甘える君は可愛い

社員食堂で休息を

 旭日へと想いに気づいてしまい、結局、ご飯に誘うこともできずにフロアを出る。
 普段はエレベーターで下の階へといくのだが、八潮に会えないかと下のフロアを覗くために階段を使う。
 下の階にある喫煙室。そこで八潮の姿を見つけた。
 以前は上の階だが自分も喫煙室を利用していた。今は煙草をやめ、近寄ることすらなかったので、随分と久しぶりだ。
 ドアを開けると煙草の匂いがして、口の中がむずむずとする。
「おや、一服かい?」
「いえ、八潮課長の姿をみつけたので」
「えぇっ、吸わない人には辛いでしょ」
 外で少し待っていてといわれ、ドアを開けて外へと出た。
 また吸いたいなと、誘惑されそうになり、折角、一年我慢できたのだから我慢だと首を振るう。
「外まで匂ってた?」
 煙草の匂いが嫌いだと思われたか、そうじゃないと伝えて、以前は煙草を吸っていたことを話す。
「あぁ、やめたんだ。すごいねぇ。僕はだめだなぁ」
 場所を変えようと、八潮の手が夜久の腰へと触れる。
 それがさりげなく、相手が八潮だからか、妙にドキドキとする。
「あ、ごめんね。セクハラになっちゃうから気を付けているんだけど」
 馴れ馴れしいよねと腰から手が離れるが、
「いえ。男の俺でもドキドキしました」
 と素直に口にする。
「あはは。可愛いことを言ってくれるね。少し、お話しようか」
「はい」
 促されるまま歩き出す。階段をもう一つ下り、向かう先は社員食堂だった。
「え」
 肩が強張る。
 そこに八潮の手が優しく触れた。
「いこう」
「は、はい」
 別に八潮と話をするだけだ。だが、旭日と女子社員が話している姿が頭に浮かび、足が竦んでしまう。
「旭日君はもう帰ったみたいだね」
 中にはいないよと、まるで心を読んだかのように言われて八潮へと顔を向け
 食堂の中を見わたすと、確かに旭日の姿はなく、ホッと肩から力が抜けた。
「もしかして、旭日君と自動販売機を殴っていたことと関係あるのかな?」
「はい。俺、好きなんです」
 そう、口にする。
「え、好きって」
 と背後から声がして、後ろを振り向くと、そこに旭日の姿がある。
「あ……」
 まさか話しを聞かれるなんて。
 「これは、違う意味でっ」
 立ち上がるときに勢いよく引いたせいで、椅子が倒れて音をたてるが、気にしてなど居られぬほど、動揺していた。
 旭日の表情が強張っている。いきなり男に好きだと言われて、気持ち悪いと思わない訳がない。
「そうだよね、言い訳にしか聞こえないか」
 こんな形で聞かれたくはなかった。
 声が震えてしまう。沈黙が夜久の心を締め付ける。
 ここから逃げてしまいたい。すると八潮がたちあがり肩を抱く。
「そんな怖い顔をしないでよ、旭日君」
 やはり男に好きと言われて嫌悪感を抱いたか。
 目頭があつくなり、泣くまいと必死にこらえる。
 こんな顔を旭日にみせたら、余計に嫌われてしまうだろう。
 笑顔を向けて、なんでもないよという態度をみせないと。
 だが、旭日の顔を見るのが怖い。
「ごめん……」
 必死に作った笑顔を旭日に向ける。目の前の彼は怖い顔が更に増していた。
 あぁ、やはりそうか。
 想った通りの反応に、我慢できずに涙がこぼれ落ちた。
「くぅ」
「夜久君、泣かないで、違うから」
 腕を掴まれる。それは八潮のものではなく旭日のものだ。
 あっと思った瞬間に、身体は旭日の腕の中へと抱きしめられていた。
「どう、して?」
 驚きに目を見開けば、親指が涙をぬぐう。
「あの、八潮課長。後は引き取りますんで」
「うん。それがいいかも。じゃぁ僕は戻るよ」
 八潮が食堂を去り、旭日と二人きりになる。
「旭日君、俺」
「言わないでください」
 言葉をさえぎられてしまう。告白もさせてはもらえないのか。
 やはり男は論外なのだろう。もう、旭日と話をすることすらできないかもしれない。
「わかった」
 手で胸を押し、旭日の身体を引き離す。
「さよなら、旭日君」
 涙がでそうだったが、折角、旭日がふき取ってくれたのだ。
 ここでは泣くまいと無理やり笑顔を作る。
「嫌です、さよならなんて。貴方が八潮課長のことが好きでも、俺は……」
 そこで、なぜ、八潮課長の名前がでてくるのだろう。
「違うよ、あの好きは旭日君に対していった言葉で」
 互いに目が合う。
 つい、口にしてしまった。朝日に対する想いを。
「あの、これは」
「嬉しいです」
 目の前にいる彼は目を細めて口元に笑みを浮かべていた。
「旭日君」
「夜久さん、俺も貴方が好きです」
 身体じゅうからいっきに熱があふれでる。そんな感覚だ。
 キャパオーバー。足が震え力が抜ける。
「あ、夜久さん!」
 くずれそうになる寸前で、旭日の腕が腰に回り支えてくれる。
 息がかかりそうなほど、距離が近い。
「大丈夫ですか」
「人って、驚きすぎるとこうなっちゃうんだね」
 照れ笑いをし、旭日の頬へ手を伸ばす。
 だけど自分だけじゃない。旭日の頬も熱かった。
「夜久さん」
 愛おしそうに見つめ、そして唇が触れた。
 舌が口内へとはいりこみ、撫でていく。
 うっとりとそれを受け入れ、くちゅくちゅと水音をたて、互いの舌を絡めあう。
「ん、やくさん」
 普段はキツイ目元がたれて、ほんのりと赤く染まって色っぽい。
「は、あ」
 蕩けるようなキスに頭の中がかすみがかる。
 熱が伝わり、芯がしびれ、下半身のモノがじくじくとしはじめた。
「キスが気持ち良くてたっちゃいましたね」
 唇が離れ、ぺろりと旭日の舌が夜久の唇を舐める。
「んあ?」
 ぼっとしながら旭日を見れば、ぐりっと下にかたいモノを押し当てられて、一気に我に返る。
「へ、あ」
 視線は互いのモノへとうつり、それは興奮してパンパンに張りつめていた。
「抜きませんか、一緒に」
 大きな手が夜久の膨れた箇所へと触れ、その瞬間に身体がピンと張る。
 こんな状態で帰れるはずもなく、その言葉にこくりと頷いた。
「ここじゃ、誰がくるか解らないので更衣室へいきましょう」
 身体がふわりと浮いた。
「え、旭日君!?」
 お姫様抱っこをされている。
「ちょっと、これ、恥ずかしい」
「今のところは誰もいませんから」
 ね、と押し切られて連れて行かれる。
 夜久はあきらめてあつい胸板に頬をくっつけた。
 中にはベンチがあり、旭日が先に座り、自分はその上に座るかたちだ。
「俺の、ズボンのチャック、開けてください」
「俺が?」
「はい。お願いします」
 ドキドキとしながら手を伸ばし、チャックを下ろすと、大きなモノがぐんとたちあがっている。
 体格と同じで下半身のモノも随分と立派だ。
「なんか、狡いなぁ」
 自分は顔もここも並みだから。指で先っぽをぐりっと弄ると、ビクッと旭日が震える。
「夜久さん、だめですよ。一緒に、ね?」
 手を掴まれて、指が絡み合う。
「それじゃ、俺のもして」
 首を傾げると、旭日がカっと目を見開いた。
「あぁ、もうっ、煽らないでくださいよ」
 このまま抱きたくなりますと、真っ直ぐに見つめられて熱が上がる。
「あう、そういう意味じゃ……」
「わかってます。では、失礼します」
 とズボンのチャックに触れて下ろしていく。
 旭日の前に晒され、元気よくたちあがる。素直な反応に、恥ずかしくなる。
「イイ子ですね。俺を見て喜んでくれるなんて」
 愛おしそうに撫で、そして口づけを落とす。
「ひゃん、旭日君、俺には駄目っていったのに」
「そうでしたね。でも、嬉しいんです。反応してもらえたのが」
 それは夜久だって一緒だ。
 じわっと湧き上がる、喜びと幸福に、気持ちが高ぶり我慢できなくなる。
「しよう、旭日君」」
「はい」
 キスをし、互いのモノを擦り合わせる。
「んっ、あぁっ」
 擦れ合うたびにぬちぬちと音を立て、熱くかたいモノは先からじわりと蜜をたらす。
「あさひくん」
 とろけた顔で夜久を見る旭日に、首へと腕を回してしがみ付く。
「やくさん」
 高みにのぼりつめ、共に放ちあう。  ほう、といきを吐いて身体を離した。
「はぁ、気持ちよかったですね」
「うん」
 互いのモノは放った蜜で濡れている。旭日がカバンの中からウェットティッシュを取り出して拭いてくれる。
「あ、まって、自分で」
「やらせてください」
 そこまでさせるのは流石に申し訳ないというか、恥ずかしい。
 綺麗に後始末をしてごみをポリ袋へといれた。
「ごめんね、全部やらせてしまって」
「いいんです。可愛い夜久さんを見れたんで」
 その言葉も、旭日に言われると嬉しさしかない。
「うん」
 照れて俯く夜久を旭日が抱きしめる。
「ねぇ、夜久さん。金曜日にウチで飯を食いませんか?」
 泊まっていってほしいと頬を撫でる。
「美味しいご飯、食べさせてくれる?」
「腕によりをかけて」
 旭日の背中に手を伸ばし、暫くの間、二人は抱きしめあった。