Short Story

ずっと好きだった

 食事は最高に美味かった。
「ごちそうさまでした」
「気に入ってもらえたようだな」
「はい」
 味も良く見た目も綺麗だった。コースが二種類あったので、もう片方のも食べてみたい。
 それに会社に入ってから、二人きりでゆっくりするのははじめてだ。
 心地よい空間と、弾む会話。その時間が楽しかったのだ。
「また食べに行くか」
「うん、行く」
 ちなみに食事も奢りだから最高だ。
「円」
 外套の下。腕をつかまれて引き寄せられた。
「どうした……、んっ」
 唇に暖かく柔らかなものが触れて、そして離れた。
「十和田さんっ」
「付き合うまで手を出すなと言われてたのになぁ。もう無理だわ」
 前髪をかき、つらそうな表情を浮かべた。
「俺は今でも円が可愛くてしかたがないんだ」
「うそだ。百兄の友達だってだけなのに、べたべたしてきて気持ち悪いって思ったんでしょう!?」
 敬語は十和田と距離を作るためにわざと使っていたのだが、今は使っている余裕がない。
「え、何だよそれ」
 一度もそんなことは思ったことがない。そう十和田は円の腕をつかんだ。
「じゃぁ、なんで俺に彼女がいるか聞いたの!」
 十和田が目を見開く。やはりそういうことだったんだと円はつかんでいる手を振り払った。
「つれなくされたからって、いい加減なことを言わないで」
 そう言い残して歩き出すと、再び外套の下へ引き込まれる。
「何を」
「かっこ悪いから言いたくなかったんだけど、あれはな、円に恋人がいないか確認していたんだ」
「はぁ!?」
 そんな理由だったんて。気持ち悪いと思われたくなくて嘘までついたのに。
「それに、好きな人がいると言われて、ショックだったんだ。会いに行けないほどにな。そうしたら円も受験だとかであえなくなって……」
「それなら、俺のことが好きだって正直に言えばよかったじゃん」
「百さんと一ノ瀬さんから、円は受験生だから高校生になるまで待ってと言われて。だけど全然会えなかった」
 その時は円が十和田のことを避けていたからだ。
「志望動機は円に会うため、だからな」
「馬鹿じゃないの」
 そのために選んだなんて。どれだけ会いたかったのだろう。
 どれだけ思ってくれたのだろう。
「円、顔が緩んでる」
 そう、頬に手が触れる。
「そういう十和田さんも緩んでるよ」
「そりゃ、円も俺とおんなじ気持ちだったとわかったらさ、嬉しくて」
 その手が今度は唇へと触れた。
「別に俺は十和田さんのことなんてなんとも思ってないから」
「とかいいつつ、好きだろ、俺のこと」
 唇がふれ、舌が口内を愛撫する。それが気持よく小さく声が漏れる。
 好きだ。痛い思いは二度としたくなかったのに。
 つれない態度をとってまで近寄らせないようにしていたのに。
 十和田が傍にいる。それが本当は嬉しかったのだ。
「ん……」
 好きでなければ腕を絡めたりしない。
「円、お前の部屋に行っていい?」
 はぁ、甘く息をはき、ささやく。
「いいよ」
「それじゃ、行こうか」
 手を握りしめられて指を絡めた。

 欲情だらけの男を止める術など円にはなく、腕をひかれるまま連れていかれ部屋に上がるやベッドに直行する。
「ちょっと、んッ……!」
 待ってくれと言おうとしたが、その言葉をふさぐように口づけをし、舌が絡みつき卑猥な音を立てはじめる。
 その口づけに、喉の奥から甘い声をもらし熱い息を吐く。
 糸を引きあう舌が離れ、すっかり息の上がった円はとろんとした目で十和田を見つめれば、欲をみなぎらせた視線が絡みつく。
 そんなにも自分を欲していたのか。そのことに下半身が疼き体が熱くなる。
 ほんのりと色付き始めた肌を、味わうように舌が肌をたどり、唇で吸いあげられる。
「あっ」
「キスマーク」
 できた痕を愛おしそうに撫でて、その指が下へと降りていく。
 そこにあるのは平らな胸と二つの粒。
 そのまわりを指でくるりと撫で、乳首を弾いた。
「ひゃッ」
 指に犯され硬くなった乳首の一つをちゅっと音を立てて吸いあげて、舌の先でころがしはじめる。
「あ、あぁっ!」
 突起した箇所を弄られれば、体の芯が甘くしびれて下半身のモノはたちあがっていた。
「胸だけでこんなになって」
 十和田の視線が自分の下半身のモノを見ているのに気がついて、円は恥ずかしくて顔を赤らめた。
「拾ちゃんだからだろうっ」
 触れている相手が十和田だから余計に感じるのだ。
 ふいっと顔を背ければ、
「まどか、今、拾ちゃんって」
 よほどうれしかったか、頬を両手で挟みこんでキスを何度もされた。
「ん、しゅう、んぁ、ちょっと、おちつけってば」
 円の手が十和田の頬をバチンとはたいた。
「まどかぁ」
 流石に驚いたか、目をぱちぱちとさせた。
「拒否じゃないからね。ちゃんと抱き合いたいんだ俺は」
 おいでと両手を広げれば、軽くキスをし、乳首へと食らいついた。
 口に含み歯を立てて甘噛みをし吸いついた。
「あ、あぁぁんッ! や、んぁ」
 ぷっくりと膨れて感じやすくなった個所は、舌先でころがされるだけでも下半身をじくじくとさせた。
「きもちいい?」
 と、円の顔を覗き込み、乳首を引っ張りあげた後に爪で刺激を与える。
「あぁ……、んッ、そこばかりしつこいぃ」
 気持ちいいけれど別の場所も十和田触れてほしい。
「それなら、しゃぶって、舐めて、円をいかせてもいいか?」
 と、円のモノをゆるりと撫でる。
 してほしい。
 ごくっと生唾を飲み込み十和田を見れば、幸せそうに微笑んでいた。
「なんて顔をしているの」
「俺を欲しがってくれているから」
 嬉しいという。
 それがまるで伝染したかのように円の胸にもほんわかと温かいものがこみあげた。
 愛おしい。
 この男が、心から愛おしい。
「舐めて、拾ちゃん」
 足を開いて十和田を誘えば、たちあがるモノへ舌を這わせた。
「やっ、んっ……」
「ん、まどか、きもち、いいか?」
「ひゃ、くわえたまま、しゃべらないで」
 ふるっと体が震えて白濁を放つ。
 それが十和田の顔にかかり、円は身を起こして手でぬぐった。
「ごめんね、かかっちゃった」
「かまわない」
 口の端にかかったものをぺろりとなめとり、にっこりとほほ笑む。
「ちょと、それは舐めちゃダメだってば」
「円の、本当は飲みたかったのにな」
「な、バッカじゃないの!」
 あれは飲み物じゃない。
 腹を壊したらどうするのだと口元を親指でぬぐう。
「それでも、欲しかったんだ」
 額同士をくっつけて、色香漂う表情で言われたら放ったばかりのものが疼きだした。
「俺だって拾ちゃんが欲しいよ」
「円」
 十和田に腕を回して広い背中を撫でる。
 耳元に息がかかり、くすぐったくて身をよじれば、
「円、今度は俺のコイツを気持良くしてくれ」
 円の手をつかんで、膨れ上がった十和田のモノへと導く。
 おおきく、そして熱くかたい。
 男同士のセックスは後ろを使うことは知っている。つながりあう喜びがどんなものなのだろうか。
「拾ちゃん、きて」
 うっとりと見上げる円に、十和田は微笑みながら後孔に指を入れ解し始めた。

 長年、想い続けた愛はすごかった。体中にキスマークがあり、乳首は真っ赤でひりひりするし、下半身のモノも放ちすぎてもうでない。
 まぁ、後ろの気持ちよさを知ってしまった円が、何度か十和田に強請ったが、それでも今だに後ろに入っているのではとおもうくらいまでされるなんて。
「ちょっと、年甲斐もなくがっつきすぎじゃないの?」
 不機嫌な円に十和田が申し訳なさそうに首を垂れる。
「円があまりに可愛くて」
「当分、俺に触るな」
 こうなる前の関係に戻るだけだからといえば、
「え、まって、それだけは勘弁」
 お願いしますと手を合わせて円を拝む。
「えぇ、大丈夫でしょう。なん十年もできたじゃないですか、十和田さん」
 敬語を使い十和田と呼ぶ。それだけで叱られた犬のようにしょんぼりとするのだから可愛い。
「ふふ、嘘だよ。俺の方が無理」
 好きだよ、そう耳元でささやけば、驚かさないでよと円を抱きしめて頬ずりをする。
「ねぇ、兄に言うの?」
 きっとすぐに恋人同士になったことはバレる。
「いうよ。俺は二人に頭が上がらないからな」
 先輩で上司。
「そうだね、うん、一緒に報告に行こう」
 両手を掴んでにぎりしめると、その手を唇へともっていきキスをする。
 その仕草がさりげなく、気持ちがきゅーっとなる。
「指輪、欲しい」
「いいな。買いに行こうか」
「うん」
 ちゅっとついばむように口づけると、互いの指を絡めあった。