マランタンデュ
 食事を終えてしばらくしてからお暇をする。重い気持ちも今は軽くなり、楽しいかったという余韻しかない。
             しかも亮汰が結婚しないとわかり、気分が晴れ晴れとしている。手を伸ばせば届く、それが気持ちを膨らませる。
             バス停まで向かう途中、亮汰に手をつかまれた。
             手を掴まれた。
            「なぁ、マンションに帰ってきてよ」
             その言葉に、一瞬ためらう。
            「俺は亮汰にあんなことをしたんだぞ?」
             勝手に腹を立てて襲うような奴だ。一緒にいたくはないだろう。
             それなのに亮汰は手を離してはくれなかった。
            「亮汰、離して」
            「隆也さんは別だから」
             それはどうとらえるべきか。問うように亮汰を見つめる。
            「いつでもしていいってことだよ」
             恥ずかしそうにほほを染めて顔をそむけた。
            「え、それって……」
             もしや、亮汰も隆也と同じなのだろうか。そう思ったところに、
            「お互いに恋人ができるまでだからな」
             そういわれてしまう。
             いわゆるセフレということか。喜びから一気に奈落の底へ。
             だがここで断れば亮汰は別の誰かと抱き合うだけだろう。
             それだけは嫌だ。亮汰はもう子供ではない。それに結婚しないのだからあきらめる必要はなくなった。
             兄ではなく一人の男として見てもらえるようになりたい。
            「また、してもいいってことか」
            「隆也さんならいいよ」
             身体だけじゃない。心も必ず手に入れる。
            「マンションに帰るよ」
             その言葉に亮汰がホッと息を吐く。
            「その前にホテルで清算してくるよ。マンションで待っていて」
            「あぁ。早く戻ってこい」
             帰る場所はここ。そういっているかのように亮汰は自分の胸を拳を作り叩いた。
             またここに帰ってこれた。ドアの前に立ち、実感する。
             このドアを開ければ亮汰がいる。それがうれしくて口元が緩む。
             ドアホンを押すと鍵を開ける音が聞こえてドアがゆっくりと開いた。
            「おかえりなさい、隆也さん」
             スウェットの上下をきた亮汰が出迎えてくれて、リビングへと向かう途中、後ろから抱きしめた。
            「隆也さん」
            「たった一日離れていただけなのにな。ここに帰るとすごく安心する」
            「そうだろう?」
             にやりと笑い、拳で胸を軽くたたかれた。
            「隆也さんが出て行ってから、どうやったら俺のところに帰ってくるかなってずっと考えてた」
             甘えるように上目使いで見つめられ、胸が高鳴った。
             これだけで帰ってくる価値がある。
            「亮汰」
             肩に手を置くと亮汰の身体がかすかに揺れる。
             もしかしてと亮汰を見れば、ほほが赤く染まっていた。
             隆也を意識している。それに気が付いてしまったら自分を止められなかった。
             唇を重ね、舌をいれる。中で動かせば、それに応えるように絡みあい、気持ちが高ぶり下半身がじくじくとしはじめたとき。
            「はぁっ、隆也さん、まって」
             手を身体の間に差し込み止められてしまう。
             なぜ止めるんだと亮汰を見れば、顔をそらされた。
            「まずはお風呂。触りあうのはその後な」
            「それなら一緒に入ろうか」
            「俺はもう入ったから」
             もしやこうなることを望んでいたのだろうか。
             隆也が何を考えているのかに気が付いたか、顔に掌を押し当てた。
            「早くはいらないと、寝ちゃうからな」
            「わかった。亮汰、起きて待っていてね」
             かるく唇にキスをすると、恥ずかしそうに手の甲で唇を隠し、さっさと行けと背中を押される。
             今、どんな気持ちで隆也を待っているのだろう。それを想像するだけで顔は緩んでしまう。
            「だめだ。だらしない顔は」
             両頬を叩いて気を引き締める。
             だが、浮かれてしまうのはしょうがない。亮汰があまりに可愛いものだから。
             
             きつい目元が真っ赤に染まっている。
            「ここ、柔らかいね。自分でほぐしたの?」
            「ん、そんなこと、きくな」
             亮汰は受け入れる側の方なのか。この中に自分以外に誰を受け入れたのかと嫉妬してしまう。
            「はぁ、もう、平気だから」
            「ダメ。質問に答えてない。ねぇ、何人の男を咥えたの?」
             亮汰の良いところにあたり、身体が跳ねる。
            「ここは、許してない、から」
            「亮汰の初めて、俺が奪っていいの?」
             恋人ではなく、ただの従兄でしかない自分が、と。
            「隆也さんならいいって、言った」
             亮汰の腕が首に回り引き寄せられる。
            「初めては隆也さんにって」
             そういってニカっと笑う。
             本当に心を惑わせてくれる。
            「亮汰ぁ、そんな可愛いことを言ってくれるなよ」
            「ん、嬉しいのか?」
             おっきくなってるぞと足を動かして下半身のモノをなでる。
            「ちょっと、煽らないで」
            「もう、余裕がないんだよ、俺が」
             確かに膨れ上がっているモノが、たらたらと蜜を流していた。
            「そうだね」
             とはいいつつ、自分も余裕はなかった。下を脱ぐと亮汰の視線を感じた。
             期待されているのか、亮汰の後孔にかたいモノをおしあてると、ふるりと震えた。
            「はぁ、たかやさん」
             ほしい、見つめる目がそううったえている。
            「亮汰、お兄ちゃん、だろ?」
             この前みたく呼んでよと、唇を指でなぞると、目を見開いて顔を真っ赤にする。
            「ほら、言わないと、入れてあげないよ」
             目を細めて口角を上げると、亮汰がもごもごと口を動かしてため息をつく。
            「意地悪なこと、しないで」
            「そんなこという子にはあげないよ?」
             押し当てていたモノを離すと、亮汰があっと声を上げた。
            「どうする、亮汰」
            「隆也さん……、隆也お兄ちゃん」
             お兄ちゃんの部分はもごもごとしていたが、まぁ、今はそれが精いっぱいだろう。
            「よくできました」
             足を開き、隆也のそそり立つモノを挿入する。
            「ひぃっ」
             少し狭かったか、亮汰の顔が辛そうだ。
            「亮汰、大丈夫か」
            「だいじょうぶ、だから、やめないで」
            「ん、すぐによくしてあげるからな」
             奥までつながり、それに亮汰がほっと息を吐く。
             そこまでだ。理性を保てたのは。
             あとは欲のまま、亮汰の中を乱した。
             とろんと蕩けた表情を浮かべた亮汰は、自然と隆也のことをお兄ちゃん呼びしていた。
            「あぁっ、隆也お兄ちゃん」
             ぴゅるっと白濁が飛び散り身体を濡らす。
            「亮汰、上手にできたね」
             中から抜き取り、ベッドへと横になると、亮汰が身を起こした。
            「隆也さんって、意外と良い身体をしているのな」
            「何、中年太りしていると思ってたの?」
            「だって、前にしたときは脱がなかったから。隠しておきたかったのかと思って」
             少しでもかっこいい従兄(じゅうけい)でいたいから、そこらへんは気を付けていた。
            「亮汰に幻滅されたくないからね」
            「そうだな。だらしない身体をしていたら空手道場に連れて行ったかも」
             流石に空手は無理だなと、気を付けていてよかったと胸をなでおろすと、亮汰がにやにやとしながら隆也の腹筋を撫でた。
            「ん、亮汰、くすぐったい」
 
             熱はまだ残っていて、はぁ、と息を吐くと、亮汰が隆也にキスをする。
            「かっこいいだけじゃなく色気もあるよな、隆也さんって」
 
             そのまま抱き着いて胸に頬をくっつける。
 
            「亮汰のほうこそ、かっこよくて色っぽいよ」
            「ん……、そういってもらえて、うれしい」
 
             髪をなでていると、そのうち寝息が聞こえてきた。
 
            「寝ちゃったか」
             自分の腕の中で眠る姿に、幸せを噛みしめ隆也も目を閉じた。
             亮汰が生まれる日が楽しみだった。自分には姉しかおらず、弟か妹が欲しかったからだ。
             はじめて会った亮汰は小さくてとてもかわいい、マシュマロみたいに柔らかなほっぺをしていた。
             初めて指を握りしめられたときは、すごくうれしかった。
             言葉を覚え、にーにと呼ばれるようになり、後をついて回るようになった。
 
             かわいくて、いとおしくて、暇さえあれば亮汰に会いにきた。
            「たかやおにいちゃん、だいすき」
             ほっぺたをくっつけて、そういわれるたびに、気持ちが高ぶり抱きしめた。
             母親と伯母が、仲良しね、本当の兄弟みたいと口にするたびに、兄貴面をしたものだ。
 
            「すごくおいしいよ」
             口に食べかすをつけながらおやつを頬張る。失敗しても亮汰はまずいと言わない。全部平らげて、
            「またつくってね」
             約束だよと指切りをした。
             はじめて性に目覚めたときは、顔を真っ赤に染め、目に涙を浮かべて、
            「隆也お兄ちゃん、俺の身体、おかしいんだ」
             と綺麗な色を晒し、それを隆也の手で色つかせた。
             可愛いくてピュアな亮汰を汚してしまいそうで逃げたというのに、今、自分の腕の中にいるのだ。
            (亮汰、愛してる。だから俺のものになって……)
             二度と離したくない。自分の中に閉じ込めておきたい。亮汰が望まない限りはしてはいけないことだとわかっていても、そう思わずにいられなかった。
<結婚編・了>