恋心
平八郎と仲直りをすることが出来た。一生、合わせる顔がないと思っていた気持ちを変えてくれたのは忠義だ。
どんなに彼の存在が自分の支えとなっただろうか。感謝してもしきれない。
報告がてらお礼にと美味いと噂の酒を手に忠義に会いに向かう。
道場へ続く門の前。男女が仲睦まじく会話をしている姿を見つける。
あれは忠義と可愛い娘だ。大きな体を丸めて照れている姿はよほどそのおなごに惚れているように見える。
好きなおなごがいたことなど知らなかった。もうよい年なのだ。そういう相手がいてもおかしくはない。
呆然と二人を眺めていると胸に鈍い痛みを感じる。それもこの痛みはつい最近味わったものに似ている。
まさかと自分の胸に手を押し当てると、胸の鼓動が激しく波打っていた。
きっと弟のように思っていた忠義が、知らない所でおなごと仲良くしているのがつまらないだけ。
そうに違いないと無理やり納得するが、気が付いている。本当は違うということを。
忠義に対する恋心はあまりに育ちすぎて無視できなくなっていた。
癒してもらった傷は、その本人に再び傷つけられた。それも平八郎の時よりも深くそして大きい。絶望的な思いに囚われる。
踵を返し、もと来た道を歩き始める。
きっとその恋はうまくいく。優しくていい男なのだ。好意を持たれて嬉しくないと思うおなごがいるものかと。
このまま恋が上手くいき、忠義から「想い人なんだと」紹介されても、笑って祝ってやれないだろう。それところが、嫉妬丸出しの顔をしてしまうかもしれない。
「……嫌だ、誰にもやれぬ」
そう、これが本心。だけど叶うことない願いなのだ。
「晋さん」
と背後から肩を叩かれ、振り向いた。
「た、忠義ッ」
「どうした? うちに来ようとしてくれていたんじゃないのか」
首を傾げて晋を見る忠義のその手を払いのけて歩き出す。
そんな態度を取る晋に、どうしたのかと忠義が後に続いて歩きだし、
「何かあったのか?」
と尋ねてくるがそれを無視して黙って歩く。
もうこれ以上ついてこないで欲しい。だから振り向くことすらしないで真っ直ぐ前だけを見る。
だがそのまま行かせてくれる気はないようで、忠義のがっちりとした腕が腰へとまわり晋を引き止めた。
「な、離せッ!」
顔を忠義の方へと向けると少し怒った表情を浮かべていた。
「嫌だ。何も言ってくれずに無視されたままなんて」
人目のある所で揉めたら目立ちそうだ。そう思った晋は向こうへ行こうと人けのない場所を指さす。
「わかった」
腰から腕が離れその代わりに手を繋がれる。黙って引かれるままに人けのない所へと移動する。
「で?」
手が離れ、今度は進路をふさぐように両腕をつく。近い距離にある忠義の顔を見ぬように顔を背け、
「お主がおなごといるところを見たぞ」
そうぽつりと言う。
「そうか、見ておいでか」
真っ赤になりながら頭をかく姿に絶望的な気持ちとなる。
「だからわしのことは放っておいてくれとッ!」
「飾り職人をしている幼馴染の嫁さんで」
同時に口にした言葉に互いに顔を見合わせ、
「何故そのようなことをっ」
「まさか! お主、不義密通(不倫)は重罪だぞ」
と再び言葉が重なり合う。
晋の言葉に忠義は力が抜けたとばかりにがっくりと肩を落とす。
「不義密通って……、晋さん」
向き合いながら腕を両方とられたままで。真っ直ぐ見つめてくる忠義から視線を外すには俯くしかなく。
「あんなに仲睦ましい姿を見たら、誰しもお主らが恋仲だと思うだろう」
といえば、自覚がないのかそんなことは無いと言う。
「嘘だ! 嬉しそうな顔をしておったぞ」
「あれは、頼んでいた櫛ができたのでつい嬉しくてな」
これが良いできなのだと破顔する。
「櫛、だと?」
男性が女性に櫛を贈るということは求婚を意味する。
そんな相手が別にいたということに動揺し立っていられなくてその場に崩れるようにしゃがみ込む。
「はは、そうか。お主にはそういう相手が別にいるのか」
好きになった相手に好かれぬ人生など、もうどうでもいい。
もう起ちあがることすらできない。生きる気力さえ失いそうだ。
「晋さん、違う」
「もうこれ以上何も言うな。聞きたくない」
両耳を手で塞いで話すことを拒否するようなしぐさをする。
「晋さん、聞いてくれ」
耳をふさぐ晋の手を掴む忠義の手。
「離せぇぇッ」
強く振りほどくように頭を動かせば、今度は強く抱きしめられて。手の甲に頬にと忠義が口づけていく。
「やめろ、嫌だ、いやぁ」
何故、こんな真似をするのだろうと、自分の想いは届かないのに触れ合うことが悲しくて辛くて涙が零れ落ちた。
もう嫌だと忠義の胸を強く叩けばやっと唇が離れ、涙の滴を忠義の指がすくいとる。
「好きなおなごが居る癖に。わしにこんな真似をするな」
「そんな者おらぬよ。晋さん、これを」
懐から袱紗を取り出し晋へと差し出す。それを受け取らずに顔を背ければ袱紗を開き中から取り出したものを晋の手に握らせた。
「龍……」
その見事な彫りに息を飲む。力強く彫られた龍が二匹絡み合いながら雲の上を泳ぐ。
「これは俺と晋さんだ」
「俺と、お主だと?」
龍を指さしながらそう説明する忠義をまじまじと見る。
一体どういうことなのだ。櫛に龍に見立てた忠義と自分を彫ってもらうなんて。
「おなごに櫛を贈るのと同じ意味だから」
それはつまり晋に求婚を申し込むとそう言っているのだ。
男色など珍しくないが、婚姻関係を結べるのは男女の関係だけで、それはつまり同じ意味で一緒に居たいと言いたいのだろう。
「俺とお主とでは、婚姻はっ」
そんなことは忠義とて百も承知。晋は動揺しついそんなことを口走ってしまった。
「そうだな。でも婚姻は出来なくとも俺の傍にいて欲しいと思っている。好きだ、晋さん」
と櫛ごと手を包み込み、真剣な目を晋に向けて想いを告げる。
嬉しさと失わずに済んだ安堵感と、色々と混ざり合って力が抜けていく。
倒れそうになる晋を寸前で忠義が抱きしめ自分の方へと引き寄せた。
一度は失うかもと覚悟していた大切なものがすぐ傍。
「俺も 、お主のことが好きだ」
そう照れながら告げて晋はそのまま忠義の胸へと顔を埋めれば、
「はぁ、良かった」
安堵したと、その身を強く抱きしめられた。
◇…◆…◇
歯列をなぞり舌を絡ませる忠義の舌を受け入れて絡めあう。
「ん、ぁ……」
既に何度も忠義の太く熱いモノを後で咥えたというのに、触れられるとすぐに身体は彼のモノを欲しがるのだ。
くちゅくちゅと水音を立てて口内を乱した後に、濡れた唇を舐めながら。
「晋さんの体はいやらしいな。また俺を欲しがるか」
と、指が摘まみぐりぐりと動かす。
「あぁ、ん、おぬしが、わしをそうさせッ……」
弄っていた口に含み歯を立てて吸い上げれば、体を善がらせはじめる。
それを嬉しそうに眼を細めながら見つめ舌先で突起する箇所を弄られた。
「馬鹿、そんなに舐めたら、痛い」
「だが、好きだろう? こうされるの」
唾液で濡れた色づく胸も蜜を流す下のモノも忠義の舌と指が好きで喜びを主張するのだ。
「あぁん、だめ、もう、いく」
指で亀頭を弄られてびくびくと身体が震えて欲を放つ。
深く息を吐いた後、すぐに放った箇所を綺麗にするように舌が蠢き、その動きが新たに欲を生み出す。
「んぁ……」
すっかり起ちあがってしまった箇所から舌が離れ。体を愛撫する手がゆっくりと下へとおりて太ももを撫でる。
もっと強く激しいものが欲しい。それを解っている癖に焦らすような動きをする。
忠義のアレの味を知ってしまった後の口が、はやく欲しいと疼きだす。
「はようお主をわしの中に」
そう指で入口を広げるように見せれば、その姿に興奮し忠義のマラが押し当てられて挿し込まれる。
「はぁ、んぁぁ……、ぁ」
ぶすぶすと根の奥まで入り込み二人は一つになる。すると忠義は幸せそうにその接合部分を撫でるのだ。
「嬉しいか?」
そんな表情をする忠義を見ると晋も幸せな気持ちになる。
「あぁ。だって貴方のことをずっと欲しいと思っていたんだ。繋がりあえることがすごく嬉しい。ずっとこのままでいたいと思うくらいに」
「はは、嬉しいが生活するのに困るから駄目だぞ」
「そうだな」
と忠義の唇が晋の唇に触れる。
「んぁぁ、ん」
口づけをしながら中を激しく突かれ、我慢できない晋の欲が直ぐにはじけてしまう。
抜かずに何度もいかされ、中に何度も放たれて。中から抜き取られる時に収まりきれない精液が太ももを伝い流れ落ちた。
「や、でちゃう」
忠義が自分を愛し放ったモノだ。後で掻き出すことにはなるが今は流れ落ちてしまうのが嫌でおもわず声をあげれば、後から抱きしめる忠義に「可愛い」と耳元で囁かれた。
晋は忠義と向い合せになるために身体をよじり、弾力性のある厚い胸板に頬を摺り寄せれば忠義の顔がだらしなく緩む。
「もう忠義なくして俺は生きていけん」
「……晋さん、そんな可愛いことを言ってくれるな。またお主を欲しくなる」
背中を撫でる手が下へと落ちていく。
「もうお預けだ。俺は眠い」
とその腕をぴしゃりと叩く。
既に相手にしてやれるほどの体力はなく、今はその腕に抱かれて眠りたかった。
「わかった。おやすみ、晋さん」
下へと落ちた腕は腰のあたりで止まり晋を包み込む。
「あぁ」
とても心地よい腕の中で目を閉じればすぐに眠気がやってきて。幸せだなと微笑んで眠りへと落ちていった。