報告
掃除とベッドつくりを終え、報告をするためにランベールの館へ戻る。
だが、報告するよりも先にシリルは家のことを知っていた。
「ドニ、住まいを見つけたそうだな」
拗ねた顔をしてドニを見ている。
「ごめん」
「父上が申していたのだが、もし、獣人の国に残るのなら住む場所は用意すると」
やはりそうなるのか。それも大きくて立派な家を用意するのだろう。
「好意だけ貰っとくね」
「ドニには僕がつらい時に助けてもらったんだ。今度は僕の番だと思ったのに」
「十分かえしてもらってるよ。体で」
ブラッシングに体を洗わせてもらったり、それだけでドニは十分だ。
「あれは、僕が気持ちいいだけで」
二人の会話だけ聞いていると、なんだかいかがわしく聞こえる。
「おやおや、浮気かい?」
のんびりと部屋にランベールが入ってくる。
「浮気?」
二人の声が重なる。
「体とか気持ちいいとか」
どういうことだとシリルを見て、あっと声を上げる。
「あはは、本当だ。浮気だぁ」
言葉の意味が解って笑うドニと、やっと意味に気が付いて赤くなるシリルだ。
「違うからなっ、ブラッシングしたり、体を洗ってもらったり」
「だって、体でかえしているっていうからねぇ」
違うとわかっていてランベールは二人をからかっている。
「もうっ」
「で、セドリックの家はどうだい?」
「知ってたんだ」
家を借りたことを知っているのだから、持ち主のことも当然調べたのだろう。
「すまないね。君はまだお客様だから」
そうやってドニのことを守ってくれているのだ。逆に申し訳なく思う。
「うんん。ゾフィードが一緒に住むことになったのはランベールさんが?」
「いや、セドの提案だよ。自分では守ることはできるが家事はできないからとね。優しい雄だよねぇ」
ランベールが言いたいことに気が付いた。ドニの気持ちを知っているから、自分ではなくゾフィードにと話したのだろう。
好意を持ってくれている獣人に対して、ドニは自分のことしか考えていなかった。
ゾフィードと一緒に暮らせることが嬉しかったのだから。
「ありがとう。生活に慣れるまで助けてもらうね。後はお店の場所を探すのと材料の調達をしないと」
「それなのだが、店のことはどうかシリルと私に甘えてはくれないだろうか?」
守ってもらっているだけで十分だ。これ以上は甘えるわけにはいかない。
「店のことは自分で……」
「君には感謝しているんだ」
「お願いだ。僕たちにも手伝わせてくれ」
シリルの手がドニの手を握りしめる。
心からドニを心配して手を差し伸べてくれているのだ。その気持ちを無下にするなんてできない。
「ありがとう、二人とも」
だから素直に甘えることに決めた。
「材料をあつめるのに住んでいた場所に帰りたいんだ」
「住んでいた場所にかい?」
「うん。森に行って材料を採りたいし、圧搾機もあるから」
「なるほどねぇ」
何かを考えるように顎に手をあてる。
「わかった。出発するのに二・三日ほど待ってもらえるかい?」
「うん」
連れて行ってもらえるなら、ここでやれることをして待っていればいいのだから。
「よし、それまでの間、店を建てる場所を探そう」
「おねがい」
任せておけとシリルが胸を張る。楽しそうな表情を見ていたらお願いして良かった。
「でだ。今日から住むとはいわないよな?」
それは寂しいぞとシリルが抱きつく。すりすりと頭を頬に摺り寄せるシリルにデレっと口元が緩む。
「ふぁぁ、たまらん」
「おい、顔がだらしないぞ、ドニ」
ゾフィードがそういい、
「妬けるねぇ」
とランベールがいう。
「なっ、僕はランベール一筋だ。これは浮気ではなく友情のハグだ」
「うんうん、友情のハグ」
ねー、と二人で顔を見合わせて、ぎゅっとだきしめてから離れた。
「わかっているよ。ドニは別の意味で特別だってことはね」
ランベールがシリルの肩に腕を回して鼻先にキスをする。番となってからは自然とキスをしたり鼻先をこすりあわせたりしている。
「はぁ、素敵だなぁ」
二人はドニにとってあこがれだ。
ゾフィードとのことがあり妬むときもあったが、今は素直にそう思える。
隣に立つゾフィードを見上げれば、ドニと同じ気持ちなのか暖かな表情で二人を眺めていた。
その手へとそっと触れれば、一瞬、尻尾が膨らんだ。
「ごめん」
驚かせたか、拒否されたか。怖くなって手を引っ込める。
何も答えてくれないのは後者だから。暖かな気持ちが急に冷めていく。
「ドニ、俺は団長の家へ戻るな。まだやることがあるので」
「そうなんだ」
そんなに離れたいのかとショックを受けつつ、ドニは立ち上がる。
「また明日ね、ゾフィード」
「あぁ」
ぽふっと頭に手を置いて軽くなでて部屋を出る。
ただの挨拶、そう考えるとまた寂しくなる。
「ドニ、一緒に寝よう」
「え、でもランベールさんは」
「だから三人でだ」
「真ん中に、どうだい?」
もしや落ち込んでいたのが出てしまっていただろうか。ドニを元気付けようとしてくれている。
「わぁっ、なんて贅沢なっ」
二人の心遣いを無駄にしないようにドニは気持ちを切り替える。
優しさに包まれ眠ればすぐに夢の世界へと落ちていった。