Short Story

我想う者

 このまま命など朽ち果ててしまえば良かった。
 生死を彷徨い、目を覚ましたのは五日後の事だ。
 あるはずのものが無い事に、ファース・ボルは絶望感を覚えた。
「あぁ、あぁぁぁ……」
 震えるわが身を抱きしめたい。だがそれすら叶わないのだ。
 後輩の無謀な行いを止める事が出来なかった。逆に追い込まれた彼を助ける為に身を投げ出した結果が両腕を失う事となった。
 直ぐに仲間が助けに来てくれて命は長らえた。だが、剣を振るえぬ人生など死んだとも同じであった。このまま生きるよりもその手で命を絶ってほしい、そう懇願した。
 だが、討つのではなく打たれた。左の頬を。
「仲間の命を助けたお前が、その命を無駄にするのかっ」
 騎士団長であるヴェンデル・デ・ブラバンデルに、だ。
 その時はそこで意識が途切れてしまい、次に気が付いた時にはベッドの上に寝かされていた。
 ヴェンデルとの付き合いは彼が五歳、ファースが七歳の頃だ。
 騎士団を引退した祖父がヴァンデルの剣の師匠として招かれ、歳の近いファースは彼と共に剣術を学ぶこととなったのだ。
 共に学んだ日々。ヴァンデルは才能に満ち溢れており、騎士見習いとして同じ団に所属されてからも二人の間にはかなりの差が開いており、正式に騎士となると功績をあげ続け、そして騎士団長へと昇りつめた。
 良き友であり憧れの存在。いつまでも彼の近くで剣を振るい続けたい、役に立てたならと思っていたのにこの有様だ。
 

 意識が浮上する。
 そこは見慣れた宿舎のベッドではなく、広く寝心地の良いベッドで、しかも自分の部屋よりも豪華であったが、見慣れ部屋でもあった。
 ぼんやりと当たりを見わたすと、ドアが開き侍女が洗面器を抱えて中へと入ってくる。
 額を冷やしてくれようとしていたのだろう。ファースが目を覚ましたことに気がつき、良かったと安堵する。
「今、ヴェンデル様をお呼びしてまいります」
 サイドボードに洗面器を置き、頭を下げて部屋を出て行った。
 直ぐに知らせを受けたヴェンデルが部屋へと入ってきて、ベッドの近くに椅子を置き腰を下ろした。
「団長」
 ベッドから起き上がろうとするが両腕が無い事もあり均衡が保てず、ヴェンデルが立ちあがり背中に手をそえて起こしてくれた。
「ありがとうございます」
「あれから五日も目を覚まさぬ故、心配したぞ」
 優しく頬を撫でられ安堵の息を吐く。
 よく見ればヴェンデルの目の下には隈が出来ており、心配させてしまった事にファースは項垂れる。
「このまま永遠に目を覚ますいられたら、どんなに良かったことでしょうか」
 つい、弱音を吐いてしまい、その言葉にヴェンデルは目を見開き、すぐにそれは怒りを含んで鋭くなる。
「お前はまだそんな事をっ」
 振り上げた手が頬を打つ、そう思っていたのだが、強く両肩を掴まれた。
「命を要らぬというのなら、我が貰い受けよう」
 とそのままベッドの上へと組み敷かれて、一瞬、頭の中が真っ白になった。だが、気が付いた時には寝間着の衿を広げられていた。
「なっ」
「両腕がなくとも、これなら俺の役にたつ」
 包帯の上から肌を撫でられる。
「いけません、団長」
「黙れファース。今日からお前は俺の夜伽(よとぎ)の相手をしろ」
 流石にこれから自分の身に何が起きるのかはわかった。ファースはヴェンデルよりは幾分か体格が良いのだが、両腕がない彼には行為を止める術が足しかない。だが押さえつけられてしまえばそれすら出来ずにされるがままとなる。
「団長っ」
 どうにか冷静になり行為を止めてもらいたい。必死に声を掛けるが、
「煩い」
 とキスで言葉を塞がれて、帯を解かれて下穿を外してしまう。むき出しとなったマラに躊躇なくヴェンデルの手が触れて扱きはじめる。
「いけません、団長っ」
 身をよじり逃れようとするが上手くいかない。
「黙れ。お前も男なら、ここをこうされると気持ちが良だろう?」
 立ちあがりかたくなった箇所は感じやすくなり、先の方を爪でカリカリと弄られて甘く痺れて身体が跳ねてしまう。
「あ、うっ」
「ほう、こんなに蜜をこんなに垂らして。甘いかどうか舐めて確かめてやろう」
 ぬるりとした感触。舌先が蜜の溢れる場所を舐めとる。
「貴方が、そんな所を舐めるなど」
「では咥えよう」
 と躊躇うことなくそれを咥えた。
「ひぃ、なぜ、こんな事をっ」
 口では駄目だと言いながら、身体はそれを気持ち良く感じて痺れてしまう。
「あんなに逝かせろと言っておったじゃないか。だから俺の口の中で気持ち良くなってイけ」
 卑猥な音と共に快楽が襲う。このままではイってしまう。
「あぁっ、後生ですから」
「イくが良い」
「団長……、くっ、あぁっ」
 のぼりつめた熱はヴェンデルの口の中へと放たれ、一滴たりとも逃さないとばかりに吸われてしまう。それが更なる熱を生む。
「ふ、こんなものではないだろう?」
 再び立ちあがったモノを見て弓なりに目を細める。
「どうか……、お許しください」
 ヴェンデルの口内に放っただけでは物足りずに欲を曝け出す。あまりに自分が情けない。涙が頬を伝わり落ちていく。
「だめだ。許さない」
 涙を親指が拭う。
「俺の辛さをお前も味わうがいい」
 仕置きだと言われてキスをされ、手が再びマラへと触れて高みにのぼらされた。
 枯れるまでイかされ、包帯は汗と血で濡れた。

 無理がたたりそれから一週間、ファースは熱で苦しんだ。朦朧とする意識の中、常に傍に誰かの気配を感じていた。その者の手は優しく髪を撫でてくれた。
 とても懐かしい記憶がよみがえる。
 幼き頃からヴェンデルの傍にいた。ファースの方が二つ上という事もあってか弟のように甘えられた。自分には年下の兄弟はおらず、それが可愛くて愛おしくて、つい甘やかしてしまう。
 病気の時、自分の名を呼び続けているのだと、彼の母親に頼まれて看病をした。熱で苦しんでいる時、濡れたタオルを額にのせ、手をずっと握りしめた。
 意識を取り戻した時、ファースの名を呼んで傍にいる事を確認する。返事をすると安心して再び眠りについた。
 甘えん坊であったが、立派に成長し魅力のあふれる男になった。そんな彼に後輩は憧れを抱き先輩は一目置く存在となった。
 ファースの自慢の友であり、一生ついて行きたい団長でもある。だが、それもできそうにない。
 ぼんやりと意識を取り戻せば、直ぐ近くにヴェンデルの顔がある。
「団長……」
「気が付いたようだな」
 もしや、あの優しい手の主はヴェンデルだったのだろうか。
「ヘルベンから説教を食らった」
 ヘルベンは医者であり、ファースも昔から世話になっている。
「暫くの間、安静にしておれとの事だ」
 粥を用意しようと立ちあがろうとするヴェンデルを止める。
「……このまま俺の事は放っておいてください」
 きっと怒られるだろう。しかし、自分を生かそうとするのはあきらめて欲しい。
「お前は、まだ言うか!」
 頬を打とうと持ち上げられた手。だがその言葉を撤回する気はないとファースは真っ直ぐにヴェンデルを見つめる。
「それならば、舌を噛み切ります」
 それしか自分で死ぬことが出来ない。だが、それを阻止するように口の中へと手を突っ込まれて嘔吐く。
「うぐっ」
「死のうなどとしたら、貴様を一生許さん」
 怒りを込めた目を向け、ファーストを貫く。
 死ぬことすら許してもらえずにこのまま恥を晒し生きてゆけというのか。これはファースに対する罰なのか。
「ふっ……」
 口の中から手を抜き、代わりにヴェンデルのハンカチで猿ぐつわをされた。
「当分、こうしていろ」
 と言い、ヴェンデルは部屋を出て行った。