はじまりの場所
俺が吾妻の元へと戻ると、大丈夫だったかと抱きしめてくれた。
「うん。ちゃんと謝ってもらったから」
「そうか」
話したことを吾妻に聞かせれば、不機嫌な表情となる。
「そんなくだらねぇことで優に迷惑を掛けたのかよ」
今からシメてやると、二人の元へと行こうとする吾妻を俺は慌てて止める。
「いいよ。もう、二度とこんな事はしないと思うし」
平塚君が笈川君の傍にいる限り大丈夫って、そう信じたいし。
「優しすぎるよ、お前は」
はぁ、と、大きなため息をつく吾妻に、
「こんな俺は嫌?」
と、その顔を覗き込んでニコッと笑う。
「いや。その優しさも優の一部だからな」
好きだよと、俺の頬に吾妻の手が触れて撫でられる。
俺はその手に自分の手を重ねて掴んで頬から引き離し、恋人同士がするような手の繋ぎ方をする。
「さて、俺もけりをつけないといけないな。吾妻、ちょっと付き合ってよ」
「けり? あぁ、解った」
恋人つなぎをしたまま目的の場所へと手を引いていき、たどり着いた場所を見て吾妻の表情が曇る。
「ここ、覚えている?」
「あぁ、覚えているよ」
何故、今更、此処なんだといわんばかりの顔だ。
「あの頃の俺は吾妻の事を噂通りの人だって思っていたから。シメられると思って、すごく怖かった」
まさか告白されるなんて思わなかったよと笑うと、吾妻がやめてくれとしゃがみ込む。
「……俺達はここから始まったんだ」
吾妻の手をとり立ちあがらせると、俺はその胸の中へと飛び込むように抱きついた。
「優っ」
驚いた表情を見せながら吾妻が俺を抱きしめる。
「吾妻がこの場所で俺に気持ちを伝えてくれたように、俺もここで気持ちを伝えたいって思ったんだ」
そう言うと吾妻を見上げて、
「吾妻の事が好きです。俺と付き合ってください」
と想いを告げた。
「マジ、でか?」
「マジだよ」
その瞬間、雄たけびをあげたかと思うと、俺を抱きあげてすごい勢いで回りだす。
喜びが伝わってきて嬉しいけどさぁ……。
「吾妻、目ぇ回るからっ!!」
やめいと額にチョップを入れれば、ピタリと足が止まり地へと足が下ろされる。
「だってよ、優が俺の恋人にって」
やっと俺のモンになったと、両手の拳を強く握りしめる吾妻。実感を噛みしめているのかの様だ。
素直に気持ちを表現して見せる所も愛おしくてたまらない。
ちゅっと音を立てながら唇に軽く口づけを落とせば、吾妻からすぐにお返しとばかりに深く口づけされる。
唇が離れた後、視線がぶつかり合って微笑みあった。
◇…◆…◇
あれから数日後。
俺にあんな真似をした奴らが、一斉に頭を下げた。
ここは校庭のど真ん中。俺達の事を沢山の生徒が眺めている。
それでなくても総長だと噂されているのに、舎弟が吾妻以外にもできちゃうよ!
「ちょっと……」
やめてと手を掌を相手へと向ければ、ビクッと肩を震わせて男たちが土下座をし始めた。
「申し訳、ありませんでしたぁ」
あぁ。余程、怖い目にあったんだな。
どろどろした「何か」を溢れさせながら、男達に精神的ダメージを味わせたのだろう。
ひとまず土下座はやめて欲しくて、俺は男たちのへ立つように言う。
「もういいから、ね?」
と微笑む。すると男達は目を潤ませながら俺を見上げていて、
「ありがとう、木邑君」
一人が俺の手を両手で握りしめて頭を何度も下げ。他の男達は拝むように手を合わせていた。
おいおい、俺は神かよ、仏かよ。
そんな俺達のやり取りを、保健室から眺めている吾妻と穂高先生と視線が合い、俺は駆け寄って二人を見上げる
。
「なんだよ、見てたの?」
「あぁ。澤木先輩がな、メールで知らせてくれた」
スマートフォンの画面を俺に向け、真一からのメールを読ませてくれる。
「校庭を見よって。何コレ」
まさか真一が指示したんじゃ……。
「めちゃくちゃ恥ずかしかったんだからな!」
「まるで総長と舎弟だな」
「それ、俺も思った」
俺よりも強そうな奴らがヘコヘコと頭を下げているものだから余計にそう思うよね。
「あ、でも手を握った奴は後でシメる」
極悪面で指を鳴らす吾妻に、やめなさいと腕を叩く。
「手ぇくらい、後で握らせてあげるから。暴力沙汰はいけません」
解ったと、そう微笑んでやれば、吾妻は素直に頷く。
「あははは。勇人、すっかり尻に敷かれているな」
「うう……、恭介サン、笑うなよ」
「こんな俺は嫌?」
この前、吾妻に言った言葉を口にしてウィンクして見せれば、吾妻はふっと口角を上げ。
「好きだよ」
と俺の髪に口づけを落とす。
そんな俺達に、穂高先生が「オアツイデスネ」と言い、俺と吾妻は顔を見合わせて微笑んだ。