Short Story

教室で、イけない時間

 先ほどまで喧騒に包まれていた教室は静けさを取り戻し、赤ペンを走らせる音だけが聞こえていた。
 だが、今聞こえてくるのはくちゅくちゅと濡れた何かを弄る音と切なげに吐かれる息だ。
「はぁ、あ……」
「おい、聞こえねぇぞ。もっと声出せよ」
 通話中のスマートフォンを落とさない様に肩と頬で挟み、さっきまで赤ペンを持っていた手は下半身のモノを扱いていた。
「んっ、もう、許して」
 誰も居ない教室で、そのクラスの担任教師である麻野蒼真(あさのそうま)は自慰行為をしている最中だ。
 教室へと誰かが来たらと思うと怖くて仕方がないと思うのに、体を突き抜けるような快感に抗う事が出来ずに行為に溺れる一方だ。
「許す? はっ、何言ってんだお前」
 もっと色っぽく喘いでみせろと電話口にて命じられた。

 蒼真は授業中に行った小テストの採点をしている途中だった。職員室より教室の方が静かに集中して出来るからだ。
 机の上に置いておいたスマートフォンのバイブが鳴り、画面には蒼真の愛し人の名前が表示されており、すぐさま電話の応対をする。
「仕事、終わったんだろ?」
 部活動の顧問をしている訳でもないので今日の仕事は終わっていると言えば終わっている。
 だが、テストの採点をしてしまいたくて教室に一人残っていた。
「実は、今日やったテストの採点つけがまだ残ってまして」
 もし、この後会おうという約束ならば、急いで採点つけを終わらせねばならない。
「そうか。じゃぁ、採点が終わるまで待っていてやるからエロい声でもきかせろや」
「……え?」
 一体、どうしてそうなるのだろう。
 言葉の意味が理解できなくて瞬きを繰り返す。
 きっと冗談を言っているのだろうと勝手にそう解釈すれば、
「え、じゃねぇよ」
 やれよとあの言葉は本気だとばかりに蒼真を促した。
「何を言っているんですか! そんな事、出来ませんよ」
 流石に教室でそんな真似は出来ないと断れば。
「ふぅん。蒼真は俺のお願いを聞いてくれねぇんだ。そうか、悪かったな」
 じゃぁ、俺は帰るからと通話を切られてしまい、蒼真は慌てて連絡し直した。

 香椎(かしい)に惚れている。
 教師となり着任する事となった学校は、麻野にとって母校であり、生徒であった頃から香椎は養護教諭として働いていた。
 保健室には怪我をしたものや病気をしたもの以外にも悩み事を相談する生徒も多かった。
 時に厳しくて時に優しく、そして包容力のある保健室の先生。
 香椎には怒られたこともあった。助けてもらった事も慰めて貰った事もある。
 いつしか大好きな先生から愛しい先生へと気持ちが変化し、抑えきれなくなった想いを告げたこともあった。
 その時は振られてしまったけれど、教師になり香椎と再会を果たした時、変わらず想う気持ちが残っている事を知り、香椎にもう一度告白をしたのだ。
 二度目の告白はうまくいき恋人となることができた。それだけに蒼真は香椎が愛おしくてたまらず嫌われたくなかった。
 惚れた弱み。
 お願いを聞くから帰らないでとそう返事すればすぐさま、
「じゃぁ俺のを想像しながら後を弄れ」
 と言われる。
 蒼真が折れるという事が解っていて、想い通りになって口角を上げる香椎の姿が目に浮かんでくるかのようだ。
「香椎さんの……? 無理です。香椎さんのを感じるには指じゃ物足りない」
 香椎のモノに貫かれている時の気持ち良さを思いだして身震いをする。
「そういう所、可愛いよなお前」
 そう言われて頬が熱くなり、指を唾液で濡らした後に後ろへと手を伸ばす。
 蒼真の細い指などすんなりと飲み込んでしまうそこは、すぐに二本、三本と増えていく。
「やぁ、香椎さんのが食べたいです」
「まったく。お前の後の口は食い意地がはってやがるなぁ」
 くつくつと楽しそうに声を上げて香椎が笑う。
「はぁ、かしいさん」
 指だけでもどかしい体を揺らしながら香椎の名を呼ぶ。
「何処もかしこも涎を垂らすお前の姿、すごく好きだぜ」
 低く色気を含んだ声でそういわれ、甘いしびれが身体を貫く。
 後ろだけじゃ足りなくて濡れた前を擦りながら頂点を迎えて欲を放つ。余韻にうっとりとしかけ、我に返って真っ青になる。
「どうしよう……」
 床にまき散らかされた白濁に、それをハンカチでふき取ろうとしたその時。
 ガラッと扉が開く音が聞こえ、身体が強張り血の気を失なう。
 今、自分はシャツ一枚だけしか身に着けておらず、それも太ももが濡れて光っている。
 何をしていたか一目瞭然。この姿を見られたら言い訳など出来ない状況だ。
「こりゃまた派手にまき散らしたなぁ」
 電話越しでなく別の方から声がする。恐る恐るその声の方へ顔を向ければ香椎の姿があり、生徒だと思っていた主は香椎だと解って涙がふいにこぼれおちる。
「おいおい、泣くなよ」
 蒼真の身を抱き上げて机の上に座らせて、蜜で濡れたモノをハンカチで乱暴に拭った。
「や、そんなに乱暴にしちゃ」
 未だ熱の抜け切れぬ箇所は愛しい人に触れられ、すぐにかたくなってたちあがる。
「乱暴にされて、たちあがらせといて良く言うよ」
 と、今度は直にその箇所へと触れる。
「ん、やぁ、ん」
「やっぱり電話越しより生身の方が色っぽいな」
 香椎の手が滑らかに動きだし、その動きを止めるように足をぎゅっと閉じる。
「淫乱のお前がこんな状態で我慢できるわけねぇだろう? ほら、足、閉じんな」
 ぐいっと乱暴に開かれてたちあがったモノが香椎の前に晒され、先から蜜を垂れ流してまるで誘うかの様に震える。
 それを目を細めて間近で見つめる香椎だ。
「やぁ、見ないで香椎さん」
「何、いってやがる。こんなに浅ましい身体をしてやがってさ、嫌だと言いながら俺を求めてんだろ?」
 と、射ぬくような目がその言葉を肯定させる。
 その通りだ。
 香椎を感じるだけで、体が火照り触って欲しいと主張し始める。
「後だって……」
 垂れる蜜を指ですくいとり、蒼真の指より太くてごつい指が入り甘い痺れをもたらし、それをかき回すように動かす度に蜜が溢れて卑猥な水音がする。
 それが良い所へと触れるたび、気持ち良くて善がりながら甘い声を上げる。
 そろそろ指でなく香椎が欲しい。
 誘うように香椎のモノへ手を伸ばせば、指が蒼真の中から抜けた。
「しょうがねぇな」
 にやりと笑い、蒼真が欲しいモノを晒し。
 ドカッと椅子の上へと座り自分の膝を叩く。
「蒼真、座れ」
「はい」
 嬉々としながら向い合せに座ろうとすれば、違うと言われて小首を傾げた。
「俺のを咥えながらテストの採点しろや」
 なんて、とんでもない事を言い始めた。
「そんな」
「いいから座れ」
 腰を掴まれて蒼真の中へと香椎の熱くて大きなモノがぶすぶすと音を立て挿入されていく。
「ふっ、あっ、あぁぁ……」
 びくびくと震える蒼真の手に赤ペンが握りしめられる。
「ほら、採点の続きをしろ」
 と、本気でこのままテストの採点をするつもりのようだ。
 根のあたりまで深く入り込んだモノは、少し動いただけでも蒼真にもどかしい刺激を与える。
「ん、香椎さん」
 この状態は辛い。
 何度も声を掛けたが無視をされてしまう。
「ほら、そいつは正解。あぁ、これは残念だな、この公式が違うから不正解」
 時折、香椎の腰が動き蒼真の気持良い所に触れ、シャツの上から乳首を摘み弄られて綺麗な丸も書けやしない。
「や、もう許して、香椎さん」
「なんだよ、折角テストの採点を手伝ってやってんのによ。ほら、5問目正解」
 と、ふぅっと耳元に息を吹きかけてそう言う。
「んんっ」
「俺には採点なんて関係ねぇんだけどな。お、おしいな、考え方は間違ってねぇけど、不正解」
 そう言って腰をグイッと突き上げられ、それが良い所に当たり体が善がる。
 もう限界だ。
 香椎にめちゃくちゃにされてイきたい。
「テストの採点は後にします。だからお願い、イかせて?」
「嫌だね。そんなに欲しければ自分で動け。……85点」
 蒼真の手からペンを奪い85点と採点欄に点数を入れる。
 誘い方が85点って訳ではないようだ。
「言っておくけど、お前の誘い方は20点」
 心の中を読まれたかと思った。
 ドキッとして香椎を見れば、
「赤点だから、この後、蒼真の家で追試だぞ」
 みっちりと扱いてやるよと耳元で囁かれ。急速に欲が膨れ上がり、ぶるっと身を震わせて欲がはき出される。
「おいおい、今のでイクのかよ」
 放ったばかりで惚ける蒼真に、この変態がと香椎が口角をあげた。