王子に射止められる
きっとアンセルムの事だから自分を押し通し、すぐに仁の元へと来るのだろう。
すぐに家は騒がしくなるのだろうなと、口元を綻ばす。
自分の心を素直に認めてしまってからは、静かな日々に物足りなさを感じるようになっていた。
「はやく家にこいよ」
そうして待ち続けて、一日、また一日と過ぎていく。
しかも、連絡すらない事に、アンセルムの身に何かあったかと心配になってくる。
シオンに連絡をして確かめて貰おう、そう思い席を立つが、もしも別の理由だったらと思い直して椅子に腰を下ろす。
待つことがこんなに辛い事だったなんて。今まで、船から戻る自分を待ち続けてきたアンセルムはどういう思いだったのだろう。
そんな相手を、仁はずっと冷たくあしらってきたのだ。
今更だが、どうして優しくできなかったのかと気持ちが落ちこむ。
「アンセルム、早く約束したことをやりに来い」
抱きしめて、温もりを感じたい。そしてアンセルムの作った美味しい食事を食べながら一緒に話をしよう。
そしてベッドでこの前の続きをやらせてやる。
「俺を、一人にしておくな」
伴侶として迎えてやるから。
ぎぃ、とドアが軋む音共に開かれ、そこには眩しいばかりに笑顔が輝くアンセルムの姿がある。
「一人にしておいてごめんね、ジン」
なんてタイミングで現れるのだろう。
会えた嬉しさ、弱音をはいていた自分に対する羞恥心、それが全部まじりあって複雑な感情となる。
「王子、タイミングが悪すぎますよ」
そう口にするなり、仁はアンセルムを強く抱きしめていた。
「えぇ? タイミングが良かったの間違いじゃないの」
弱音をはく所に居合わせたアンセルムにとってはそうかもしれないが、仁としては恥ずかしいだけだ。
「貴方は無駄に存在感がありすぎるから、勘違いしてしまっただけです」
「ふふ、そっか、ジンは私の事をそんなに想っていてくれたんだ」
仁の本当の気持ちは見通されているのだ。
嬉しいよ、なんて言いながらアンセルムは仁の額に口づけを落とした。
「……貴方って本当にポジティブ思考ですよね」
じっとアンセルムを見れば、ふっと笑みをこぼし唇へとキスをする。
それを応えるように口を開けば、アンセルムの舌が歯列をなぞり、口づけはさらに濃厚なものになる。
「はぁっ」
ちゅっとリップ音をならしながら、甘く息をはきだして。
濡れた唇を何度も、何度も重ね合い、熱のこもった眼差しで見つめ合う。
「ジン」
「ん、アンセルム、さま」
互いの唇が離れていき、名残惜しそうに濡れた唇を見つめる。
アンセルムは愛おしそうに仁の頬を暫く撫でた後、上着のポケットへと手を突っ込み、中から小さな箱を取り出した。
「これは?」
「いつかジンに渡そうかと思って作らせておいたんだよね」
とそれを掌の上へと置いた。
開けてみてと言われ、中を開けてみればそこにはシルバーリングがあった。
智広の護衛も兼ねているため、一緒に商談へと着いていくことが多く、いつの間にか良い品を見極める目が養われていた。それ故にアンセルムからの贈り物がどれだけ素晴らしかがわかる。
「良い腕の職人ですね」
「君はチヒロと共に商談に行くことも多いでしょう? だから誰に見られても目を惹くような品をと思ってね」
確かにこのリングは目を惹くだろう。意外と相手は自分たちの身なりを見てくるものだ。
「ありがとうございます、アンセルム様」
その気遣いが嬉しくてその身を抱きしめた。
「ふふ、喜んでもらえてうれしいよ」
「アンセルム様、俺からもお渡ししたいものがあります」
アンセルムから身を離し、箪笥の上に置いてある小物入れの中にある巾着袋を手にし、中身を取りだして彼へと手渡す。
「これは、和ノ國の櫛かい?」
と、仁から渡されたものに、アンセルムは目をパチクリさせる。
櫛には椿の花が彫られており、どうみても女性ものである。それを手渡されて戸惑っているのだろう。
「はい、そうです」
若い娘が好みそうな櫛をアンセルムに手渡すのはどうかと思っていたのだが、母親から娶りたいと思う相手ができたらあげなさいと言われて持たされたものだから。
「和ノ國では娶りたいと思う女性に櫛を贈ります」
その先に続く言葉を期待するかのようにアンセルムが仁を見つめている。
そう、この先に続く言葉は間違いなくアンセルムが期待する通りの言葉なのだから。
「アンセルム様、俺の伴侶になってくれますか?」
「あぁ、もちろんだとも!!」
幸せだよと櫛を大切そうに握りしめ、仁の唇に唇を重ねた。
「ん、あんせるむ、さま」
先ほども深く口づけもだが、アンセルムとのキスは仁へ甘い疼きを与える。
何度も音を立てながら唇を啄んで、ほうと甘い気を吐き見つめ合う。
「ねぇ、ジン、私達は伴侶となるのだから敬語と様付をやめてくれないかな」
と言われ、仁はすぐにその提案を受け入れる。
きっと、前に襲われた時のように余裕がなくなってしまいそうだから。
「あぁ、いいぜ。その方が俺も楽だ」
敬語は堅苦しくていけねぇよと口角を上げる。
話し方ひとつで雰囲気がかわったかのようで、アンセルムがニヤニヤとした表情を浮かべている。
「な、なんだよ」
「いや、その口調のジンは雄雄しいよね」
うっとりと見つめられて仁は照れくさいのを隠す様に、アンセルムの顔を自分の手のひらで覆えば、そのまま掌に口づけをおとしはじめる。
「お、おい」
真っ赤な舌が指の付け根を舐り、人差し指を咥えられてしまう。
「アンセルム」
「ん……」
仁に見せつけるように扇情的に舌を動かす。
その姿に下半身が疼き、仁はたまらず前かがみになってしまい、それを見逃すアンセルムではなく、そのままベッドへと押し倒されたかと思えばその上に跨る。
「この前の続き、しようね」
と服を脱がされ、肌を手が舌が愛撫していく。
アンセルムはすごく厭らしい。
だが、折角の雰囲気を台無しにするような事を口にし始めた。
「実はね、ジンのを受け入れるために後を弄っていたらハマッてしまってね。自慰をするときには君をオカズに……」
「あー、あー、そんな話は聞きたかねぇ」
話の途中でそう言葉を重ねれば、アンセルムは大袈裟に驚いて見せる。
「えぇ、興味ないの? 私がどんなふうにするのかって」
「あのなぁ、いまからそれ以上にすげぇことをするんだろうが」
黙れとばかりに口づけをすると、嬉しそうにそれに応えるように舌を絡ませた。
そして、寝そべる仁のモノを咥えながら後ろを弄りだす。
「んんっ」
じゅるじゅると水音をたてながら吸われて、仁は声が出ないように自分の口元を手で押さえる。
「じぃん、こへ、おひゃえらいでお」
咥えたまま、もごもごと話すアンセルムに、仁はしゃべるなと彼を押さえつけるが、さらに奥へと咥えられて飛び跳ねるほど感じてしまう。
「うう、ん、ふぅ」
必死に声を押し殺すけれど、たまらず声をあげてしまう。
自分の声ではないような、甘く切ない声。恥ずかしくてたまらないのに、この気持ち良さには抗えず。
がっちりと起ちあがったモノからアンセルムの口が離れた。
「あっ」
思わずもらしてしまった声に、ハッとなって慌てて違うと口にする。
「べ、別に気持ち良かったとか思ってねぇし」
「私は何も言っていないよ、ジン」
ふふっと笑いながら唾液と蜜で濡れた仁のモノを指でぐりぐりと弄りだす。
「あぁッ」
それでなくとも感じやすくなっている箇所を指で弄られて、身体は正直に反応をしてしまう。
「そろそろ後ろも気持ちよくしてあげるね」
と、蜜で濡れた指で、後孔をほぐす。
「んぁ、へんな、感じだ」
そこは入れることに慣れていない。ゆえに、変な感じでむずむずとする。
「すぐになれるよ」
指が一本、また一本と増え、ある箇所にあたり身体が飛び跳ねる。
「あっ」
「うん。ここがジンの感じるところだね。そろそろ私のでついてあげる」
と指とは比べ物にならぬくらいの質量のものが入り込む。
「いてぇっ」
「すぐによくなるから頑張って」
熱いし、痛いし、きもちわるい。
嫌だと逃げ出そうとするが、強い力で抑え込まれてしまう。
「ジン、お願いだから」
切ない目で見つめられ、仁は目を大きく開く。
もしもここで逃げてしまったら、その目から涙がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「アンセルム、キスしろ」
彼とのキスは気持ちが良いから。
「うん」
唇がふれ、深く口づけしあう。
アンセルムの舌が仁をとろけさせ、気が緩んだ途端に中のモノが奥まではいりこんだ。
「んぁ」
仁が力を入れていたから、スムーズに進まなかったのだろう。
さっきまで痛かったのに、今は全然平気だ。
唇が離れ、
「ジン、大丈夫?」
と今だ顔は近い距離だ。
「あぁ。アンセルム」
アンセルムは仁を雄雄しいといってくれたが、今の姿は優しい美形な男ではなく、雄の顔をしている。
こんな顔を見たことがない。胸の鼓動が激しく波打つ。
「嬉しいよ。繋がりあえた」
恍惚とした表情を浮かべ、仁の胸元を撫でる。
「く、あん、せるむ」
「私ので気持ち良くなってね。仁」
仁の中にあるモノが、さらに大きさを増して暴れだす。
「え、あ」
どうしてと驚いた所に激しく中を突かれ、一瞬、意識が飛んだ。
「くぁっ」
「あぁっ、きもちいぃ」
激しく打ちつけられ、頭の中がくらくらとする。
自分ができることは、アンセルムを受け入れることだけだ。
「アンセルム、もっと、こい」
「うん、うんっ!」
アンセルムにとって、仁の気持ちが嬉しいらしく、とても幸せそうに笑みを浮かべた。
「でも、そういうところも、好き、だよ」
「くっ、何を、言って、ふぅ、そろそろ」
「うん、このまま一緒にイこう」
ぎゅっと互いの手を握りしめ、昂った欲をはき出す。倦怠感と共に芯が痺れる。
アンセルムのモノが仁の中から抜け、寂しさと共にとろりと蜜が足を伝い落ちていく。
「はぁ、ベタベタする」
「ふふ。でも、幸せ」
放ったもので濡れていても、それは幸せの行為だからとアンセルムがいう。
「そうだな。よし、風呂に入るぞ」
「一緒にいいの?」
「はぁ? てめぇが出したモンの始末を俺がしろってぇのかよ」
ふざけるなと額にデコピンをくらわせると、痛いと手で押さえながらも顔はにやついていた。
壁に手をつかされて、後ろから放った欲をかきだされる。
その度に後ろが疼いたが、口に出したらもう一度と言いかねないので黙っていた。
「ジン、ありがとうね」
「……礼を言われる筋合いはねぇよ。俺も望んだことだ」
まさか男を受け入れることになろうなんて思わなかった。
アンセルムの想いが、仁をこうさせたのだ。
「すごく嬉しかった」
間近で微笑むアンセルムを見たら、我慢していた気持ちがあふれ出た。
あぁ、もう駄目だ。諦めるように深くため息をつく。
「え、えっ、ジン、呆れたの?」
「ちげぇよ」
手を掴んで自分の物へと導く。たちあがってかたくなったモノに触れて、アンセルムは綻んだ。
「いいよ。何度だって気持ち良くしてあげる」
折角、掻き出した中へ、アンセルムのモノがはいっていく。
「あぁっ」
それが嬉しくて身体が喜んでしまう。
「可愛い」
ちゅっと音を立てて髪にキスをし、後ろを突かれて互いに放って身体と気持ちが落ち着いた。
もう一度掻き出した後に湯船につかる。
「また、ジンに求めて貰えるなんて思わなかった」
「俺もアンセルムを求めることがこようなんざ思わなかったぜ」
好きだ、と、こめかみのあたりに口づけをすると、労わるように抱きしめられた。
「嬉しいよ、ジン」
アンセルムのエメラルドの目が潤みだし、仁はわざと乱暴にアンセルムの髪を撫でた。
「うわ、ちょっと」
何をするのと身体を引き離される。
「笑え」
「え?」
「俺が傍に居れば笑っていてくれるんだろう?」
そう口角を上げれば、目尻に浮かんだ涙を拭いながらアンセルムは微笑んだ。
それからの二人。
仁が船旅を終えて家に帰ると、笑顔のアンセルムに出迎えられる。その姿を見ると疲れが癒されていく。
美味い料理がテーブル一杯に並べられており、話をしながらそれを食べて、寝る時は一つのベッドで温もりを感じ合う。
それがとても楽しくて愛おしい。仁にとって、大切な時となった。