甘える君は可愛い

上司と部下の「恋」模様

 残業を終え、三木本と途中で食事をして帰ろうかと思っていた所に、他の部署の友人らしき男が来て一緒に飲む約束をしているという。
 残念だと思いながら先に会社を出たのだが、駅に向かう途中で携帯電話を忘れてしまった事に気が付き会社に引き返した。
 フロアに明かりが灯っており、まだ帰っていないのかと姿を探すが見つからず。ミーティングルームのドアが半開きとなっており、そこから明かりが漏れていた。
 何か探し物でもしているのだろうか?
 黙って帰るのもと思い、声を掛けていこうかと顔を覗かせば、テーブルの上に組み敷かれる男と組み敷く男がおり、しかも互いにズボンを穿いておらず、何をしていたか一目瞭然だ。
「え、君達……!」
「な、八潮課長」
 一人の男は慌ててズボンを履き、もう一人を置いて部屋を出ていく。
 残された男は慌てる事無く、身を起こしてズボンを拾い上げる。
「……ノックぐらいしてくださいよ」
 髪を掻き揚げてため息をひとつ。
「あ、あぁ。そうだね」
 逆にこちらの方が慌ててしまう。
 三木本はシャツ一枚で、その姿は色気があり、つい、目が離せない。
「いつまでそうしているつもりです?」
 シャツからちらりと覗かせる、三木本の前のモノは、はちきれんばかりに膨らんでいる。
「あ……、うん。というか君の、辛そうだね」
「一人になったら始末しますんで。ちゃんと掃除もしておきますから」
 あまりにも平然とした態度をとるから、八潮は三木本の事を少し困らせたくなった。
「ねぇ、イく所、見せてくれないかな?」
 どんな反応を見せるのか楽しみだと思いながら三木本を見る。
「悪趣味ですね」
 目を見開いて八潮を見た後、ふぅとため息をついて呆れた顔をする。
 流石に引いたかなと、冗談だよと言おうと口を開きかけた所で、
「良いですよ。ただし、手伝ってもらった方がもっと興奮できるし乱れた姿を見せられると思いますが……、どうでしょう?」
 まるで仕事をしている時のように真面目な顔で言われて思わず頷いてしまった。
「では、俺の後ろを弄って頂けますか?」
 前だけじゃ物足りないんで、と、耳元に囁かれて。ゾクゾクと甘く痺れる。
(うん、意外だねぇ)
 中はとても柔らかく、すんなりと指を咥えていく。
「君は……、いつも、ああいう事をしているの?」
「会社でって意味ですか? だとしたらしていません。どうも相手を怒らせてしまったようで」
「何をしたんだい」
「そこまで言う必要ありますかね?」
 結局、それについては口にせず、指をさらに増やせば背を反らし腰を揺らす。
「あっ、あぁっ、そこ」
 目元を潤ませ、声を上げる。それが色っぽくてとても可愛い。
 前も弄ってやれば、程なくして欲を放ち八潮にもたれかかる。
「はぁっ」
「気持ち良かったかい?」
「えぇ」
 じっと八潮を熱く見つめ。
「俺、課長の、欲しい、です」
 甘えるように胸に頬を摺り寄せる姿に、久しぶりに胸の高鳴りを感じた。
「イイよ」
 こんな風に甘えるのか、彼は。
 いつもは怖い目も、トロンとしていて色気を感じる。
「僕のこれを使うの、久しぶりだからね、役に立つか解らないけれど」
 スーツのズボンを下ろせば、三木本がジッと見つめている。
「そんなに見られると恥ずかしいよ。立派なモンじゃないし」
「そんなことないです。やしおさんの、ください」
 テーブルに伏せて尻を突き出す三木本の、その中へと挿入すれば、八潮のモノを深い所まで咥え込んだ。

 行為自体が久しぶりで、しかも男同士は初めての経験なのだが、抜かないでと甘えながらしめつけらて、抜かずにもう一度していた。
 気持ち良い余韻の中、さっきまで善がっていた三木本の身体が離れていく。
「ん、三木本君?」
「後始末するんで。先に帰ってください」
 さっきまでの可愛い姿はもう無く。仕事の時のような彼である。
 流石に辛いだろう。
「いや、僕がするよ」
 と申し出るが、
「いえ。上司にやらせるなんて出来ません」
 一人で後片付けをはじめてしまい、八潮はぽつんと残される。
 あまりのギャップに、悲しさまで感じる。
「じゃぁ、帰るね」
 そう声を掛けてミーティングルームを後にした。

◇…◆…◇

 先ほどからしつこい着信。三木本のより二つ年上の男。
 三木本が残業をしている事を知っているのは、同じ会社で上の階のフロアにいるからだ。
 一度は残業だから会えないと連絡を入れたのだが、彼もまた残業をして自分を待っているという。
 冗談じゃない。
 このメールを見なかったふりをして帰ろうと思っていたのに、何故かここに彼の姿がある。
「三木本と一緒に飲む約束をしているんです」
 と告げ、八潮と一緒に帰ろうと思っていたところを邪魔をされた。
 しかも彼の目的は酒ではなく三木本との身体であり、それを拒否するために、
「八潮さんも一緒に……」
 と誘うが、八潮は二人で行っておいでとフロアを出て行ってしまった。
 彼と二人きりになり、
「今日は気分が乗らないんで」
 帰りますと、三木本も帰ろうとしたら、
「三木本、何、帰ろうとしてんだよ」
 待っていたのにと、怒った彼に胸倉をつかまれてしまう。
「アンタと寝る気がないんでね」
 そうキッパリ答えると、彼は逆上してミーティングルームに三木本を連れて行き、ムリヤリ身体を繋げようとする。
 抵抗したが、体格差もあり力では敵わず。もうどうにでもなれと諦めて力を抜いた。
 それからはされるがままの状態で、ズボンを下ろされて中へと突っ込まれそうになっていた所に八潮が現れたのだ。
 相手は自分を置いて帰ってしまい、残された三木本は平常心を装いつつも実際は動揺していた。
 よりによって八潮に見られてしまうなんて。
 情事を目にしてしまった彼も驚いてはいたが、そのうち、珍しい姿を見たとばかりに、楽しそう口元に笑みを浮かべて。イく所をみたいと言われ、胸が高鳴った。
 誰よりも愛おしいと思う人にそう言われたのだから。
 だから手伝ってほしいとダメもとで言ったら、八潮はノリ気で応えてくれて、誰とするよりも感じてしまった。
 八潮の匂いを嗅ぎながら、その手でいけるなんて夢の様だ。
 指だけでなく八潮のモノが欲しい。
 その願いもかなえてくれた。
 彼は甘えてくれる子が昔から好きだ。自分はそういうタイプではないので今まで甘えたことが無い。
 だから珍しく甘える三木本に興味をもったのだろう。
 その行為自体には、本当に欲しいものは含まれていない。それでも、嬉しい事には変わりはないのだ。

 後始末を終えてフロアの灯りを消してエレベーターに乗り込む。少し腰がだるいなとさすりながら歩いていると、ロビーのソファーで待つ八潮の姿がある。
「先に帰っていいと言いませんでしたか?」
「うん。でも、一緒に帰りたかったから」
 そう肩の上に手を置く。
「そうですか」
 嬉しいと、ここで素直にそう口にして抱きついたら、八潮は可愛いと思ってくれるのだろうか。
 だが、気持ちを素直に出せずにつれない態度をとってしまう。
 可愛げがない事は解っている。だが、自分には無理だ。
「身体は平気かい?」
「はい。優しくしてくれたんで」
「そう」
 くしゃっと頭を撫でられ、胸がきゅっと締め付けられる。
 それから駅に着くまで先ほどの行為について触れる事はなく。
 ホームが違うので途中で別れる。
「じゃぁ、また明日ね」
 と手を上げる八潮に、
「はい。お疲れ様でした」
 頭を下げてホームに向かい電車を待つ。
 まだ奥の方に八潮の名残を感じ、頬が熱くなってくる。
「本当に、あの人と……」
 ずっとこうしたいと思っていた。彼を思いながら抜いたときもあった。
「八潮さん」
 彼とまた繋ぎあえるのならば、興味本位でもかまわない。
 また、この体を求めてもらえたら嬉しい。