甘える君は可愛い

映画館で

 仕事も順調に進み、定時で上がれることになった。
 それならば、デートがしたいですと久世に言われて食事をして何処かへ寄ろうという事になったのだが、三木本が目の前に映画館のチケットを二枚差し出してきた。
「え、なに、くれるの?」
「あぁ。内容は面白うかどうか知らないけれど、俺、行かないからさ」
 デートっぽいなと笑えば、久世が嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます、三木本さん」
「後で内容を教えろ」
「わかりました」
 面白そうなら、レンタル出来るようになったら借りるという。
「随分先の話だな」
 と言えば、それもまた楽しみの一つだと、口角を上げる。
 八潮と恋人同士になってからの三木本は本当に良い顔をするようになった。
「良いですね、そういうのも」
 ずっと先も一緒。
 そういう事ですよね、と、にやにやする久世に、おでこと後頭部を一発ずつ叩く。
「バカ犬め」
「久世の癖に生意気」
 二人の声が重なり合い、そして、ふっと口元に笑みを浮かべた。

 映画館は空いており、自分たちが座った席の周りには人が居ない。しかも中は暗いし、上映が始まればスクリーンに目が行く。
 だから誰も気が付かないだろう。だが、恋人つなぎをしながら映画を見る趣味はない。
「大輝、離せ」
 音量が大きいのでどうやっても耳元で話すしかなく。
 むろん、それは相手も同じだ。
「誰も見てませんし」
「そういう問題じゃない」
 しっかりと握られた手は離すことができず。しかも耳に息がかかりゾクゾクする。
「すこしだけ……、ね?」
「んっ」
 低く囁かれた声が体を震わせる。
「波多さん、舐めて良いですか?」
 はぁ、と、熱い息がかかり、耳たぶに柔らかいものが触れる。
「馬鹿、良いわけないだろ!」
 少しも反省していない。
 開いている方の手でぴしゃっと額を叩けば、わかりましたと掴まれていた手が解放される。 
 どうやら隣に座る男は真面目に映画を見る気が無いらしく、スクリーンを見つめる波多を見つめる視線を感じる。
 もう、好きにさせておこう。
 そう思って映像を見るのに集中しはじめれば、今度は太ももを撫でる手が邪魔をする。
(無視だ、無視!)
 相手にするから調子にのる。反応が無ければそのうち止めるだろう。
 だが、手は太ももを撫で波多のモノへと触れた。
 その途端、ビクッと反応してしまい、久世が顔を近づけて、
「舐めるのが駄目なら触らせてもらいます」
 と撫で上げる。
「ちょ、やめろ」
「翔真さんは映画を見ていてくださいね」
 そんなのは無理だ。
「おい、だい、き」
 ベルトを外されてチャックを下ろされ。
 下着へと手を突っ込まれ、久世の手が波多のモノを揉み始める。
「やっ」
 視線がスクリーンから下へと向かう。
 ぎゅっと足を閉じて拒否するが、耳を甘噛みされて力が抜ける。
「んっ、やだっ、パンツの中が濡れる」
「大丈夫ですよー。俺のお口の中で受け止めますから」
 中から引きだされて咥えられてしまう。
「この、バカい……、ひぁっ」
 大きな音の中なのに、じゅるっと久世がしゃぶる音が何故か聞こえてくる様で、恥ずかしくてたまらない。
「ん、んっ」
 必死に口元を押さえて声を漏らさぬように耐える。
「我慢しないで」
 と吸い込まれて、あっけなくイッてしまった。
「ゴチソウサマ」
 耳元でささやかれて、惚けていたが我に返る。
「こ、この……」
 震えながら拳を上げれば、ハンカチで濡れた箇所を拭ってしまってくれた。
「あはっ、もう映画もクライマックスですね」
 そう言われて画面を見れば、ヒロインが悪役を倒している所だった。
「しまった」
「もしも、ですが、三木本さんに内容を聞かれたらどうしましょうね」
 久世にエッチな事をされて見ていませんでしたなんて言えない。
 反省しない年下の恋人の耳を引っ張り、
「バカ犬が!!」
 と怒鳴ってやれば、酷いですと耳を押さえた。