友人からの告白
鷹になった魔王に姫様が魔法を封じるリングをはめたために元に戻れない。ひとまず三日、ここにいるようにといわれた。
「それまで仲間や友人とお話をしたり飲みに行ったりしなさい」
姫様、俺に時間を作ってくれたのか?
そうだとしたら優しい。
魔王は、意外とおとなしく俺の腕の中におさまった。
まぁ、姫様に何かしようとしてもやられてしまうからな。魔王は経験済みだし。
でだ。俺のことは任務の途中だが報告を兼ねて帰ってきたことにするらしい。任務から戻ったということにするらしい。
このことは団長に話してあり、皆にも伝えてあるという。周りに何と思われているかと気になっていたからホッとした。
部屋に戻り、魔王をベッドに置いてから食堂へ向かうと俺の顔を見てお帰りと言ってくる。
「いきなりの任務だったそうだな」
「あ、まぁ、うん」
そういうことになってるの?
「団長から聞いた時は挨拶もする余裕がないのかと思ったぞ。しかも戻ってくるのもいきなりとか」
驚かせるよなと背中を乱暴に叩かれた。
「あはは」
本当はさらわれたんだと言ったらどういう反応を見せるんだろう。まぁ言えないけど。
「また任務に戻ると聞いているが、いつなんだ?」
えっと姫様は魔法が切れる日数を聞いていたのでそれを伝える。
「三日かな」
「そっか」
それまでゆっくりやすめとか、一緒にご飯を食べよう、飲みに行こうと誘ってくれた。
久々だなと、喜んで向かったわけ。そう、俺はすっかり忘れていたんだよなぁ。
部屋に帰ったのは皆とご飯を食べて酒を飲んだ後だった。
一直線にかたまりが俺に体当たりをしてきたのだ。
「うごっ」
痛いっ。
かたまりに酒臭い息を吐きつけた。
ばさばさと羽を広げて、まるで怒っているかのよう……いや怒ってるな。足を突っつかれているから。
「しょうがないじゃん。久しぶりだったから」
魔王と会う前の俺はこうやって過ごしてきたのだもの。
仲間と他愛もない話をして酒を飲んで盛り上がる。たまに女の子の話しなんかしたりして。
楽しかったなぁ。
気分の良い俺に対し、魔王はご機嫌斜めのようで指を噛まれた。
「ちょ、痛いから」
いつもはあま噛みしかしないのに。うりゃ、俺の指をくらえ。
もふもふに指を突っ込んでぐりぐりとすると、機嫌が直ってきたかグルルと鳴きだす。
「久しぶりに仲間に会ったんだぞ。少しぐらいは許せよ」
鷹を両手でもふんと包み込んでベッドに向かう。
酒を飲んだこともあって眠くなってきた俺に、魔王が頬に顔を摺り寄せた。
お酒臭いのに、いじらしいなぁ。帰ったら少しだけ優しくしてやろう。
規則正しい生活をおくっていたのに、向うでは好きな時間に起きたり寝たりとしていたから寝坊をしてしまった。
朝ごはんを食べに来なかった俺を心配したマックスが部屋に様子を見に来た。
彼は同い年で一番仲が良い。優しいし頼りになる男で、昨日も飲みにいったんだ。
「二日酔いかぁ?」
「違うよ。たんなる寝坊」
「そっか。ほら、パンとチーズ」
「ありがとう」
さすがマックス。気が利くな。
「すぐに任務に戻ると聞いたぞ」
「そうなんだよ。二日後に任務に戻る」
リングの効力がなくなったらすぐに帰ることになるだろうし。
「あのさ、明日、何処かに行かないか?」
休みの日に仲間と遊びにったりしたものだが、マックスには婚約者がいる。
そろそろ結婚するんじゃないのか?
俺なんかに時間を使うよりも婚約者に使うべき。休みの日にしか会えないのだから。
「俺よりも婚約者を誘え」
俺とは仕事が終われば飲みに行くことも話をすることもできる。
「婚約者とは、政略なものだし」
貴族同士の婚姻はそういうもの、俺たちのいた世界とは違う。
俺も一応は貴族なんだけど、三男坊だから結婚しなくても何も言われない。だけどマックスは一人っ子だから結婚をして跡継ぎをつくらないと。
「それでも、いい子なんだから大事にしろよ」
前にデートをしているマックスと出逢い、彼女を紹介された。
穏やかで優しそうな令嬢だったなぁ。
「それでも俺はお前がっ」
マックスが俺の肩をつかみ顔が近づく。
『恋愛フラグは男にしかたちませんから』
という姫様の言葉が頭の中に浮かんだ。まさか、マックスは友達だぞ!?
「まて、落ち着け」
「いや、またない。俺はお前がっ」
その先は言わないでくれぃ。
口をふさごうと手を伸ばしたが、マックスから発せられた言葉は違っていた。
「うごっ」
ん?
バサバサと羽の音。肩に重みが。
「リッド様」
ナイスタイミング。
「なんなんだよぉ」
「今度会う時には結婚しているだろうな」
わるいな。お前の気持ちを聞くつもりはないんだよ。だって友達ではいたいもの。
自分勝手で悪いな。
「ぐっ」
言葉を詰まらせるマックスに、
「ほら、そろそろ仕事に行く時間だろ」
そういって部屋から追い出した。
薄い本の強制力なんだろうな。はぁ、勘弁してほしい。一人だけで十分だから。
いつのまにか肩にとまっていた鷹はおらず、かわりに俺の手をつかむ手がある。
「魔法を封じられていたんじゃなかったのか?」
「半日ほどで解けるようになっていたようだ」
ぎゅっと強く掴まれても俺はそのままでいた。
「あと二日は鷹でいてほしい」
「そのかわり、甘えさせろ」
鷹の姿なら、そう言おうとしたが魔王に口を手でふさがれた。
「この姿でな」
ち、先に言われた。
お願いを先にしたのは俺だから、いうことをきくしかないじゃないか。
「わかった。変なことをしなければな」
「変なこととは?」
顔を近づけて尋ねる魔王。わかっててやっているからたちが悪い。
魔王の高い鼻が俺の鼻に当たる。
ムカつくから頬をむぎゅっと掴んでやった。アヒル口になってもカッコいいって何なの!
「ふ、ふふふ」
楽しそうだな。
あ、これって甘えているのに応えていることになるのか。
「リッド様、鷹になって。誰かに見られたらややこしいから」
「わかった」
人型から鷹になり肩にとまる。
俺はベッドに座ってマックスが届けてくれたパンとチーズを食べた。