兄と幼馴染

 淡い桜色の光を放つ、その時が平八郎が特別な力を発揮している時。
 人を殺めぬという空玄の言葉は晋の心の蔵を貫き、その命を奪わなかったことで実証された。
 ただし幻妖によって体力を消耗し意識を失っているようだ。
「兄上は大丈夫なのか?」
 はじめて人に刀を向けた。それが自分の身内だということに今更ながらに怖くて震えがくる。
「でぇ丈夫だろ。心の蔵はなんともねぇよ」
 ほらよと襟をつかんで胸元を開いて見せる。貫いた筈の箇所は傷一つない。
「あぁ……」
 良かったと胸をなでおろし座り込む平八郎に、
「ほら、身なりを整えておけよ。俺は晋さんを寝かせてくっからよ」
 身なりと言われ、未だ肌蹴たままで下帯もない状態に顔を赤らめる。
「わかった。頼んだぞ」
「おう」
 部屋を出ていく正吉を見送り身なりを整える。
 晋に触れられて嫌悪感をもちながらも、性的興奮は収まらずに身体は高ぶっていた。
 あの時、正吉が家へとこなければ晋の手でイかされていたことだろう。
 血のつながりはなくとも平八郎にとっては兄だ。兄弟でまぐあうなんて、思いだすだけで怖て自分自身を強く抱きしめた。

 しばらくして平八郎の元へ戻った正吉が、
「晋さん、顔色も良いからでぇ丈夫だろうよ」
 と畳の上へ腰を下ろした。
「すまぬな、正吉」
「良いって。それよりも腕、すっかり痕になっちまったな」
 今は平八郎の腰を縛る帯で両手を封じられていたために擦れて赤くなってしまった。
 それを掴もうと正吉が手を伸ばすが、その痕を見せぬように背中の後ろへと隠してしまう。そうでもしないと正吉が気にしてしまうから。
「そのうち消えよう」
 自分は気にしていないから正吉も気にするなと、そう笑みを浮かべて見せれば。
「隠すんじゃねぇ。二度とこんな目に合わせねぇ様に俺の目ぇに焼き付けておきてぇんだ」
 だからと平八郎の腕を掴もうと手を伸ばす正吉のそれを避けようと身体をひねれば、均衡が崩れて畳の上へと押し倒されるかたちとなる。
 互いに顔が近く、その状況に目を見開き正吉を見つめる。
「すまねぇ」
 あわてて身を起こそうとするが、
「正吉」
 それを引きとめたのは平八郎の手だ。
 あの時感じた疼きと熱は一先ず収まったとそう思っていた。なのに今、正吉を近くに感じて再び体に火をつけたように身を熱くさせた。
「鎮めてくれるって言った、よな?」
 そう口にすれば、今度は正吉が目を見開いて平八郎を見た。
「言ったよ。恐ぇ思いをしたのに、おめぇはでぇ丈夫なのかよ」
 と聞かれ、平八郎は小さく頷いた。
「あぁ」
 正吉になら何をされても怖くない。どうしてと聞かれたら答えに窮しそうだが、そう思うのだ。
「そうかい。で、おめぇは俺にどうしてほしいんでぃ?」
 顔を近づけて覗きこむ正吉に、平八郎は顔を赤らめて俯きながら、
「ここに触れてはくれまいか」
 と自分の下半身へと触れた。
 ひゅっと息を吸い込む音、そして髪をかきむしる正吉の頬は真っ赤だ。
 珍しいこともあったものだ。そんな顔をするなんて。
 そんな正吉をみていたら、こちらまで顔が熱くなってきた。それを冷まそうと手で顔を仰ぐ。
「お主なぁ、照れるなら言わせるな」
「わりぃ。だってよ、予想外に可愛いことをするもんだからさ」
「なんだよ、それ」
 唇をとがらせ、正吉のおでこに自分のおでこを当ててぐりぐりとこすり合わせる。平八郎にそうされると正吉は降参だと両手をあげるのだ。
「おめぇのそれは痛ぇんだよ」
 この石頭とおでこを指で小突かれた。
「さてと、そろそろしようぜ、平八郎」
 脱げよと、目を細めてにぃと口角をあげて正吉が笑う。その仕草に胸が高鳴りつつ平八郎は一糸まとわぬ姿となる。
 その姿をじっと見られ、恥ずかしいともじもじする平八郎の両腕を掴み、正吉が自分の胸へ抱きしめた。
「俺の首のあたりに顔を埋めてな。今、気持ち良くしてやっから」
「うん」
 言われたとおりに顔を埋めれば正吉のにおいがしてぞくぞくとする。男のにおいと微かに薬のにおいがする。
 露わになった雄の部分を包み込むように手が添えられ、その暖かさと感触にびくっと体が震え身体に力が入ってしまう。
「んっ」
「平八郎、力を抜きな」
 平八郎の耳に頬にと口づけをしながら手がゆっくりとマラをすりあげる。
「まさきち」
 じわじわとくる快楽に体の力が抜けていく。はぁと息を吐きながらその手の動きに感じ入る。
 硬くなってたちあがったモノが強い刺激を欲しがりはじめて。平八郎促すように正吉の首筋のあたりにちゅっと音を立てて口づけする。
「おめぇ、さっきから」
「ふぇ?」
 顔を赤らめながら言う正吉の、言いたいことが解らず首を傾げれば。何故か睨まれてそのまま布団の上へと押し倒された。
 もしかして首筋あたりに口づけをしたことを怒っているのだろうか。
「おめぇが可愛すぎるから悪ィんだぞ」
 と、足を掴んで広げて股間へと顔を埋めた。
「え、正吉!?」
 躊躇うことなく自分のマラを咥える正吉に、平八郎の方が驚いてしまう。
「だめ、汚いって」
 それをやめさせようと体を起こして正吉にやめさせようとその体を押すけれど、くちゅっと音をたて吸われ身体が飛び跳ねる。
「や、あ、あぁ……っ」
 その快感に抗えるわけもなく。正吉にやめさせようとしていた手は強く襟を掴んだ。
「なんでぇ、やめさせようとしてたんじゃねぇの?」
 その手にくすっと笑い、色気を含んだ目で平八郎を見ながら意地悪なことを云う正吉に、
「意地悪しないで」
 と潤んだ目を向ける。
「わかったよ」
 口から出されたものは蜜と唾液で濡れており、それを舌が拭うように動く。
 裏筋に先っぽへと触れた後、もう一度口に含まれて動かされて。
 頂点を迎えた平八郎の身体がビクッと跳ね、正吉の口の中へと白濁を放つ。
「ふぁッ」
 なんともいえぬ解放感。放った瞬間に感じるものはたまらなく気持ちがいい。
 惚けた顔で正吉を見れば、平八郎の放ったものを飲み干した。
「正吉、そんなもん飲んだら腹を下すぞ」
「あぁ? 別にでぇ丈夫だろ。平八郎のだし」
 おめぇは健康体だしなと鼻をつままれ。実際はどうなのかわからないが医者の正吉が言う言葉だからと納得する。
 その後、濡れた箇所をぬるま湯で温めた手拭いで綺麗に拭いてもらい、寝間着を着せられて休んでいろと寝かされた。
「正吉、ありがとう。なんか色々とすっきりしたというか」
「そうかい。そいつぁ、よかった」
 優しい声と暖かい手が平八郎を包み込んで。きゅっと胸の奥が締め付けられる。
 それは昔から正吉にしか感じたことのないモノだ。
 ぎゅっと胸を掴んだままの平八郎に、一体どうしたんだと正吉が顔を覗き込んでくる。
「なんでもないよ」
 と言うとその胸に顔を埋めれば、頭をぽんぽんと叩いてそのまま抱きしめる様に手を添えてくれた。