カラメル

友達になろう

 吾妻に電話を切ってしまった事を謝って、それから自分の気持ちを伝える。
 何度も心の中で繰り返し、いざ吾妻の所へ!
 そう思っていたのに、保健室にも屋上にも吾妻の姿は無く。
 川上君なら居場所を知っているかも知れないと教室へ向かったが、その彼の姿すらない。
 一体どこにいる?
 はやく見つけないと決意が揺らいでしまいそうで、俺は吾妻へとメールを送り居場所を尋ねる。すると直ぐに返信があり、生徒会室で試験勉強をしている事を知った。
 何故、生徒会室でって思ったけれど、川上君がどうにかしてくれたのかな?
 それにしても、昼休みまで勉強ってどんだけ真面目なんだろう。俺には考えられない、昼休みくらい勉強から離れたいけどね。
 生徒会室へ向かいドアをノックすると、
「入ってこいよ優」
 中から桂司兄ちゃんの声がした。
「え、なんで?」
 だって、吾妻がそこにいる筈なのに。
 俺はドアを開けて中へはいれば、そこには生徒会長の曽我さんと桂司兄ちゃんそして川上君と吾妻の姿があり。
 下駄箱での険悪なやりとりから、一緒に勉強をする仲になっていて驚いた。
「そうか、お前にはまだ話をしてなかったな。俺達こういう仲になりました」
 と桂司兄ちゃんが吾妻の肩に手を組み引き寄せる。
「ちょ、桂司さん」
 やめてくれと離れようとする吾妻に笑いながら桂司兄ちゃんが更に強く引き寄せる。
「優、助けろ」
 ヘルプと手を俺の方へと向ける吾妻に川上君が「助けてあげてください」と目で訴える。
「はいはい、桂司兄ちゃんわかったから」
 やめてあげてねと二人の間に割り込めば、俺達を見ながら曽我さんが楽しそうに笑う。
 柔らかそうなまんまるなボディーを持つ曽我さんは、いつも優しげな笑顔を浮かべている。
 癒される、和むと、生徒たちから愛されている。
「仲良しだよね、本当」
 いつもこんな風なんだよと曽我さんが俺に教えてくれる。
「へぇ……」
 吾妻の、また知らない一面を見た。
 じっと吾妻を見ていたら、ふいに目が合い、口角を上げる。
「なぁ、折角だし一緒に勉強するか?」
 あ、絶対にわざと言っているな。
 俺があまり勉強が好きでない事は、図書室で一緒に勉強した時に知られている。
「優、あんまり頭よくねぇんだろ?」
 ズバッと言われてグッと喉が詰まる。
 桂司兄ちゃんが横で吾妻の言葉を肯定するように頷いている。
「……でもさ、俺、勉強道具持ってないし」
 そうだ、俺は手ぶらだった。だから勉強をしたくても出来ないぞって、手ぶらな事をアピールするように手を振る。
 しかも皆、俺とは違う学年だしね。
 だが、桂司兄ちゃんは意地悪な笑みを浮かべて俺を見ていて。なんか嫌な予感がするなって思っていたら、
「実はさ、曽我のノートパソコンに良いモノが入っているんだ」
 なんて言いだして、曽我さんが俺の方にノートパソコンを向ける。
「これね、歴代の学年別のテスト問題をいれたフォルダーなんだ」
 と、画面を指差しながら説明を始める。そこには学年別のフォルダーがあり、更にクリックするとエクセルのファイルがあった。
「これは生徒会に代々受け継がれているものなんだ」
 生徒会特権の一つだよと、試しにファイルを開いてくれた。
「類似する問題とか出てくるから重宝するぞ」
 なんて桂司兄ちゃんは言うけれど、問題を見た瞬間に俺は目を背けた。
「おいおい」
 呆れ顔の吾妻と桂司兄ちゃん、そして苦笑いを浮かべる川上君だ。
「勉強は放課後に真一たちとやるから。だからちょっとだけ吾妻良いかな?」
 話があると言えば、
「話? じゃぁ、ちょっと休憩ってことで」
 と屋上へ行こうと歩き出した。

 屋上に行けば吾妻の姿に驚いた生徒たちが逃げるように去っていく。あぁ、また変な噂がたちそうだなと思いつつ、俺と吾妻は奥の目立たない位置まで移動する。
 昨日、途中で電話を切ってしまった事を謝れば気にするなと言ってくれた。
 理由を聞かれたら困ってしまうので何も聞かれずにすんで良かったと思っていれば、ふいに唇に柔らかいものが触れる。
「んっ」
 いきなりのキスに驚き、そして吾妻と近い距離で目が合ってドキドキする。
 抵抗することなくキスを受け入れたら、指を絡められ深く口づけられた。
 そのキスにとろけてぼんやりとしていたら、唇が離れて抱きしめられて。俺の太ももに当たる吾妻のかたいモノを感じた。
「え、ちょっと!!」
 それは同じ男だから嫌でも解る性的現象。
「この頃のお前、マジでやべぇよ」
 吾妻の人差し指が唇をたどり、熱のこもった眼が俺の目を見つめる。
 はぁと息を吐く吾妻から妙に色気を感じる。
「あ、吾妻」
 非常に危険な予感がする。
「……ヤりてぇ」
 熱のこもった色っぽい声で言われ、俺の熱は一気に上がる。
「だ、駄目、絶対にダメ!!」
 と、指でバッテンをつくる。
「イイじゃねぇかよ」
 顔を肩に押し付けてスンスンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐ吾妻に、俺は駄目だと言い続ける。
 まだ気持ちも伝えていないのに。
 それなのに、俺達は何度もキスしている。しかも、吾妻は更に先へと進みたがっていて、その気持ちに流されてしまわぬように意志を伝えねばならない。
「あのね、吾妻、聞いて。俺はお前と友達になる所からはじめたい」
 俺の言葉に複雑な表情を浮かべる。そりゃそうだよね。吾妻は俺と恋人同士になりたいんだもの。
「どうして?」
「俺、はじめの頃は吾妻の事怖くて仕方がなかったんだ。だけどね、吾妻の事を知るにつれてもっと仲良くなりたいって思ったんだ」
 吾妻は黙ったまま俺を見ていたので、そのまま言葉を続ける。
「俺の事好きって吾妻は言ってくれた。だけど俺はまだ自分の気持ちがわからないんだ。だから……」
 吾妻の表情が険しいので声がどんどん小さくなっていく。やはり友達になるのは無理なんだろうか。
「友達になるところからはじめたいって事は、それ以上の関係になる事もあるってことだよな?」
 そう吾妻に聞かれ俺の胸がドキッと高鳴る。
 友だちで終わるのでなく、そこからはじまるというのか。
「うん」
 吾妻の事をもっと知るようになったら、この気持ちがどうなるかわからない。
「良いぜ、友達になろう。学校だけでなく他でも優と一緒に居られるんは嬉しいし。それに今まで通り押させてもらうぜ」
 覚悟しとけよとニィと笑う吾妻はかっこよくて、ドキッと胸が高鳴った。
 ――もしかしたら友達になった方が貞操の危機?
「じゃぁ早速だけど、試験が終わったら一緒に遊びに行こうぜ」
「あぁ」
 折角、吾妻と友として遊びに行くのに、不安がっていて構えても仕方がない。
 楽しむことが第一。そう俺は不安な思いを頭から追い出して、吾妻に楽しみだねと微笑んだ。