寂しがりやの君

つながる想い

 買い物を済ませて家へと帰れば、透がリビングでテレビゲームをしていた。
 塾に行くまでは好きな事をしていていいと言ったのは俺だ。
「おかえりなさい。あ、神野さん。いらっしゃい」
 ゲームをやめてキッチンへとくると買ってきたものをしまう手伝いをする。
「透、おやつは?」
「まだ食べてない」
 塾に行く前に、少しでも腹の足しになればとオヤツを手作りで用意している。
 今日は神野に洗濯物を畳ませている間にフルーツ寒天を作っておいた。
「透、神野座れ」
 ガラスの器に入ったフルーツ寒天と、熱いお茶を煎れて置く。
「さっき作っていたのはこれか」
 目の高さに持ち上げて眺め、綺麗だなと言う。
「これを食べたら神野は帰れ」
「なんですぐに追い出そうとするかな」
 つれないよな、と、苦笑いをする。
 透はこれを食べたら塾に行ってしまう。ということは神野と二人きりになってしまう。
 あの告白を聞いた後で二人きりで部屋に居たくない。どうしても意識してしまいそうだから。
「一緒にいたくねぇからだ」
 出来るだけそっけなくそう口にすると、
「酷い。ねぇ、透君も思うよね」
 透に同意を求める。
「あはは。ただの照れ隠しだから」
「な、透!」
 お前、なんてことを言うんだよっ! くそ、頬が熱い。
 そこを手で覆って隠すが、
「耳、真っ赤だよ、お兄ちゃん」
 他の場所を言われてしまい、神野にもそこを見られてしまった。
「てめぇら、おやつ抜き!」
 寒天を奪おうとすれば、二人とも素早くそれを手にして食べ始める。
「美味い」
「うん、美味しい」
 二人そろって笑顔を向けられて、伸ばした俺の手は宙で止まる。
 兄弟じゃない癖に、なんで気が合うかな。しかもキュンとしてしまった。
「……おう」
 作った物を美味しいといって貰えるのは嬉しい。鼻頭を指で掻き、俺も皿を手にしてフルーツ寒天を食べ始めた。

 御坂から学校に来るという連絡を受け、お重にオカズと俵型に握ったおにぎりを詰める。
 卵焼きは甘めが良いというリクエストだったので、それもいれておいた。
 昼休みになるといつもは教室を出ていくのだが、今日は御坂の席へと移動し弁当を机の上へと置いた。
 周りがざわめきだすがそれを無視して前の席へと腰を下ろす。
「約束したからな」
「うん」
 そこに尾沢が加わり、神野が俺も混ぜてと傍へ来る。
 クラスにいる奴等が俺達を見ている。そりゃそうだろうな。クラス委員長に人気者が二人。そして嫌われ者の俺が居るのだから。
「てめぇの分はねぇよ」
 と神野を睨めば、お願いしますと手を合わせた。
「聖人は駄目~。ね、彰正」
 御坂がわざとそう口にして、頂きますとおかずを一口。
 確かにあの時、俺は神野にいいとは言っていない。
「でも、量が多いよね」
 尾沢が微笑みながら俵型のおにぎりを紙皿へと置いた。
「俺が食べるから大丈夫」
 と御坂が俺にウィンクする。
「あぁ、沢山食え」
 俺もわざとその話に乗り、神野がそんなと言いながら肩を落とす。
「二人とも意地悪だなぁ」
 尾沢もそう言いながら楽しそうだ。
「葉月さま、お願いします。お恵みを……」
 両手を合わせてお願いと首を傾げる神野に、俺は目の前に紙の皿とおにぎりを置く。
「しょうがねぇ。余るのは嫌だから食わせてやる」
「ありがたや」
 手を擦り合わせて拝むような恰好をする。
「頂きます」
 誰が見ても三人で食べるには多い量だ。神野だって自分の分が含まれているのに気が付いているだろう。
「美味しい」
 いつものように美味そうに食べてくれる、その表情は悪くない。
「当たり前だろ、俺が作ったんだから」
 と軽く睨めば、御坂と尾沢が俺を優しげに見ていた。
 あぁ、結局、丸め込まれたな。
 でも、悪くないと思うのは、俺がこいつらの事を嫌いじゃないからだろう。