寂しがりやの君

総一⑤

 あの日を乗り越えるため、画材店へは田中と冬弥に付き合ってほしかった。
 そして気持ちを伝えたかった。もう大丈夫だと。
 あともう一つ目的があった。田中にモデルのお願いをしたかった。
 シャツの下をみてみたいという下心もあったりするが。
 はじめはあまり乗る気ではなさそうだったが、画材道具を買っている間に冬弥が田中を説得してくれたようでモデルの件はOKを貰えた。

 昼休みに時間を貰って田中を描こうとしていたが、それでは時間が足りない。
 それなら部活の時間にとも思ったけれど、田中をみて描きたいと言い出すのではないかと、連れて行くのをやめた。
 独り占めするには家に連れて行くのが一番だろう。祖母も会いたいと話していたから一石二鳥だ。
 それに無理なお願いをしても聞いてくれるかもしれない。
「やりたい放題できるな」
「なにがやりたい放題なんだよ」
「え、口に出ていたか?」
「あぁ。なんか、嫌な予感がするんだけど」
 目を細めてジトっと橋沼をみる。
「秀次には何もしないさ。別のことでだ」
 本当は田中に対してしようとしているのだが、それを口にしたらモデルを断られてしまう。
「ふぅん。まいいや。飯を食おうぜ」
 祖母の作る弁当を楽しみにしているので、食べながら話そうと弁当を広げた。
「今日も茶色がまぶしいな」
 けして嫌味でなく嬉しそうにいうのだ。
「ははは。ほら、たくさん食えよ」
 割り箸を渡して、頂きますと食べはじめる。
「秀次、モデルの件なんだが、土・日のどちらかに時間をくれないか。家で描こうと思ってな」
「別にかまわねぇけど、てっきり美術室で描くのかと」
「いや、秀次のことを他の部員にみせたくない。絶対に狙ってくる」
 特に三芳は注意が必要だ。橋沼の反応を楽しみながら描くに違いない。
「そんなワケあるか。俺を描きたいなんていうのは総一さんくらいだ」
「秀次は自分の魅力をわかっていない」
 立ち上がり田中の側へ行き、後ろから抱きしめて服の中へと手を入れて脇腹を撫でて腹筋へと触れる。
 シャツ越しにしかみてないが、腕にはいい筋肉がついてから期待していた。
 思ったとおり、やはり理想的な体つきをしていた。
「やはりいいな」
「総一さん、だめだってば」
 頬がほんのりと赤く染まり色っぽい。
 我慢できずにその唇へと自分の唇を重ねた。
「んぁ、そういちさん」
 恋愛に初心ではないだろうに、橋沼の前ではそんなだから手を出したくなる。
 ダメだと言いながらも目をトロンとさせてキスを受け入れる。
 そんな表情をみせるから悪いのだ。
 もっと触ってもいいだろう。手が下へと触れた瞬間に田中の体が跳ね、そして胸を強く押され離れた。
「油断も隙もねぇ」
 自分の身を守るように抱きしめる田中に、これ以上してしまうと嫌われかねない。もう少し触れていたかったが残念だ。
「好きな子にさわりたいと思うのは普通だろ」
「学校ではやめろよな!」
 学校以外ならいいのかと口にしたらきっと怒るだろう。
「わかった。我慢できたらな」
 かわりにそういうと頬にキスをした。
「おま、いっているそばからっ。我慢をする気なんかねぇな?」
 そのとおりだ。可愛くてたまらないのだ。間違いなく手を出す。
 笑ってごまかしたら、照れ隠しによるパンチがわき腹に一発おみまいされた。
 本当に可愛い。
 間違いなく頬が緩んでいそうだ。田中がもの言いたげな半ば閉じた目を向けてくる。 
「はい、できるかぎり我慢します」
 誓いをたてるように掌を田中のほうへと向けて上げる。
「うむ、よろしい」
 真っ赤な顔をしていわれても逆効果なのを解っていない。
 うずく手を押さえて席へともどる。
 田中に意識してほしい。だが嫌われたくはない。本気で拒否をしないうちはキスをするし触れてしまうだろう。
 はやく自分の手の中に落ちてこい。
 そう願いながら昼休みギリギリまで一緒に過ごす時間を楽しむのだった。