傍惚れ
青木が良くなるまで傍にいると言ったのに、仕事に行けと追い出された。
それならばと、何度か見回りにくることは許してもらう。
屋敷の裏門近くで不審な男の姿を見つけ、つかまえようと向かえば宗佑に気が付いて逃げていく。
あれは熊田だ。
青木は誰に襲われたのかを話してはくれなかった。家に呼びに来た与平もだ。
何も話してくれないのは相手が熊田だとしたらだろうか。心配をかけまいと思いそうしたのか、それとも……。
ずいぶんと人気のない場所にきてしまった。
熊田が立ち止まりこちらへと振り返る。
「熊田、久しぶりに会ったと思えば、あそこで何をしていた?」
「お前如きがそんな口を叩くな。青木様の側は俺と大津のモノだったのに」
「まさか、青木様を襲ったのはお前なのか」
「そうだ。はじめは俺と大津と青木様とで繋がりあい絆を深めたのよ。俺らのを咥えた時、喜んで腰を振っていたぞ」
笑いながら宗佑を見る熊田に、怒りで身が震える。
「きっとあの人も俺の味が忘れられないだろうと家に行ったのに。貴様のせいで!」
衿を掴まれ引っ張られる。
その苦しさから逃れるために熊田の足を蹴る。
「貴様」
「身勝手な思いであの人を苦しるなんて。大切なら、幸せを願うものではないのか!?」
「それを邪魔した貴様が言うか」
熊田に宗佑の言葉は届かない。
もう何もかも無駄だと刀を鞘から抜いた。
「はっ、俺とやりあおうと?」
小馬鹿にするような笑みを浮かべて熊田も刀を抜く。怒りと共に向かっていくが軽くいなされてよろける。
「ほら、かかってこい」
挑発され、頭に血がのぼったまま斬りかかるが、そんな状況では相手の思うつぼだ。
力任せに振るう刀では勝てぬ相手だ。体勢を崩され、
「もらった」
熊田が刀を振り上げる。斬られると思った、その時。
「やめろ」
と宗佑の前に立ち、熊田の刀を受ける。
「な、大津!」
まさか、ここに現れるなんて。
助けられたが、先ほど、熊田が言っていたことが頭をよぎり、気まずさの方が大きかった。
「……大津、何故ここに」
彼を問いただしたいが今はそれ所ではない。だから必死で言葉を飲み込んだ。
「外山の様子がおかしかったから。何かあったのかと思い後をつけた。二人とも、刀を収めろ」
宗佑は素直に刀を収めたが、熊田は今だ抜いたままだ。今も三人の間は緊張感に満ちていた。
「止めるな、大津。こやつさえ居なくなれば青木様も元に戻る。そうしたら昔のように一緒にいられるのだぞ」
お前なら解るだろうと、手をかせと言う熊田に対し、呆れた奴だと大津はため息をつく。
「外山を斬ったとしても昔のようには戻れない」
もう、あれは過去のことなのだからと、再び刀を収めるように言う。
だが、熊田は聞き分けが無く、
「そんな、嘘だっ、クソっ」
「おい、熊田」
背を向け、刀を手にしたまま走り出す。
その先には青木の屋敷があり、このままでは危険だと大津は熊田の後を追った。
庭に向かうと縁側でのんびりと座る青木の姿があり、そこに刀を手にした熊田、そして宗佑と大津の姿がある。
「正純さん、お逃げください」
「え、あ、そうすけ」
恐怖からか、目を見開いたまま動けずにいる。
「青木様」
熊田がゆっくりと青木に近づいていく。
今、何をするかわからない状況に、青木だけは身を挺しても守らねばと大津と目配せをし、共に熊田に体当たりを食らわす。
青木の姿しか熊田にはうつっておらぬのか、あっけなく拘束することが出来た。
「熊田、もうやめろ」
大津の声も届かぬようで、
「なんで? もう、俺達の所には戻ってきてくれないんですか……?」
と、ただ青木だけを見つめて手を伸ばす。
「すまぬ。私はもう戻れない」
その手を掴んでは貰えぬことに、その手をゆっくりとおろし項垂れる。
「熊田、帰ろう」
そう大津が言うと、首を横に振るう。
「離せ。もう何もしない」
大津がまず拘束を解き、頼むと言われて宗佑も解く。
すぐに青木の元へと向かいその身を守るように前へと立てば、熊田はそれに目をくれることもなく出て行った。
「熊田っ」
大津はこちらに頭を下げ、その後を追って出ていく。
二人が去った後、緊張が解けて縁側に座り込む。
「貴方に何もなくて良かった」
その身を抱きしめると青木が背を撫でてくれる。
「守ってくれてありがとう」
「剣術は熊田に敵わなかった。俺はもっと強くならねばならない」
「そうか。ならば共に剣術道場にでも通おう」
手が重なり、宗佑はそれを握り返す。
「あぁ」
そして暫しの沈黙の後、
「宗佑……、私に起きたことを聞いてくれるか?」
と握りしめる手が微かに震える。
大丈夫、傍にいるからと青木に伝えるように、宗佑は指を絡めた。
「話してくれ、全てを」
「あぁ」
青木は自分の身に起きたことを話し始めた。
あの日のことを口にするのは怖かっただろう。
途中、震える肩を抱き寄せ、もう話さなくていいと言いそうになった。
が、これは青木にとってけじめなのだ。それを宗佑が止めて良いわけがない。
最後まで話し終え、不安げに宗佑を見つめる青木がたまらなく、胸をしめつけられる。
「黙っていてすまなかった」
「話してくれてありがとう、正純さん」
口づけをし、包帯の巻かれた首を撫でる。
「貴方が欲しい」
「私もそう思っていた」
と、寝間着を脱ぎ始める青木の姿を食い入るように見つめる。
「そんなにじっと見られては恥ずかしいではないか。ほら、お主も脱げ」
恥じらう姿もまたグッとくるものがある。
着流しを脱ぎ何も身につけぬ宗佑の姿に、見つめる青木の色気が更に増す。やっと互いの肌を合わせられるという喜びに満ち溢れていた。
肌を撫でながら乳首を摘まんで刺激する。
「んっ、んぁ……」
そこを吸ったり指ではじいていれば、下半身のモノがたちあがり触ってほしいと主張をはじめる。
すぐにそこへは触れず、太腿へと口づけを落としていれば、
「宗佑、こっちは弄ってくれぬのか」
青木が手を重ねてそこへと導かれる。触れて欲しいと強請る青木が可愛くてたまらない。
「もちろん、ここも可愛がるよ」
青木のモノを扱き、先の方を散々弄った後に口に含んで吸い上げる。
「ひぅ」
青木の太ももが痙攣したかのようの震えて口内に暖かいものが放たれる。
それをちゅうと吸い上げて口から解放すれば、足を開いたまま惚ける青木がうっとりと宗佑の口元を見る。
口の端から垂れるのは唾液か、青木の出した蜜なのか。
飲みほぐした後にそれを手の甲で拭えば、じっとその姿を見つめる青木の視線を感じて微笑む。
「今度は正純さんの後ろのお口で俺のを飲み干してくれる?」
といえば、青木の手が宗佑の興奮した雄の部分を愛おしげに撫でた。
「あぁ、お主がしてくれたように、私の後ろでお前のを飲み干そう」
入れるがよいと誘うように足を開く青木に、唾液で後孔を丁寧に濡らして指で解し始める。
「んぁ、そうすけ」
指を増やし、良い所で動かしてやる。
指じゃ足りないとばかりに、青木の視線が宗佑を誘う。
「足りないの? 今、あげるから」
宗佑のモノを窪みに押し当てれば、それに摺りつけるように腰が揺れる。
「欲しがってくれるなんて嬉しいよ」
と囁けば、青木が嬉しそうに微笑む。
可愛い恋人の反応に宗佑の気持ちの高鳴りは絶頂にたどりつく。
深く中へと挿し込み、それを激しく動かし始める。
「ふぁ、そこは、あっ、あぁぁ……」
その快楽に善がり声を上げる青木に、宗佑も興奮し激しく腰を打ち付ける。
ひくっと喉の奥を鳴らして深く深く息を吐き、上から下から水音を立てながら二人で高みにのぼり欲を放った。
※※※
熊田と大津は家に居場所がなく、家族の愛情なく育った。
似た境遇の二人にとって青木は居場所であった。
ただ、二人の違いは互いに利用しあう仲と思っていたか、それが愛情だと勘違いしたかだ。
それでも愛おしい気持ちはどちらにもあり、宗佑との関係が大津の枷を外し、まぐあうことで熊田の歯止めが効かなくなったという訳だ。
その話を大津から聞き、宗佑はどれだけ自分は恵まれた環境で育ったかを感じた。
大津はきちんと反省をしている。それを感じたから青木は大津を許すと言った。
「けじめはつける。熊田はこの地を離れることになった。俺は用心棒をもう少し続けるが、今までのように青木様に情報を持ってくるからさ、それでゆるしてくれよ」
布巾を手に泣きそうな大津がいる。
これは彼に対する仕置きだ。こういうことは苦手だろうと思いさせていた。
「ほら、そこ、まだ汚いぞ」
まるで小姑の様に指で汚れている箇所をさわり、ついた埃を見せる。
「俺はこういうの嫌いなんだって」
「だからやらせている」
でなければ意味がないと、大津に向かって言い放つが、それに見かねた青木が助け舟をだしてくる。
「宗佑、うめと与平の仕事をとらないでやってくれないか?」
確かに二人の仕事をとることになる。が、今回のことは了承済みだ。
「二人は畑の仕事ができると喜んでたから大丈夫だ。貴方は書類の整理がまだあるだろう」
青木に対しても少し怒っている。許すと言う前から大津を受け入れていたからだ。
結局、自分の配下だった彼が可愛いのだ。それが宗佑を嫉妬させた。
「はい……」
今も大津を気にかけていて、何も出来ないことに肩を落として自分の部屋へと戻ろうとするものだから、ムッときて青木の腕を掴んで引き寄せた。
「けじめだ。これが済んだら、俺は大津のことを許すつもりだから、そういう顔を見せるな。妬ける」
頬を撫で、唇へと触れる。
「あっ」
小さく声を漏らすと、そのまま口づけされる。
歯列を撫で舌を絡ませれば、うっとりとした表情でそれを受け入れてくれる。
可愛いなと、さらに深く口づけをしようとしたところに、
「青木様、可愛い顔」
と下から覗き込む大津と目が合う。
「んんっ!!」
驚いた青木が宗佑を突き飛ばし、不意打ちを食らってそのまま尻もちをついた。
「わっ、宗佑」
それに驚いた青木がしゃがんで大丈夫かと言い、
「ぶはっ、青木様、慌てすぎぃ。外山はザマァミロ」
大津は笑い声をあげて、布巾を投げ捨てて廊下を走っていく。
「なっ、大津、待て! まだ掃除が終わっていないだろうが!!」
「もう勘弁」
じゃぁなと言って行ってしまった。
「逃げられたな」
二人は顔を見合わせ、ヤレヤレといった表情を浮かべる。
「休憩でもするか」
「そうしよう」
縁側に二人並んで座りお茶をすする。
暖かい日差しの中、その身を預ければ頭がこつりと合わさる。
「宗佑と、ずっとこうしていたい」
「俺もだよ」
目と目が合い、そして微笑んだ。