獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク

セドリックの舌

  買い物をしている途中、恋人や家族連れを見るたびに胸が痛んだが、セドリックのモフモフで癒されようと気持ちをきりかえて家へと帰る。
 すると、
「おーい、ブレーズ」
 どこからかセドリックの声が聞こえる。ブレーズはあたりを見渡すが見つけることができず、家の中かなと中へと入ろうとすると再び声をかけられる。
「ブレーズ、ここだよ」
 今度はリュンの声だ。
「え、えぇ?」
 一体どこにいるのかと立ち尽くすブレーズに、
「屋根にいる」
 と聞こえて、上を向くとふたりの姿がある。
「わ、ちょっと危ないよ」
「大丈夫だ。獣人だからな」
 リュンを抱きかかえて小屋の屋根へと移り下へと降りる。その軽い身のこなしは流石に獣人だ。身体能力が優れていることはある。
 だが、まだリュンは小さいのだ。心配するのはあたりまえだろう。
「セド」
「だって、リュンが『ブレーズはいつかえってくるの?』って窓から外を眺めて待ってるからさぁ、それなら屋根の上の方がわかりやすいし。俺も、帰りが待ち遠しかったから」
 好意を持つ相手にそんなことをいわれて喜ばない者などいないだろう。言葉一つに舞い上がりそうな自分を必死で抑え込まねばいけない。
 胸に手を当てて落ち着けと心でつぶやく。
「僕を待っていてくれたんだ」
「おかえり、ブレーズ」
 両ほほに鼻先が当たる。切ない気持ちがブレーズを襲い、鼻がツンとして泣きたくなった。
「ただ、いま」
 この気持ちにはけしてあらがえないのだ。それなばいっそう流されてしまえばいい。
 いつか終わりがくることがわかっていても、愛おしい人と幸せな時間を過ごせるのだから。

 リュンは疲れてしまったようで、ご飯を食べるとすぐに寝てしまった。
 抱きかかえてベッドに寝かせた後、椅子に座って縫物をしているとふわりと良いにおいがする。
 あれはドニが作ってくれた石鹸の匂いだ。
「お先」
 タオルで頭を拭きながら向かい合わせの椅子に腰を下ろした。
 しっとりと濡れたセドリックは湯上りで頬がほんのりと赤く染まっていて色っぽかった。
「セド、拭いてあげる」
 立ち上がり乾いたタオルと手にセドリックの傍へ向かうと、
「頼む」
 と自分で拭くのをやめてじっとしている。後ろを拭き始めて、耳元も濡れていてそこを指でかくように拭くとゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「ふ、気持ちがいいの?」
「あぁ。獣人はここが弱いからな」
「そうなんだ。可愛いね」
 指でかいた後にキスをする。するとピンと耳がっ立った。
「あ、ごめん、気持ち悪かっ……、んふっ」
 唇が重なり合う。今、起きていることが信じられなくて何も考えられなかった。
 舌が中へと入り込んで歯列を撫でる。
「ん、はぁ」
 このまま共にとろけてしまいたい。
 セドリックの舌にこたえるように舌を絡ませると、肩をつかまれて押され唇が離れた。
「あれはダメだ。理性が飛ぶから」
 別にそうなってもかまわなかった。それなのに離れてしまったことが胸が痛み目頭があつくなる。
「ブレーズ、そんなに嫌だった……」
「やめないでっ」
 言葉が重なり合い、そして唇も重なり合った。
「ふっ」
 舌が遠慮なく暴れまくる。呼吸ができないほどに激しい。
 そして唇が離れた瞬間、苦しさに大きく息を吸い込む。
「捕食されても文句はないよな?」
 野性味あふれる表情。すっかり獲物を狙うハンターと化していた。
 自分を欲している、それが体をぞくぞくとさせた。
「セドになら、何をされてもかまわない」
 本当に食べてしまってもいい。セドリックの血となり肉となり、そして共に生きていけるのだから。
「それなら遠慮はしない」
 シャツのボタンを外され上着を脱がされる。その姿を目を細めて眺め、そして大きく口を開いた。
「え、いィっ」
 肩に食らいつき、そこにくっきりと歯型を残す。それはまるでマーキングのようだ。
 痛むその個所にざりっとした感触。それがそのまま下へと這い乳首へと触れる。
 まるで熟れた果実の味を確かめるように執拗になめて刺激する。
「美味そうだ」
「ん、せどぉ」
 真っ赤になったそれを満足げに眺めて口角をあげる。その仕草に胸が高鳴り下半身のモノが反応して立ち上がる。
 セドリックのものも見たくて下へと触れれば、ピンと爪で乳首をはねられた。
「ひゃん」
「だめだ。お前を十分に味わったらな」
 ゆっくり、じわじわと。
 そう口にし、にやりと笑う。
「いじわるっ」
 だが、セドリックがブレーズを味わうことも、下半身のモノを見ることもできなかった。
「ブレーズ、のどかわいた」
 うさぎを抱きかかえ、目をこすりながらリュンが起きてきたからだ。
「へ、あ、リュンっ、用意するから座っていて」
 慌てて服を下ろしてセドリックから離れる。そのとき、
「残念だ」
 と耳元でささやき、リュンの隣の席へと座る。
 水をコップに入れてリュンに渡して全部飲み終えるとセドリックと共に寝室へと向かった。
 一人になると椅子に座って顔を伏せた。
 冷静でいられたのが奇跡だ。本当は叫びたいくらいに動揺していた。
 胸がじくじくとする。そっと指で触れるとそこはまだセドリックの舌を覚えていた。
「ふっ」
 あまりの快感に身が震え、下半身が反応する。
 あれはただの生理現象であり深い意味などないだろう。
 だけど舌の熱さが、ぎらつく目が忘れられない。
「はぁ、僕も残念だよ、セド……」
 あのままリュンが起きてこなかったら後ろまで許していた。
 見たことはないがセドのアレが自分の中にと想像するだけで下半身が痛み出した。
「これ、処理してこよう」
 きっと今夜はセドリックが傍にいるだけで眠れない。意識をしてしまうだろうから。
 トイレで体を落ち着かせ、リュンの洋服を箪笥から取り出す。
 気持ちを落ち着かせるのには料理か裁縫にかぎる。ズボンの裾上げをしなくてはいけなかったので丁度良い。
 黙々とやり続けていくうちに、何やら温かくてふわふわなものに包まれた。しかも好きなにおいもする。
「セドのにおい……」
 ふふっと笑いふわふわのモノにすり寄ると、額に何かが触れた。

 そして、気が付けばブレーズはベッドの上で眠っていた。目が覚めて一番に驚いた。
「え、あれって夢じゃなかったの?」
 あの匂いと温もりは夢ではなっかた。途中で眠ってしまったブレーズをセドリックが運んでくれたのだろう。
 ベッドにはリュンとセドリックが眠っていた。