嫉心

 手を引いたまま、榊は何処へ連れて行く気なのだろうか。
 何も言わずに引かれるままについていけば、人けのない場所で止まった。
 大きく息を吸って吐いた後に「すまぬ」と手が離れる。
 怒りの矛先を何処へ向けたら良いのかが解らなくなってしまったのだという。
「あんな真似をした青木が許せぬ、許せぬのに!!」
「きっと幻妖のせいです。青木様も取り返しのつかないことをしてしまったことは、きちんと解っていらした」
 囚われてしまったせいで自分自身を抑えることができなかったのだろうと、平八郎が言っていたから。
「お前は……」
 榊は複雑な表情を浮かべて将吾を見る。危うい目にあったのにと言いたいのだろう。
 だが、自分の代りに怒ってくれた上役がいるから、青木も自分の過ちに気が付いたからもういい。
「榊様、ありがとうございました」
 助けに来てくれたこと、そしてかわりに怒ってくれたことに感謝の気持ちを込めて深く頭を下げれば、榊に強く抱き寄せられた。
「無事で、良かった」
 気持ちの込められたその言葉から、榊がどれだけ自分のことを心配してくれていたかが伝わってくる。
 自分では気が付かなかったが気持ちが張り詰めていたのだろう。その温もりが暖かくて安堵する。
「磯谷、青木が言っていたことは本当だ」
 榊の手が頬に触れる。大切な人だと思ってくれていたのか。
「え、あっ」
 からかうためにではなく、好きだからしていたこと。それを知って嬉しい感じている自分がいる。
 榊の唇が将吾の唇へと触れ、その優しい口づけを受け入れる様に唇を開けば、舌は入り込むことなく将吾の唇を舐めた。
「え?」
 拍子抜けした。それが顔にでてしまったか、榊が目を細めて口角を上げた。
「続きは私の屋敷で」
 今だ二人の顔は近く、胸が高鳴り頬が熱くなる。
 この人は凄く格好いい。上役として、そして一人の男として。

◇…◆…◇

 閨(ねや)へと入るなり唇を奪われた。
「んっ」
 待って欲しくて十徳を掴むがそれを無視するように舌が遠慮なしに口内を貪られる。
 散々乱され唾液が流れ落ちるのもお構いなしだ。
「はぁ、さかき、様」
 息が上がり蕩けた表情を浮かべる将吾を畳みの上へと組み敷いて襟を広げて肌蹴た箇所に口づけを落としはじめる榊に、待ってとその行為を止める様に手で榊の唇を塞ぐ。
「磯谷」
 邪魔されたことに不機嫌な表情を見せる榊にすみませんと謝った後、自分は汚れているからと言えば渋々と身を離す。
「別に汚れていようがかまわんのにな。まぁ、共に風呂に入るのも悪くないか」
 そういうと榊はいたずらっ子がするような表情を浮かべていた。
「え? 榊様」
「風呂の用意を頼んでくる」
 しばし待たれよと榊が部屋を出ていく。

 

 それから半刻あまり。
 機嫌よく風呂場へと連れて行かれて服を脱がされる。
 将吾と榊の身長はそれ程変わらないが横幅は違う。将吾は筋肉質で胸板が熱く二の腕も太腿も太い。榊はやせ形だが程よく筋肉が付いてり、とて綺麗な肉体をしていた。
 目を弓型に細めて舐めまわすかのように将吾の鍛えられた体を見る榊の目つきはいやらしい。
「榊様、助平親父の様ですよ」
 スッと榊の視線から自分を隠す様に目元に掌を向ければ、邪魔をするなとばかりにその掌を舐められる。
「あぁ。お前の体を見ただけで興奮するのだ。私は相当いやらしいのだろうな」
 その手を掴み、榊のマラへと導く。
「あっ」
 目を見開いて榊を見れば、口角を上げて将吾を見ていた。
 今までなら嫌悪感を抱いていただろう。だが、今はそんな榊が愛おしくてしかたがない。
「榊様」
 ちゅっと音をたてて首筋に口づけし火照る体を摺り寄せる。
「磯谷よ、そう煽らないでくれ」
 唇にひとつ口づけを落とした後、口筋に鎖骨へと口づけを落としていく。
「榊様、くすぐったい」
「ふ、そうか。ならば此処はどうだ?」
 分厚い胸板に飾られた突起を口と手で弄られて、びくっと体を震わす。
「んっ」
「感じる様だな」
 口に含んで吸い上げて舌で弄り。濡れて唾液まみれの胸がてらてらと光る。
 もっと弄ってとばかりに胸を反らす将吾に、意地悪な指は乳輪を撫でる様に円を描く。
「え、さかきさま」
 なんで触ってくれないのかという表情で見つめる将吾に、口元に笑みを浮かべて。
「触ってほしいのか?」
 と聞いてくる。
 自分に対して意地悪をする時の榊は本当に楽しそうだ。
 憎たらしいと思いつつ、愛おしいとも思ってしまう。
 どれだけ惚れているんだろうか、自分は。それを気づかされる。
「意地悪、しないでください」
 とその背に腕を回す。甘えるような真似を榊にしようとは。
「可愛い奴」
 と乳輪を撫でていた手は体を撫でながら下り、たちあがった下半身部分へと触れる。
「んっ」
「乳を撫でられてお主のマラが蜜をながしておるぞ」
 掌で包んで擦るたびにぐちゅぐちゅと音をたて羞恥心を煽る。
「あぁぁ……」
 快感によがり声をあげる将吾の、その唇に頬に首筋にと口づけを落とす。
 先ほどはくすぐったいと思っていた行為も、感じやすくなった体には快感しかない。
「ふ、ぁっ」
 たえきれずにはき出した欲は榊の手のひらに、ねっとりとした白濁を満足げに見る。
「なんだ、自分では抜いていなかったようだな。そんなに私にされるのが良かったのか?」
 達したばかりで惚けていた将吾だったが、榊の言葉と見れられたモノに羞恥に我に返る。
「な、別に、忙しくてやる暇がなかっただけ……、え、ひゃぁ!?」
 白濁を指ですくいとると、そのまま後孔を撫でる。
 入口のあたりでぬるぬるとしたものともぞもぞと蠢くものを感じて、それがあまりに変な感覚で背をぴんと張る。
「榊様、何を」
「ん、何って解るだろう? それにしてもかたいな……」

 出す以外に使ったことのないその箇所はかたく、中へと入り込もうとする指を拒む。
 男同士でまぐわうのに後を使うことは知っていた。
 だが、流石に自分のそこに榊のモノを入れることになろうとは思ってもいなかった。
「ひぃ、痛い」
 指の先っぽ程しか入り込んではいないのだが、今まで感じたことのない痛さに目尻に涙が溜まる。
「すまぬ」
 痛みを訴える将吾に、あわてて指が引き抜かれる。
「痛かったか」
 無理やり入れてしまって済まないと抱きしめて優しく髪を撫でられる。
「いえ、申し訳、ありませぬ」
 はじめて味わったせいでもあるのか、それに榊に甘えてしまっているせいもあるのか、どうしても痛みにたえきることが出来なかった。
「何故謝るのだ? はじめてなのだからな、無理にことに及んでお主に辛いおもいはさせたくない」
 だが次は痛がっても容赦なく初物を頂くと言われて将吾は真っ青になる。
「大丈夫だ。木崎先生にねぎりを貰ってたっぷりとお主の中を指と私のモノで乱してやろう」
 次の機会が楽しみだと笑う榊に将吾は嫌ですと首を横に振るえば、それを止めるかのように自分のマラを将吾のモノへと擦りつけた。
 たちあがるそれはとても熱く、そしてかたい。
「気持ち良いか、磯谷」
 ぐいと腰を掴み押し付ける様に擦りあわされて、その度に気持ち良くて腰が浮いてしまう。
「ん、あぁっ、そんなに押し付けられたら……」
「押し付けられたら何だと言うのだ?」
「あぁっ、ん、おかしくなるっ」
 濡れて擦れる度に卑猥な音をたて、かたくて熱いもは刺激されて体が甘く痺れる。
 頭の中は霧がかかったかの様に白く、快感だけが支配する。
「ふ、さかきさま、ともに」
 絶頂を迎えともにいきたいと榊の名を呼ぶ。
「あぁ、共に」
 びくびくと震え、白濁を互いにまき散らす。
 生暖かい互いのモノがまじりあい太ももや腹を濡らした。
 解放された時の気持ちの良い余韻に痺れる。
 そんな将吾を抱きしめ、
「待っていろ、洗い流すから」
 と桶で湯をすくいかけてくれる。その時、あらたな欲を生み出すかのように手が蠢いて将吾はつい甘く声を上げてしまう。
「ふふ、おぬしの身体は素直だな」
 可愛い奴だとしゃがみ込んで舌を這わせられて、将吾は慌ててその行為をやめさせようとするが、咥えて卑猥な音をたてながら下半身のモノを吸われ、快感にその身が善がり始める。
「ん、あぁ」
 もっと奥まで咥えて欲しくて榊を頭を抑え込んでしまう。
 それに応える様に榊も深くまで飲み込んでくれた。
「あっ、さかき、さま、もう……っ」
 直ぐに頂点を迎え、口の中へと放ってしまった欲は榊によって飲み干される。
「榊様、いけません」
 立ち上がった榊に将吾は慌てた様子でその頬を撫でる。
 そんな将吾に笑みを浮かべて頬を撫でる手を掴んで口づけた。
「好きな奴のを飲むのが悪いことか? ならばお前は私のを飲んではくれないのか」
 至近距離で上目使いで見られて、それがあまりにも色っぽくて将吾はくらくらとしてしまう。
「や、榊様」
 口づけが腕をたどり鎖骨に胸にと落とされて、未だに感じやすい体は反応を起こしてしまう。
「磯谷は厭らしくてたまらないな。可愛がってやりたいところだがまた今度な」
 次はもっと気持ち良くしてやるよと尻を揉みあげられてビクッと肩を揺らした。
「俺より榊様の方が厭らしいですよ……」
 湯船へと誘われて一緒に中へと入り、将吾が榊を後ろから抱きかかえるようなかたちとなる。
「ふっ、当たり前だ。お前が可愛くて目が離せなくなってから、何度も年が明けたのだぞ。その間、お前を抱くのをどれだけ我慢してきたことか」
 ひい、ふう、みいと指をまげていく。途中でいつ頃から想っていたのかを聞くのが恥ずかしくなりそれは止めた。
「だが、触るのまでは我慢できなかったな」
 と、今まで自分に対して性的なものと肉体的な嫌がらせをしていた理由はそういうことなのだろう。
「好きな人につい意地悪をしてしまうってやつですか?」
「まぁ、そんな所かな」
 ふふっと笑いながら言う榊にいい大人がとか思ったが、それはかろうじて口にせず顔を肩へと埋める。
 そんな将吾の頭を撫でながら、
「愛しているぞ、将吾」
 と耳元で囁かれてバッと顔を上げる。
 恥ずかしくて何も言えなくて耳を抑えながら口をパクパクさせる将吾に、啄むように榊が口づけをする。
「ん、榊様、駄目ですって」
 一気にのぼせあがって風呂から勢いよく起ちあがれば、湯船の中の榊がひっくりかえってしまう。
 ぶくぶくと湯の中へと変な体制で溺れる。
「うわぁぁ、さ、榊様!!」
 のぼせあがった熱は一気に冷めてその身を抱きしめて湯の中から助け出した。

 榊は一応許してくれたけれど、次にまぐわう時が楽しみだと言われ、溺れさせたことをネタに何かとんでもないことを要求されそうで怖いが、きっと願いを聞いてしまうだろう。