Short Story

君に恋している

 おもわず口からでた言葉に、自分自身でも驚いた。
 美味しそうなのはロシェのことで、全てを食べてしまいたいという想いが声となって飛び出してしまった。
 それは伝わることなく、自画自賛という言葉で返されて、がっかりとしてしまう自分が居た。
 こんな気持ちになるのは初めてだ。もっと彼を知りたいとは思っていたが、そういう意味で興味を持つなんて思わなかった。

 強くなりたいという気持ちが伝わってくる。一生懸命に学ぶ姿は好ましく、教える方にも熱が上がる。
 オヤツをだすようになってから少し太ったし、剣の腕も以前に比べたら良くなった。スタミナもついてきて、今までは向こうから休憩をしたいと言っていたが、適当な所でファブリスの方から休憩を申し入れる。
「ロシェ、休憩だ」
 木陰で、タオルで汗をぬぐっているロシェに冷たい果実水をコップに注ぎ手渡せば、それを美味そうに喉を鳴らしながら飲み干す。
「少し酸味があるんだな」
「あぁ、レモラの実のしぼり汁を入れた。さっぱりしているのもいいだろう?」
 レモラの実は橙色の皮でおおわれていて中は薄い黄色。酸味があるためにそのままで食べることはしない。
 それのしぼり汁をゼリーに使ったり、脂っこい食事と一緒に出したりする。他には皮ごと輪切りにして蜂蜜に漬けたり、皮だけを煮てジャムにしたりと、調味料替わりや料理のワンポイントに、はたまたおやつにまでなるレモラの実は重宝されている。
 母が果実園を作りそこで実ったもので、休みの日に父親と収穫祭を楽しんだのだと、手紙と共に送ってくれた。いつまでも仲のいい夫婦だ。
「レモラの実か。これ、好きだ」
 ファブリスのことを言っている訳ではないのに、好きと言う言葉に反応して胸が高鳴り、これは重症かもしれないなと苦笑いを浮かべた。
「そういえばドニの奴、今度は石鹸を作ったとかで、シリルと一緒に風呂に入ると言っていたぞ」
 止めなくて良かったのかと聞かれて疑問に思う。
 獣人は風呂に入るのはコミュニケーションの一つだ。特に気にすることではない。
「何故だ? ドニは変な男だがシリルの嫌がることはしないだろう」
「まぁ、そうだけどさ。いいのか、アンタが」
「何が言いたいんだ」
「……鈍感」
 ロシェの言いたいことに気がつき、そういうことかと掌を打つ。
 どうやらファブリスがシリルに好意を寄せいていると勘違いをしているようで、確かに好きだがそういう意味で好きな雄は目の前にいる。
「君が言う好きというのはこういうことか」
 鼻先にキスをされた。
「なっ」
「ん?」
 今、起きたことに驚いて目を見開いたままのロシェに、
「鼻先にキスをするのは求愛。交尾の仕方は一緒だろう? 無論、我々だってキスをする」
 逃げ道をふさぐように木の幹に手を置く。
「俺はシリルが大切だ。だが、そういう意味で好きなのは君だ」
 好意に対して慣れていない彼は、いちいち反応が可愛い。
 今も顔を真っ赤にしながらファブリスを見ていた。
「じょ、冗談だよな?」
「いいや、本気だ」
「ふざけんな、バカ」
 見つめ返したら視線を逸らされ、ファブリスはロシェの頬へと触れた。
「ロシェ、こっちを見て」
「嫌だ。なんで見なくちゃいけないんだよ」
「俺が見たいのだから。それが好きということだ」
 額をくっつけ、そして彼の唇へとキスをする。
「んぁっ」
 目元まで真っ赤にそまり、それが余計にファブリスを煽る。
「ロシェ」
「や、ふぁ」
 逃げようとする唇に、離さないとキスをし、舌を絡め彼の腰を抱き寄せる。
 下半身のモノが当たり、ビクッと肩が揺れた。
「やめろ」
 キスに反応し、互いのモノは立ち上がっていた。
「あぁ、ロシェも俺と同じ気分なんだな」
 じっと下を見れば、今度は怒りで顔を真っ赤にしたロシェに腹を殴られた。
「お前と一緒にするな!」
「気持ち良ければ反応するのはあたりまえだ。お前も俺とのキスが良かったのだろう?」
 わなわなと肩を震わせて、帰ると言って出ていく。
「待て。ドニを置いて行くのか?」
 森の近くを通る故、途中で獣と出会う可能性がある。その為、いつも一緒にきていた筈だ。
「うっ、くそっ」
 さすがにドニを一人で帰らすのはまずいと思ったようで足を止めた。
「あぁ、ドニはまだシリルと風呂に入っているだろうな」
 腰に腕を回そうとすれば、手の甲を抓られた。
「触るな」
「しかし、そのままでは辛いだろう?」
 下半身のふくらみを指させば、耳を真っ赤に染めて睨みつけられる。
「……一人でする」
 そう強がってみせるが、
「ほう、それはぜひ見たいものだ」
 と口にすると躊躇い、弱い声音で、
「馬鹿か、見せるかよ」
 そう言いかえしてくる。
「我慢するな。俺と共にしよう」
「嫌だ、やめろ」
 だがファブリスはやめるつもりはない。彼のズボンを掴んで下ろした。
「ファブリスっ」
「すまない。我慢できない」
 白い毛に包まれていた雄の特徴が、興奮により露わになる。
「人の子も毛でおおわれているんだな」
 毛の部分へ触れるファブリスに、ロシェは真っ赤になってその手を払う。
「そんな所、触るなよ」
「ほう、なら、こちらに触れよう」
 目を細めていやらしい笑みを浮かべながら、ロシェのモノへと触れた。
「んっ、やだ、こんなこと、誰ともしたことがないのに」
「ほうっ、初物か」
 そうと聞いて喜ばぬ者がいるだろうか。
 つい表情が緩み尻尾も我慢しきれず揺らいでしまい、ロシェが睨みつける。
「身体にも火傷の跡があるから誰とも経験が無いんだよ。て、くそっ、ムカつくから殴らせろ」
「わかった。後で殴らせてやるから、今はこちらに集中しろ」
 とロシェのモノに自分のをこすり付けた。
「あっ」
「俺がお前の身体に全てを教えてやる」
「嫌だ、こんなの知りたくない」
 拒否しようと身をよじらせるが、力ではファブリスの方が上。
「ロシェの、かたくなってきたぞ」
「お前もそうだろうが。くそ、デカすぎっ」
 たちあがるモノを睨みつけられて、その眼に興奮したファブリスのものは更に大きさを増す。
「な、また、デカく……、んぁ、てめぇ、尻を揉むんじゃねぇ」
「お前の中に入りたい」
「ふざけんな、そんな凶悪なモン入るかよ」
「大丈夫だ、多分」
 ただ、相手は獣人ではなく人の子だ。流石に話しに聞いたことが無いので少し不安だが、同じように尻に孔があるのだから。
「冗談じゃねぇよ、俺の孔は緩くねぇンだよ。クソ、軽く言いやがって。やっぱりすぐに殴らせろ」
 ロシェが拳を固めて振り上げる。
「駄目だ、一度、放ってからな」
 たちあがったモノを押し付ければ、ロシェの身体がビクッと飛び跳ね、拳がゆっくりと落ちていく。
「ん、くそが」
 悪態をつこうが、身体は正直だ。
「口づけをしてもいいだろうか」
「もう、好きにしろ」
 とろんとした目をして唇をうっすらと開く。
 何だかんだと彼も感じているのだろう。
 じゅるじゅると長い舌でロシェの口内を味わっていれば、急に目を見開いて暴れはじめた。
「ん、ロシェ、あばれるな」
 唇が離れ、肩を強く押される。
 あわててズボンを引き上げるロシェに、どうしたのだと小首を傾げれば、後ろを指さした。
 そちらへと視線を向けると、じっと見つめるドニとシリルと視線が合う。
「僕たちのことは気にせずに続けるとがいい」
「大人しく見てるから」
 どうぞと言う二人に、ファブリスは頷いてロシェに再び口づけようとした所で、彼の手に止められる。
「馬鹿か、お前等は!」
 その言葉の意味、そして行為を止める理由がわからない。ファブリスはロシェを見る。
「交尾を恥ずかしがる獣人はいない」
 ぐっとこぶしを握りしめて言うシリルに、ファブリスは肯定するように頷き、ロシェは肩を落とした。
「人は気にする生きモンなんだよ」
 そういうものなのかとドニに尋ねれば、
「まぁ、自分のは見せたくないと思うけれど、他の人のは見てみたいという欲は……」
 という返事だ。それなら問題ないなとロシェの肩を掴むが、それを振り払われる。
「ふざけんなっ!」
「あはは、ごめん。でも、ロシェがファブリスが、ねぇ」
 ドニは同意を求めるようにシリルを見ると、
「ファブリスは立派な大人の男。交尾をしたいだろうと思っていたが、相手ができてよかったよ」
 と口にする。
「もう、やめてくれ」
 真っ赤に頬を染め、シリルの口を手でふさいだ。
「ロシェ、真っ赤だぞ」
 とドニが笑う。
「うるさいッ。帰るぞ」
 ドニの腕を掴んで引っ張る。
「え、あっ、待って」
「待て。今日のおやつはバタークリームのケーキだぞ」
 その言葉にピタリと足が止まる。
 そう、あれは数日前のことだ。バタークリームのレシピを手に入れ、それをケーキに塗ってだしてやった。
 相当気に入ったのか、食べる度に目元をとろんとさせ、可愛い顔を見せていた。
 その顔が見たくて今日も作ったのだが、効果覿面だ。
「そういえば腹が減ったな」
 と椅子に座る。
「そうだね」
 ドニが笑うのを我慢しているのか、頬が引きつっている。
「今、用意する」
 素早く準備を整えて目の前にカットしたものをだしてやれば、口元を綻ばしてそれを食べ始めた。