獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク

プロポーズ

 家の中へと入るとブレーズは料理をつくりリュンが手伝ってくれる。
 肉の塊を食べやすいサイズに切り分けて焼く。豆のスープは柔らかくなるまで煮るだけだし、後はサラダとソースを用意すればいい。
「リュン、お皿をならべてくれる?」
「うん」
 戸棚からお皿をとりテーブルへと運んでいく。それを見ているだけでじんわりと胸が温かくなる。
 自分には子供を作ることはできないだろう。好きな人は獣人であり同性なのだから。
 ゆえに今の暮らしは失いたくないものであるが、それを続けられるとはかぎらない。
 セドリックが北に行くと言っていた。それはリュンのことが関わっているのは間違いないだろう。
「ブレーズどうしたの?」
 リュンが下から顔を覗き込んでいる。
「あ、うん、なんでもないよ。サラダを盛り付けるからボウル型のお皿を出して」
「うん」
 あんなに幸せな気持ちだったのが嘘のように不安でいっぱいになりブレーズを落ち込ませる。しゃがみこみでリュンを後ろから抱きしめた。
「あっ」
 お皿をとろうとしていたところだったので床に落ちて大きな音を立て割れてしまった。
「ブレーズ」
「どうした」
 音に気が付いてセドリックが慌ててこちらへとやってくる。
「僕がリュンを驚かせちゃってお皿が割れちゃったんだ」
 破片を拾おうとするとセドリックが手をつかんだ。
「破片は俺が片付ける。ブレーズは夕食作りがあるからな」
「ごめんね、ふたりとも」
「うんん。ボクねふたりにだっこしてもらうとムネがぽかぽかになってうれしいの」
 と笑ってくれるリュンに胸がキューと切ない音を立てた。

 不安なまま、それでも顔には出さぬように笑って、楽しんでいるように見せた。
 料理の味はなく、だけどふたりはおいしいといってくれたのでブレーズもそう口にした。
 二人の体を洗い、ブラシをかけるとリュンは気持ちよかったのか途中で寝てしまった。
 体をふいてベッドへと寝かしつけるとセドリックへブラシをかける。
「北に行くのはリュンのことで、だよね」
「そうだ。父親を探し出して罪を償わせる」
 もともとリュンの面倒をみていたのは記憶を失ったためだ。記憶が戻り、しかも罪人は捕まった。あとは父親が見つかったらリュンはどうなるのだろう。
 このままずっと側にいたい。
「会いに行かないと、ダメだよね?」
「あぁ。これからのことを考えたらそうすべきだ」
 これからのこととは、一緒に暮らす前の暮らしに戻るということだろう。あくまで自分はセドリックを手伝っていただけだ。
「ブレーズ、どうしてそんなに不安そうな顔をしているんだ」
 背中を向けていたはずのセドリックがこちらへと向いている。そして腕を回して引き寄せられた。
「教えてくれ」
 手が尻へと触れて怪しい動きをはじめた。
「ちょっと、セド」
「話さないと体に聞くことになるが?」
 ぱくりとチャックを咥えておろされてしまう。
「別になにも……あっ」
 鼻先を下着の上からくっつけて下半身のモノの匂いを嗅ぎ始める。
「あぁ、ブレーズの、濃いにおいがするな」
 それが当たるたびに、じれったい痺れを感じた。
「セド、どうして、こんな触り方をするの」
「ブレーズが素直に言わないからだ」
 セドリックから与えられる良さを体に覚えさせられてしまった。
「ん、僕は、セドの、友達でしかないのにぃ」
「そうだな、まだ友達でしかない」
 友達同士で抱き合う人もいる。きっと自分たちはそれなのだろう。
 体だけでも繋がりあえたことは嬉しい。だけど簡単に壊れてしまうものだ。
「今の生活だって、いつか終わってしまう……」
「なるほど。それを悩んでいたのか」
 唾液で濡れた下着は、舌を先ほどよりも敏感に感じてしまう。
「はぁ、せどぉ、脱がせて」
 下半身のモノが外に出たがっている。ズボンのボタンを外して下着を脱ぎ去ろうとするがセドリックの手がつかんで邪魔をした。
「まだダメだ。もっと素直になって話すことがあるだろう?」
 濡れて下着が張り付いてくっきりと浮かび上がるモノを爪で傷がつかぬようにゆっくりと撫でた。
「ひぅ、や、いじわるしないで」
「それなら素直に口にすればいい。今の生活が終わる不安を感じたのはどうしてだ?」
「僕は、セドと、リュンと、ほんとうの、かぞくになりたい」
 その言葉を聞くと、セドリックの手が下着をおろし、ブレーズのモノが表に出れたとたちあがる。
「やっと本心を聞けた」
 セドリックが立ち上がり、ブレーズの手を壁につかせた。
「あぁ、セド」
 すでにセドのモノは姿をみせていて熱くかたいものが尻にあたる。
「ブレーズ、俺のことをどう思っている?」
 好きにきまっている。だけどそれは入れて欲しいからこたえていると思われないだろうか。
「いま、後ろをほぐすから」
 別の答えをかえして後ろの孔へと手を伸ばす。
「俺の欲しい返事はそれじゃない」
「それならどうしてこんな状態で言わせるの!」
 顔をセドリックの方へと向けにらみつける。
 好きで好きでたまらないのに、ずっと側にいたいと思っているのに。
「もういい。終わりにする」
 いつか終わるのなら自分から終わらせた方が悲しみが少ないだろう。
 だがセドリックの手が行く手を阻んだ。
「それは本心か?」
「くっ」
 言葉が詰まる。本心ではないからだ。真っすぐと見つめてくるセドリックの視線から逃れるように顔をそらすと、
「ブレーズ、俺はリュンの父親になるつもりだ」
 そう決めていたんだというセドリックがいう。
「……え?」
 ブレーズはゆっくりとセドリックの方へと顔を向ける。
 きっとよい父親になるだろう。優しくて頼りがいのある雄なのだから。リュンを守り幸せにするだろう。
「それでな、ブレーズの気持ちを聞いてから言おうと思っていたんだが、俺の妻として夫を支えてほしい」
 その言葉に目をパチパチとさせセドリックを見る。
「いま、なんて」
 頭の中が真っ白になり理解ができず、もう一度訪ねる。
「人の子はそうプロポーズをすると聞いたが言い間違えたかな。えっと、一緒のお墓に入ろうのほうがいいのか、それとも俺のパンツを洗ってくれ?」
「なにそれっ」
 一気に力が抜けて壁に背をつけてずるずるとしゃがみこむ。
「ブレーズ、大丈夫か」
 のぼせたかとしゃがみこんで助け起こそうとするセドリックに、大丈夫だとこたえる。
「もうっ、セドが意地悪をするから。全部終わりにしなくてはいけないと思った」
「ああでもしないと話してくれないと思ってだな」
「ん、まぁ、そうだね。きっと言わなかった」
 友達なのだからと口にできなかっただろう。
「だろう。ブレーズが俺のことが好きなのに言ってはくれないしな」
「ん、いま、なんて」
 好きということを知っていたみたいなことを言わなかったか。
「俺が好きってこと、もれていたぞ」
「知って、えぇ!」
 恥ずかしい。今までセドリックにばれていたということが。
「好意をもたれるのって嬉しいよなぁ。はじめのころはな、友として嬉しと思うくらいだった。だが、一緒に住むようになって、色々あったけれどブレーズは変わらず俺を好きでいてくれる。それが嬉しくて、幸せで」
 ブレーズの耳たぶをつまんでいじりながら、
「リュンが俺の子供で、ブレーズが奥さんだったら、俺はこれから先も頑張れるなって」
 と耳にささやく。
「ひゃっ」
 低音の心地よい声に体が震えた。
 耳を押えてセドリックを見れば、口元に笑みを浮かべていた。
「セド」
「ブレーズ、好きだよ」
「うん、僕も」
 鼻先にキスをし、そして唇に触れる。舌がからまりあい、糸を引いて離れた。
 セドリックの手は腰に回り後ろを撫でまわしていた。
「いれて、いい?」
 互いのモノはたちあがり、相手を欲しがっている。
「ん、いいよ。でも少しまってね」
 後ろをほぐしてからというと、我慢できないと太ももの間に差し込まれる。
「セド」
「ブレーズがほぐしている間にここをかりる」
 それは一度では終わらないということだろう。
 明日から当分会えなくなる。それを思うとブレーズだって体力の続く限りセドリックと繋がりあっていたかった。
「うん。今日はいっぱいしようね」
「あぁ、あふれるほど注ぎ込むつもりだから」
 太ももにはさみこんだ熱くかたいものが、ブレーズのモノへとこすれて甘く声を上げる。
「ブレーズ、やっと、俺のモノになった」
 愛おしく、そして大切なものをあつかうように優しく頬を撫でキスをする。
「セド」
 指が絡み合い、そしてほぐされた後ろへはセドのモノがつながる。
「はぁ、このままずっと、こうしていたい」
「俺は大歓迎だぞぉ」
 ブレーズの中はたまらないからなと、いやらしい表情を浮かべた。

 夜から少しずつ朝が広がりはじめる。いつもはまだベッドに横になっているのだが、早くに家を出るというセドリックのために朝食と昼食用のお弁当をと思いベッドから抜け出した。
 手軽に食べれるように甘辛いたれで煮込んだ肉と野菜をパンで挟んだもを用意するつもりだ。
 肉を焼き、野菜を洗ってボウルに入れる。後はパンにはさむだけだ。
「おはよう」
 と終えをかけられて振り向いた。
「セドおはよう」
 軽く口づけをしあう。なんと甘いことだろうか。
「なんか照れるね」
 既に抱き合うこともしているのにプロポーズの後だからか口元がふよふよとしてしまう。
「あぁ。甘酸っぱいな」
「うん、そんな感じ」
 指を互いを差し、そして笑いあう。
「獣人の国では求婚をするときに宝石を贈るのだが、まだ用意できていない。待っていてくれるか?」
「うん。そのかわり、僕のここにセドの噛み痕をくれる?」
 シャツのボタンを外す。そこにはもう噛み痕はない。
「わかった」
 そこに軽く口づけて、それから痕が残るように噛んだ。
 痛みと共に感じる。自分がセドリックのものだということを。
「セド」
「ん、そんな顔をされると襲いたくなる」
 甘い雰囲気に互いが流されそうになったが、ぎりぎりでとどまる。
「我慢だな」
「そうだね」
 ブレーズはお弁当作りを再開し、セドリックは身支度を整えるためにその場を離れた。
「はぁ、セドが帰るまで我慢できるかな……」
 側にいたいし、指一本でもいいから触れて彼の熱を感じていたい。