傍惚れ

 見つからぬように処理を終えて着替えようと思っていたのに青木の言いつけを守らず、宗佑は竹刀を振るっていたようだ。
 少しでも様子がおかしいとばれてしまう。いつも通りにと振る舞おうとしたが、宗佑の目は誤魔化せなかった。
 行為の残る身体を見られ、二人の欲の残る箇所を指で弄られた。
 知られたくなかった。宗佑にだけは。
 もう、彼を手放せないくらい、青木にとって大切な存在となっているから。
 裸のまま抱き上げられて何処かへ連れて行こうとする。
「宗佑っ」
 一体どこへと思っていれば、
「風呂、炊いてありますから」
 と連れて行かれて風呂の淵へと座らさる。犯された身体をこれ以上、宗佑の前に晒していたくなく、
「出ていけ」
 と桶を掴んで投げつける。
 それを避けること無く受け入れ、額に当たった後に下へとおちる。
「そうすけ……」
「その命には従えません」
 赤くなる額から目が離せないでいる青木の前。帯を解き着流しを湯船の向こうへと投げ捨てる。
 この前、井戸で見た宗佑の身体。
 あの時は感じなかった胸の高鳴り。
「宗佑、自分でやるから、良い」
 頬が熱く、落ち着かない。
「俺が、掻き出します」
「嫌だ、宗佑っ」
 起ちあがって逃げようとするが、宗佑に壁際に追い込まれてしまう。そして、背を向けて壁に手をつかされる。
「入れますよ」
 ぬぷりと指が中へ入り、二人の放ったものを掻き出していく。
 すると良い所を指がかすめ、思わず喉の奥の方から甘い声がもれてしまう。
「んぁっ……」
 その瞬間、指の動きが止まり、青木は恥ずかしくて顔が熱くなる。
 こんな気持ちの悪い声など聴きたくなかっただろうと思ったのだがどうやら違うようだ。
「青木様、ここが気持ち良いんですか?」
 そう、確かめるように指がソコを弄り始める。
「ひゃぁんっ、よせ、そうすけ」
 熊田と大津に触られた時は、身体は反応しても心は冷めていた。
 だが、相手が宗佑というだけで気持ちが良くなってしまい、逆に困ってしまう。
「そうですか、わかりました」
 やめる気になったかとホッとしたのもつかの間、指を抜くところかもう一本増えた。
「なぜ、指を増やすんだ」
「この方が綺麗に掻き出せます。ほら、尻をひっこめないでください。あっ、そんなに締めつけられたら掻き出せませんよ」
 中でうごめく指が、感じる個所に触れて疼いてしまう。
「はぁっ、そうすけぇ」
「青木様、これがすんだら、触られた他の場所も洗いましょうね」
 ぬぷんと指がぬけ、太腿を伝う掻き出したモノを、湯で洗い流しながら掌で撫でていく。
「あ、あぁ……」
 足に力が入らなくなり小刻みに震える。
「青木様、俺の膝の上にお座りください」
 床に胡坐をかく宗佑に、青木は頷いてそこへ腰を下ろす。
「さて、されたことの全てを白状くださいね」
 後に宗佑のかたいものを感じ、熊田と大津のモノを思い出してしまった。
 ビクッと身を震わせる青木を、宗佑が抱きしめる。
「相手のことを思いだしてしまいますか?」
「あぁ」
「でも、今は俺のことだけ思ってください」
「宗佑のことだけを、か」
 お願いしますと、強く抱きしめられる。
 宗佑の熱、息、匂い。それらを感じ、怖かったのが嘘のように消えていく。
「宗佑、穢された箇所の全て、触れて癒して欲しい」
「……はい」
 一つずつ確認をしながら宗佑は青木の身体に触れていく。
 その度に喜びを感じ、熊田と大津のときには得られなかった快感がおそう。
 からからになるまで欲を放ったのに、宗佑の手をすぐに欲してしまう。
「宗佑、もっと」
「はい、貴方が望むのならいくらでも」
 中を激しく突かれ、気持ち良さに腰が揺れる。
 もうでるものがなくからイきして、もう限界と仰向けに倒れ込む。
「身体を拭いても良いですか?」
「あぁ、頼む」
 今度は宗佑が放った欲をかきだし、濡れた手拭いで身体を拭いてくれ、浴衣を着せてもらう。
「ありがとう、宗佑」
「……はやく自分の気持ちに気づいて下さい」
「ん?」
 宗佑のことは嫌いではない。だからまぐわうことを素直に受け入れられた。
「だから鈍いって言うんです」
「先ほども言われたが、それはどういう……」
 二度も言われ、流石にその理由を尋ねようとするが、
「青木様、ゆっくりとお休みくださいね。俺はおいとましますので」
 そう、言葉でさえぎられ、宗佑は頭を下げて立ちあがった。
「待て。帰ってしまうのか?」
 寂しいなと思い、咄嗟に袖をつかんでしまった。
「もぅ、貴方って人は!」
 そのまま抱きしめられ、誰かから与えられる温もりの良さを感じる。
 添える相手がいるということは幸せだぞ、と、惚気まじりに幼馴染が言っていた言葉を思い出す。
 胸に頬を摺り寄せていれば、髪を撫でられて、そのくすぐったさに微笑む。
「随分と甘えん坊ですね」
「ん、幸せを堪能していた」
「また、そんなことを。俺を何度、煽るつもりですか」
「すまぬな。私はこういことをする相手が今までおらぬかったゆえ、知ることが嬉しいんだ」
 幼馴染に対して勝手に張り合い、心を許しあえる友を作らずに励んできた。
 宗佑は醜い自分のことを知っている。しかも酷い目にあわせたこともあるのにこんなにも良くしてくれる。
 そして今まで感じたことのないモノを与えてくれるのだ。
 この温もりを手放したくないと思ってしまった瞬間、ぼっと頬が熱くなる。
(そうか、だから鈍いと)
 誰でも良いわけではない。まぐわった時に感じた喜びも、宗佑だからだ。
「それだけですか?」
 その言葉の意味も今なら解る。
「違う。お主のこと、そういう意味で好いておる」
「やっと言ってくれましたね」
 そして宗佑がどれほどまで自分を想っていてくれたかも、だ。
 彼の嬉しそうな笑顔が、そう物語っていた。
「俺も、青木様をお慕いしておりました」
 そういうと髪に口づけされる。
「宗佑、ありがとう」
 互いの目が合い、頬が熱くなる。
 あんなことをした後だと言うのに、なんだか照れくさくて視線をそらした。
「さて、そろそろ休みましょうか」
「あぁ、そうだな。おやすみ」
「はい、お休みなさいませ」
 もぞっと腕の中へとはいりこみ顔を胸へとくっつける。
 心臓の音がきこえてきてそれが子守唄へのように青木を眠りへと誘った。