Short Story

ハッピーハロウィン

 ハロウィン仮装パーティ当日。
 ランタン作りはどうなっただろうか。きっと誰かに手伝ってもらっているよな。
 僕なんて居ても居なくても大丈夫だったんじゃないかと、気持ちは落ち込むばかり。
 仮装だって、高沢が僕の分も用意するからと言っていたが、結局、なんの衣装だったのか知らずに終わった。
 ランタンを作っているうちに、高沢と一緒ならパーティも楽しいだろうと思うようになっていた。
 そんな事を思っては、自分自身を叱咤する。
 インターホンが鳴る。
 家を訪ねてくる人は滅多にいない。まさか高沢と思い、そんなはずはないとそれを否定する。
 だって、ハロウィンパーティはすでにはじまっている。誰かと楽しんでいるはずだ。
 再びインターホンが鳴る。
 それを無視していると、
「約束したよな。逃げない、無視しないって」
 と高沢の声が聞こえて、僕は玄関へと向かい開錠しドアを開けた。
「なんで?」
「悪いな。お前の家の場所は先生に聞いた」
 信用があるからなと手が僕の額に触れ、それにビクッと肩が震え、その手はすぐに離れた。
「熱はないようだな」
「……帰って」
「ジャック・オー・ランタン」
「いらない」
 見たくもなかった。
 差し出されたランタンを受け取らずに顔を背ける。
「何か怒らせるようなことをしたか」
「べつに。僕がランタン作りを嫌になっただけ。元々、ハロウィンに興味もないし」
「嘘を言うな。お前、いつも楽しそうにランタンを作っていた」
「嘘をいうな」
「本当だ」
 スマートフォンの画像を見せる。いつの間に撮ったのか、そこには楽しそうな自分の姿がある。
「あ……」
 こんな顔をしていたなんて。顔が熱くなる。
「ハロウィンパーティ、冴木と一緒に楽しみたかったのに」
 袋から取り出したのは狼の耳だ。これを身に着けた高沢を見たら女子が喜びそうだ。それにあの綺麗な人も。
 そんな事を考えていたら胸が痛みだした。
「お前にはこれを用意していたんだ」
 袋の中から赤い頭巾をとりだした。
「なぁ、パーティをしないか?」
 二人だけで。そういわれて、目を見開く。僕とパーティしても楽しくないだろう。
「学校のパーティに一人でいきなよ」
 その方がいいに決まっている。
 出て行けと彼の身体を押すが、その手を掴まれてしまう。
「ちょ、離し……」
「トリック・オア・トリート」
「え?」
 玄関のドアと鍵が閉まる音がする。
 いつのまにか中へと入り込み、僕との距離が縮まっていた。
「俺に、お菓子を渡さないでくれ」
 しかも、変な事を言い出した。
「それをいうならお菓子をよこせじゃ……、あっ」
 いたずらをさせろと言いたいのか。
 それって……、つまり、そういうこと?
 意味に気が付いてしまい顔が熱くてたまらない。
「い、今、お菓子、用意するからっ」
 慌てて部屋の中へと引き返そうとしたら、そのまま腕を掴まれ引き寄せられた。
 ぱたんとドアが閉まり、僕の身体は後ろから高沢にだきつかれている。
「俺の愛おしい赤ずきん」
 頭巾をかぶせられ、首にふっと息がかかる。
 やっぱりそういうことなのか。緊張して身体を硬くした。
「悪戯、させてもらうよ」
 と腕の脇をくすぐりだした。
「や、脇はだめぇっ」
 かなり弱いんだ、そこは。くすぐられて涙が浮かんできた。
「うっ」
 高沢の手が止まる。口元を押さえて頬を赤く染める。
 笑いたくて我慢をしている、そんな風に見えた。
「酷い」
 やっぱり警戒した方がいいかと思っていたら、
「好きだ。君の全てを食べてしまいたいくらいにな」
 さりげなく首筋を舐められた。優しいと思った男は狼さんでした。

 僕に惚れる理由が解らない。
 見た目がいい訳でもない。ずっとつれない態度をとりつづけていたのに。
「寂しそうにしている冴木が気になった。声を掛けたら無視されて、絶対に仲良くなろうと思った」
 あれが逆に燃え上がらせてしまったようだ。
「態度はツンとしているけど、日がたつごとに心を許してくれているのを感じて、それが嬉しかった」
「そうなんだ」
「さっき画像をみせただろう? 時折見せる楽しそうな表情が可愛くてな。気がついたら愛おしくなっていた」
「……もういいよ」
 恥ずかしい。
 これ以上は言わないでほしい。
 だって、素直に彼の気持ちが嬉しいと思っているのだから。
「顔、真っ赤だな」
「え、ちが、これは……」
 顔を隠そうとするが、暖かな腕に抱き寄せられた。
 高沢の匂い。見上げれば顔がすぐ近くにある。
「俺のこと、好きになって?」
 もう、これ以上は俺の心が持たない。
「ほら、パーティ、するんでしょ?」
 と離れろと彼の身体を押した。
「そうだった。じゃぁ、冴木も言って。あの言葉を」
 とにかく、今はこの甘い雰囲気から逃げ出したい。だから素直にあの言葉を口にする。
「高沢、トリック・オア・トリート」
 すると、ポケットからカラフルな包装紙のものをとりだす。
 用意してあった事に気が抜けた。例の言葉を言ってから気が付いたんだけど、悪戯されたかったのかと思って。
 ポケットの中から取り出したカラフルな包装紙の中身は飴玉で、それを手渡されるのかとおもいきや、高沢は自分の口の中へといれた。
「え?」
 まさか悪戯を望むのかと彼を見れば、唇が触れて口の中にイチゴ味の飴玉が入り込む。
 近くで微笑む高沢の顔。
「んっ」
 キスされた。口元を押さえて目を見開く。
「ハッピーハロウィン」
 かたまる僕に、高沢はウィンクをしてみせた。