Short Story

犬と、子犬と楽しい生活

 二日後。ユーエンが制する馬車に乗り、向かう先はシアとシユの飼い主であるアンデ家の館へと向かう。
 昨日、ユーエンを使いにやったが、相手からの返事はすぐに届き、会うこととなった。
 出迎えたのは息子である、ベルノルトだった。数回、パーティで見かけたことがある。いつ見ても醜い男だ。
 その容姿もさることながらその中身も相当なもので、それが更にこの男を醜くする。
 リキョウを舐めるように見つめたベルノルトは、口元に笑みを浮かべて館の中へと招きいれる。
 その後ろにはシユとシア。そして仮面で顔を隠したユーエンが続く。
 美しいリキョウには笑みを浮かべていた男も、シアを見た瞬間、その表情をかえる。
 余程にシアにされた事にはらわたが煮えくり返っているのだろう。
「お前等……、よく無事で帰って来たなぁ」
 その声は怒りに震え、今にも手を出しそうな雰囲気である。
「色々とあるようですが、それは後に」
 と、きつくむすばれた拳にリキョウは手を重ねる。
 白くきれいな手が意味ありげにベルノルトの手を撫でれば、いやらしい男はそちらに気をとられたようで、にやりと笑みを浮かべる。
「……失礼、そうですな。シア、後で覚えていろ」
 その視線に縮みあがりそうな子犬たちの隣。ユーエンが身動きすることなく立っている。
「ほう、闘犬ですかな?」
「はい。ボディーガードとしては役に立つのですが、如何せん顔が醜く、連れて歩くにも顔を晒しているだけで迷惑なので仮面で顔を隠しているのですよ」
 と妖艶に微笑む。その美しい容貌に見惚れながらベルノルトがなるほどと頷いた。
「さ、美しき調教師殿こちらへ。西で良い茶葉を手に入れたので、今、用意させます。シユとシアは向こうへ行っていろ!」
 ベルノルトが手を払いシユとシアに向こうへ行けと命令するが、二人はリキョウに縋るように見つめる。
「いえ。二人はここに」
「は? 何を言いだすのですか」
 二人の主は自分なのだから、命令をするのは当たり前だといわんばかりの表情でユーエンを見る。
「貴方に命じる権利はありませんので」
 そうきっぱりと言い放つと、ベルノルトは顔を真っ赤にし怒りだす。
「なんだとっ」
「彼らの飼い主は貴方ではありません」
 ベルノルトは羞恥に顔を染め低く唸り声をあげはじめる。
「この館はもうすぐ俺の物になる! そうしたらシユもシアも俺のモノだ」
 興奮しながら怒鳴り声をあげるベルノルトに、
「残念ですね。この家は貴方のものにはなりませんよ。館の主である貴方のお父上からの伝言です。財産の全ては弟に譲るそうです。後、シユとシアは飼い主から正式に買い取りました。私が二人の新しい主です」
 そう、シユとシアを見れば、大きな目をいっぱいに見開いてリキョウを見つめる二人だ。
「よかったな」
 と、ユーエンが二人の頭を撫でれば、みるみる顔を明るくさせ笑顔を見せはじめる。
「嘘だ、証拠、そうだ、証拠を出せ!!」
 その言葉に納得できないとばかりにベルノルトがリキョウに詰め寄る。そんなベルノルトの前にシユとシアを買い取った証拠の書類を突き出した。
「な、な……!!」
 その書類とリキョウの言葉に、ワナワナと震えながらベルノルトが崩れ落ちる。
「以上です。さ、帰るぞ」
「はい」
 ベルノルトから踵を返し歩き出すリキョウに、子犬と仮面の犬が続く。
 その背後で、激しく何かが割れる音が聞こえ。
「嘘だ、嘘だ嘘だ!! こんなの認めん。そんな書類など……。そうだ、全てなかったことにしてしまえば良い。犬ども出てこい! 俺を陥れようとするこの輩をすべて消しされ」
 と、声を張り上げる。
 きっとこうなるだろう、リキョウはここに来る前からそう思っていた。
 素直にその言葉を受け入れることなど出来ないだろうなんてことは重々承知で、だから此処にユーエンを連れてきたのだ。
 闘犬がリキョウらの前に立ちふさがる。
「やれ」
 ベルノルトの命令で一気に闘犬がリキョウたちに襲い掛かってくる。ユーエンがその間に素早く入り込み重い蹴りを食らわせる。
 得物の攻撃も軽くよけてパンチを食らわせて投げ飛ばす。
 一匹、また一匹と倒れていく戦闘犬に、ベルノルトは信じられないとばかりに真っ青になりながらその光景を眺めていた。
 ベルノルトの持つ戦闘犬との差は歴然だ。国のためにと忠義を尽くし戦ってきた男だ。普通の闘犬では物足りないだろう。
「俺の犬と、アンタの犬とではレベルが違うんだよ」
 ニィッとリキョウが笑えば、仮面から唯一見えるユーエンの目が楽しそうにギラついている。
 きっと仮面の下は極悪非道な面をして笑みを浮かべるのだろう。それを想像すると顔がニヤけてしまう。
 それから暫くし、闘犬は全てユーエンに倒された。
「強い……」
 呆然と見つめる子犬たちに、
「当たり前だ。コイツとお前の駄犬とでは経験値が違うんだよ」
 と、戦闘を終えたユーエンの元へと歩み寄る。
「暴れたりないって顔をしてるな」
「はい」
「わかった。家に帰ったら存分に暴れさせてやるよ。さ、家に帰るぞっ、犬ども」
 力なく座り込むベルノルトを振り返ることなく、リキョウは犬たちを連れて館へと帰っていった。

 館へとつき、ユーエンが馬車を置きに行く間、シユとシアのために用意させた部屋へと連れて行く。
「僕たちのお部屋」
「そうだ。ここで暫く大人しくしていろ」
「はい、ご主人様」
 二人が頭を下げる。流石、アンデ家の犬だ。礼儀作法には問題なさそうだ。
「服はアンデ様から数着譲り受けている。クローゼットを開けてみろ」
 二人は片方ずつ扉を持ち、そして開いた。
 中には質の良い子供用の服が収納されており、小さな引き出しにはアクセサリーがある。
「アンデ様……」
 それを見た二人がしゃがみ込んで目に涙を浮かべる。
「良い主人だったな、アンデ様は」
 二人の頭を撫で、そして静かに部屋を出た。
 アンデは病気であと少しの命だった。心配なのはベルノルトのこと、そしてシユとシアのことだった。
 全てをベルノルトのモノにしてしまったら、家は滅びシユとシアは生きたまま人形のようになり果ててしまうだろうと。
 だから命尽きる前に全て用意してあった。シユとシアも誰かに譲り渡すつもりだったそうだ。
 そこに二人のことで話をしにきたリキョウと会い、話をして二人を譲ってくれたのだ。
「大切に育てるよ、二人のこと」
 自分の元へきたのだから、不幸な思いなどさせない。
 いつのまにか傍にユーエンがたっている。
「さ、ユーエン。暴れさせてやるよ」
 手を掴み、向かう先はリキョウの部屋だ。
 いつもはボンテージは仕事以外では身に着けないのだが、こういうこともあるかと思い、身に着けていた。
 服を脱ぎ捨てる、セクシーな恰好でユーエンの前へと立った。
「上着を脱いで床に這いつくばれ」
「はい」
 素直に上着を脱ぎ、床へと這いつくばる。
 リキョウは壁に掛けてある鞭を手にした。
「ほら、お前の大好きな痛みだぞ」
 ビシッとユーエンの背中に打ち付ける。その度に乾いた音がし、
「くっ」
 苦痛を耐えるようにくぐもった声がする。
 リキョウはユーエンのその髪を鷲掴みし自分の方へと向かせる。
「ほらどうした。ギラギラと獲物を狙うような目を見せてみろよ」
 頬を張り、背中を鋭く打つ。
「ぐぅ……」
 色っぽい声で鳴くものだ。リキョウの気持ちを高揚させて、ぞくぞくとしながら唇を舐める。
 この姿になると身体のラインがはっきりとわかってしまう。下半身のモノがたちあがっているのも見ればすぐにわかる。
 ユーエンを仰向けにし、上に跨ぎ股間をすり合わせるように身体を動かす。
「ユーエン、ご褒美が欲しくないか?」
 本当は自分がユーエンを欲しがっている。リキョウがこうなるのは相手がユーエンだからだ。
 そしてユーエンも、リキョウだから触れ合った箇所が反応をみせる。
「主、我に褒美を」
 腰に回る太い腕。そしてごつくて大きな手が意味ありげにリキョウを撫でる。
「いいぞ」
 大きな手が髪の撫でた後、引き寄せられて唇が触れ舌を絡めあう。
「ふ、ふぁ、ん」
 腰が浮き揺れる。
「ら、めぇ」
 口づけをやめないユーエンの、その唇から離れるように顔をそらせば、今度は服の隙間から手を差し込んで、たちあがるモノの裏筋から先っぽの穴までを人差し指でつぅっとなでる。
「ひゃぁ、ユーエン」
「リキョウの柔らかくて気持ち良い此処が欲しい」
 後孔に触れる指が入口付近で円を描くように動く。
「上手に舐められたらやるよ」
 でもその前に、窮屈な服を脱がせてほしい。
 しかしユーエンはそのまま隙間から舌を這わせ始め、服て締め付けられた前のモノがその度に刺激されていく。
「あっ、だめ、服、脱がせて」
 太ももをたどって落ちるのは自分の蜜なのかそれともユーエンの唾液か。
「ユーエンっ」
 前に伸びた大きな手にすべてを包み込まれて揉まれていく。
「あ、駄目だってっ、……ん、あぁ、んっ」
 身をよじりながら、このままイってしまいそうになるのを耐えようとするけれど、そんなことは到底無理で。
 ユーエンの手の中ではじけた欲は、さらにリキョウを淫らな姿へとかえていく。
「随分と濡れましたね、リキョウ」
「お前のせいだろうが」
 充分に濡らした後ろに指が入り込む。
 その動きに背が反り、腰が揺れて敏感な箇所が擦れて快楽の悪循環だ。
「あぁぁぁ……っ」
 色っぽく自分の上で揺れるリキョウに満足そうに笑みを浮かべたユーエンは、引き手を咥えてファスナーをゆっくりと下ろしていく。
 徐々に露わになる肌は朱色に染まり、欲を放ったばかりの箇所はすでにたちあがっていた。
 ユーエンの目がそれを見てぎらつく。
 その眼だ。まるで獲物を見る様な、そんな強い視線。ユーエンが満足するまで、食い尽くしてほしい。
 ゾクゾクとする体と快楽で溺れる意識をユーエンへとゆだねた。

※※※

 あれから数日たち、二人も新しい生活に慣れてきた。
 ただ、一つ困ったことがある。
 就寝前、二人が手を繋ぎながら部屋へきて、可愛い舌がペロペロとお互いの体を舐めあう、そんな姿を見せるようになったのだ。
「だから、夜な夜なそういうのを見せようとしなくていい」
 肌蹴た胸元はライトの光があたり、子犬たちの濡れた箇所が反射して輝く。
「これが俺とシユのお仕事ですので」
 再び行為をし始めようとする二人に服を着るように命じる。
 これだけ可愛い犬だとそういう見せ方をして自慢したいという主もいるだろう。
 だが、リキョウは望んではいないのだ。
「濡れた姿はあのバカ犬だけで充分だ」
 二人の為に用意して置いた。大量の本を指さす。
「本」
 シユとシアが目をキラキラとさせる。
「アンデ様から聞いてる。本を読むのが好きなんだってな」
「はい。アンデ様が色々な本を下さいました」
 賢い犬を秘書や補佐として傍に置く者もいる。そちら方面の調教を専門にしている調教師がいるくらいだ。
 ゆくゆくは知り合いに調教をしてもらうつもりだ。
「今日からお前たちのすべきとは、ユーエンの手伝いとそれを読むことだ。解ったな」
「はい、ご主人様」
「頑張ってお手伝いします。本、ありがとうございました」
 笑顔がとても可愛い。
 アンデがそう話していたが、本当だとリキョウは二人を眺める。
「あと一つ。夜、俺が部屋に入った後は緊急の用事がない限り近づかないこと」
 夜はリキョウにとっても大切な時間だ。
「わかりました」
「よし。行っていいぞ」
「はい。失礼します」
 本を半分ずつ手にし、部屋を出ていく。
「さて、と」
 上着を羽織り部屋を出る。向かう先はユーエンがいるであろう場所だ。
 食堂から奥の扉の先。
「主、あと少しで終わります」
 リキョウが降りてきたことはすぐにわかったのだろう。
 手を止めてユーエンがこちらへと顔を向けた。
「あぁ、かまわないから続けろ」
 朝はいつも焼きたてのふんわりと柔らかいパンをだしてくれる。
 そのための仕込みをするユーエンを眺める。
 楽しそうに料理を作るその姿を見るのがリキョウは意外と好きだった。
「これを寝かせたら終わりです」
 ボウルに入れて濡れた布を上にかぶせて地下倉庫へと持っていく。
 常に10度以下の温度が保たれた地下倉庫には野菜や酒類などが置いてある。
 パンのタネを置いて戻ってきたユーエンに、
「風呂に行くぞ」
 と、抱き上げろとばかりに手を伸ばす。
 それも毎度のことなのでユーエンはリキョウを抱き上げて風呂場へと向かった。

 脱衣所につき、リキョウの服を脱がせるのもユーエンの仕事である。
 先に服を脱ぐように命じてあり、それは脱がされている間にユーエンの引き締まった肉体を堪能するためだ。
 指でゆっくりと撫でれば、くすぐったそうな顔をする。そんな姿もすごく好きだ。
 服を脱ぎ終え、リキョウは中に入りバスチェアに腰を下ろす。
 滑らかな泡が立つ良い香りの石鹸で体を洗い髪を洗うためだ。
 互いに触れ合えば気持ちが高ぶってくる。いつもなら欲を放ちあうところなのだが、
「ご主人様、御背中流します」
「僕も」
 やたらとやる気満々な子犬たちが中へと乱入してきた。
 折角の大切な時間を邪魔された。
「何しにきた! 緊急の用事がない限り近づかないようにと言っておいただろう」
「そうですが、ここはご主人様のお部屋じゃないので」
 その言葉に、ぐぅと言葉に詰まる。
 確かにリキョウの部屋には近寄るなと言っただけで、此処には近寄ってはいけないとは言っていない。
「駄目、でしたか?」
 しゅんと落ち込む二人に、リキョウは出て行けとも、怒ることもできずに肩を震わせる。
「ふっ」
 隣でユーエンが吹きだす。
「ユーエン!」
「失礼いたしました」
 目を細めて優しげにリキョウを見ている。
 その顔をみていたらきゅーっと心が締め付けられる。そんな表情をするようになったのだと。
「わかった。勝手にするがいい」
「よし、我々で主を洗おう」
「はい」
「頑張ります!」
 やたらと楽しそうな犬たちを見ていたら、肩の力が抜けていく。
 リキョウは唇に笑みを浮かべてユーエンの体に寄りかかる様に背を預けた。