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護衛(モブ)に転生したが、魔王に好かれて困ってます

カレーの匂いに誘われて

 ブレフトとして暮らした時の記憶はある。騎士になるまで過ごした家、騎士宿舎の部屋。
 城よりも長く過ごした場所なのに、帰ってきたと思えるのはここなんだよな。
 転生する前の記憶を思い出してすぐにさらわれたから、なのかもしれないけれど。
「ただいま」
「ブレフト、やっと帰ってきたぁ」
 アルトが俺に抱きつく。まぁ、すぐに魔王にはがされたけれどな。
「まさか三日も帰ってこないなんて思わなかったぞ」
「姫様がさ」
 魔王に魔力封じのリングをはめたことを話す。
「そうだったんだ。姫様ってすげぇ」
「たしかに」
 ゲームとこの世界の姫様は全然違うな。なんか逞しいもの。
「で、いつまでこうしているつもりだ?」
 アルトをはがした後、後ろから抱きつかれている。離れろと腕を動かすと温もりが消えた。
 まったく。これを眠い時にやられたらヤバいかも。人のぬくもりは丁度いい温かさだし……て俺何考えてんだよ。
「アルトが馴れ馴れしい」
「リッド様、俺はブレフトとは友達以上の感情はないから安心して」
 本の内容がどういうものかは知らないけれど、アルトにまで惚れたはれたなんてやられたら参っちゃうところだった。
「うむ」
「まったく。誰もが俺に惚れるとか思うなよ」
「惚れぬ方がわからない」
 いや、それは魔王だけだからな、思っているのは。
 こんな平凡な男はもてないんだよ。
「わかる。結婚するならブレフトみたいな人を選ぶよな」
「アルト、何を言って」
「そういうことだ」
 オカン的なってことだろ、どうせ。
「はいはい、選んでくれてありがとね」
 軽くあしらい話題を終わらせる。
 それよりも大切なことがあるんだよ。アルトに話をしないとだし、カレーを作らねば。
「リッド様、お願いがあるんだけど」
「キスひとつで願いを聞こう」
 ぐっ、そうきたか。それならいいよ、俺にはライニールがいるから。
「ライニールに手伝いをさせるつもりならキスひとつ」
「なんでそうなるんだよ!」
 でもな、きっと魔王よりカレーを選ぶぜ、アイツは。
「ふ、リッド様、野郎の食欲を甘く見るなよ」
「ブレフトの作る食事は何を食べても美味しいが命令は絶対だ」
 王命だと言われてしまえば……負けるかもしれない。
「ブレフト、リッド様には手伝ってもらったのだし、魔封じのリングをつけられちゃったんだろ? 少しくらいいいんじゃないの」
「ちょ、アルト、なに余計なこと言って」
「そうだ。甘やかせてくれるのではなかったのか?」
「変なことをしなければって条件つけたよな」
「キスは変なことではない。求愛行動の一つだ」
 うぐぐぐ、こういうことに対しては頭が回るのな。
「わかったよ」
 くそぉ、キスしてやらぁ。
 手をつかんで甲にキス。これもキスにやかわらないだろ。
 すっごく不満そうな表情を浮かべているけれど指定しなかった魔王が悪い。
「お願いとはなんだ」
「肉が欲しいから狩りに行ってきて」
「わかった」
 狩った肉を使って美味いカレーを食わせてやるからな。
 クロスケと共に狩りに出かけた魔王を見送り、俺はアルトを連れてキッチンへと向かう。
 テーブルの上に買ってきた香辛料を並べる。
「これってなに?」
「カレーを作るために必要なものだよ」
「カレー! 俺、全てを思い出してからカレーをまだ食ってないんだよ」
 そりゃテンションあがるよな、カレー。よしよし、たくさん食わせてやるから。
 魔王が帰ってくるまでに野菜を切っておく。なんせ作る量が多いから結構準備に時間がかかるんだよ。
 アルトと一緒に野菜を切りながら姫様に聞いたことを話始める。
「やっぱりここは薄い本の世界だったのか」
「そうなんだよ。しかも聖女は男体化してそうだし」
「そうきたか。ゲームでは俺の嫁だったのに」
 薄い本おそるべし、とアルトが自分を包むように腕をまきつける。
 ゲームでは選んだサポートキャラとアルトが結婚するんだ。愛嬌のある明るい幼馴染、美少女な聖女、見た目はお色気なかみはドジっ子な美人さんの三人の中から連れていくキャラを選ぶことになる。
 聖女は序盤から蘇生魔法が使えるから選ばれる確率が高いんじゃないかな。
「アルト、お前も男に惚れられるかもよ」
「あはは、アルトは平凡な容姿の村生まれの少年だぞ?」
 いやいや、ゲームの中ではモテモテだっただろうよ。
 サポートの三人は確実に惚れていたしな。
「まぁ、ここは俺の物語じゃないし」
 そう、なんだよな。ここは俺と魔王の物語。
 でも物語の中でも俺たちは生きているし意思をもって行動している。だから本の通りになるとは限らないわけだ。
「まぁ、何もないのが一番だな」
 俺もアルトのポジョンがよかったよ。

 魔王が戻り肉が手に入ったので臭みをとってからカレーつくりをはじめる。お米はアルトにまかせた。
 すね肉はコンソメスープを作るのに必要なので別口で野菜と一緒に煮込む。今から使う分は魔王に作らせた冷凍庫に入っているからそれを使う。
 野菜、肉、香辛料、ニンニクとショウガを入れて炒める。次にコンソメスープをいれて煮込む。
 はじめてカレールーじゃないので作ってみたけど、たまらん。
「良いにおいだ」
 そうだろう、そうだろうとも。この匂いに誘われるよな。
「カー、うまそう」
「これだよ、これ。早く食いたい」
 俺もだよ。でも焦るな。とろみがでるまで待つんだ!
 その間にサラダとフルーツを用意し、たまにかき混ぜながら様子を見る。
 はぁ、それにしてもいいにおいだぁ。何度も言うけれど。
「ブレフト、そろそろ」
 我慢できないのか、アルトが鍋を覗き込みに来る。
「まだだ。ご飯も炊けていないだろうが」
「うん、でも味見がしたい」
「だめ。出来上がりをお楽しみに」
 やっぱりお米と一緒に食べたいだろ?
「そろそろ米が炊き上がるぞ」
 いつの間にか魔王がお米の番をしているじゃないか。魔王はそういうところ、優しいよな。
 ほんわか、しかけたところでカレーもよい感じになったのでクロスケにシーラを呼びに行ってもらう。

 お皿に盛った白米にたっぷりのカレー。うん、最高っす。
「これは、見たことのない食べ物だな」
「町でかった香辛料を使った食べ物だ」
「あぁ、あれを使ったのか」
 あれがこれになるとはと魔王が感心している。
「良いにおいですね」
 シーラ用の特大盛りカレーを魔王に持っていてもらう。結構重いんだよあれ。
「スパイシーな香りですね」
「カレーというんだ」
「カレー、ですか」
 不思議そうな表情を浮かべ、カレーを眺める。
 皆にカレーを配り終えた。さて、食べたらどんな反応を見せるか楽しみだな。
「それじゃ、いただきます」
「いただきます」
 スプーンによそい一口。
 おう、うまくできてるじゃん。
「とっても美味しいですぅ」
 シーラがうっとりとカレーを眺め頬に手を当てる。
「うん、これこれ」
 アルトは夢中でカレーをかきこむ。
「これは、美味いな」
 魔王も気に入ったようだな。
「カー、うまい」
 クロスケも喜んでる。よかった。
 カレーの効果発動。ヒットポイントが回復するから疲れが和らぐはず。
 シーラは書類の処理で目が疲れて肩が凝っているだろうからな。魔王はワープの後に狩りに行かせたし。クロスケもお供で疲れただろう。アルトは、俺の手伝いをさせたし。
「うむ、体が軽くなった」
「はい。私も肩こりがすっきりしてます」
「さすがカレーだな」
 アルトはゲームでのカレーの効果を知っているからな。
「カレーとは素晴らしい料理だな」
 魔王が俺の手をつかみ手の甲にキスをする。
 うぉぉい、俺に対する感謝は言葉だけでいいよっ! 魔王しか得してねぇ。
「ブレフト、おかわり」
 アルトが皿を差し出す。
「おう。リッド様は?」
「私も頂こう。先ほどの半分の量を」
「はいよ。シーラも、まだ残っているから」
「はい」
「クロスケは?」
「美味しかったけど俺はもういい。フルーツ食べる」
 クロスケようにフルーツをカットした。