想い

 正吉に言われたことをずっと考えている。
 自分をいつも助けてくれる。青木に捕まった時も自分の身も危ないというのに飛び込んできた。
 それに晋に犯されそうになった時、高ぶった身体を鎮めてくれた。あの時は医者だからと思っていたが、普通はしないのではないだろうし、彼以外の医者にされたら素直に受け入れられなかっただろう。
 相手が正吉だから自分は……。
 頬が熱い。
 自分の心に聞いてみろと言っていた意味が解った。
「俺、正吉のこと……」
 胸を手で押さえながら畳の上に崩れ落ちるようにしゃがむ。
 どうして今まで気が付かなかったのだろう。
 親情ではなく恋情。正吉に対する感情はそれだった。

 三人で会った時から幾日か過ぎた。
 実に正吉と顔を合わせるのは何日振りだろうか。しかも家に訪れたのは大分遅い時間だった。
「すまねぇ、こんな時間に」
 随分と疲れた顔をしている。しかも少し痩せている。
 流行病のせいで診療所は混み合っていた。一度、正吉に会いに行ったのだが、忙しそうにしていたのでそのまま帰った。
「よいのだ。所で、飯は食ったのか?」
「いや、まだ食ってねぇ」
「そうか。ならば姉上にお願いしてくるよ」
「頼むわ」
 先に部屋に行っているように言えば、ふいにその身を抱きしめられた。
「正吉?」
「平八郎不足を補わせろ」
 目を細めながら正吉は平八郎の頬を撫でる。
 胸に暖かいものがこみ上げるのを感じ。
「はは、何それ」
 と、胸を押さえながらコツンと正吉の胸に額を当てる。
 ふいに正吉の吐く息を耳元で感じ、ぞくぞくと身を震わせて「あっ」と声を上げる。
「すまねぇ、くすぐったかったかい?」
 耳たぶを指で弄りながら微笑む正吉に、頬が火照り胸が弾む。
「べ、別に。握り飯を作ってもらってくる」
 そう正吉の胸を軽く押して離れ、紗弥の所へと向かった。

 思いを吐露してしまわない限り、気持ちは落ち着くことが無さそうだ。
 紗弥に作ってもらった握り飯とお茶を盆のせて部屋へと入ると、疲れがたまっていたのだろう正吉は横になり寝ていて、平八郎は文机に盆を置くと掛布団をそっと掛ける。
「正吉、お疲れ様」
 髪を撫でながら寝顔を眺めていたら、唇に視線が釘付けとなってしまう。
 そっと手で唇に触れれば、その柔らかい感触に体の熱が上がる。
 あの日、正吉がしてくれた口づけをもう一度したい。
 そう思った時には正吉の唇に自分の唇を押し当てていた。
 うっすらと開いた唇から舌を割り込ませ、正吉の舌に絡めるように動かせば、それに応える様にうごめきだす。
「まさきち、すき」
 口づけに夢中になる平八郎に、ふいに強い力でその身を抱きしめられた。
「んぁっ、まさ、きち?」
 いつの間にか下に組み敷かれ、更に深く口づけされる。
「ふっ」
 あまりに口づけが気持ち良くてとろとろになる 平八郎に、正吉は唇を離し額を指ではじいた。
「寝ている俺を襲うたぁ、いい度胸だ平八郎」
「え?」
 口づけに酔ってしまっていた平八郎だが、我にかえり自分がしでかしてしまったことに真っ青になる。
「なぁ、これはお前のだした答えか?」
 濡れたままの唇を正吉の指が撫でる。
 それだけで体が疼いてしまい、また口づけをしたくなって正吉を見るが、
「駄目でぇ。きちんと言わなきゃ、してやらねぇよ」
 どうするんだと眼で訴えかけられて。
「お主のことが、愛おしい……」
 伝えようとしていた想いを口にした。
「やっと平八郎の口から聞くことができた。随分と待ったぜ?」
「な! 言ってくれれば良かったのに」
「馬鹿言いなさんな。おめぇが自分の気持ちにちゃんと気が付いて俺に言わなきゃ意味ねぇってもんだ」
 そうだろう? と、平八郎の頬を撫でる正吉にムッとしながら頬を膨らませる。
「どうせ鈍いとおもっておるのだろう?」
「まぁな。幼い頃から俺のこと好きな癖して、言葉にするのに何十年もかかるんだもんなぁ」
 正吉の隣は自分のモノだと、確かに思っていた。だがそれは友達を独占したいと思う気持ちであって。
 自覚症状がなかっただけで本当は、友達以上の想いを抱いていたのではないだろうか。
 頬が熱い。
 今更気がつくなんて、正吉に鈍いと思われても仕方がない。
「自分の鈍さに気が付いたか」
 おでこを小突いてにやにやと笑う正吉に、自分の鈍さが恥ずかしくて胸を叩く。
「平八郎。俺もおめぇのことが幼い頃から好きだぜ」
 そのまま平八郎の唇に正吉の唇が触れ。口内に遠慮なく舌が入りこみ翻弄される。
「ん、ま、まさきちぃ……」
 芯が痺れる。
 歯列をなぞり舌を絡めてぐちゅぐちゅと水音をたてる。とろとろと口の端から流れる唾液も気にならない程、その口づけに蕩かされて何も考えられなくなっていた。
「ん、あぁぁ、ぁ」
 息が乱れて力が抜けてきて。そんな平八郎を正吉は布団の上へと押し倒して更に深く唇を貪った。
ぐったりとする平八郎を見つめながら唾液で濡れた箇所を舌で舐めとり、
「やっとおめぇの後ろを頂けるな」
 その正吉の言葉に、平八郎は何のことだろうと正吉を見る。
「そうか、おめぇはしらねぇんだな。俺のコイツをだな」
 股間を指さした後に平八郎の後ろに手を伸ばして後孔の入口を指で撫で。
「ここに入れんのよ」
 自分の穴よりも何倍も大きなものを中へと入れるなんて考えられない。
「入るわけないだろう!」
「でぇ丈夫だ。指で孔を解せば飲み込めるようにならぁ」
「やだ、痛そうだし怖いっ」
 手で後を抑えて隠す平八郎に、往生際が悪いとそのまま四つん這いにする。
「や、正吉、お願いだから」
 本気で嫌がればしょうがねぇと諦めてくれると、そう思っていたのに。
 正吉の手が平八郎のマラを握りしめて擦りあげる。
「あっ」
 触れられただけで感じ、体が飛び跳ねてしまう。
「わりぃな。おめぇが怖くても俺ぁやめねぇよ。そんな余裕もねぇんだ」
 尻の溝に自分のモノを押し当て、耳元に熱い息をはきながら色気を含んだ声でそういわれ。
 本当に余裕がないのだと解ると怖くてすごく痛そうだけれど、正吉が望むのならとその行為を受け入れてあげたいという気持ちになった。
「わ、解った。でも、怖いから正吉を見ながらが良いのだが」
 正吉の姿を見ながらならば安心できるから。
 すると正吉の唇が平八郎の唇に軽く触れた後、思わず見惚れてしまう程の優しい笑顔を見せた。
「俺の膝の上に跨いで座りな」
 と布団の上に座り自分の膝を叩く。
「え、あ、うん」
 言われたとおりに跨って座ると自分の指に舌を絡ませて唾液で濡らす。
 それを間近で見せられ、それが妙に色っぽくてごくっと喉がなってしまい、慌てて手で口元を覆い隠する。
「何でぇ、欲情でもしたのかよ?」
 くちゅっと音をたてて指を咥えて見せた後、それを平八郎の後孔へともっていく。
「正吉」
 先ほど擦られたこともあり、下半身は既に起ちあがっていて蜜が零れ落ちていた。
 入口を弄っていた指がゆっくりと中へと入り込んでいく。
「や、正吉、やはり……」
 痛さよりも中へと入り込むものに違和感があり、怖くて、これ以上は嫌だと指を抜いてくれと言おうとするが、何も言わせないとばかりに口づけで口を塞がれてしまう。
「ん、んんっ」
 指は更に奥まで入り込み、ある箇所をかすめた時にビリっと疼きがかけめぐった。
「ひゃぁん」
「おう、どうやらおめぇの良い所に当たったようだな」
 その箇所を指がかすめる度、気持ち良くてもっと触って欲しくなる。
「なんでぇ、そんなに気持ちいいのかよ。おめぇ、指だけでいっちまうんじゃねぇの?」
「あ、あぁぁ……、んっ、そこばかり弄られたらおかしくなる」
「なっちまいなよ。やっとこうしてやれるんだ。もっとおめぇのことをぐずぐずにしてやりてぇ」
「まさきちぃ」
 平八郎がぶるっと震え、膨れ上がったマラからはじけた白濁が飛び散る。
 何とも言えぬ感覚にほうと息を吐きすてて正吉を見れば、
「たまんねぇ。なぁ、今度は俺もおめぇの中で極楽気分を味わせてくれや」
 自分をみて欲情する正吉に、放ったばかりの箇所がずくっと疼く。
「おいで、正吉」
 誘うように足を広げてヒクつく後孔を晒す。
「おめぇは……、無意識に俺を煽りやがる」
「え?」
 覚悟しろやと足を広げられ、先ほどまでとは質量の違う、熱くて太いものを感じた。
「くっ、おっきぃ」
「ん、ちょいとキツイが、でぇ丈夫だろう……」
 それはゆっくりと中へ入り込んで深い所でつながりあった。
「入ったぜ、平八郎。やっと、ひとつになれた」
 正吉があまりに嬉しそうにいうものだから、平八郎も嬉しくなってくる。
「まさきち、いっぱい俺のこと、かわいがって、ね?」
「かぁ、たまんねぇっ」
 あったりめぇでいと、グンと腰を貫かれ。たまらず嬌声をあげる。
「まさきち、まさきちっ」
 しがみ付いて涙を流し、何度も何度も貫かれて。
 中は正吉から放たれたモノであふれ、足を伝い流れ落ちる。
 それでも、もっと中を満たしたいとばかりに正吉のマラを締め付けて離さない。
「もっと、熱いのを注いでよ、正吉」
 お腹を撫でて正吉のを欲しがれば、目を細めて唇を舐めながら平八郎を見る。
「いいぜ。もっとくれてやらぁ」
 そんな平八郎に応える様に正吉の動きも激しさをました。

 まさか足腰が立たなくなるなんて思わなかった。
 受け入れる側の痛手がこんなにも半端ないものだなんて。
「おめぇ、顔色が悪ぃけど、でぇ丈夫かよ」
 顔が真っ青だぜと、正吉が平八郎の腰を優しく擦る。
「気だるいし、腰が痛む」
 声をあげすぎて喉がかれるし、尻の奥の方に鈍い痛みと今だ正吉のマラが中にあるような感覚が残る。
「まぁ、それに関してはおめぇも同罪だ」
 確かに何度か欲しいと強請った。だが、その度に遠慮なく攻め続けたのは正吉だ。
「まぁ、楽になるまで寝てろよ。な?」
「うう……、そうする」
 帰りにまた寄るよと言い残して正吉は診療所へと行ってしまった。
 急に寂しくなり、正吉の残り香を探す様に布団に鼻をつければ、部屋の襖が開かれる。
「平八郎」
 心配そうに顔を覗かせる紗弥と、にやにやとした表情を浮かべる晋の姿があり。
 平八郎はあわてて起きあがれば、腰に鈍い痛みを感じて前かがみとなる。
「無理に起きなくて良いのですよ。正吉が痛みが引くまで寝かせておいてくれと言っていましたし」
「随分と激しかったのだなぁ。いやぁ、お主もやっと男になったな」
 からかう様にそう言われ、平八郎は唇を尖らせると、紗弥がこれと晋をたしなめる。
「やっと二人が結ばれたのですよ」
 お祝いしないといけませんねと微笑む紗弥に、平八郎はまるで金魚の様に口をパクパクとさせる。
「ぶはっ、平八郎、お主が昔から正吉を好きなことなんざバレバレよ」
 と額を弾かれた。
「なっ、なっ!!」
「まぁ、俺はお前が好きだったから、気が付かないふりをしていたけどな」
「まさか、輝定兄上も知って……」
「当たり前だ」
 皆が気が付いていることを当の本人だけが気が付いていなかった。
 穴があったら入りたい。羞恥に顔を赤く染めて布団の中へと潜り込む平八郎に、晋と紗弥が掛布団を捲りあげる。
「平八郎、からかい過ぎましたね。私わね、貴方が自分の気持ちに気づいて正吉と結ばたことがすごく嬉しいの。幸せにおなりなさい」
 両手をとり握りしめる紗弥は、自分の様になってはいけないと言っているかのような表情を見せる。
「姉上……」
「さ、朝餉を用意しましょうね」
 それまで寝ていなさいと晋を連れて部屋を出て行った。