我想う者
猿ぐつわは直ぐに外され、その代り小姓であるティムが身の回りの世話と見張りとしてが傍にいるようになった。
ただし、舌を噛み切ったらティムを殺すと言われ、彼は見張りであり人質となってしまった。
ベッドから起き上がり歩行可能となったが、部屋の中に閉じこもっていた。
ソファーに座りぼっとしながら部屋の中で過ごす。
そして夜はヴェンデルの夜伽の相手をする。後はすんなりと彼のモノを受け入れられるようになり感度もあがった。
どんなに心は苦しくても身体は善がり、ヴェンデルのマラを咥えたいと後の孔はひくひくと震える。
中を激しく突かれれば、頭の中はとろけて何も考えられなくなり、目の前の快楽に溺れてしまうのだ。
毎日、毎日、同じことの繰り返し。
このまま何も食わずにいれば体力が奪われ、病にもかかりやすくなろう。
だが、飯を残せばヴェンデルが部屋に来て無理やり食わせる。そして抱き合う事となってしまうのだ。
「ファース様」
ティムが部屋に入ってくる。
「どうした」
「団長より命を受けてきました。身体を清めて準備をしておけとの事です」
「は、はは。昨夜もあんなに抱いたというのに、日の高いうちから所望するとはな」
もう、うんざりだ。
「ティム、最後の願いだ。俺をお前の剣で……」
「それは出来ません」
「お前も、俺に生き恥を晒せというのかっ」
「いいえ、そうではありません。それでは団長に申し訳がっ」
「なに」
きっと彼は受け入れてくれると、互いに良い関係を築き上げていると思っていただけに裏切られた気持ちとなった。
怒りが急激に冷えていく。もう、どうでもいい。
「解った。風呂に入る。手伝え」
立ちあがり風呂へと向かうがティムは動かぬままだ。
「ティム」
痺れを切らし怒鳴りつける。するとティムが静かに語りだす。
「団長は、ファース様に恨まれるのを承知でお助けしたのです。俺の我儘だと、血で染まった身体を抱きしめ、生きてくれと、ただそれを願っていました」
胸にずきりと痛みが走る。あの時感じた手の温もりはヴェンデルだったのだろうか。
「……手伝え」
「はい」
感情を込めぬ声音で今一度言うと、どこか物悲しげにティムが風呂へと続くドアを開く。
寝間着を脱がせ、体を洗い後ろへ受け入れる為の準備をする。
新しい寝間着を着せられ、ベッドへと腰を下ろすとティムは部屋を出ていった。
一人残されたファースは部屋でヴェンデルが来るのを待った。
ほどなくして姿を見せ、お辞儀をし迎え入れる。
無言のまま寝間着に手を掛け、上半身だけ晒しだされた状態でベッドへと寝かせられた。
「団長、致す前に少しよろしいでしょうか」
と静かに言うと、手の動きが止まる。
「申せ」
「俺とこのような事をされるのは、助けられた命を捨てようとした罰なのでしょうか」
ヴェンデルの顔が強張り、低く唸り声を上げながら髪を乱暴に掻きむしり、
「お前が、解らないからだっ!」
と拗ねた表情を浮かべる。
「え、あ、申し訳、ございません」
幼き頃から仕えている故にヴェンデルの事はなんでも知っている気になっていたが、どうやら驕っていたようだ。
そんなファースに、飽きれたとばかりに大きなため息をつく。
「……お前の事が好きだ」
「え、それは、親情ではなく恋情と申されますか」
まさか、自分にそんな思いを抱いていたなんて。
驚きのあまり、目を見開き口をパクパクとさせるファースに、
「鈍い、鈍いと思っていたがこれ程までか。ティムや他の団員ですら気づいているというのに」
なんてことだろう。周りに知られている所か、自分だけ気が付いていなかったとは。
はずかしい、穴があったら入りたい……。
幼馴染であるから、昔のように慕ってくれているのかと思っていた。
「いつから、ですか? その、恋情になったのは」
「幼き頃は兄のように慕っていた。だが、成長するにつれ、広く大きな背中が頼もしいと感じつつも守ってやりたいと思うようになってな、そして愛おしくなった」
腕を切り落とされた時、本当は自らの手で逝かせてやろうかと考えたと、肩を撫でる。
「きっとお前は生きるのを望まないだろうと思ったが、俺の我儘で命を助けた」
「団長」
「俺の為に生きてくれ」
切実な想いはファースの胸を打つ。こんな自分でも生きていていいのだと思わされた。
それならば、これからもヴェンデルの為に生きよう。だが、彼を事を思うのであればこそ、自分はここに居てはいけない。
「貴方様の想い、ファースの胸にしっかと届きました。もう死ぬとは口に致しません。故に、どうか退団のお許しを」
傍を離れてもずっとヴェンデルを思い続ける、その気持ちを込めて退団の許しを願う。
それはヴェンデルにも伝わったか、
「わかった」
と額がくっつき合い、そして唇が触れる。
それはとても優しくて胸を熱くするキスであった。次第に激しくなるのを素直に受け止める。
「は、だん、ちょう」
舌を絡め、逆にこちらから仕掛けてやれば、唇がいったん離れる。
「むむ、初めて応えたと思いきや、やってくれる」
「ふふ、俺も男ですから」
「堅物かと思っていたが……、どれ、もっと吸わせろ」
と更に深く吸い付かれた。
「ん、団長、口ばかりではなく別の所も吸ってください」
身体はヴェンデルを欲しがり疼いている。そうさせたのは彼自身だ。
「わかった。可愛がってやろう」
唇を舐めて目を細めて下穿きをはぎ取る。
欲情した身体は下半身のモノを硬くたちあがらせて乳首を突起させる。そうしていやらしく雄を誘い込むかのように。
「なんじゃ、どこもかしこも、俺を欲しいといっている」
「お恥ずかしい限りで」
ヴェンデルに対して我慢のならぬ身体だ。
「何を言っている。求められて嬉しいぞ」
乳首を摘ままれ捏ねられる。
厚い胸板へと吸い付いてちゅうと音をたて、舌先で弄り真っ赤に熟れる。もっと感じたいと胸を張れば、甘噛みをされて蕩けきった声をあげる。
「んっ」
そろそろ別の箇所にも刺激が欲しく、身体をもぞもぞと動かせば、それに気が付いたヴェンデルが目を細めた。
「わかった」
足を掴みそれを持ち上げると、ニィと口角を上げた。
「お前の後ろの口がひくひくしているぞ」
指でそこを押され、ビクッと腰が浮いてしまう。
「貴方のを咥えたくて疼いているんです」
気持ちが繋がりあった事もあり、余計に感じるようになった。
「はぁ、だん、ちょう、もっと注いでください」
「こら、そんなにしめつけなくとも腹いっぱい飲ませてやろう」
目から涙が流れ、口から涎を自分のモノは汁を垂らし、後孔からは溢れた男の精で濡れる。
「ひゃ、あぁぁ……」
中に熱いものがそそがれ、自分も共に精を放つ。
甘く痺れる身体から彼のモノが抜け、共に横になる。
「まだ足りない」
手が太腿を撫ではじめ、放ったばかりだというのに既に元気なモノを尻にこすり付ける。
「俺の体力が持ちません」
「解ってる。受ける方だものな、お前は」
それでも撫でる手は止まらず、太腿から移動した手は下半身のモノを弄り始める。
「ん、団長」
「わかった。風呂、入ろう」
手が離れ、ベッドから起き上がると抱き上げられた。
「うしろ、掻き出してやろうな」
と、口元に微笑みを浮かべ、きっといやらしい事を考えているに違いない。
「貴方って人は」
苦笑いを浮かべてヴェンデルを見る。自分は再び彼を受け入れてしまうのだろう。
愛を感じるのがこんなにも幸せだと知ってしまったから。
数か月後、屋敷にヴェンデルの姿がある。
「団長」
「退団を許したが、それで二度と会わんとは言っていないぞ?」
ヴェンデルの腕をもてば、馬を走らせ半刻ほどでたどり着く距離だ。会おうと思えばいくらでも行き来できる。
「そうでしたね」
あの思いだけあれば生きていける。だから自分からはヴェンデルに会う事はしない。そう思っていた。
「そう簡単に離れられると思ったか」
抱きしめられ、肩に額をつける。
「ファース、お前の残りの人生は俺が頂く。異存はないな」
「……はい」
「ついでに、お前はもう退団したんだ。昔のように名で呼んでくれ。敬語も無しだ」
ヴェンデルが団長になったのを気に敬語で話し、団長と呼ぶようになった。
二人きりになる度、友なのだからと言われてきたが頑なに断っていた。
騎士としている間はいくら友であっても、団長と隊員であるからにはそれがけじめだと思っていたからだ。
だが、もうそれも必要ない。
「あぁ、そうだなヴェンデル」
そう名で呼んだ瞬間、ヴェンデルが花が咲いたように微笑んだ。
「なっ」
なんと眩しい事か。
たかが名前。それなのにそんなに嬉しいものなのか。
「ずっと、そう呼ばれたかったぞ」
「これからは、いつでもそう呼んでやる」
その身を抱きしめたいのに抱きしめられない。
だが、かわりにヴェンデルが抱きしめてくれる。
「愛しているぞ」
やっと手に入れたと、額に、頬にとキスを落とす。
「こんなに愛されて、俺は幸せ者だな」
「そうだぞ。俺は一途にお前を想い続けてきたんだ。これからはお前も俺を一途に愛し続けろよ?」
「はは、昔から俺はお前だけだ」
本当の想いに気が付いたのは最近だが、ずっとヴェンデルだけだった。
「あぁ、くそっ、俺を煽るな」
「ふ、好きにすればいい。俺はお前のなんだろう?」
「その通りだ」
とキスをし、軽々と抱き上げられた。
ヴェンデルは暇さえあればファースの元へと来るようになった。そして世話をやきはじめるのだ。
起きると着替えをさせてくれ、顔を濡れた手拭いで拭いてくれて朝食を食べさせてくれる。
トイレへいくと、後から抱きしめられて手が怪しい動きをしはじめる。何回かに一度はそこで尿だけでなく精を放つことになる。
夕刻には風呂を共にし、そこでは一緒に精を放つ。
そして夕食を食べさせてもらい、ゆるりと出来る時は閨でまぐあい、帰る時はキスのみで屋敷に戻っていくのだ。
ヴェンデルが来ない日は子供達の剣術を見たり、現役を退いた仲間とチェスを楽しむ。
口で絵を描く楽しみも覚え、下手ながらも描き続けている。
「あの時、俺の命を貰い受けて下さりありがとう」
生きていてよかったと思えるようになったのはヴェンデルのお蔭だ。
自分を救ってくれただけではなく、愛情もそそいでくれたのだから。
「お前は俺のモノだからな。二度と勝手は許さないぞ?」
「あぁ。ヴェンデルが救ってくれた命、大切にするよ」
互いの唇が自然と吸い寄せられて触れる。折よく稽古を終えた子供達が庭へとやってきて、
「あー、だんちょうとファースさんがキスしてる」
やんややんやとはやしたてる。
「ははは、これは参ったな」
ヴェンデル笑い、つられるようにファースも笑う。
もともと彼は良く笑う男であった。騎士団に入ってからは笑顔が少なくなっていたが、この頃は楽しそうな顔をするようになった。
心が安らぐのであれば嬉しいことだし、こうして共に笑い合えることが幸せだ。
「お前たち、向こうで菓子を貰っておいで」
それを聞くと子供達はよい返事と共に向こうへと行く。それを見つめ、ふ、とヴェンデルを見ればその視線にきがついたか、こちらを見て微笑んだ。