Short Story

貴方と共に……

 触手が四肢に絡みつき動きを封じられる。妖魔には男の性欲と執着が足されていた。
 それは大我(たいが)の衿や袖の隙間から忍び入り身体を撫でまわす。先端にいくほどに細くなるそれは、まるで指で弄られているような感覚をもたらす。
「くぅっ、あぁぁ」
 身をよじろうともびくともしない。なにも抵抗の出来ぬまま、ただ、好き勝手に弄られ続ける。
 乳首をチロチロと弄り、時に押しつぶされる。別の触手は口の中へと入り込み、歯列を撫で舌に絡みつく。
 二本の触手の片方はマラを撫でて、もう片方は尿道へと無理やり入り込む。
 いっぺんにあたえられる快楽との狭間。
(気が、狂ってしまう)
 涎を垂らしながら喘ぎ、襲い掛かる熱に酔いながらマラからはだらだらと蜜が溢れる。
 妖魔には細い触手の他に、一本だけ太い触手がある。それがまるで人間の雄の象徴のようで、足を這いあがり後孔の入口を撫で、何かドロリとしたモノを垂らした。
「うう、んっ!!」
 中を解されていないというのにすんなりと入り込んでくる。ぐちゅぐちゅと水音をたてながら中にゆっくりと入り込む太い触手。
「ぐっ」
 気持ち悪い。
 嘔吐くが口の中はまだ犯されている。涎だけがダラダラと流れていく。

 けして妖魔に一人で立ち向ってはいけない。それは妖魔退治を生業としている土佐(とさ)へと仕える事となった時に言われたこと。
 実力を過信して立ち向かい、命を失う事になりかねないからだ。
 だからすぐに連絡用の鳥を飛ばした。鳥は彼の側仕えの元へと向かう。
 皆を待つ間は妖魔が逃げ出さぬように結界を貼り人々を避難させる。
 後は仲間の到着を待つのみ。
 だが、予想外の事が起きた。結界の中へ小さな子供が入りこんでしまったのだ。
 失態だ。確認したりなかった自分の責任。大我は子供を助けるために結界の中へと入り子供は親の元へと引き渡すことが出来たが、逃がす時に触手が足に絡まり囚われてしまったのだ。

 体を散々犯されて、後ろからあふれ出た、ねっとりとした液体が足を伝い流れ落ちる。
 未だ満たされる事のない欲。
 大我の意識は遠い所にあり、既に何も考えられぬ状態だ。
 きっと、このまま妖魔に精力を食いつくされて朽ちてしまうのだろう。
(死ぬ前にもう一度、あの人に会いたい)
 彼の姿を思い浮かべ、意識を手放そうとしていたその時。ざわっと空気が揺れる。
「大我っ!」
 声が聞こえて薄らと目を開ければ、厳しい表情を浮かべた土佐の顔がある。
(あぁ、土佐様、そんな顔をしないで……)
 そう手を伸ばすが、彼は遠くて届かない。
「大我、今、開放する」
 土佐の刀が四肢を封じる触手を斬り、落下する大我の身体を抱きかかえた。
「……とさ、さま」
「もう大丈夫だよ」
 結界の外へと連れ出され、待機していた駕籠(かご)の中へと入れられる。
「先に私の家へと向かえ。帰るまで寝かしておけ」
 そう駕籠持ちへと指示する声が聞こえる。
 朦朧とする意識の中、大我は駕籠にゆられるのだった。

◇…◆…◇

 意識を失っていた様で、気がつけば布団の上に寝かされていたようで、傍に人の気配を感じて身を起こす。
 すぐ傍に土佐の姿があり、文机で何かを書いていたらしく、墨のついた筆を置いた。
「とさ、さま」
「話は後でゆっくりと。今はその体を清めるために風呂に入ろうね」
 その身を抱き上げられて大我は目を見開く。
「自分で歩けます」
「駄目。私が連れて行くよ」
 大丈夫だと言っても聞き入れてもらえず、そのまま風呂場に向かうことになった。
 羽織を脱がされ、一糸まとわぬ姿になると腰掛けに座らされ土佐は出ていく。
 一人になって、ホッとした。
 流石に妖魔に犯された体を、土佐にこれ以上は晒していたくなかった。
 体中についた妖魔の欲を洗い流す為に浴槽に張ってある温かい湯を桶にすくい取る。
 それを体にかけようとした時、後ろからその桶を支える手がある。
「え?」
「大我、私がやるからじっとしていて」
 どうやら着流しを脱ぐために居なかっただけのようだ。
 背中に感じる土佐の熱に、初めて彼を強く拒否する。
「俺、一人で平気です」
 体を隠す為に手で覆い隠す。だが土佐は外には出てくれないようだ。
「土佐様、お願いですから」
「それが大我の望みでも聞いてあげられない」
 そう言うと、土佐は大我を抱きしめて唇に口づけをした。
「んっ、やぁ、ん!!」
 触手に乱された口内に土佐の舌が入り込む。
 嫌だと逃げ出そうとするが、後頭部を押さえつけられて口づけはさらに深くなる。
「土佐様っ」
「大我が嫌がっても、私が洗う」
 後ろに座り濡れた手拭に石鹸を泡立てて体を丁寧に洗っていく。
 首筋を撫で、乳首を摘まみながら拭き、腹を撫でながら下へと動き、マラを擦りあげる。
 触手に犯され続けた体は少し触れただけで感じて快楽を与えはじめる。
「おやめください」
 身を震わる程の快楽に、必死で耐えるように身をよじれば、今度は手ぬぐいが太腿の上を撫でる。
「あっ」
 あんなに欲を放ったというのに下半身のモノは反応してたちあがってしまった。
 感度い反応を見せる身体に、ヒュッと息をのむ音が聞こえる。
「こんなに浅ましくて汚い身体になど触れてはいけません」
 そう、土佐に微笑んで見せる。平気だという姿を見せないと心配してしまうから。
 だが土佐の表情はかたく、静かな怒りを感じる。
「大我、浴槽に掴まって腰を突き出して」
「土佐様!」
 話を聞き入れてもらえずに困惑する大我に、言われたとおりにしろと表情で訴える。
「土佐様、お願いですから……」
「良いから、言うとおりにして!!」
 言葉を重ねるように言われるが、それを拒否するように大我は首を横に振るうが、手を掴まれて無理やり浴槽の縁を掴ませられた。
「何を」
 後から腰を掴まれ、指が後孔をかすめる。
「だめ、そこはっ」
 汚い欲が、詰まりきった箇所。
 おさまりきれない欲は、とろとろと太腿をつたい流れ落ちていく。
 ぐちゅっと音を立て、土佐の指が中へとはいりこんでいく。
「ひぃ、あ、あぁぁ……」
 中から掻きだされるのは無色透明で、まるで精液のようだ。
 それを何度か繰り返し、その度に大我は切なく声を上げる。
「あぁっ、これ以上は」
「イっていい」
 前に手を伸ばして蜜で濡れた大我のマラを擦る。我慢できなくて欲を放つと、そこを優しく指で撫でる。
「ん、土佐様、もう、これ以上は」
 離してくださいと、今だ自分のマラを撫でいている手の上に手を重ねば、土佐の手は離れていった。
 ホッとしたのもつかの間。
「大我、少し痛いよ」
 そう言うと後孔に硬い何かを挿入される。
「な、何? 嫌、これ、いやぁッ」
 ぶすぶすと奥まで突っ込まれて、痛いし気持悪いしで土佐の方へ振り向いてやめてほしいと訴えるが、風呂のお湯の中に薬を溶かし入れていた。
 鼻にツンとくる独特の匂に、今から何をされるのか怖くてたまらない。
「今から妖魔の毒を洗い流すから。気持悪いかもしれないけど我慢して」
 と、杓子でお湯をすくい、大我の後孔に挿入たモノへと注ぎ込む。
 どうやらそれは筒状になっているようで、中へと薬湯が中へと入り込んできた。
「いやぁぁ、土佐様、やめてください!!」
 暴れて拒否しようとする大我に、
「我慢して」
 そう強い力で抑え込まれて、中をいっぱいにして筒を抜き取ると、土佐の指が中身を掻きだしていく。
「やだっ」
「大我、お願いだから大人しくして」
 暴れる大我を押さえつけながら、何度もそれを繰り返す。
 やっと解放され尻を抑えてふるふると震えながら土佐様を見上げる。
 治療の為に土佐がしてくれた事なのだが、はじめて味わう感覚と気持が高ぶっているせいもあってか、大我は我慢できずに泣いてしまった。
「ごめん、気持悪かったね」
 大我を落ち着かせるように頬に手を添えてかるく口づけをする。
「さ、お湯につかろうか」
 抱きかかえられ、薬を溶かした湯の中へとはいる。
 その湯と土佐の温かさに、やっと心は落ち着いてきた。
「土佐様、もう、あれは、や、です」
 ぎゅっと抱きついて子供のような態度をとる大我に、そんな頭を撫でながら土佐は甘やかしてくれる。

 それから風呂から上がり、布団に連れられ治療を受け、苦い薬を飲んで眠りについた。

◇…◆…◇

 

 目を覚まし、喉の渇きを感じて傍に置いてあった水を飲む。
 薬のお陰か体の痛みは感じない。
 まるでなにもなかったかの様な錯覚すらしてしまいそうになる。
 だが、妖魔の触手に犯されたのは事実。それが大我を現実へと引き戻して、身体は嫌悪感を抱きつつも疼きだす始末だ。
「あ、あの、俺、家に帰ります」
 土佐にはばれたくない。治療をしたと言うのに、この浅ましいさを知られたくなかった。
 一生、彼の目に触れぬよう、隠れてしまいたい。
 大我は布団から抜け出し、着替えようと当たりを見わたすが何もない。
「大我」
「土佐様、俺の着替えを」
「駄目、帰らせない」
 布団の上へと組み敷かれて、夜着が乱れて素肌が露わになる。
「俺は、あんなモノに身体を弄られて、欲情して、何度も達したんですよ!」
 自分はこんな男なんだと、土佐をまっすぐに見つめるが、それが何だと言わんばかりに口づけをされた。
 激しく抵抗して口づけをやめさせようとしたが、歯列を撫でられ舌が絡みつきあう。
「ん、ふぁ」
 一瞬、その口づけに溺れそうになったが、ぎりぎりのところでそれを拒否するが、土佐は大我を逃がしてはくれなかった。
「やめない。私は大我と共に乗り越えたい」
 真っ直ぐと見つめる彼の表情にはかたい意思を感じる。
「共に乗り越える?」
「そうだ。その出来事を、そう簡単に忘れる事なんてできないだろう。だから、私と共に歩む幸せで上書きをしていきたいんだ」
 目を見開いたまま土佐を見つめる。
 うるさいくらいにドキドキと心臓が高鳴なっている。
 逃げる事しか考えていなかった大我を、土佐はその優しさで救ってくれようとしているのだ。
「土佐様……」
 なんて自分は幸せ者なのだろう。我慢しきれず涙が流れ落ち、土佐の顔が歪む。
「大我、私と共に乗り越えてくれるね?」
 と涙を指ですくい、額をくっつける。
「はい、土佐様」
 ありがとうございます。
 そう続く筈の言葉は、土佐の口づけに塞がれてしまう。
「大我、もう、私を拒否したりしないでね」
 そう微笑む土佐に、大我は笑顔を向けて腕を絡めた。
 それが合図とばかりにマラへと土佐の指が触れる。
 体をツンと突きぬける様な感覚。
 だが、頭をよぎるのは触手から受けた屈辱的な快楽で、幸せだった気持ちが一気に冷めていく。
 土佐の想いを知り、愛おしいと想えるのにだ。
「嫌ッ」
 真っ青になって歯をガチガチと鳴らして、その土佐の手を払おうとする。だが、彼の手は離れずに、さらに快楽を与えるように動いて。
「嫌かもしれないけれど、私の熱を、想いを、その身で感じて欲しい」
 両手で包み込み、それを揉む様に動かし始める。
「ふあッ! あぁぁ……ッ」
 ビクッと飛び跳ねるように揺れる腰。
 ひくひくと感じて震えて蜜が流れ落ち、卑猥な音と共に土佐の手の中で喜び始める。
「ん、あぁん、とさ、さま」
 彼の想いを感じ、強張っていた身体と心がほぐれてて、深い深い快楽の渦の中へと落ちていく。
「大我、私の愛しい大我……」
 優しい言葉で蕩かされて。大我は彼の手の中で絶頂を迎えて欲を放つ。
「土佐様」
 安堵するように手についた白濁を見つめ、そしてその手が後ろを弄りだす。
「ここで私を受け入れて欲しい」
「はい、土佐様。一つになりたいです」
 手を握りしめて指を絡めあい、見つめ合って微笑む。
「うん、一つになって共にイこう」
 これから何があっても共に乗り越えていく。
 けしてこの手を離さない。
 その気持ちと共に、土佐と大我は一つに繋がりあった。