生涯の伴侶

愛しい人

 クレイグは大柄で屈強な肉体を持つ。特別に作らせた大型で重たい剣を軽々と振り回すほどの力もあるし、実戦経験も豊富で騎士団の中では一番の腕前だ。
 彼に憧れて騎士を目指す者は多い。しかも、気さくで優しくて、時に厳しく叱ってくれる人柄がよけいに人を惹きつける魅力となっている。
 彼は宗と出会ったころから変わらない。まぁ、互いに歳をとり顔のシワが増えた。だが、鍛え抜かれた身体は衰えを感じさせない。
 あの腕に何度抱かれたいと思った事か。身体の隅々まで舌と手で愛撫してやりたい。
 気持ちよさそうな顔をして自分を欲しがる姿を見てみたい、と。
 だが、そうしなかったには理由がある。
 それは妻であり恋敵でもある美しい人との約束ごと。
 朱玉と知り合ったのは絡まれている所を助けた事が切っ掛けで、クレイグに恋をしてしまったのだ。
 行動力のある彼女に引き込まれるように三人で過ごす事が多くなった。
 自分の命はあまり長くない事を知っていた朱玉に、生きている間、彼と過ごす時間が欲しいとお願いされたが、それだけは出来なかった。
 やさしい彼は朱玉の願いを聞くだろう。彼女抱き、間に子供が生まれて……。
 それだけはどうしても耐えられなかった。それ故の約束。
 一つ目は宗と朱玉とが結婚して子供を作る事。
 二つ目は朱玉が死んだ後、宗の方からクレイグに好きだと告白しない事。ただし、向こうから好きだと言われたら自分の気持ちを素直に応える事。
 三つ目は、命日にはクレイグと周と三人で会いに来る事。
 という内容だった。
 妻として母としての幸せを味わいたいという願いは叶えた。
 宗はけして彼女が嫌いではなかった。いつもクレイグの話で盛り上がり、まるで友達同士のようだった。
 周が生まれてからは美しさが増し、このまま彼女と過ごす日々も良いなと心がかわりつつあった、その矢先だ。彼女が亡くなってしまったのは。
 予想以上にダメージが大きく、起ちあがる事が出来なかった宗を、救ってくれたのはクレイグだ。
 強引に自分を鍛錬所へと連れ出して剣を合わせた。あの時はボロクソに負けてしまったが、あれのおかげで立ち直ることができた。自分の身を案じ、その想いがすごく伝わってきたからだ。
 それからというもの、傍にいて欲しいと思う気持ちがよりいっそう強くなった。
 また意識をするようになり、ひとつ気が付いた。クレイグが自分を好いているということに。
 鍛錬所で後輩と手合せをした後に水浴びをしている時に感じる視線。あれは宗がクレイグを見る時と同じ欲を含んだものだった。
 朱玉との約束があるから宗からは告白しない。けれど、もっと自分を見て欲しいと、わざと身体を見せつけるような真似をもしてきた。
 だが歳をとるにつれ自分には魅力がないんではと不安になり、それでもクレイグが自分に対して欲を感じてくれているようで、今では安心を得るための行為となっていた。

 クレイグから伴侶になって欲しいとカフスを渡された時、すごく嬉しかった。
 二十年、彼を想い待っていてよかったと思ったが、素直にそう言わずに少し意地悪をしてやろうと、すぐには求婚を受け入れずに伴侶になるかどうかはクレイグ次第だとこたえた。
 自分を手に入れるためにクレイグはどうアプローチをかけてくるのかが楽しみだ。
 クレイグと宗が互いに想い合っている事は周りの皆は気が付いているが、黙って暖かくも守ろうという雰囲気になっており、ばれていることを知らないのはクレイグだけだ。
 だが、クレイグが求婚した途端、隊の者達が報告を待ってソワソワとしている。
 それをあえて無視していたら、隊の一人に聞かれた。
「ソウさん、クレイグさんに求婚されたんですよね?」
「あぁ。だが、OKの返事はしていないぞ」
 そう口にすると、え、と、驚いた顔をされる。
「この歳だからな。今更だと思ってな」
「まぁ、それも解らなくはないですが」
 すぐにOKすると思っていたようで意外そうな顔をする。
「ま、そういう訳だから」
 もう何も話さないという態度をとれば、皆はそれ以上は聞いてこない。聞いても無駄という事は解っているからだ。
 これから先は自分にではなくクレイグに聞くのだろう。
 直ぐに噂になってしまうのは困るが、宗たちの幸せを喜んでくれているのが伝わってくるので、その点については何も言わないでおくことにした。