Un rhume
この日が待ち遠しかった。
朝から落ち着かず、お土産にかったワインを眺めては、まだ時間にならないとため息をつく。
あまり早く行くのも失礼だと、そう思いつつも家にいると時計ばかり眺めてしまうので外へ出た。
途中で時間を潰しながら、それでも七時より前に龍之介の部屋の前に着いてしまった。
嫌な顔をされるかもとチャイムを慣らしたら、案の定、眉間にシワが寄っていた。
だが、そんな事で心はめげない。そんなにがつがつした性格じゃないと思っていたのだが龍之介に対しては違うようだ。
部屋の中にも無事に上がることができた。流石に招待客を門前払いはしなかった。
龍之介の部屋はお洒落な部屋だった。流石にキッチンは広く、用具も綺麗に並べられている。
「姉に連絡するから待ってろ」
と電話をし始める。そこにナツメからメールが届いた。
<二人きりの時間はママとナツメからの誕生日プレゼント>
と書かれていて、ナツメの誕生日会は一週間前の関町の誕生日のお祝いへと替わった。
はじめからそのつもりだったのか、最高のプレゼントに口元が緩む。
清美との通話を終えた龍之介に見られぬようにスマートフォンをしまい、素知らぬ顔して言葉を待った。
自分の為に作られた料理ではない。それでも、愛しい人と一緒に手料理を食べ、会話をしながら和やかに過ぎていく時間がとても幸せで、このまま過ぎていけばいいと思っていたのに、それだけじゃ足りない。
お祝いの言葉を貰えるとは思わず、我慢していた欲があふれ出て止まらなかった。
というか、キスだけで止める事が出来たことが奇跡だ。
「やわらかかったな……」
高揚した頬と乱れた息が色っぽく、下半身にずくっと熱が溜まる。
「あー、やばい、やばい、早く帰ろう」
彼を思えば思うほどに熱はたまる一方で、急いでマンションへと戻った。
――細い身体だ。背中から腕を伸ばし熟れた乳首を弄り、骨ばったお尻にかたくなったモノをこすり付ける。
『はぁ、龍之介さん、中に入りたい』
『いいよ、大雅、おいで』
と後孔へと手を伸ばして開いて見せた――。
「はぁ、龍之介さん、可愛い、色っぽい」
何度、えろい姿を妄想して抜いただろうか。いつでも関町が望むまま受け入れてイかせてくれる。
「んんっ、はぁぁ」
欲が放たれ一息。だが、まだ熱は収まりそうにもなくて、冷水を浴びて無理やり収めた。
※※※
朝から少し喉がいがらっぽい。
会社にいく途中でコンビニに寄ってのど飴を買っておいた。
「おはようございます」
「おはよう、関町君」
清美はナツメと一緒に家を出る為、いつも来るのが早い。
「清美さん、昨日素敵なプレゼントをありがとうございました」
「良いのよ。どうだった?」
「すごく良い時間を過ごせました」
料理が美味かったこと、ケーキを出してくれた時に誕生日のお祝いの言葉を貰った事、そしてキスした事を話すと、キャーキャー言いながら清美のテンションが上がる。
「やるわね。キスを奪うなんてっ」
「柔らかくてー、大人の味がしました」
「やだっ、関町君たら」
背中をおもいきり叩かれる。
「き、清美さん、痛いですぅ」
「ごめんねー。つい」
手を合わせて小首を傾げる仕草が可愛くて、大丈夫ですと首を横に振った。
「関町君って、期待を裏切らないわぁ」
「期待ですか?」
何に対してだろうと小首を傾げる。
「あ、こっちの話し。龍って仕事人間だから、少し強引に攻めないと意識しないし」
「そうなんですね。じゃぁ、遠慮せずにがつがついきます」
「いいわぁ、ワンコは肉食じゃなきゃね」
「わんわん」
ふざけて吠える真似をすれば清美が楽しそうにきゃっきゃと声をあげながら手を叩く。
職場の人にワンコみたいだと言われることはあるが、清美は本当にペットだと思っているのではないだろうか。
まぁ、美人で優しい飼い主は嬉しいけれど、どうせなら龍之介に飼われたい。
「また何か切っ掛けを作ってあげるから、頑張りなさいよ」
「はい」
清美は強力な味方だ。その時は宜しくお願いしますと手を握りしめた。
時間がたつにつれ、喉の痛みに加え、鼻水とくしゃみがではじめた。
帰りに薬局で風薬を買いそれを飲んで早く寝たのだが、朝、起きたらなんだか怠い。
マスクをして出社したが、お昼ごろには顔色まで悪くなっていたようで、清美に帰るように言われた。
「だいじょうぶですよぉ」
少しぼっとするが、仕事が出来ないほどではない。
だが、清美は首を横に振るう。
「貴方が思っている以上に熱があるわよ、絶対に。病院に行って大人しく寝てなさい」
「わかりました」
病院に寄り薬を貰い家へと帰る。
肩や関節まで痛みを感じるようになり、熱を測ると8度を超えていた。
風邪を引いた理由が理由だけに、馬鹿だなと自分にあきれかえる。
「あぁ……、しんどい」
コンビニで食べやすい物を買って家に帰る。
薬を飲むためにプリンを食べ、スマートフォンを見るとラインからメッセージが送られていて相手は清美だ。
<大丈夫?>
<病院に行って薬を貰って今から飲む所です>
<そう。ゆっくり休みなさいね。おやすみ>
<はい。おやすみなさい>
タイマーをセットし、薬を飲み早めに就寝をした。
だが、熱は引くことなく、2日、3日と過ぎてもまだ熱は下がらなかった。
熱のせいで人恋しくなっているのか、龍之介に会いたくてしかたがない。
「龍之介さん」
おめでとうと言ってくれた時の、その姿を思い出して、心がさみしくなっていく。
「会いたいなぁ……」
清美から聞いた龍之介のアドレス。
お見舞いに来てほしいと送ろうかと思ったが、風邪をうつしてしまったら申し訳ないと枕の横へと置いた。
部屋のインターホンが鳴る。
誰だろう。
ふらりと起ちあがりインターホンが鳴り、そっとドアを開けば会いたいと願っていた相手が立っていた。