その熱にこの身を溶かす
美代子さんに会える。それがとても楽しみで、待ち合わせの学校にくるまで、うきうきとした足取りでここまで来た。
「ご機嫌だな」
そんな俺の様子を見て、総一さんが口元に笑みを浮かべる。
「だってよ、美代子さんにあえるんだもの」
「ばぁちゃんも朝から楽しそうだった」
まじか。俺は総一さんを急かすように背中を押すと、
「わかった。いくぞ」
と俺の手を握りしめる。
「ちょっと」
流石に誰かに見られたら、変な目で見られるぞ。
「家に着くまで」
すぐだからと、総一さんは手を離すつもりがないようだ。
俺は誰かに見られたらと気が気じゃなく、あたりを気にしながら歩いていく。
「ついたぞ」
「え、もう?」
すぐだと言っていたのは本当だった。
玄関のドアを開け、
「ばぁちゃん、ただいま」
と声をあげると、奥からスリッパの音が聞こえてくる。
「お帰り、総ちゃん。いらっしゃい、秀次君」
冬弥さんが小柄で可愛いと言っていたが、本当だ。しかも和む。
「あの、はじめまして。総一さんにはいつもお世話になってます。あの、あと、お弁当も美味しく頂いてます」
普段、使い慣れねぇ言葉だから、緊張する。挨拶ってこれでいいのか?
不安だなと総一さんを見れば、笑っている。やっぱりおかしかったのか。
「あ、あのっ」
「ふふ、いいのよ、いつも通りで」
使い慣れてねぇのバレバレなんだろうな。
「ははは、秀次、堅苦しくしなくていい。ばぁちゃんはいつもの秀次が良いんだから」
いつものって、総一さん、美代子さんに俺のことをどう話しているんだよ。
「さ、上がって頂戴」
「おじゃまします。あの、これ、美代子さんに」
「まぁ、プレゼント? 嬉しいわぁ。勇さんにも見せてあげましょ」
手を合わせて喜ぶ姿はまるで少女のようで、その姿を見てほんわかとした気持ちとなる。
「お昼と夜のご飯の用意してあるの。食べていってね」
お昼は期待してたけど、夜まで用意してくれていたなんて。やばい、嬉しすぎる。
いいのかな、甘えちゃって。ちらっと総一さんを見ると、
「食べていってくれ」
と言われた。じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらおう。
「楽しみにしてます」
「はぁい。頑張って作るわね」
と袖を捲る。その仕草も可愛い。その姿に口元が綻ぶ。
「ばぁちゃん、二階にいるから」
総一さんが肩に手を回す。しかも俺のことをひきよせてないか?
「あらあら、仲良しだこと」
と美代子さんがくすくすとわらい、
「お昼になったら呼ぶわね」
また後でねと手を振る。それに応えるように俺も手を振り返した。
総一さんの部屋は二階にあり、本棚には受験用の問題集や写真集などがある。
綺麗に整頓されているなと当たりを見ていると、適当に座ってと言われて腰を下ろす。
「綺麗だな、部屋」
「秀次が来るから掃除したんだよ」
そうなんだ。ベッドの下にエロ本とか隠してねぇのかな。こっそりと覗いてみれば、無いよと言われてしまう。
ち、考えていることがばれたか。
「何だよ、どんなのオカズにしてんのかチェックしてやろうと思ってたのに」
「残念だな」
そうニヤリと笑い、
「秀次、ばぁちゃんにプレゼントを用意してくれてありがとうな」
と総一さんも喜んでくれた。
よかった。二人のそういう顔が見たかったんだ。あとで冬弥さんにうまくいったことを伝えねぇと。
「ばぁちゃんのプレゼントを買うの、大変だっただろ」
「実は冬弥さんに手伝ってもらったんだ」
「あぁ、成程……、冬弥ね」
あれ、目が座ってねぇ?
まさか、買い物に行ったくらいで妬いてんのかよ。
「言っとくけど、彰正もいたから」
まったく。ただの友達じゃん、尾沢兄弟とは。
それでも面白くないのか、俺の側にきて、抱きしめられた。
「心が狭いぞ」
「そうなんだよな、俺もそう思う」
なんだよそれ。解っていても妬いちまうとか、嬉しすぎるだろ。
「プレゼントはさ、驚かせたくて内緒にしてた。本当は総一さんと一緒に買いにいくべきだったな」
「いや、秀次が考えてしてくれたことだしな」
でも、もやもやすると俺の肩に頭をのせる。
あー、もう、なに、この可愛い生きモノは。
「妬かれるのって、意外とわるくねぇな」
「秀次」
拗ねる総一さんの頭を撫でて、
「ほら、はじめようぜ」
と身を離した。
「そうだな。じゃぁ、脱いでくれるか。秀次の身体を描きたい」
え、ヌードモデルをしろというのか。モデルなんだし、そういうのもあるってことか。
だけどさ、簡単には割り切れねぇってよ。だって、初めてなんだぜ、こういうの。
躊躇う俺に、どうしたんだといように総一さんは目を瞬かせて、
「あ、全裸になれとは言わない」
と手渡されたのはビキニタイプの海水パンツだった。
「うわぁ、まじでか」
下着のままじゃ駄目なのかよ。
海パンの両端を摘まみ引っ張る。これ、みじけぇよな、見えちゃわねぇ?
「本当は無い方がいいが、それじゃ、流石に嫌だと思ってな」
「当たり前だ」
海パン一丁だって恥ずかしい。
「大腿部もよく見たいし」
「わかった。着替えるから」
俺は総一さんに背を向けて服を脱いでいく。やたらと視線を感じるが、我慢だ、海パンを履くまでは。
「うん、背中と尻の筋肉も良い感じについているな」
近くで声がして、俺は慌てて前を隠す。
「ちょっと、離れてろよ」
「あ、悪い。触ってみたくなって」
始める前からそんなんじゃ困るよ。
「モデルの件、やめてもいいんだぞ」
「え、それは嫌だ」
と大人しく机の椅子に腰を下ろした。
「終わるまで机に顔を伏せて」
「わかった」
顔を伏せるのを見届けてから着替えをすませる。
「終わった」
と声をかけると、顎に手をおき、俺を上から下まで眺めていた。
「そのまま立っていてくれ」
言われたとおりにすると、キャンバスの置かれている場所へ移動し、描きはじめる。
部屋の中は鉛筆を走らせる音だけがする。
それにしても真剣な顔だな。前にも一度見たけれど、射抜くような目で見つめられると、ゾクゾクするんだよな。
いつもは柔らかい雰囲気はいまはない。
話しかけてはいけない、動いても駄目だ。そんな緊張感があり、俺はその中で総一さんの視線だけを感じる。
今、俺のどこを見ているの?
そんなことを気になりだしたら、身体が火照り、下半身が疼きだす。
「あっ」
やばいな、これ。収まりそうにねぇわ。
「疲れたか?」
声をあげたのに気が付き、総一さんが鉛筆を止めた。
「あぁ。少し休憩したい」
「わかった」
良かった。後は、ばれないようにズボンを履いてトイレに行こう。そこで気持ちを落ち着かせれば疼きも収まるだろう。
そう思っていたのに、総一さんの視線は俺に向いたままだ。
「何、見てんだよ」
「ん、休憩だろう? だから見ている」
「いや、休憩だから、その時くらいは見ないで欲しいんだけど」
その視線が落ち着かねぇんだって。
とにかく、さっとズボンを穿いて、トイレに行ってしまおう。
そう思ったのに、
「もしかして……」
と下半身の部分へと視線を向ける。余計にそこに意識がむいてしまい反応してしまった。
頬が熱い。真っ赤になっているんだろうな、俺。
「しょうがねぇだろ、慣れてねぇンだよ、こういうの」
見られないように手で覆い隠すと、
「そうか。抜いてやるよ」
俺の傍に立つ。
「な、しなくていい」
だが、総一さんの手は、立ちあがった箇所へと触れた。
「ちょっと、さわんなって」
それでなくてもピッタリとしているから感じやすいのに。
「じゃぁ、触らない」
と膝をつき、海パンのうえから俺のを噛み始めた。
手で触っていないだけじゃねぇか。
「ひゃ、総一さん、や、あっ」
へんな声、だしちまった。鼻から抜けような甘い声……。
その声に反応したのは俺だけじゃない。総一さんが目を細めて口角をあげる。
すげぇ恥ずかしいじゃん。頬と目頭がじわりと熱くなってきた。
総一さんの指が目尻の当たりを撫でる。我慢できなくて涙がこぼれ落ちてしまったようだ。
「総一さん、声、キモイだろ」
「そんなことない。秀次が可愛くてどうにかなりそうだ」
熱い目をして俺を見つめている。本当にそう思ってくれているんだな。
再び下半身を噛まれて、俺は声を漏らす。
もう、恥ずかしいとか思わねぇ。だって、総一さんが嬉しそうに笑うから。
「あっ、もう、いくってばっ」
「いいよ、だしちゃって」
身体が飛び跳ねて、欲が放たれる。
「はぁっ」
イった後の余韻で惚けていたら、総一さんが海パンを脱がそうとしていた。
「え、ちょっと」
「濡れたままじゃ気持ち悪いだろ。脱がせてやろうかと」
たしかに、べとべとしていて気持ち悪いからぬぎてぇけれどさ、濡れているの見られたくねぇよ。
「やめろ。自分で脱ぐ」
「だめ。彼氏特権」
なんだよ、彼氏特権って!
海水パンツを下ろされると、放ったモンがとろりと垂れ落ちた。だから嫌だったのに!
「やだって、恥ずかしい」
マジで、自分のを弄るのもこの頃やってねぇしさ。
余程、溜まってたんだって思われたじゃん。
「見ンなよ」
「まだいけそうだな」
指で先をぐいと押され、身体が跳ね上がる。
「総一さん、だめ」
「どうだめなんだ?」
意地悪なことをいうなよ。俺の、下半身の反応を見たら解るだろ。
「……気持ち良すぎてこまる」
「はぁ、どうしてそんなことを言うかな」
俺を煽るなと肩を掴まれる。別に、そんなつもりじゃねぇよ。
「本当のことなんだから」
そう、ぼそっというと、
「もう俺らは恋人同士なんだ。我慢しないぞ?」
総一さんが俺の耳元で言う。
わかってる、この部屋に入ってから俺は意識している。だから余計に駄目なんだ。
身体がすぐ反応してしまうから。
「本当はさ、総一さんの部屋にはいった時から、こうなるって思ってた」
「俺のことを意識してくれたら良いとは思っていたが、そうか」
総一さんも、俺と同じだったんだ。
「絵を描いている時の、真剣な顔がさ、カッコイイって」
「あぁ、もう、これ以上は言わなくていい」
とベッドに連れていかれ、その上に腰を下ろすとキスをする。
舌が絡み合って、きもちよくて蕩けそうだ。
「んぁっ」
身体を撫でるごつい手。俺、好きなんだ、総一さんの手。
それが胸に触れ、乳首を摘まむ。今日はいつもよりもすげぇ感じるわ。
「秀次、感じるようになったんだな」
初めは痛いだけだったのに、総一さんのことを考えて自慰をするときに弄るようになったら、気持ち良く感じるようになったんだ。
「弄れば、気持ちくなるって、いった」
「自分で弄っていたのか。それ、見たかったな」
舌先が乳首を弄り、それを咥えて吸い上げる。
「ひゃっ」
それ、やばい。もう片方も指で弄られて、もっと感じたくて胸を張るように身体を反らす。
下も膨らんでパンパンしてるし、汁が流れ落ちてるし。
こんな姿を俺ばかり晒してさ、ずるいじゃん。総一さんも見せろって。
「総一さんも脱げよ」
「そうだな。見ても引くなよ」
え、もしかして大きなナリして小さいとか?
まぁ、そんなことはねぇよな、うん、一瞬でも思った俺が馬鹿だった。
「立派なものをお持ちで」
「はは、照れるな」
いや、照れるとこじゃねぇから。
「あのさ、それを俺の中にいれてぇんだよな?」
「まぁ、秀次が良いと言ってくれるなら」
無理だろ、こんなの入る訳ねぇよ。
「そんな顔をしないでくれよ。解っているから」
あ、顔に出てたか。
「悪い。入れられるのなんて経験ねぇし。尻に突っ込むんだろ?」
「そう。調べたのか」
「あ? まぁ、ちょっと興味が……」
葉月と神野が付き合っていると聞いて、調べてみたんだよな、男同士はどうやるのかって。
どっちが女役なのか知らねぇけどさ、痛い思いをしているわけだろ?
「俺とこうすることを考えてくれたのか」
いや、あの時は自分達のことは考えていなかったから興味本位で調べられたんだ。
「あ、いや」
「それなら、誰とすることを考えた」
目を細め俺に顔を近づけてくる。
もしかして妬いてる?
「違うよ。葉月が男と付き合ってるって話を聞いてさ、それで……」
「へぇ。で、どういうふうにやるって書いてあった?」
俺に教えてよ、そう耳元で囁く。
「ひゃ、総一さん、知っているんだろ?」
わざわざ聞くなよ、そんなこと!
「秀次の口からききたいなと思って」
教えて、と、手が太腿に触れてゆるりと撫でた。
「男のアレを、尻の中に……」
「こんな感じ?」
尻に何かがはりこむ。
「ひやぁ、何」
きもちわるい。
「や、総一さん」
出して欲しくて身体を動かすが、
「男のアレを入れる前に、ここを指で慣らしておくんだ」
と総一さんに跨ぐように抱き寄せられて、互いのモノが触れ合う。
後ろに違和感を感じるのに、押し付けられて擦られたら気持ち良くて頭の中がぼーっとしてくる。
「ん……、ふ」
前、キモチイイ。後ろもへんな感じだったのに、ある箇所に指が触れた途端、身体の芯を貫くような快感がはしり、身体が跳ねた。
「あぁっ、そこ」
「秀次の良い所に当たったようだな」
と爪を立てるようにそこを弄られる。
「あ、あぁっ、そういちさん、気持ちい」
後ろも前もと付け加えれば、総一さんが口角をあげる。
「そうか。もう嫌じゃなくなったか」
「そこ、好き」
やべぇ、おかしくなっちまうよぉ。
身体を反らせば、もっと深く互いのモノが触れ合って、蜜があふれ出る。濡れて水音を立てながらこすれ合って、音までいやらしい。
もっと味わっていたいのに、高みにのぼりはじけてしまいそうだ。
「そういちさん、やだ、いっちゃう」
まだイきたくない。駄々をこねるように首を振るうと、
「一緒に、な?」
と互いのモノを大きな手が掴み、イかされた。
「あ、あっ」
「くっ」
白濁が腹に飛び散る。それは混じりあい、互いを濡らした。
「あ……、だりぃ」
総一さんに身を預けるように抱きつくと、胸板に頬をくっつけた。
それにしても良い体しているよなぁ。何食ったらこうなるんだろ。
「胸とかおっきい」
ふにっと揉むと弾力性がある。
「こら、女の子のを揉むみたく触らない」
「えぇ、意外とキモチイイ」
「ふっ、だめだって、やばいから」
あれ、顔が真っ赤だな。もしかして、弱いのか、ここ。
乳首を摘まんでみたら、総一さんから色っぽい声がでた。
「こら、もう一回したくなるだろ」
「今度は俺に触らせてくれるんだろ?」
俺だってさわったり、舐めたり、吸ったりしてみたい。
「わかった」
顔を近づけあった所に、
「総ちゃん、秀ちゃん、お昼御飯よ」
と美代子さんの声。そういえば腹が減ったなと、お腹をさすると、総一さんが笑う。
「腹減ったな」
「あぁ」
気持ちいいのも良いけれど、やっぱり飯には敵わない。
ティッシュで濡れた箇所を拭き、服を身に着ける。
「また、今度な」
たまには俺の方から。首に腕を絡ませて口づける。
「ん」
いつも総一さんにやられっぱなしじゃな。
「はぁ」
目元が赤く染まり、色っぽい。
「飯」
「もう少し、総一さんを味わったらな」
舌が絡み合う。
身体が煽られ熱くなる。
「ん、おしまい」
糸が繋ぎ合い、プツリときれた。
「秀次、どうだった」
「美味かったよ」
心が満たされたから、今度はお腹な。
そういって口角をあげると、美代子さんの待つ台所へと向かう。
階段を下ったあたりで、良い匂いに刺激されたか、腹が大きな音を立てる。
「ぶはっ、大きな音をたてて」
「うるせぇよ」
軽くグーパンを脇腹に食らわせる。
ドアをあげれば、割烹着姿の美代子さんと、テーブルの上には肉中心の料理がおかれている。
「さ、座って。沢山食べてね」
俺と総一さんは席に着くと、手を合わせて、
「頂きます」
と声をあげて、茶碗を手に置かずに箸を伸ばした。