甘える君は可愛い

年下ワンコはご主人様が好き

 昨日の波多はとても可愛かった。
 自分の舌にちゃんと反応をしてくれたし、擦り合わせたのも気持ちよかった。
 いかせろと言われた時には、胸の高鳴りが収まらなかった。
 イき顔を思いだすだけで自分のモノがじくじくと熱が溜まる。
「はたさん」
 声を押し殺しながら、昨日の波多の姿をオカズに、たちあがった自分のモノを扱う。
 抜いてすっきりした身体を洗い、濡れた髪を拭きながら波多がいるキッチンへと向かう。
 朝食は出来上がっており、よいにおいがする。
 どうみても一食分しかなく、帰るからと波多はエプロンを外した。
 自分の為に朝食を用意してくれたことに感激し、見送るために玄関までついていった久世は我慢しくれず口づけをした。
 驚いた顔をしていたが、怒られることはなく。
 しかも、髪が濡れたままというのに、頭を撫でてくれた。
 出て行った後も、暫くは玄関先でぽーっとしたまま突っ立っていたが、ハッと我に返る。
「幸せに浸ってる場合じゃなかった」
 はやく支度を終えて波多を迎えに行かねば。
 髪を乾かし着替えを済ました後、波多の作ってくれた食事を食べてお迎えに向かう。
 まだ支度が終わらないからと部屋の中で待つように言われ、リビングのソファーへと座る。
 波多の朝食は食パン一枚。しかも焼かずに食べているのを見て、自分はちゃんとした食事を用意してもらったのにと申し訳ない気持ちとなる。
「波多さん、ごめんなさい」
「別に。面倒な時はいつもこんなだし。それにもう飯を作ってやる必要もないからな」
「……え?」
「え、じゃない。お前、俺にまだ飯の面倒まで見ろって言うのか!?」
 と言われて黙り込む。
 これからも食事の面倒を見てくれるものだと思っていた。
 そう素直に口にしたら、図々しいと怒られた。
「米を炊いて、スーパーで惣菜でも買ってくればいいだろう」
「炊いた事なんてないです」
 今まで料理など一度もしたことが無い。彼女が用意してくれたり、コンビニの弁当で済ましたりしていたから。
「なら、弁当でも食ってろ」
 と言われるが、弁当ばかりでは味気ないし、波多の手料理の味を知ってしまった。
 あの暖かくて優しい味のする料理が直ぐに恋しくなるだろう。
「あの、食費を払いますから俺の分も作って下さいよ!!」
 手料理を一緒に食べたいんですと言うが、嫌だと断られてしまう。
「……俺が作ってたら意味がないんだよ」
 今までのような甘えは駄目だと、
「俺はお前に都合のいい相手じゃない」
 いつまでも面倒を見させるなとハッキリと言われる。
 甘えているばかりで自分では何もしようとはしない。それが駄目だと波多は言いたのだろう。
「わかりました。では、俺に料理を教えてくれませんか?」
「あぁ。それなら良いぞ」
 料理を教えるのは週に一・二回と決まり、波多の家で教えて貰う事になった。

 昼休み、波多は用事があると一人で何処かへ行ってしまった。
 一緒に行きたかったが、ついてくるなと言われてしまい、しょんぼりと一人、食堂へと向かった。
 そこで八潮と三木本に合い、一緒に食べようと誘われてテーブルに着いた。
「何、ご主人様に置いて行かれちゃったの?」
「はい。ついてくるなと言われて……」
 今日のメニューはラーメンとチャーハン。デザートにゼリーを選んだ。
 八潮は相変わらず小食で、半ライスとコロッケ一つ、そしてサラダ。
 自分ではけして足りないだろうなという量で、それでも三木本に言わせれば食べるだけマシなのだという。
 ちなみに三木本のフライセットのコロッケのようだ。
「そうだ。料理教室な、俺の所でやることになったから」
 会社に向かう途中、料理教室にもう一人参加するとになったからと言われて、一体誰で波多とどういう関係の人なんだと悶々としていたが、三木本だと知ってホッとした。
「波多さん、教えてくれないから。どんな人かと思ってましたよ」
「なんだ、それすら話してなかったのか。昨日、キッチンを貸して欲しいと連絡を貰ってな」
「そうだったんですね。三木本さんのお家、はじめてですね。楽しみです」
 まだ、三木本とはただの先輩後輩という仲でしかなく、家に行くのは初めてなので楽しみだ。
「なんか楽しそうだねぇ」
 久世と三木本の話を聞いていた八潮の言葉に、
「そうだ。八潮課長も一緒に習いましょうよ」
 と誘う。八潮も一緒ならさらに楽しそうだから。
「そうだね。美味しいモノが食べられそうだし」
 混ぜて貰おうかなと微笑む。
「そうですね。これを機に料理を始められるのも良いかもしれませんよ」
 八潮の食生活が心配な三木本は直ぐに賛成をしてくる。
 そこでアレっとある事に気が付く。もしかしたら波多は八潮も誘おうと思っていたのだろか。
 三木本を意味ありげに見れば、それに気が付いてふいっと視線をそらす。
 あぁ、やはりそうなんだと確信する。
 自分が誘わなかったら三木本が八潮を誘っていたのだろう。
「そうですよ、課長」
「う~ん、でもさ、いろいろ言われそうで怖いねぇ」
 そう思わない、と、八潮に同意を求められて、久世は頷きかけたが三木本に睨まれてやめる。
「あ、あの、料理教室の事、よろしくお願いしますね」
「あぁ。さて、飯を食っちゃいましょう」
 八潮の世話をやきだした三木本を眺め、自分も波多に世話をやいてもらいたいな、と、羨ましく眺める。
 今頃、何をしているんだろう。
(波多さんに会いたい)
 毎日、顔を合わせていても、それでも足りないと思ってしまう。元彼女にすらそこまで執着していなかった。
 こんな性格だから波多は恋人になってくれないのだろうか。
「俺って重いですかね」
 ぼそっと呟いた言葉に、目を丸くしながら八潮と三木本が見る。
「今頃かよ」
 三木本に言われ、やはりそうなのかと気持ちが沈む。
「でも、波多君は気にしないタイプだと思うよ?」
 八潮がフォローするようにそう答え、三木本は「気にしますよ」とツッコミを入れる。
「でもさ、本当に嫌なら、料理教室までしてあげるかな」
「そうなんですよね! しかも名前で呼ばせてくれたし、波多さんのを舐めさせてもらいましたし……」
 思わず、昨日のことがぽろりと口から出てしまい、三木本が喉をつまらせたか激しくせき込みだす。
「ぶはっ、げほ、ほごっ」
「三木本君、大丈夫? ほらお茶を飲んで」
 と湯呑につがれたお茶を差し出す。
「で、どうだった?」
 ニヤニヤとしながら続きを促されて、口を開きかけて三木本に手で塞がれた。
「むぐっ」
「あ、折角、良い所なのに」
「良い所……、じゃないですよ! 真昼間から、しかも波多のプライベートな事でもあるんですよ!!」
 お前も言うなと、いつも以上に怖い顔で睨まれた。
「だけど聞きたいじゃない。どうだったかって感想を」
「駄目です。久世も、そういう事を他人にペラペラ話すと、波多に嫌われるぞ」
「もがもが」
 嫌ですと口にするが、掴まれたままなので言葉にならない。
「じゃぁ、波多君に聞こうかな」
「それはもっと駄目です。八潮課長、最低です」
 パッと手が離れて三木本がトレイをもって返却口へと向かっていく。
「怒らせちゃったかな」
 とニッコリ笑って頭を撫でられ、八潮もトレイを持って返却口へと向かった。
 久世はまだゼリーが残っているので、一人残ってそれを食べる。
 それから部署へ戻る間、女子社員から話しかけられ、おやつを貰ったり、飲みに行こうと誘われたりして、それを断りデスクへ戻る。
 波多はまだ戻っていないようで、机に伏せて戻ってくるのを待った。