴったり」
 とウィンクをする。ルキンスはムードメーカ的な存在で、ピトルとは義理の兄弟だ。
「待って。まだ許可を得ていないよ。荷物検査もあるし」
 勝手に行くわけにはいかないと止めるが、大丈夫だという。
「許可は下りてるよ。それに荷物はお弁当だったよね。食堂に運んでおいてくれるって。ブレーズさんは団長のトコね。リュンは俺と遊ぼう!」
「うん。びゅんとする!」
「しよう」
 手をつないでキャッキャと跳ねているふたりにブレーズは不安になる。
「ちょっと、危ないことはだめだよ」
 獣人にとっては平気だと思っていることも人の子としては心配でならない。くれぐれも怪我のないようにとルキンスにくぎを刺す。
「大丈夫だよぉ、男の子だもん。さ、団長室へ行くよ」
 ルキンスとリュンが手をつないで先に歩く。ブレーズは騎士宿舎へ入るのは初めてで、ここでセドリックが働いているのかと思うとドキドキとしてきた。
「ここまでくるのはじめてだよ」
「ふふ、そうだね。普通の人は入れないかも――、ここだよ」
 立派なドアの前。この中にセドリックがいると思うと緊張してきた。
「団長、ブレーズさんをお連れしました」
 とドア越しに声をかけると、入れとセドリックの声がかえる。
「はい。失礼します」
 ドアを開くとセドリックが立ち上がり出迎えてくれた。部屋の中は本棚と机があり、奥にもう一つのドアがある。
「よく来た。リュン、おいで」
 と手を広げると、リュンがその腕に抱きついてその体を抱き上げる。
「はぁ、癒されるぅ」
「うふふ、セド、くすぐったい」
 と笑顔を見せた。その姿は本当の親子のようで、傍に行きたいのに足が前に進まない。
「ブレーズ」
 セドリックが名を呼ぶ。だが、ブレーズはにこやかに笑みを浮かべて返すだけ。
 隣でルキンスが、
「いかないの?」
 そうこそっというが首を横に振った。
「セド、おべんとうつくってもってきたよ。ごようがすんだらたべようね」
「あぁ」
 リュンを床におろし、ブレーズのそばに立つ。
「では団長。お昼に食堂で」
「あぁ」
 ふたりが手をつないで部屋を出ていく。セドリックとの過ごす時間が久しぶりに感じる。
 ずっと一人で暮らしてきたのに、三人で暮らす楽しさ、好きな人が傍にいる幸せを知ってしまったからよけいにだ。
「少し会えないだけでも寂しいって思うようになっちゃった」
「俺もだ。忙しく日々を送り、一人の部屋に帰る。今までは平気だったのにな。三人で暮らす良さを知ってしまったから寂しいわ」
 そういうと腕の中へと抱きしめられた。
「セド」
「リュンはさっき抱きしめた。だから次はブレーズの番」
 スンスン、ハフハフ。耳元で聞こえてくるのは声ではなく鼻の音だった。
 甘えられてるのだ。そのことに喜びをかみしめつつ頭と背中を撫でると耳が小さく動き頬に当たり、それがかわいくて指で突っついた。
「セド、甘えん坊だね」
「あぁ。しばらくは付き合ってもらうからな」
「いいよ」
 この役目を誰かに譲る気などない。だからセドリックが満足するまで付き合うつもりだ。
 耳に頬をすりよせていると喉の奥のほうからゴロゴロと鳴き声がする。
「ふ、こら、そこは弱いといったよな?」
「うん。でもね、ぴゅるるって小さく動いてかわいいのだもの」
 耳に軽く口づけると頭が動いて覗き込むようなかたちとなり、ブレーズの唇を舐めて口づけた。それに応えるように舌を出すと答えるように合わさり絡ませる。
  手が服の下へとすべりこみ腰が撫で胸へと触れた。
「んっ、セド」
 爪で傷をつけぬようにと指を曲げて乳首を挟みこねる。服をめくりあげてそこをみれば敏感なそれは弄られてすぐにかたく突起する。
「俺に見せてくるなんて、ブレーズはいやらしいのだな」
 前に見せた獲物を狙うような眼をしている。
 そうだ。自分はいやらしい。そこを弄って欲しいし別の場所もうずいているのだから。
「セド、いやらしい僕の姿を、ぜんぶみて」
 上だけでなく下も、服をめくる手はそのまま、もう一つの手はボタンをはずしチャックを下ろす。
 下着の一部が盛り上がり、それを見てセドリックがひゅっと息を吸い込んだ。
「そんなに触ってほしかったのか、ん?」
 なぜか嬉しそうにそう口にして尻尾を振っている。相手がセドリックだから自分はこうなっているのだ。だから素直に頷き、触ってと誘うように自分の体を撫でた。
 それを見たセドリックがグルルと低く唸り声をあげ、べろりと自分の唇を舐める。
「それじゃあ、ここにおいで」
 と椅子に腰を掛けて自分の太ももを叩く。座れということだろう。
 向かい合わせに跨ると互いの下半身にあるものが当たる。
「セド、たってる」
 興奮をしているのは自分だけではない。それがうれしくもふもふに頬をくっつける。
「正直な反応だよ」
 舌先が触れて、じれったくうごいている。
「いじわる」
 これでは足りないのをわかっていてそういう触り方をするのだから。
「まって、人の子は後ろを慣らさないと……」
「知っているぞ、調べたから。使うのはここだ」
 太ももにキスをしてにやりと笑う。
 誰かとする予定があったのか、それを思うと嫉妬で胸が痛んだ。
 自分以外の誰かとそうなるなんて嫌だ。セドリックがブレーズだけだと思ってくれるように煽情的に誘う。
「セド、きて」
「あぁ」
 セドリックの大きなものを太ももに挟み込むと、互いのモノがこすれてすぐに高みにのぼり放つ。足元にはねとりと放たれたものがたれ落ちた。
「ん、セド」
「はぁ、ブレーズ、お前の濃い匂いで酔ってしまいそうだ」
 ぬるりとしたところを撫で、そしてまじりあったものをブレーズの胸へと撫でつけた。
「俺の……」
 なにかを呟いていたのだが、ブレーズの耳に聞こえたのは俺の、だけだ。
 その後に続く言葉が気になるが、セドリックは何も言わずにブレーズを抱き上げて立ち上がり椅子の上へと座らせた。
「セド?」
「タオルを持ってくる」
 隣の部屋へと向かい、しばらくして戻ってきた。受け取ったタオルはお湯で濡らしてくれたのだろう。ほんのり温かかった。
「すまんな。お茶を飲むためのお湯しかなくて。タオルを温めるくらいしかできなかった」
「うんん。十分だよ」
 用意してくれただけでありがたい。濡れた体を拭くとタオルをセドリックが隣の部屋へと片付けた。
「僕が洗うよ」
「大丈夫だ。タオルは俺が使うやつだからやっておくよ」
 そうセドリックが言うので任せることにした。
「はぁ。早く仕事を片付けて家でのんびりまったりしたい」
「僕もだよ。ご飯をいっぱい作ってセドとリュンに食べてもらいたい」
 つい最近まで三人でいる時間を過ごせていただけに、どれだけ愛おしいものだったかを痛感する。
「ブレーズ、リュンのことを任せきりですまん」
「うんん大丈夫だよ。でも、またここにセドの印が欲しい」
 治りかけの痕を指さすとセドリックがそこへと上書きするように噛みついた。
「いぁ」
 再び愛しき印を手に入れると痛みよりも喜びが襲い、興奮と共にゾクゾクと心が甘くしびれた。
「これが消えぬうちに、すべてを終わらせる」
 ついた歯形をセドリックの指が撫で、そしてそこに口づけた。
「んんっ」
 かっこいい、すき、しあわせ。
 セドリックに対する思いが頭の中をぐるぐるとまわりだす。
「約束だよ」
 気持ちがあふれてセドリックのもふもふに顔をくっつければ、心が癒されて落ち着いてきた。
「ふふ、やはりもふもふは人気だな。もっと癒してやりたいが食堂に行こうか。愛妻弁当を食べに」
「セドっ」
 覚えた人の子の言葉を使いたいのか、夫婦じゃないのにと思いながらも口元はふよふよと動いてしまう。
 手が触れ合い、そして指を絡ませる。
 なんて幸せなんだろう。頭をセドリックの腕のほうへと寄せれば、尻尾が太ももをなでた。

 食事をするために待ち合わせの食堂へと向かうとすでにふたりの姿があり、リュンが待ってたよとセドリックにめがけて飛びついた。
「遅かったですねぇ」
 ルキンスがニヤニヤとしながら何かを言いたげにこちらを見ていたが、それに気が付かぬふりをしていた。
「待たせてすまん」
 そういうとさりげなく腰に腕が周り、驚いてブレーズの背がぴんと伸びる。
「セ、セド」
 見上げるセドリックがキラキラして見えた。普段からかっこいいのに、こんなに輝いていたら溶けてしまうのではないだろうか。
「ブレーズさん、真っ赤だよぉ。ふたりでしたことを思い出しちゃった?」
 セドリックの熱を感じ印をもらった。ブレーズの心と体は彼によって満たされたわけだ。
「ふぇ!?」
 行為を思い出し、一気に熱が上がる。
「ルキンス、皿に取り分けろ」
 ブレーズを落ち着かせるように髪を撫でルキンスの話をそらす。
「はぁーい。わ、これいいにおい」
 話はお弁当の話題は移っていった。

 食事を終えてすぐにセドリックは仕事に戻ってしまったが、ルキンスが門まで送ってくれた。
「団長の機嫌がなおってよかったよ。ありがとね」
 そう手を握りしめた。
「え、機嫌悪かったの?」
 全然そう見えなかったので驚くブレーズに、
「うん。でもね、ブレーズさんのおかげ」
 スンスンと鼻をならしてニッコリと笑う。
 それを見ていたリュンもスンスンとにおいを嗅ぎ、
「セドのにおいする」
 とおしりのあたりをやたらと気にしていた。
「ちょ、まって」
 もしや拭いたのに匂っているのだろうか。
「気にしないで。交尾は大切な行為だから」
 と耳打ちされて一気に熱が上がる。
「素股で……、あっ」
 素股でイっただけ。
 リュンがいるのについ口にしそうになり慌てて手で口を押えて言葉を飲み込んだ。
「すまた?」
 リュンが疑問そうに首を傾げ、ルキンスはわざとらしく首を傾げた。
「ルキ、お見送りありがとう。リュン、帰るよ」
「うん。またね、ルキ」
「うん。またねー。気を付けて帰ってね」
 手を大きく振り見送るルキンスに、リュンも負けぬくらいに大きく手を振り返す。
 何をしていたか、完全にバレている。恥ずかしくてブレーズは手を挙げて応えるだけしか返せなかった。