彼は彼の愛を知る
煙草は執筆で煮詰まった時に心を落ち着かせる為に口にする。
紫煙をゆらし、百武がどんな答えを出すのかを待つ。
彼が自分を求めてきたときは天にものぼりそうな気持ちだった。
だが、酔った勢いで口にしているだけで、流されるままに身体を重ねてしまったら、二人の関係は気まずいものとなり最悪な結果を迎える可能性がある。
一度、冷静になって考えて欲しかった。口にした言葉は真実なのか、を。
「乃木先生って煙草吸うんですね」
そう声を掛けられ。そちらへと顔を向ければ、百武がバスローブ姿で立っていた。
湯上り姿の百武の肌はほんのりと朱色がさし、キツい目元も色っぽい。
「あぁ、たまにね」
「そうなんですか」
と隣に腰を下ろす。
「で、どうする?」
百武がどちらを選んでもそれに応えるだけだ。
煙草を揉み消し、真っ直ぐと彼の目を見つめる。
「男同士のやり方なんて知らねぇんで、任せて良いですか?」
自分を見返す目には真剣なもので、口にした言葉は本気だといっている。
もう、自分を止める事などできそうにない。
食いつくように唇を重ねれば、それを素直に受け入れてくれた。
深く唇を重ねて舌を絡ませ。息を乱し、糸を引き合いながらやがて離れていく。
「変な味、ですね」
「苦手だったか」
「煙草自体はあんま好きではねぇですけど、先生が煙草を吸う姿はさまになってたんで、別にかまいません」
「それは嬉しい事を言ってくれるね」
手を握りしめ寝室へと連れて行く。
バスローブの紐を解けば、下着を身に着けておらず。
抱かれる覚悟で乃木の元へ来たのだと、改めて実感して嬉しさに身が震える。
露わになった肌へそっと触れ、そして撫でる。
「普通すぎて、幻滅しねぇんですか?」
「そんなことはない。俺には魅力的に感じるけどな」
「俺、自分に自信がねぇんです。愛想はねぇし、強面だし」
「でも俺は全てをひっくるめて、君が好きなんだ」
「乃木、せんせい……」
ベッドに組み敷いて、口づけを落としながら胸を弄る。
「ちょっと、それは」
「なんで? 気持ちいいんでしょう、こうされるの」
「べつに、気持ち良くなんて、はぁ、舐めてるとこ見せつけねぇで下さいよ」
扇情的で困るから。
そう、呟く百武に、目を細めて真っ赤な舌をチロチロと動かし、かたく突起した箇所を刺激する。
「真っ赤だね。君の顔も、乳首も」
「ん……、そこばっか舐めねぇでください」
「あぁ、こっちも触って欲しいってか」
ぐいと太ももを持ちあげ、柔らかな箇所に証を刻み。真っ赤な痕を満足げに見つめ。
蜜を垂らしてたちあがるモノへと触れる。
「ねぇ、ちゃんと自分でも弄ってる?」
「ん、あんま、さわんねぇです。て、なに咥えてんですか」
「何って、ん……ッ、ナニ」
「ふっ、咥えたまましゃべらねぇで下さい」
手で口を押えて必死で声を出すのを耐える百武に、わざとちゅるっと厭らしく水音をたててやる。
「くっ、うぅ」
どんな顔をしてみるのか見えないし、声を押し殺しているのが残念だ。
口の中でイかせ、中に放たれたモノを飲み込む。
「うわ、飲んだんですか……」
非常に嫌そうな顔をされたが、ご馳走様と耳元で囁いてやれば恥ずかしそうに顔を赤く染めて顔を背けた。
「こら、こっちを向きなさい」
顎を掴み自分の方へと顔を向けさせ。
「ねぇ、君の中に入れていい?」
尻の窪みをぐいと押せば、百武が目を見開く。
「あ……、男同士だとこの穴に突っ込むんですね。先生が入れてぇんでしたら、どうぞ」
俺はどっちでも構わなねぇです、と、どうしたらいいかと聞かれる。
「後ろを解すから」
そういうと百武のモノから垂れる蜜を指にすくいとり後ろを濡らして中へと入り込む 。
「ひッ、なんか、へんな感じ、です」
「すぐに良くなるよ」
中を広げるように解し、柔らかくなってきたところで指を増やしていく。
すると良い所に指がかすめたか、ビクッと身体が飛び跳ねる。
「んぁ、そこは……」
「ここがイイの?」
ぐいと押してやれば、指をしめつけてきて。その素直な反応に、乃木は自分の唇をペロリ舐める。
「はっ、や、です、そこはぁ」
「気持ち良すぎて、でしょう?」
興奮し、百武欲しいと主張する雄の部分を後孔へと宛がう。
嫌でもそれを感じてしまった彼の身体は、緊張からか力が入りかたくなる。
「あっ」
「ほら、力を抜いて」
大丈夫だからと、髪を撫で頬を撫でてリラックスさせる。
「のぎ、せんせい……」
「大丈夫だから、ね?」
「はい」
やっと力が抜けた百武の後孔へと自分のモノを挿入していく。
「く、あっ」
痛そうに歪められた表情に、
「辛いか?」
無理して進める事はないからと頬を撫でて中から抜き取ろうとした。
だが百武は首を横へと振り。
「いいから、このまま突っ込んでください」
という。
「しかし」
「怖ぇですけど、ここで止めたかねぇです」
だからと、手を広げて乃木の身を抱きしめる。
「せんせい、俺の、深いトコまできてください……」
そう耳元で囁き、顔を肩の所へと埋めてくる。
「百武君」
理性は完全に飛んだ。
欲情のまま自分を押し込んで、深い所で繋がりあった箇所を激しく突く。
「ん、んんッ」
ぎゅっと首元にしがみ付く百武は必死で声を押し殺している。
声をききたい。我慢なんてしないでほしい。
「我慢するな」
髪を鷲掴み上を向かせ、睨むように見れば。
目尻に涙をためて嫌だと首を振る。
「……自分の喘いでいる声なんて、気持ちわりぃです」
ぎゅっと唇を噛みしめて耐える。
「仕方ない」
ならば、と、百武の唇を割り、指を突っ込んで口内を弄る。
「ふぁ、やっ、ゆび」
「百武君、俺の為に鳴いてよ」
「やら、んっ」
唾液が口を伝い首元を流れ落ちる。
それがなんともいやらしくて、乃木を煽る。
「百武君、良いよ……」
「ばか、ふっ、あぁぁ」
後ろを激しく突けば、もう耐えられないと声を上げ始める。
指を離して前を掴んで扱けば、背を反らして腰を揺らしだす。
「くそ、後で、覚えてろッ」
悔しそうに乃木を睨みつけ。だが、快楽には勝てずに表情はすぐに蕩けて。
涙を浮かべながらガクガクと震えながらイくさまは、乃木を興奮させて百武の中へと欲を放った。
だがこれだけでは足りない。もっと、百武の事を味わいたい。
いまだ百武の中へと入れたままの雄は昂ぶり。嫌でも感じてしまった彼は目を見開く。
「なっ、イったばっかりでしょうが。抜いてって、なっ、揺らすなぁっ」
「百武君のも俺が欲しいって言ってるじゃないか」
「ん、言ってねぇし、やだって、おっきくしてんじゃねぇ」
だが百武の身体は素直に反応をしており、かたくなった箇所から蜜が滴り落ちる。
「そういう君こそ」
百武の顔を覗き込めば、
「先生、ムカつきます」
と眉間にしわを寄せて睨まれた。
それから何度も肌を重ねて放ちあい、百武の中へ溢れるほどに注ぎ込んだ。
汗と精液でべたついた身体を嫌そうに撫で。
「せんせぇ、風呂に入りてぇです」
「了解」
その、かすれた声が色っぽく。百武の為に風呂の準備をしに向かった。
暫くし、湯が張り終えた事を知らせる音が鳴り、バスルームへと行き一緒に湯船につかる。
「腰、大丈夫?」
心配そうに後ろから抱きしめる乃木に、おもいきり体重をかける。
「大丈夫なわけ、ないでしょう? 無理だってぇのに何度も突っ込むし」
ぎゅうぎゅうと押し込められて、
「……ごめん」
と肩に額を当てる。
「でも、嫌じゃないですから」
「やっと俺が好きって事を認めたな」
「それとこれとは別です。先生の事は苦手だと何度も言ってますよね?」
「そ、そんなぁ」
「ふっ、情けねぇ顔」
「あ、笑ったなっ」
「あははは、脇腹くすぐるのはずりぃですってば」
狭い浴槽で水しぶきを上げながらはしゃぎ、そして彼を抱きしめる。
「好きだよ」
甘く囁き、耳朶を噛む。
「ん、俺も、同じ気持ち、みてぇです」
腰を抱きしめる乃木の手に、百武の手が重なり。
顔を振り向かせ、目元を赤く染めて乃木を誘う。
やっと心から欲しいと思っていたモノが手に入った。
吸い込まれるように互いの唇が触れ、先ほどまで弄っていた箇所へと指を這わせた。
恋人同士になったからと甘い想いを持っていたら、仕事だと割り切り、何時もの通りつれない態度。
ちょっかいをかけるものなら凄まれてしまう。
「百武君、顔が怖いよ」
「顔が怖いよ、じゃねぇでしょうが。乃木先生が真面目に仕事をしないからです」
今日は読み切りの打ち合わせなのだが、うわの空の乃木に百武の叱咤が飛んでいる最中というわけだ。
「だって、部屋で打ち合わせしたいって言ったのに」
そっと手に指を這わせれば、それを払われてしまう。
「二人きりだと真面目にやらねぇでしょうが」
確かに、二人きりになったら百武に何をしてしまうかわからない。
「俺をガッカリさせねぇでくれませんかね?」
いつでも別れますよと耳元で囁かれる。
「え、それは絶対に嫌だ」
「なら、ちゃんと仕事をしてくれますよね」
と、ニィと口角を上げる。
たまらない表情。痺れるくらいに怖い。
本人には決して言えないが、小さな子供やか弱き女性の前では絶対にしない方が良いと思う。
「二人とも、珈琲をどうぞ」
珈琲とカフェモカが置かれる。
「ありがとうございます、江藤さん」
仕事の打ち合わせでも百武は珈琲を口にするようになった。
自分に心を許してくれている、そう思うとニヤニヤとしてしまう。
甘いカフェモカに口元を緩ませ、表情が和らぐ。
可愛い甘党の恋人を眺めつつ、ブラック珈琲を口元に運んだ。