甘える君は可愛い

社員食堂で休息を

 一時間ほど、残業になってしまったが、旭日は食堂で待っていてくれた。
「それじゃ行きましょうか」
「うん」
 住まいは地下鉄で一つ駅を超えたところにあり、部屋の中は綺麗に整頓されている。
「おじゃまします」
「ここにどうぞ」
 折り畳みの円卓と座布団が敷かれている。
「すぐに用意しますね」
「うん」
 椅子に引っ掛けてあるエプロンを手にし、身に着ける。
 普段はコックコートを着て厨房に立っているので、エプロンもいいなと後ろ姿を眺める。
「いいね、誰かに料理を作ってもらうのって」
「そうですか」
 何かをフライパンで炒める音と、いい匂いがしてくる。
 できあがりを楽しみに待っていると、テーブルの上に家庭的な料理が並んでいく。
「うわぁ、すごい」
「夜久さん、酒は?」
「今日はいいや」
 目の前にほかほかの料理がある。はやくそれを食べたいと旭日を見る。
「それじゃ、食べましょうか」
「頂きます」
 手を合わせて煮物に手を伸ばす。薄味で出汁がしっかりとしみている。
「美味しい」
「よかったです」
 他の料理も美味しく、いつも以上に食していた。
「あー、幸せ」
 ご機嫌で旭日にもたれかかる。
「満足いただけましたか?」
「うん。お腹いっぱいだよ」
 とお腹をさする。
 その姿を優しい表情でみている旭日に、食欲が満たされて別の欲がむくむくと湧き上がる。
「旭日君、しようか」
 食事を終えたばかりで性急すぎるかと思ったが、自分を押さえることができなそうだ。
「いいんですか?」
「うん。旭日君が欲し……、んっ」
 唇が重なり合う。 深く、何度も唇を重ね合い、手を引かれて寝室へと向かう。
「夜久さん、負担をかけてしまいますが、俺のを受け入れてくれますか?」
「うん。そう思っていたから覚悟はできているよ」
「ありがとうございます」
「旭日君、敬語で話さなくていいよ。調理場にいるときが本当の君なんでしょう?」
「えぇ。口が悪いんで、おやっさんが『社会人なんだから、敬語を使うことを学べ』って。調理場では使う余裕がないんで、自がでちゃって」
 二人でいる時ぐらい、素でいて欲しい。
「じゃぁ、二人きりの時は遠慮なく」
 ベッドに組み敷かれて口づけをする。
 旭日の唇が、手が、夜久を蕩かせ、快楽へと導く。
「あさひくん、だいすき」
 自分を求め、ぎらつく目を向ける。
 このまま食い尽くしてほしい。嬌声をあげながら彼を受け入れるように両腕を背中に回した。

 意識が浮上する。喉にいがらっぽさを感じて手で押さえる。
 昨日は鳴かされた。何か飲もうかと隣で眠る旭日を起こさぬようにベッドから降りた。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを一本とりだして、それを飲みながら部屋の中を見わたす。
 本棚を覗くと、料理の本の中にアルバムをみつけた。それを手にし、ベッドの淵に寄りかかるとページを開いた。
 そこに写る旭日は、随分とやんちゃだったようで、元ヤンだという噂は本当だった。
「やんちゃな時の俺……」
 だるそうな声が耳元で聞こえ、すぐそばに目つきの悪い旭日の顔がある。
「仲間の一人が写真を撮るのが好きで。見られると恥ずかしいけれど、いい思い出だな」
「そうだよね。あ、なに、これ」
 女子と一緒の写真を見つけて指をさす。派手な化粧をした子だ。旭日の腕に腕を絡ませてピースをしている。
「これはっ」
 写真を奪おうと手を伸ばすが、それをさけるように夜久も手を伸ばす。
「夜久さん、彼女とはべつになにも」
「ふぅ~ん。そのわりに慌てているね」
「今は夜久さんだけです」
 と後ろから抱きしめてキスをする。
 触れるだけの軽いキス。だけどそれだけでは足りない。
「んっ」
 煽るように舌を絡ませると、旭日の目が細められ、くちゅくちゅと音を立てて深く口づけあう。
「はぁ、これ以上は……」
 目元がたれて赤く染まり、仲間と撮った楽しそうに笑う可愛い旭日が現れる。
「旭日君」
 腰と身体は怠いけれど、それ以上に身体が燃えるようにあついし、後ろが疼いてしょうがないのだ。
 強請るように見つめると、ごくりと旭日の喉が鳴る。
「いいんですか?」
「うん。俺もそうしたい気分」
 と旭日の上へと跨った。
 すでに旭日のモノは元気で、夜久の後ろも柔らかいままだ。
「旭日君の、すんなりと入るようになっちゃったね」
 はじめて中へ旭日のモノを入れた時は、苦しいし変な感じだったのに、中が擦れるたびにそれは快感となり、すっかり身体が覚えてしまった。
 胸だって、舌で転がされて、吸われて。ぷっくりと膨らんで、触れられることに喜びを感じるようになった。
「旭日君、抱きしめてよ」
 両手を広げると、顔を胸に押し当てて背中に腕が回る。
 夜久はあたまを抱きしめて耳を噛む。旭日の弱いところだ。
 こちらからも仕掛けてやろうと髪に、頬にとキスをして、耳を舐めたら本気で怒られた。
「ふ、夜久さん、そこはダメだって言ったよね!?」
 目がきつく細められ、夜久はゾクゾクと身体を震わせる。
「うん」
 夜久は目を弓なりに細めて口元をほころばせる。
 きっと他の人がみたら怖いと思うだろうその表情も、可愛くてしかたがない。
「お仕置きが必要だな」
 とそのままベッドに押し付けられて中を激しく突かれた。
「ひゃっ」
 荒々しいその行為は、快楽の波となり一気に襲い掛かる。
「やぁ、ゆっくり」
「だめ」
 吐き散らす。
「はぁ」
 ぐったりとする夜久を旭日が抱き寄せる。
「旭日君ッ」
 むぅっとしながら拗ねれば、ごめんなさいとばかりに肩に額をくっつける。
「怒らないで夜久さん」
 目を垂らして、迷子の子犬のようだ。
「もう、ずるい」
 こんな可愛い姿を見せられたら許すしかないだろう。
「許してくれる?」
 と今度は頬を摺り寄せてきた。
「年上を甘やかしたかったんじゃなかったけ?」
 前に言っていたことを口にすると、
「夜久さんだからかな、甘えるのもいいなって」
 はじめてそう思ったと言われて、悪い気がしない。
「許さない」
 ぎゅっと頭を抱きしめる。
 旭日が可愛すぎるから。
「夜久さん」
 腕の中でしゅんとする旭日に、とっくに許しているよ。そう、夜久の唇がかたちどる。
 その瞬間、明るく笑うものだから、愛おしさがこみあげて夜久は旭日に口づけた。