大人げない男
数日後、宗とクレイグの婚姻祝いを馴染みの食堂でおこなう事になった。
その為の買い物に出たのだが、知り合いからお祝いだと色々と貰ううちに大荷物となってしまい、運ぶだけで一苦労だ。
その一つを奪われ、あっと声を上げて取り返そうとすれば、そこには博文とバスケットを手にした華凜が立っていた。
「華凜さん」
博文は無視して華凜の方へと顔を向ければ、つれないねぇと嘆く声が聞こえるがあえて無視する。
「弓、受け取ってくれたかい?」
実は数日前にリカルドと共に狩りに出かけた。クレイグが話していた通り、素晴らしい腕前で、狩りよりもその姿をずっと眺めていた。
それに気が付いたリカルドが、獲物をしとめるコツだと手取り足取り教えてくれて、とても素敵な時間を過ごしたなと、今思い出してもホンワカとしてしまう。
その次の日だ。
洗濯を済ませて干そうとしていたら、いつのまにか傍に弓が置いてあり≪今度は俺と一緒にその弓で狩りに行こうぜ≫というメッセージがつけられていたのだ。
「もしかして、弓は華凜さんが?」
「届けたのは別の奴だけど、弓はアタシから。漢栄では有名な職人の作ったモンでね、獲物を狩るには良い弓さ」
「すみません、てっきり……、かと」
チラッと博文に視線を向ける。
「あぁ、違うよ。こいつはアタシが踊りで稼いだ金で買ったモンさ。俺からだと周が使ってくれないだろうからってさ、博文が」
「華凜っ」
余計な事は言うなというような表情を華凜に向け、きまりが悪そうに周を見る。
「そうでしたか。ありがとうございます、華凜さん」
「良いんだよ。で、こいつは博文から。グリスの肉」
バスケットの中には薬草に包まれた塊がある。
「大物を仕留めてきたんだぜ」
たしかにこの前の倍以上は入っているようだ。
「そうですか。ですが、この前、俺の肉を奪ったんですから礼は言いませんよ」
荷物を返してくれませんかと、周は腕を伸ばすが、博文は荷物を渡してくれない。
「運んでやるよ」
「結構です」
返して下さいともう一度言えば、
「可愛くねぇなぁ」
と荷物を抱えたまま走り出した。
「あ、博文!」
「まったく、大人げないねぇ、あの男は」
呆れた調子で呟く華凜に、同意するように頷く。
「ほら、博文の言葉にあまえちまいなよ。荷物、アタシも持って行ってあげる」
「ありがとうございます。あの、行先は馴染みの食堂なんですけど」
「大丈夫だよ。そこらへんもあの男は調べ済だよ」
そうだろうなとため息をついて歩き出す。
途中、華凜に朱玉との思い出話を聞きながら楽しく歩く。時折、博文の視線を感じたが無視をした。
「荷物はここに置いて下さい。俺が中に運びますから」
裏庭に回り荷物を置く。
「あいよ。じゃぁ、帰ろうかね。博文、行くよ」
「あ、待ってください」
籠の中から余分に買っておいたワインを取り出して華凜に渡した。
「イケる口だと、父から聞いたことがありましたので」
「あぁ。朱玉がまだ生きてた時にさ、宗とクレイグと共に酒を飲んだもんだよ」
懐かしいねぇと、その頃の事を思いだしているようで、華凜は笑顔を向ける。
「華凜さん、たまには母に会いに来てください。待ってますから」
「あぁ」
ありがとうと頭を撫でられ、まるで母にしてもらっているような気分になり、ほっこりと気持ちが温まる。
「なんだよ、華凜だけかよ」
それをぶち壊す様に博文がぬっと二人の間にはいりこむ。
鬱陶しいと彼を見上げ、
「先ほども言いましたが、肉は前に俺のを奪ったんですから礼はナシです」
そう冷たくあしらう。
「じゃぁ、俺にはコレでいいや」
と、がっつりと唇を奪われた。
「んッ」
華凜の前で、しかもいつもとは違う下半身にくるようなキス。
歯列をなぞられ舌を絡みあわせる。
荒っぽいのに感じるポイントを確実についてくるのだ。
「俺の事も構ってくれよ。寂しいじゃねぇか」
華凜とばかり話していて博文の事は軽く無視していた。それで拗ねてこんな真似をしているのだ。
「や、はくぶん」
「や、じゃねぇよ。トロンとしちゃってさ、可愛いよなぁ、本当」
ちゅっちゅと音をたてて、さらに深く口づけられる。
要約、唇が離れた頃には足に力がはいらなくなっていて、博文が支えてくれていなければ崩れ落ちてしまいそうだ。
「博文、そろそろ解放してやんなよ」
「うるせぇ。俺様を無視して二人してイチャつきやがって! 俺もするんだもんね」
と、尻を揉まれ、何をするのだと博文の手から身をよじって逃げる。
「まったく、この助平親父が!」
「はっ、助平で結構。周のケツの孔は俺のもんよ」
俺のイチモツをぶちこんでヒィヒィ言わせてやるからさ、と、とんでもない事を口にする。
「何を考えているんですか!!」
最低な男だ。肩が怒りで震える。
「おぅ、怒った顔、宗にそっくりな」
怖ぇ、と言って逃げるように立ち去っていく。
「まったく。どうしようもない男だねぇ。周、貞操はしっかりと守るんだよ」
またね、と言って華凜は博文を追って帰って行った。