Short Story

負けました

 千坂が百川の部屋に来た日から数日たつ。その間、彼のことを今まで以上に考えていた。
 好きだと言われた時は自分の気持ちがわからなかった。貰った告白の返事をしないまま、千坂は変わらずに百川に好きだと伝えてくる。
 そんな日々をおくっていくうちに、自分の心を素直に受け入れられるようになった。
 自分の気持ちがかわれば相手に対しても見方がかわる。
 顔はいいけれどズボラな男。だけど一途に想われることがこんなにも嬉しいことだったなんて思わなかった。
「はぁ、千坂さんっていつもこんな、ですか?」
「いや。お前だからだ」
 千坂の部屋を掃除し終えて、畳んだ洗濯物を寝室へと運んでいるときだった。
 後ろからついてきた千坂にベッドに押し倒すと顔を近づけてくる。
「ふっ、いいですよ」
 負けましたと力を抜けば、千坂が目をぱちぱちとさせる。
「なんです? いつもグイグイきていたのに。いざとなったらできませんって」
「いや、だってさ」
 今まで断ってきた百川が受け入れたのだ。気が抜けたのだろう。
「貴方の一途さに落ちたんです。ほら、はやくしないと気が変わるかもですよ」
「いいんだな? 途中でやめてと言われても止まらないから」
「わかってますって」
 これ以上、何もいうなとキスで口をふさげば、千坂の目が細められる。
 熱い舌が優しく絡みつく。水音と共に流れる唾液も気にならぬほど頭の中は気持ちよさにおぼれていく。
「ふぁっ」
 唇が離れると寂しくて、もっと欲しいと啄むと千坂の指が首を撫でる。
「唇以外にもキスをしても?」
「ん……、どこにするんです」
「ここと、ここ」
 シャツの上から胸と下のふくらみへと触れた。
 きっとその個所は千坂に触れられたら、体の芯が甘くしびれてわけがわからなくなってしまうだろう。
「して、ください」
 それを望んだのは自分だ。
「わかった」
 千坂が口角を上げる。
 シャツのボタンが一つ、また一つと外され、晒しだされた肌に千坂の唇が触れた。

 入れる気持ちよさを知る前に、入れられる良さを知ってしまった。
「風呂、入るか?」
 後から千坂の放ったものがあふれ出た。
「そうですね」
 起き上がりベッドから降りた途端、足から力が抜けて床に座り込む。
「なんて……?」
「負担掛けたからな」
 千坂もベッドから降りて俺の腰に腕を回して立たせてくれる。
「ありがとうございます」
「いや。俺のせいでもあるし。なんでもするから甘えろ」
 その言葉に、俺は素直に優しいと思った。
 だが、すぐにそれを後悔する。
 風呂に連れて行ってくれたのはいい。一緒に風呂に入るのも、まぁ、いいかと許した。
 普通に体を洗ってくれるだけでいいのに、肌に触れる手はいやらしく敏感な個所を撫でていく。
「や、もう無理ですって」
「乳首、かたくなってる」
 両方の乳首を摘まんで動かす。散々吸われて痛むのに、じんと体の芯がしびれた。
「千坂さんが弄るからぁ」
「お、まだ元気だな」
 そこを弄られたら自然と下もたちあがる。
「や、もう無理ですってば」
「そういって、さっきもできただろう?」
 そんなふうに触られたら感じてしまうし、気持ちよさを知ってしまった体はもっと深くでつながりあいたいと望んでしまう。
「立っているのもやっとなんですよっ」
「そんなことを言って、俺の指をしめつけているぞ?」
 指が中に入り込み。大きなものを咥えていた後孔は、指一本くらいじゃ余裕に入ってしまう。
「どこに突っ込んですか」
「中のものを掻き出さなくては腹を壊すぞ」
 そういいながら気持ちの良い場所をわざとかすめながら。
「ひゃぁっ、千坂さん、だめ」
「俺が放ったものをだしているだけだろう?」
「はぁっ、そこは、や、です」
 敏感になっている。
 かすめるたびに体が小さく震え、指だけでは物足りなくなってきた。
 もっと太くてかたいもので突いてほしい。
「折角、綺麗にしたのに」
「へ?」
 指が抜け、両腕が腰を抑えて太くて熱いものが中へとはいりこむ。
「あっ」
 後ろから押し込まれ、乳首がタイルでこすれてしまう。
「んっ、やだ、こすれちゃう」
「いやらしいな。それじゃここも触ってやろう」
 たちがり蜜を流す下半身のモノをしごき始めた。
「ひゃぁぁっ、だめ、いっぺんにさわられたらっ」
 目がちかちかとして意識が飛びそうになる。
「すげぇな、まだこんなにあふれ出るなんてな」
 爪が先っぽをかき、
「あぁぁ、んっ」
 タイルに放ったものをまき散らす。
 そして後ろには熱いものが注がれた。
「ふぁ、あつい、です」
「ほら、俺にもたれかかっていいぞ」
 中から千坂のモノがぬけ、腰に腕を回して抱きしめられる。
 少しぬるめに設定したシャワーが気持ちよく千坂に体を預けた。

 先に体を洗ってもらいバスルームを後にした百川は寝室へと向かうとベッドの端に座る。
 とうとういたしてしまった。いたたまれなくて両手で顔をおおいかくす。
「あぁ、俺、変な声とかだしてたよな……」
 それも自分から足を開いてみせていた。
「はぁ、だめだ、はずかしくて死ねる」
「ん、なに、ばかなこといってんだよ」
 横向きになると腕をのばして抱きつくような格好をする。
「俺、気持ち悪くなかったですか?」
 男の喘ぎ声など聞きたくないだろうに。
「いやっ、あの声だけで抜けるね、俺は」
 と自信満々な顔で返された。
「うわぁ」
 ところどころで残念な男だ。呆れながら千坂を見れば嬉しそうに笑っている。
「好きなやつがさ、気持ちよくて喘いでいるなら嬉しい」
 そういわれて耐えきれずに枕に顔をうずめる。
 今回は余裕がなくてされるがままだったが、次は自分の中に入っているときの千坂の顔を見てみたい。きっと胸がいっぱいになってしまうだろう。
 顔の熱が一向に引いてくれない。
「百川、いつまでそうしているつもりだ」
 首に柔らかいものが触れて顔を横に向ければ、目がすぐ近くでばちっと合う。
「ちさ……、ん」
 羞恥を感じて落ち着かなかった心は千坂のキスでかきけされ、それは徐々に深く交わり、百川をとろけさせた。

 朝食の準備は毎日していることだ。
 炊き立てのご飯をかきまぜ、煮干しから出した出汁で味噌汁を作る。
 おかずは焼き鮭と漬物、あとは卵焼きにしよう。
 冷蔵庫から卵を三個取り出したところに、
「おはよう」
 と言われて振り返る。
 寝ぐせ。それに薄っすらとひげが生えている。寝起きの姿はおっさんぼい。
 その姿は何度か見ているので百川にとっては珍しくはないものだ。
「あ、おはようございます」
「玉子は甘いのにしてくれ」
 リクエストを貰ったのは初めてだ。
「甘いのですね。わかりました」
 椅子の背もたれにかけてあるエプロンを手にし身に着ける。
 すごく視線を感じるが無視をしていたら、
「……裸エプロン、いいよな」
 なんて言い出す。
「絶対にやりませんよ」
 朝っぱらからろくなことを考えていない。
「えぇっ、なんでよ。丸出しの尻を眺めながら料理を待って、途中で我慢できなくなってさ、結局はお前を食っちゃうのって、おい、フライパンは危ないぞ」
 卵焼き用のフライパンを振りかぶる百川に、千坂は両手を突き出してやめろというポーズをとる。
「もう黙っててくれません?」
 フライパンをコンロへ戻して卵焼きを焼く。皿に盛り付けたらごはんとみそ汁をよそいテーブルに置いた。
 卵だけでは寂しいので納豆と漬物もともに出す。
「うまそう。いただきます」
「はいどうぞ」
 箸が卵焼きをつかみ、そして口へと運ぶ。
「はぁ、美味い。甘い卵焼き、久しぶりに食べた」
 うまそうに食べる姿に、気に入ってもらえてよかったとホッとする。
「そうですか」
 自分もご飯を食べ始めると千坂がじっとこちらを見ていた。
「どうしました?」
「出来立ての料理が食えるのっていいなぁ、と」
 千坂が何を考えているのかわかってしまい、深くため息をつく。
「嫌ですよ」
 千坂の奥さんにも母親にもなりたくない。
「夜は任せとけ。アンアンいわせてやる」
 親指を立てる千坂に、軽蔑するように目を細める。
「朝から下品なので没収です」
 千坂の卵焼きに箸を刺して奪ってやった。
「ごめんっ、謝るからさ、全部もっていかないで……」
 玉子焼きごときで情けない顔をする。
「俺な、浮かれてるんだわ。幸せだなーって」
 照れ笑いを浮かべて俺を見る。
 なんだよそれ。不覚にも可愛いなと思って、胸がときめいてしまったじゃないか。
 箸に刺した卵焼きを千坂の方へと向け、
「一つだけかえします」
 というと千坂が口を開き、入れてと指をさす。
 箸から卵焼きを一つ指で摘まむとそれを口の中へと入れる。
 その手をつかみ、玉子焼きを食べて舌で摘まんでいた個所を舐めた。
「俺の指はおかずじゃないですよ」
「ん、でも美味いぞ」
 舐めるのを止めなかったら調子に乗って舌が付け根のほうまで弄り始めて、やめろと舌を指で挟んだ。
「むぐっ」
「ごはん中です」
 そういって顔を背ける。きっと、顔が真っ赤だろう。
「わかったよ。今は腹を満たす。心とお前の中を満たすのは後な」
「……はぁ!?」
 さらっと何をいうのだろう、この人は。
「俺の中は満たさなくていいですからっ。本当、朝っぱらから」
 やっぱり玉子焼きは没収。
 最後の一切れを摘まむと百川は自分の口の中へと入れた。