甘える君は可愛い

上司と部下の「恋」模様

 リビングで三木本が入れてくれた珈琲を飲む。
 ソファーに座る彼は黙ったまま、こちらから話しかけるのを待っている。
 あの日以来、少し距離をおいていた。三木本自身も気が付いていて辛そうに八潮を見ていた。
 だが、それでも距離をおいていたというのに、好きでいる事を諦めてくれようとはしない。
(僕なんてそんな価値はない)
 結婚に二度失敗したし自己管理もろくにできない、どうしようもない男なのだから。
「ねぇ、君はどれだけ僕に尽くそうとするんだろうね」
 その言葉の意味が解らない様でキョトンとした顔をする彼だが、頬を撫でれば見る見るうちに顔を赤く染め、するりと指を動かして唇に触れれば、ビクッと肩が揺れて身を硬くする。
「僕はね、酷い男だ。だから君に愛されるのは勿体ないよ」
「それは八潮課長の気持ちであって、俺はそれでもあなたが好きです。なので、勿体ないとか言わないでください」
 切ない声で言われ、ぎゅっと胸がしめつけられる。
「三木本君」
「俺は、貴方とつながりあえたこともキスしたこともすごく嬉しかったんです。手料理だって、課長に食べて貰えることが純粋に嬉しくて、なのに」
 そんな風に思う自分が可愛そうだと、三木本が胸へ縋りつく。
「ごめん、その通りだよ」
 腕を回し抱こうとしたが、腕を摩るだけで留める。
「好きなんです。だから、抱きしめて欲しい、です」
 泣きそうな目をして、想いを言葉に乗せてくる。
 その眼には非常に弱い。
「外れくじを引いちゃったね」
 強く抱きしめれば、目を見開いてすっと涙が零れ落ちた。
「かちょう」
 その涙を指ですくい、
「それでも、僕の事を貰ってくれる?」
「俺にとっての課長は当たりくじですから!」
 誰にも渡しませんからね、と、顔を胸へと埋めた。
「君くらいだよ、そう言ってくれるのは」
 嬉しいよと言って口元に笑みを浮かべ、三木本の耳朶を意味ありげに撫でる。
「このまま泊まっても良いかな?」
 すると、埋めていた顔を上げ、潤んだ目を向けて頬を赤く染める。
「気持ちいい事、してくれるのですか?」
「うん。良いかな」
「はい」
 その前にお風呂ですねと、腕の中から出ようとする三木本を逃がさないとばかりに強く抱きしめる。
「良いよ。この前もそのままだったじゃない」
「で、ですが」
「あ、もしかして僕から加齢臭でも……」
「しません! 課長はいつもいい匂いですから」
 そういう三木本の方がいい匂いがする。清潔感のある爽やかな香り。
「なら良かった」
 頬を撫で額に頬にと口づけをおとし、唇へと触れる。
「ふっ」
 嬉しいと、その眼は八潮を見る。
 そんな風に見られたら、気持ちが高ぶって抑えきれない。
 今まで色々な人と夜を共にしてきたが、こんなになるのは初めてかもしれない。
「あぁ、もう、キスだけじゃ足りないみたい。三木本君、ベッドに行こうか」
「よかった。八潮課長にそう言って貰えて」
 やっぱりやめようと言われたらと思ってましたと、そんな風に思わせてしまっている事に八潮は自分を責める。
「やめないよ、僕は。あ、そうか、三木本君、八潮課長なんて呼び合っているから悪いんだ。よし、今から僕は君を蓮と呼ぶから、君も僕を名前で呼んでよ」
 どうかな、と、その提案に戸惑いを見せる。
「え、俺、課長の事を名前で呼んでも良いのですか……?」
「もちろん」
 そうこたえれば、嬉しそうにはにかむ三木本が可愛くてぎゅっと抱き寄せる。
「呼んでみて、蓮」
「……雄一郎さん」
「やばいね、これってもえるねぇ」
 はやく君が欲しいよと、手を引いて寝室へと向かう。
 服を適当に脱ぎ去れば、三木本がしわになると片付けようとする。
「そんなモンはどうでもいいよ。蓮、はやく邪魔なモンを脱いでしまいなさいな」
「貴方は考えなさすぎです」
 そう小言を言う三木本だが、スーツを床に脱ぎ捨ててベッドへとのる。
「蓮、この前以上にエロくて可愛い姿を僕に見せてね」
 ぐいと腰を掴んで引き寄せれば、照れた表情を浮かべて頷いた。

 自分のを、後ろで咥えて善がる姿はたまらなく色っぽい。
 既に口と手で良くした後。放った欲で太腿と腹まで濡らして、それがまた淫らでイイ。
「あぁんっ、ゆぅ、いちろ、さん」
「蓮、可愛いよ。こんなにびちょびちょに濡らして、あぁ、僕の手もこんなだよ」
 濡れた手で胸を撫でてれば、可愛い声を上げる。
「そんなにされたら、また俺だけイっちゃいます」
 自分ばかりと、それが気になっているようだ。
「あぁ、僕は、ほら、歳もいっているからね。僕に付き合っていたら君が満足できないだろう?」
 可愛い姿を見る事が出来るのも楽しみの一つなのだから。
「でも」
「そうだねぇ、可愛くお願いされたら、頑張っちゃうかもしれないよ」
 さぁ、言ってごらん。
 ぺろりと三木本の唇を舐め、そのまま筋をたどる。
「ふ、んんっ、ゆう……、あっ」
 手は両方の突起した箇所を指で摘まんでコリコリと動かす。
「ほら、じゃないと、また先ってことになっちゃうよ?」
「や、いじわる、しないで、ください」
「蓮、そうじゃないでしょう?」
「奥に、欲しぃ」
「何が?」
「俺の中にある、雄一郎さんの……、が」
 目とトロンとさせて、アレの名前を耳元で囁く。
「ふふ、じゃぁ、蓮のお願いを聞いてあげようかな」
 体位をかえて奥を突けば、足が腰へと絡みつく。
 嬉しそうに声を上げ腰を振る三木本に、八潮は共に高みにのぼるために激しさを増した。

 久しぶりに暖かい朝食を食べた。しかも結構な量があるなと思っていたが出汁が効いているので食べれてしまう。
「俺の目標は雄一郎さんの体重を5キロ増やす事ですから」
 と年下の恋人は恐ろしい事を口にする。
「えぇ、でも、歳も歳だし……」
「大丈夫ですよ。貴方の場合はそれで丁度よい位です」
 確かに薄っぺらい体つきだし、夜もそんなには付き合ってあげれないが、年下の恋人を喜ばせる事はできたと思っている。
「もしかして、物足りなかった?」
「いいえ、そんな事はありませんでしたよ。充分と可愛がっていただきました」
「そう。よかった」
「ただ、雄一郎さんには元気でいて欲しんです。貴方が倒れた時、俺がどれだけ心配したか」
 自分のせいだと責めた彼。二度と、そんな思いをさせてはいけない。
「うん、あの時はごめんね。もう、君を心配させるようなことはしないよ」
「なら、俺に雄一郎さんのお世話をさせてください」
 一緒に住みませんか、と、そう彼がいう。
 八潮の住む部屋は家族が増える事を見据えて購入した4LDK。温かみのない寂しくてただ広いだけの我が家。だが、ここは暖かくて居心地が良い。
「とても魅力的なお誘いだね」
「……その時は、寝室も一緒がイイです」
 ぎゅっと袖を掴んで目元を赤く染める。
 あぁ、甘える君は、本当に可愛い。
 勿論だよとこたえて額に口づければ、三木本がふわりと微笑んだ。