小さな食堂

キャンプでの出来事

 キャンプに行くことになった切っ掛けは思い出の写真だった。
 英知が子供の頃に友達の家族と共にキャンプへといった。
 楽しそうに笑いピースサインをする英知と優しく笑う妻。それをポケットに入れたままにしてしまっていたようで、沖の店で財布を取り出すときに写真が落ちた。
「これ、キャンプですか?」
「うん。懐かしいなって見てたんだけど、ポケットに入れていたみたい」
「キャンプですか。いいですね」
 その時はそれで会話は終わったのだが、数日後、利久からキャンプに誘われた。

 青天で風も穏やか。遊びに行くには最高だ。
 野営キャンプで、日中は釣りをして夜には利久がキャンプ飯を作ってくれた。
 焚火の炎に満天の星空。川のせせらぎ。なんて贅沢なのだろう。
 しかも食後の珈琲が格別だ。
 こういう休日も悪くない。そう利久に伝えると嬉しそうに楽しんでもらえて何よりですという。
「利久君の手料理、美味しかった」
「いつか一人暮らしをしたときに自炊できるようにと母が」
 南なら確かに言いそうだと笑うと、
「河北さんって母と仲がいいですよね」
「お互いにおしゃべりでしょう? だからうまがあってね」
 南とは小学から大学まで同じ学校で、クラスも何度か一緒だった。
 今でも同い年の中では一番仲がいい。
「母が羨ましいです。学生服の河北さんも素敵でした」
「え、ちょっと、まさかアルバム見たの?」
「譲り受けました。高校までありますよ」
「うわぁ」
 まさかアルバムを渡しているとは思わずで、昔の自分を見られるのは少し恥ずかしい。
「南だって若いころの姿を息子に見られて何にも思わんのかね」
「母は『これ私。可愛いでしょ』って。頼んでもいないのに自分の載っているページを見せてくれました」
「ぶはっ、南らしいな」
 そうだ。彼女はそういうタイプだった。
「妬けるな」
 利久の呟きにぎくりとなり笑いが引っ込む。
「あ……ほら、若かりし日々の思い出だから」
 本当にそれだけだ。
「そうですよね」
 気まずい空気となりかけて話題を変える。利久もそれに気づいて話しにのっかってくれた。

 二人並んで横になっても十分に広い。
「今のテントって広いねぇ」
「そうなんですよ。なので少し残念です」
 横を向くと利久も向いていて目が合う。
「でも、こうやって手を伸ばせば届くね」
 手を伸ばして利久の手を握りしめると、もう片方の腕が伸びてきて腰をつかんで抱きしめられた。
「りく、くん」
「楽しい雰囲気を壊すのは駄目だってわかっているんです」
 河北の肩のあたりに顔を埋めて何度か息を吸ったり吐いたりとして離れた。
「俺、河北さんとキスをした時からずっと舞い上がっていているんです。手を出さないようにと必死に自分を押さえつけていたんですけど駄目でした」
 友達の範囲を超えない程度のスキンシップでおさまっていたのはそういう理由だったのか。
 今だってタガが外れそうになったのをギリギリで耐えた、そんな感じだった。
「そうだったんだね」
「なので、少し頭を冷やしてきます」
 とテントから出ていく。
 河北を欲していた。
「あの目は駄目だよぉ」
 キスをされたときも感じたが、求められていると思ったら気持ちが高ぶり鼓動が跳ね上がる。
 利久はもう大人の男なのだ。昔から知っているからといつまでも息子のように扱ってはいけないだろう。
 告白の意味を真剣に考えなければだめだ。友達のままでいいなんて、本当は望んでいないないだろうから。
 利久が戻ってきたのは一時間くらい過ぎた後だ。いつもと変わらぬ様子で河北に話しかける。
「星がきれいでしたよ」
「あー、僕も見たかったな」
 それならばとこちらもいつものようにふるまい、今度は隣同士に横になっても何も起こることはなかった。

 テントを片付けて車に積み込む。
「忘れ物はありませんか?」
 当たりを見たわす利久に、
「そうだね。ひとつだけ忘れ物があるかな」
 と告げ、利久の手を握りしめた。
「河北さん!?」
「僕ね、利久君とのことを真剣に考えようと思うんだ」
「それって……」
「息子の友達だとか、幼馴染の息子だとかさ、そういうのを取っ払って一人の男として見るから。もう我慢なんてしなくていいよ。嫌だと思ったら全力で拒むから」
 言葉と同時に利久に抱きしめられた。
「昨日は我慢させてごめんね」
 利久の背中に腕を回した。
「夢じゃ、ない」
 手が頬や背中を撫で、さらに下へと動いていく。
「利久君、流石におしりは駄目かな」
「あ、すみません」
 利久は確かめているだけだったのだろう。だから顔が真っ赤だ。
「実感した?」
「はい。こうすればもっと実感できます」
 と顎に手をかけて顔を上に向かされた。同性でも相手はイケメンだ。かっこよくてドキッとしてしまった。
「利久君、少女漫画に登場するイケメンキャラみたいだね」
 照れを誤魔化すように口にすれば、顔がどんどん近づいてくる。
「りく……」
 唇が重なり舌が入り込み絡み合う。しかも利久は河北を放そうとしないので下半身にまできてしまった。
 これ以上は駄目だと離れようとするが、利久の舌がそれをゆるしてはくれない。
「んんっ、り、くん、や」
 全力で拒むとは言ったがこうなっては無理だった。
 互いのがこすれあい、その刺激に驚いて唇が離れた。
「たっちゃいましたね」
「やって言ったのに」
 頬を膨らませて利久を軽くにらみつけると、頬をくっつけてすりつく。
「続きがしたいです」
「駄目」
「ですが、河北さんもたってますよね」
 どんな状態なのかは互いにわかっている。このままでいられないことも。
「僕はどこかで抜いてくるから。利久君は車を使って」
 触れたら最後、流されてしまうかもしれない。だが河北にはそこまでの覚悟はない。
「待ってください。抜くだけですから一緒に」
 そういうと軽々と体を持ち上げられてしまう。
「利久君!」
「お願いです。味見をさせてください」
「えぇっ」
 味見とは、あれのをということか。
「え、ちょ、利久君」
 車に押し付けられてズボンのチャックをおろされてしまう。
「河北さんの」
 目を見開き息を荒くしている。興奮状態の利久が怖い。
「利久君」
「はぁ、蜜を流して美味しそうですね」
 唇を舐め今にもしゃぶりつきそうだ。絶対に美味しいわけがない。
「正気に戻ってよぉ、利久君」
 口を開いた瞬間、両手で両頬を挟んで止めた。イケメンが台無しだ。
「なんれす?」
「手でしよう。僕がしてあげるから」
 利久が食いつくような交換条件を出さないと止まらないだろうと口にしたのだが、
「本当ですか」
 目がギラギラとしている。これは早まったかもしれない。
「う、うん、触るだけだよ?」
「はい。河北さんに触ってもらえると思ったら……」
 ズボンをおろした利久のモノは立派だった。
「利久君、僕にこれは勿体ないよぉ」
 顔も良く、こちらでも満足させられるだろう。
「でも、俺がこうなるのは河北さんだからです」
 利久が河北の腰へと自分の腰を押し付ける。かたくたちあがるモノが直接触れ合ってびくりと体が震えた。
「んっ」
「河北さん俺のと一緒に握ってください」
 ぴたりとくっつきあったモノへと手を伸ばすとその上から利久の手が重なった。
 互いのを握りあうよりもグっとくる。
「あ、これ、やばいっ」
「そうですね。やばいくらい感じます」
 直接触れているのは河北の手だけだ。
「河北さん、気持ちいいです」
 はぁ、と色っぽく息をはく利久にドキッとする。
「利久君、えろ」
「そういう河北さんだって。真っ白な肌がうっすらと染まっていて色っぽいですよ」
 頬に唇が触れそして唇へと異動し、軽く何度も唇を重ね、舌が絡みあう。
 上からも下からも水音が聞こえて、触れ合うだけでなく音までもがふたりを高みへと連れて行こうとしていた。
「ふ、りく、くん、僕、もう」
「俺も、です」
 互いのモノから吐き出された欲は手の隙間から流れ、口元は唾液で濡れていた。
「濡れちゃいましたね」
「ねー」
 しかも外で致してしまったことに今更ながら気が付いた。
 焦る河北に対し利久は平然としている。それはそれでもえますねとか言い出すのでわき腹にグーパンチをお見舞いした。
「ほら、痕跡をけして帰るよ」
 早くここから立ち去りたく利久を促すと、液が垂れた場所をスマートフォンで撮りはじめた。
「利久君!」
 なぜそんなものを撮っておくのかと利久の肩を掴んで揺さぶった。
「河北さんと触りっこをした記念です」
 そんなものを記念に撮っておいてほしくない。
「消しなさいよ」
「嫌です。これで夜も困りません」
 利久の本性が現れた。それを使うとかやめてほしい。
「やめなさいよ。利久君、消さないと絶交だからねっ」
 つい、子供のような言い方をしてしまった。
 恥ずかしくなり利久を見れば、こちらにスマートフォンを向けてカシャカシャと音がなっている。
「あー!」
「あれを消す替わりです」
 そう言われてしまっては消せとは言えなくなってしまい、しぶしぶと頷いた。