楽しい夕食会
家に入り夕食の手伝いをしているとセドリックが帰ってきた。その隣には小柄で眼鏡をかけた美しい獣人が立っている。
「こんばんは」
「ピトルさん、いらっしゃい」
「ピトルさん!」
声だけは通信機でやり取りをしているので聞いたことがあるが姿を見るのは初めてだ。
「わー、お互いに姿を見るのははじめてだね」
「えぇ、お会いできて嬉しいです」
「俺もいるよー」
「ルキ」
リュンがぴょんと跳ねてルキンスに抱きついた。
「ルキは先にラウルさんにお会いしたそうで」
「はい。気が付いたら相手が飛んでました」
リュンは見えたようだがラウルは全然わからなかった。
「すごかったよね」
リュンが尻尾をぶんぶんと振り期待するようにルキンスを見ている。自分もやってみたいと言い出すつもりではないだろうか。
ブレーズの方を見れば頷いている。ラウルと同じことを考えていたのだろう。
「さて、お手伝いしてくれる子は誰かな」
意識をむかせるようにと、
「はーい」
リュンが元気よく返事をし、ブレーズのもとへ向かう。
うまく気をそらした。親としては危険なことはしてほしくないだろう。
「ふふ、元気ですね。あのくらいの歳の子はやりたがりますよね。ルキもそうでしたよ」
のんびりとピトルがそう口にしルキンスが頷く。身体能力の差があるのだから考えが違うのも当然か。
「心配ですよね」
「はい。子供ですから危ない真似をしてほしくないとブレーズも思ってます」
「うーん、今はそれでいいと思う。もっと長くいるよになれば、平気で見てられるようになるよ」
ブレーズは数年いるがラウルは来たばかり。しかも家族になって一年もたたないのだから解らないことだらけだ。
きっとルキンスが言う通りなのだろう。
「さ、美味しいごはんの時間だぞ」
着替えを終えたセドリックがリュンと一緒にブレーズの手伝いをしている。
テーブルの上には沢山の料理が並んでいた。エメの店で買ったパンもある。
「わぁ、おいしそうだねぇ~」
「はい。ブレーズさんはレパートリーが多いのでいつも楽しみにしているんですよ」
まだルフィス国で家族とともに住んでいた頃、ブレーズは忙しい家族のために家事をしていた。
ラウルが好きだからとよく作ってくれたものがある。
「このしろいのはなぁに?」
「コムギで作った麺だよ」
「麺という食べ物なのですか」
「俺たちの国ではよく食べられるものなんですよ」
残り物のスープの中にコムギを練って作った麺を入れて煮込む。
ただ、肉がたっぷり入っているのは獣人ようだ。
「お肉を甘く煮込んでカツの出汁を使ったんだ」
「あぁ、魚と貝の乾物を扱うお店ですね」
半年前に乾物専門店を開いた人の子がいて魚や貝類を取り扱っている。
獣人は肉中心の食事なので肉の乾物、もしくは薬売りが木の実や果物、ハーブなどの乾物を扱うくらいだ。
審査が通ったのは彼が試食に出した出汁を使って作った甘い肉煮が上手かったからだ。
「これ、すごく美味しかったですよ」
ピトルも食べたらしく、両頬に手を当てた。
「ずっと気になっていたんだけどなかなか行けなくて。やっと一週間前に」
挨拶と買い物をしにドニとエメと三人で店に行ったそうだ。
「ご兄弟でお店を営んでいるのですよ。お兄さんが本節を作り弟さんが売り子をしているんです」
「弟さんとしか会えなかったけれど話し上手で人の好さそうだったよ」
それはとても気になる。商品もみてみたいし兄弟と話をしてみたい。
「ラウルさんは人の子担当となりますからすぐに会えますよ」
「楽しみです」
「あと、探していたお部屋なのですが、明日ご案内しますね」
移動になると決まったときにピトルに相談した。オムベット国に来た人の子に対して住むところを探すこともしているのだと聞いていたからだ。
「明日から仕事だっけね」
「すごく楽しみ」