寂しがりやの君

総一③

 田中のことが可愛い。
 友達になって下の名前で呼び合って、あまりに嬉しそうにするものだから、調子に乗って可愛く言えとリクエストをしたら予想を上回ることをしてきた。
 あれはダメだ。気が付いたら頬にキスをし、指まで舐めてしまった。
 それに言い訳が酷い。懐かないにゃんこが甘えてきたから、つい、とか、今思うとよく納得してくれたものだ。
「ちょっと、さっきからため息ばかりついて」
 三芳が橋沼を心配そうにみている。
 復帰はまだ早かったのではと思われているかもしれない。
 まさか絵のことではなく後輩のことで悩んでいるとは思わないだろう。
「ごめん、集中できてないよな」
「ねぇ、無理だけはしないで」
「違うんだ。個人的なことで少しな」
「え、もしかして尾沢君が話していた子のことかしら」
 冬弥は何を話したのか、三芳が手を合わせて目を輝かせる。
 どうせ根掘り葉掘り聞いてくるだろうから、後で話すと先にいっておく。
「楽しみにしているね」
 楽しそうな表情。やはりそのつもりだったようだ。
 だがそれも絵を描くのに集中しはじめれば真面目な表情へと変わり、橋沼は真っ白なスケッチブックを眺めた。

 部活が終わり片づけをして部員が一人、また一人と帰路につく。
 三芳は部誌をつけていて、側の椅子に腰を下ろす。
「なぁ、後輩が可愛いからって頬にだけどキスするかな?」
「ぬぁっ、ちょっと、いきなりぶっこんできたわね」
 部誌を閉じて顔を近づけてくる。
「橋沼君って男の子もイケる口だったの?」
「相手が男だと言ったか、俺」
「尾沢君から聞いた相手って男の子だけど」
 そうだった。冬弥が三芳に田中のことを話したといっていた。
「たしかに相手は男だ。しかも背が高い。それに見た目が中性的というわけでもない」
「そうなんだ。キスするかどうかという話しだけど、普通はしないでしょうね」
 出会ったときから田中のことが気になっていた。
 昼休みの間、一緒に過ごすようになり、田中のことを知るにつれて可愛いと思うようになっていった。
 それは弟に感じるようなもの、そう思っていたのだが違った。
 田中がしてしまったこと、そして橋沼が秘密にしていたことを告げた日、本当の意味で友達となった。
 だが、橋沼のほうはその枠だけでは収まりきれなかっただけだ。
 なんとなくは気が付いていた。すでにこの感情は田中とは別のものになっていたことを。
 可愛がりたいのも、甘やかせたいのも、田中が好きだからだ。
「あいつが可愛いのが悪い」
 呟いた言葉に三芳がにやにやと笑う。
「心を奪われたのなら、素直に受け入れればいいだけよ」
 応援するわよと自分の胸を叩いた。
「それは、心強いな」
 三芳にそういってもらえると安心感がある。彼女の持つ雰囲気がそうさせるのだろう。
「それじゃ、好きなところを教えてもらおうかしらね」
「わかった」
 田中の好きなところを彼女へと聞かせる。
 改めて口に出してみると田中のことを相当好きなんだなと気づかされた。