傍惚れ

 誰かの看病など今までしたことがない。誰かを思いやる心など、この頃の青木にはないものだ。
「上の方に看病をして頂くなんて、なんだか申し訳ないです」
 恐縮する宗佑に、自分から言いだしたことなのだからとやめるようにいう。
「逆に私では迷惑になるかもしれぬが、今は病を治すことだけ考えよ」
「そんなことはありません。熱を出した時、誰かに傍にいて頂けることがどれだけ励みになることか」
 小さな頃、熱を出すと父親が看病をしてくれたのだという。
「あぁ、そうか。お主の家はおなごが主であったな。今夜は傍におるから、しっかりと身体を休めよ」
「はい」
 桶に汲んだ水に手拭いをしたしきつく絞り額に置く。
 それはすぐに熱のせいであったまり、何度かそれを繰り返しているうちに、つい、ウトウトとしてしまったようだ。
 ハッと目を覚ますと、荒かった息がすこしマシになったようだ。
「良かった」
 手拭いをかえ、暫くすると青木は眠りの中へと落ちていた。

 いつのまにか横になり寝ていた。
 上には布団がかぶせてあり、慌てて起きれば布団の中に宗佑の姿がない。
 どこかで倒れてしまっているのではないかと心配になり大声で彼の名を呼ぶ。
「宗佑っ、宗佑!!」
「ここです、青木様」
 外から声がして向かうと、井戸から水を汲んでいる所だった。
 気が抜けた。
 何もなくて良かったと、彼の傍による。
「起こしてくれれば良かったのに」
「そこまでは申し訳ないと」
「何を言うか、まったく」
 彼に近寄ると、手拭いを桶の水に浸し堅く絞り、体を拭きはじめた。
「体調はどうだ」
「青木様のお蔭で良くなりました」
 その言葉を聞き、じわっと胸が熱くなる。誰かのために何かをするということがこんなにも嬉しいものだったとは。
「そうか」
「看病してくださり、ありがとうございました」
「お前には、色々と返せねばならぬ恩がある」
 以前、幼馴染に敵対心を持ち、彼の大切な者に酷いことをした。
 その時、宗佑に対しても酷い真似をしてしまったのだが、そんな自分を許し、今では支えてくれている。
「気にしないでほしいと言っても、気になりますよね?」
「あぁ。だから止めるでないぞ」
 必要ないと言われてしまったら、青木はどうしたらいいのかわからなくなる。
「わかりました」
「よし、朝餉にしよう」
 畑で採れた野菜の汁と漬物、炊き立ての米が宗和膳の上に並ぶ。
「今日は無理をせずに寝ているといい」
「ですが……」
「きちんと治せ」
 日ごろから無理をさせている。なのでこんな時こそ今日まではゆっくりと身体を休めて欲しい。
「わかりました」
 宗佑は頷き、朝餉を全て平らげるのを見て、食欲はあるようで安心する。
 青木も朝餉を平らげ、宗佑に横になるように言うと町奉行所へと向かった。

◇…◆…◇

 宗佑が居ないだけでこんなにも仕事のはかどらないとは思わなかった。
 必要となるだろうな資料は前もって宗佑が用意してくれているのだ。
 彼なしでは仕事は上手く回らないなと思いながらどうにかすべきことを終える。
 栄養のつく物を食べさせたいと宗佑のためにゆで卵を買いに向かう途中だで、後から声をかけられて振り向く。
 そこには以前、自分の配下として働いていた男が二人。
「大津、それに熊田ではないか」
「ご無沙汰で」
 愛想笑いを浮かべた大津が、どうもと軽く挨拶をする。
 礼儀正しい男だったが、今は遊び人のようなナリと話し方をする。
 青木は上役として彼らを利用し、彼らは配下として自分を利用する、という関係だった。
 二人は青木の嫉妬から起こした出来事に手を貸し、それを公にしないことと引き換えに職を失った。
 自分もそうすべきであった。だが、これからは庶民のために働くことが罪滅ぼしとやめさせてもらえなかった。
 さぞや恨んでいることだろう。何を言われても黙って聞かねばならない。
「今はどうしているのだ?」
「とある大店の用心棒。楽だし、銭の入りも良いんでね」
 食うのに困っていなくて良かった。
 自分に関わらなければ同心をやめることにはならなかった。なので働き口があってよかった。
「そうか。私に何かできることはないかと思ったのだが、必要なさそうだな」
「いや、青木様にして欲しいことなら一つだけあるぜ」
 それで自分の罪を償えるとは思っていない。だが、少しでも役に立てるならばと話を聞く。
「言ってみよ」
「俺達のために、股を開いてくれねぇかな」
「……え?」
 その言葉に耳を疑う。
 まさか、自分に陰間のようなことをしろというのか。
 流石に無理だと断ろうとしたが、
「はっ、できねぇとか言わないよな。して欲しいことを聞いてきたのはアンタだ」
 と言われ、言葉をグッと飲み込んだ。
「その白い肌を、ずっと犯してやりてぇって思ってた」
 大津の指が青木の首筋を撫でて鳥肌が立つ。
「なっ、やめよ」
 後ろから熊田に羽交い絞めにされ、スンスンと匂いを嗅がれる。
「青木さまの匂い」
 熊田の興奮した声に、ゾクッと鳥肌が立つ。
 まさか、自分とまぐあいたいと思うなんて。
「馬鹿な真似はよさぬか」
「アンタさ、昔よりも良い顔するようになったよな。もしかして外山の影響?」
「なっ」
 いつ、自分たちを見たと言うのだ。
「俺らと居た時はさ、穏やかな表情なんてしたことないよな。それが余計にムカつく」
 熊田に太い指で胸の粒を弄られ、尻にかたくておおきなモノをすりつけられる。
 そして大津には下のモノを口でくわえられた。
「んっ、やめよ、二人とも」
「嫌だ。青木様のここ、かたくなってきた」
 突起した箇所をぎゅっと摘ままれ動かされる。
「もう、アンタは俺らの上役じゃないんだ。聞く必要はねぇんで」
「あっ、あぁっ、よせ……」
 心とは裏腹に、身体は感じる箇所を弄られて刺激を求めてしまう。
「ほら、イきなよ」
 ときつく吸われて、あっけなく欲を放ってしまった。
「はぁ」
「青木様、イくのはやいね。じゃぁ、今度は俺らね。熊田の指で熟れたここ、美味そうだから吸ってあげなよ」
「あぁ、そうする」
 位置を変え胸を吸い始める熊田、そして大津には後ろの孔を舐めて指を中へといれられる。
「ひぃっ」
 これから自分の身に起こることに、ガチガチと歯が鳴る。
 男同士のまぐあい方はしっている。そこは本当に愛しい者とつながりあうための場所。
「そこは嫌だ」
 だが、大津は指をさらに増やしていく。
 逃れたくとも二人から与えられる快楽は青木に絡みついて離してくれない。
 指が抜かれそれ、後ろに自分のモノを宛がう。
 直に感じたかたくて熱いモノに、抵抗するように身をよじる。
「嫌だ、やめろ、大津、離せッ」
「あぁ、もう。暴れないでよ。熊田、こいつの口ン中にお前のデカブツを突っ込んで黙らせて」
「あぁ、解った」
 頬を掴み口の中へと熊田のモノがはいりこみ、あまりの衝撃にかたまってしまった。
 ねっとりと濡れた大きなモノは変な味がして気持ち悪い。
「おっ、大人しくなった。じゃぁ、こっちもいれるね」
「うぐっ、ぐぇ」
 熊田のモノが奥まで突っ込まれて嘔吐く。
「あぁ、青木様が俺のを」
 うっとりと大男が頬を染め、頭を掴まれ押し込まれる。
(嫌だ、気持ち悪い、やめてくれ)
 だが、後ろも深い所まで突っ込まれて、すぐに意識をそちらに向けられる。
「んぐっ、んんんッ」
 両方の口がしまる。
「たまんねぇな、ぎゅうぎゅう絞めつけてくる」
「はぁ、青木様、キモチイイ……」
 もう何も考えたくない。
 青木はされるがままの状態で唾液を流し、蜜を流しながら揺さぶられる。
 口内で熱くどろりとしたものが放たれ、中に熱いものを感じた。
「ウッ……」
 それを何度か繰り返し、後はもうおさまりきれずにごぼごぼと溢れてくる。
 頭の中が真っ白になり、揺さぶられるまま、放たれるままの状態でいつの間にか気を失っていたようだ。
 中には大津よりも更に大きな質量のモノは入っており、それは熊田のモノであり、大津は二人を眺めている。
「おい、大丈夫かい、青木様」
 頬を数回たたかれ、青木は我に返る。
 受け入れたくない現実。だが、体中に残る痕と痛み、そして互いの欲が生々しく体に残る。
「もう、満足しただろう?」
 抜けと熊田の方を見て言うと、暫くは渋っていたが、大津にも抜いてやれと言われて中から出ていった。
 今すぐどこかに消えて欲しい。もう二度と、自分の前に姿を現してほしくない。
「これは詫びだ。だから何もなかったことにする。もう、私とお前たちは何の関係もない」
「そう、わかった。熊田、行くぞ」
 酷く傷ついた顔をしていたが、今の青木にはどうでもよかった。
「……わかった」
 熊田の方は未練が残る表情を浮かべて青木を見ていたが、大津に引っ張られるように連れて行かれた。
 これは自分だけ許されたことへの罰。
(自分はこれよりも酷いことを宗佑や彼らにしようとしたではないか。こんなこと、大したことではない……)
 心の奥に嫌なことはすべて押し込んでしまいこみ、身なりを整えて土埃をはらい、おぼつかない足取りであるきだす。
 けして宗佑に悟られてはならない。それが今、青木の中で一番に気になることだ。