Short Story

飲んだ後に……

 繁忙期を無事に乗り切り、恒例の会社の人たちと飲み会がある。この日の酒はものすごく美味い。
「大浜さん、お城の話をはじめましたね」
「酔うとアレだからな。社長らに任せておけば大丈夫だろ」
 こちらはこちらでと、大酒飲み達が集まる。
「ひぇ、俺はお城の方に……」
 水瀬も酒は好きだが、大酒飲みというわけではなく、付き合えば潰されると解っているので逃げようとする。
「付き合え」
「嫌ですってばぁ」
 首に腕を回して引っ張っていく。メンバーは水瀬に飲ませる気、満々だ。
 きっとある程度飲まされたところで、柴が止めに入ってくれるだろう。なので、気にせず亮汰は飲む方に集中できる。
「加藤さん、芋」
「おー」
 芋焼酎と美味しいおつまみ。そして加藤の少々下品で楽しい話が始まる。
 それを笑いながら聞き、酒を飲む。仕事の疲れなんて簡単に吹き飛んでしまう。
 焼酎、日本酒、ウィスキーと空き瓶がテーブルの上に並ぶ。
「そういえば、そろそろ結婚式だったな」
「はい」
「写真撮ってないんれすかぁ」
 かなり酔っている。呂律は回らないし、やたらと引っ付いてくる。
「あるぞ」
 たまには付き合えとドレスの試着に付き合った時に撮ったものだ。
 黄色の色ドレスを着て微笑む彼女はとてもかわいらしい。
「可愛いなぁ、唯香ちゃん」
 水瀬は幼馴染なので幼い頃の唯香のこともよく知っている。昔から可愛くて優しい子だったと、何度も聞かされたことを思い出す。
「こんなに可愛い子と知り合えるなんてな」
 一緒に画像を見ていた加藤がそう言う。
「俺がキューピットなんですよ!」
 どやり顔で水瀬がいい、亮汰はよくやったと髪をかきまぜる。
「唯香と知り合えたことに関してはお前に感謝している」
 家族が一人増えた喜び、そして隆也が帰国したこともある。
「よし、お祝いも兼ねて、飲めっ」
「はい。かんぱ~い」
 コップになみなみと注がれているのは水だ。流石にこれ以上は飲ませられない。
「ふぇい」
 もう水も酒も味が解らなくなっているのだろう。もう一杯とかいってグラスを手にしたまま、テーブルに突っ伏す。
「はは、ギブか」
「疲れているんでしょう。いつもより酒の周りがはやいみたいですね」
 とはいいつつも、このメンバーの中で飲んでいたらこうなってしまうだろう。だからあまり飲めない人は近寄ってこない。
「あー、水瀬君、酔い潰れちゃったね」
 城の話がひと段落したようで柴が合流する。
「話は終わったんですか?」
「うん。後は孝平君に任せてきた」
 孝平とは石井のことで、柴の甥っ子ゆえに名前呼びをしている。
「石井、すっかり大浜に懐きましたね」
「本当、大浜君を選んで良かった」
 石井の教育係となり、悩みをよく聞いたものだ。亮汰が彼とからむときは繁忙期や納期が迫っている時に応援にきてもらうくらいで、しかも仕事の話以外はしたことがなかった。
 とっつきにくい奴だと思っていたが、この頃は雰囲気が変わった気がする。
 大浜が彼を変えたのだとしたら、柴の人選は正しかった。
「社長もきたんで、改めて」
「乾杯」
「ふぇぇいっ」
 ダウンしていたと思っていた水瀬が水の入ったコップを掲げる。
 その姿に、周りは笑いに包まれた。
 飲み会があるから遅くなると隆也にはいってある。この後は二次会、三次会へとなだれ込む、そう思っていたのだが水瀬を送っていくこととなってしまった。
 まぁ、家には何度も行っているので場所は知っている 。
「ほら、しっかり歩け」
「はぁい」
 やたらと楽しそうな水瀬をやっとのおもいでベッドに運び座らせる。
「水、飲むか?」
「いりません。それよりも」
 と腕を掴まれて引き寄せられた。
「伊崎さん」
 酔っ払いめと深くため息を吐きだした。
「なんだ、寂しいのか」
「はい」
 水瀬が甘えるのは寂しいときだ。酒を飲んでいた時は楽しそうだったから、きっと亮汰に関係することなのだろう。
 だとすると一つだけ思い浮かぶ。
「もしかして、隆也さんのことか?」
「帰る家に誰かが居る、それが羨ましいです」
「そうだな。でも、ずっと一緒に居られるわけじゃない」
 店の目星がつけば、今度は住まいを探すだろう。結婚式までは一緒に居られるだろうが、その後はわからない。
「そうなんですね」
「あぁ。今が楽しいだけにさ、いなくなったらどうなるだろうな」
「……すみません」
 落ち込む水瀬の額を突っつく。
「ほら、寝ろ」
「はい」
 一緒に横になる。
 水瀬は友達というより弟的な存在で、本当の弟である幹と同い年というのもあり、つい甘やかしてしまう。
 それに過去にあったことも知っているので余計に気に掛けていた。
「結婚式の時、お前、大泣きするんだろうな」
「そりゃ、俺、すごく楽しみなんです。大好きな人の晴れ舞台ですし。お腹が目立つ前に結婚するって聞いた時にはおめでたいことが二つもって、すごく嬉しかったなぁ」
 亮汰の手を握りしめて微笑む。
「俺はつかみ損ねましたけれど、幸せになってほしいです」
 だが、笑顔はすぐに泣き顔にかわってしまった。
 情緒不安定になっている。亮汰は水瀬へと腕を回して抱きしめた。
「新しい恋に燃えるんだろう?」
 励ますように背中を一定のリズムで叩く。
「はい、そのとおりであります」
 頑張りますと敬礼して見せた。
 もう、つらい顔は見たくないのだが、今、恋をしている人も結ばれるには少し難しい相手だ。
 ふいに太ももにかたいものがあたる。
「どうして、こんなことになっているんだよ」
 特別甘い雰囲気でもなかった。
「えっと、忙しくて処理してなかったから、ですかね」
 しかも自分以外の人の匂いを嗅いだからだという。
「水瀬、抜くか、それ」
「え、いいんですか?」
 目をぱちぱちとさせている。いったい、何を気にしているのだろう。
「どうした。いつもならすぐにのってくるのに」
「だって」
「そういうのは気にするなっ」
 ただの触りあって抜き合うだけだ。この行為は性処理でしかないのだから。
 ズボンのチャックを下ろして水瀬のモノへと触れる。
「ん、りょうたさん」
 とろんと目を垂らし、甘えるようにしたの名を呼ぶ。
「こら、水瀬、噛むなよ」
 水瀬が噛むのは甘える行為の一つでしかない。肩に甘噛みをする。
「水瀬じゃなくて輝って呼んでください」
「まったく、甘えん坊め」
 ぴしゃりと額を叩けば、お返しと強く鎖骨を噛まれた。
 流石にこれは痛いし痕がついてしまいそうだ。
「調子に乗るな。ほら、さっさとイけ」
 ぎゅっと水瀬のモノを掴めば、ビクッと震えて欲をはきだす。
「ふぇっ、いまのでいっちゃいました」
「は、お前、マゾっ気あるんじゃねぇの」
 ティッシュで濡れた箇所を拭う。
「亮汰さんはまだイってないですね。俺が抜きますよ」
 ズボンのチャックを掴もうとする手をとめる。
「俺は自分でやるから、寝てろ」
 髪を撫でて立ち上がる。きっと戻った時には寝息をたてているだろう。
 こういう甘やかし方はよくないことはわかっているのだが、結局は自分も水瀬に甘えている。
「はぁ」
 張りつめたモノをこすり、高揚感を味わう。
 亮太の頭の中で、そこに触れるのは水瀬の手ではなくもっと小さな手だ。
「……あぁっ」
 ほんのりと柑橘系のにおい。同じ匂いをつけるのはより興奮できるから。
「ん、ふ」
 シャツをめくり乳首をいじる。気持ちよさを覚えてしまってからは両方いじらないと一人でするときはいけなくなっていた。
 こんな姿、見せたらなんていうだろう。女の子みたいに感じるんだねと、弄られてしまうだろうか。
「んんっ」
それを想像しただけでツンと尖った個所がいつもよりも感じてしまう。
 どくっと心臓がはね、欲が放たれる。
 手についたどろりとした白濁を見つめ、ため息をつく。
 終わった後の虚しさを感じつつ、手をぬぐうとトイレを出て洗面所へと向かった。